/士郎・固有結界(T)
幾十合か、俺とそれは打ち合う。
俺を否定するものが流れ込んでも気にしない。
俺はこれが気に入らない、だから打倒するのだ。
この、どうにもならない衝動を糧に。
「―――クッ」
笑った、笑った、頭に来る、頭にくる。
「フハハハハハハハハッ!ハハハハハハハハハハハッ!」
狂った笑い、狂った笑い。
イラツクイラツクイラツクイラツク。
「そうか、衛宮士郎、貴様はそうか、クククク、気に入らぬのも良くわかる」
貴様もそうか、俺が気に入らないのか。
気付けば、衝動はどこか収まっていく。
それでも、敵意は、いや増しに。
「そうか、鞘の加護があるのだったな。フフ」
やたらと冷静な狂いを内包して、男はそう言った。
「その身、その技、その武器、すべて偽者だ。ここで微塵に消してやろう」
―――ああ、何故かその言葉が。
心に染みて―――
「理想はなんだ、借り物の理想は。それを信じた男がどうなったか、貴様は見たのだろう」
ああ、あれはなんだ、アレはこの男か、アレは俺か、あれは、アレハ。
酷く哀しい。
酷く辛い。
酷く、酷く、酷く。
この男は否定している。
俺を、俺を、ただ俺だけを。
ならば、俺とて。
強く、強く、強く。
この男を否定しなければ。
この男を、この男を、このイライラする赤い男を。
ああ、辛い、苦しい。
この衝動はなんだ、これは誰が。
でも、関係ない。
俺はただ、この手のなかのカタマリを振るうのみ。
この衝動に、ただ任せて。
「―――ガギ・・・是、―――」
男は、何かに気付いた。
「―――なるほど、なるほど。そうくるか。不足はないぞ、衛宮士郎」
心底楽しそうに、愉悦と怒りをない交ぜにして、そう言って。
「射殺す百頭―――!」
「―――熾天覆う七つの円環!」
九つの斬撃は、七つの花びらと双剣に阻まれ。
「―――お前は、ここで死ね」
そう唱えて。
「―――I am the born of my sword.」
そう、唱えた。
/アーチャー・固有結界(U)
そう、思い出した。
すべては戯言、すべてはこの時のため。
矛盾は大きければいい。
それによって、オレはきっと救われる。
"Unknown to Death.Nor known to Life."
ただの一度の敗走もなく、ただの一度も理解されなかった。
そんな宿命から。
ああ、わかっている、わかっているとも。
きっと、次には忘れ去っていること。
単なる記録としてしか残らないこと。
つまらない下らない八つ当たりだと。
何度目か、何度目かの同じこと―――同じこと?―――
仏の息吹を持つはずの境内に、声が響く。
それはオレの声だ。
最早、セイバーの剣戟もキャスターの魔術もイレギュラーと葛木の攻防も目には入らない。
凛がいないのが好都合。
このまま、オレは。
"■■■―――unlimited blade works ."
ただ心のうちに働きかける言葉は。
世界を変容させる。
/士郎・固有結界(V)
―――それを俺は理解している。
問答無用で、ただ理解できる。
立つ炎は境界線のようにこの世界と彼の世界を区切り、そして現出するは―――
なんて世界だろう。
脳が沸騰する。
製鉄場、錬鉄の庭、その中に、俺とあいつだけが立っている。
「わかるだろう、衛宮士郎。わかるだろう、これが何か。ほめてやろう。イレギュラーの力を借りて、ふん。魔力すらすべて借り物であるとはいえ、未熟極まりないお前が、オレにこれを出させたのだから」
固有結界。
聞いたことがある。
それは、禁呪中の大禁呪。
内面に働きかけ、内面を具象化し、世界を改変する術―――
「グァ・・・?」
燃え盛る炎、回る歯車。
突き立つ剣の丘。
担い手なき名剣は、ただ地にあり、抜かれるその時を待っている。
「―――抵抗はするな。せめての慈悲、とくと受けるがいい」
そういった途端、背後の剣が引き抜かれ。
俺に向かって、ありえない速度で飛んできた。
「うぉぁがぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!」
カタマリはまだ手の中。
力を失って欠けていく。
ウルォォォォォッ!
心の中の、獣が、鬼が吼える。
弾き落とす弾き落とすはじき落とす。
でも、そんなのは無意味で。
きっと一瞬後には、次々と、手に足に、その剣は突き刺さって俺の動きを止めるのだ。
目障りだ。
消えてしまえ、こんな世界。
消えてしまえ、こんな剣。
「―――投影、開始」
飛び来る剣は、27。
ただ、それを見て。
それをまねて。
感覚が追いつかない、感覚が焼ききれる。
27全てを解析し、全てを真似、全てを複製する!
暴走暴走、全てが暴走。
撃鉄が落ちる。
ガキリと。
俺に用意されたのは27本。
同じ数ならちょうど良い。
左腕を突き出す。
アレが、そういうものだというのなら、俺に。
俺に真似できぬ道理など、ない。
「―――ふざ」
獣が消える。
獣が消えて、鞘が見えた。
蒼い、剣も。
「―――けてんじゃねえテメエ!!」
目前の全てを複製し、全てを迎撃する。
―――気がつけば世界は消え去り、破片が空を舞っていた。
「――――はぁ、ハァ、ハァハァハ―――」
「―――――――」
地獄めいた吐き気と、とうに焼き切れてしまった視神経と、ずたずたになった筋肉が残って、そして。
最後に見えたのは、起き上がったアティに横っ面をぶん殴られているアーチャーの姿だった。
続く。
おとがそ
えーっと、アーチャー大活躍してるかな?
どうでしょうか?
次回か次々回で柳洞寺編も終わりです。
長かった・・・
WEB拍手返信
2月20日分
>今回の話が終わるまで、士郎は異形のままですか?
はい、元に戻ったようなそうでないようなそんな感じですね。
>アルクは地球なら深海数万キロでも平気でしょう。深海でも地球には変わりないですから。
お陰で一つSSができました。感謝感激雨アラレです!
>「深海にて」面白かったです!彼女たちは自分以外に海底を歩ける人がいても気にならないんですね(笑)
気にしないんですね、きっとw
というか、セイバーは戦いの時は驚きそうだけど、こういう日常では食べ物とか士郎君関連以外で驚きそうにないようなそうでないような。
では、みなさんありがとうございました。
ではまたー。