/アティ・殲滅平気
…なんなんでしょう、これ。
看板を前に私たちは立ち尽くしていた。
まぁ、10分ほどなんですけどね。
いつになっても、凛は動こうとしないんですよ、ホントに。
えっと、凛が注射をされるのを我慢しながら受けに行く子供のような顔をしているような気がするんですが。
「ええ。全くその通りよ、アティ」
全く感情のない声で凛は答えた。
怖い。怖いです、ホントいやマジで!
…赤と黒の文字も鮮やかな紅洲宴歳館泰山と書かれた看板からは一種の邪気、瘴気、毒気とかそういうのが流れてきてるし。
なんといいますか、我が師カ○ュ、もとい料理の鉄人オウキーニさんが裸足で逃げるか、怒り狂って侵攻を開始するか、そんな微妙かつ危険な雰囲気。
「激辛チャーシュー麺お代わりアルネー!」
中から少女の声が聞こえる。
本当に少女なのだろうか。
そして、密やかな、それでいて威厳のある声が聞こえる。
―――聞こえなくていいのに。
「うむ、辛い」
辛い?
美味しい、とかじゃなくて?
「あら、微妙な顔をしているのね、アティ?」
ニヤリ、と不吉な形相で凛が笑っていました。
アー、その、エー、言い尽くせないんですけど、あの。
二筋くらい汗が流れてるのが、また怖くてですね、その。
「正直、入りたくないわね、いやホント、本気で。似非神父の溜まり場とか言う以前に」
この子は弱音を吐かない子だと思っていたのですが、認識を改めるべきでしょうか。
おーれはー背中をー見せないー男さー。
…どこからか、そんな曲が流れてきました。
「だったら教会で待っていれば良かったじゃないですか」
「それも、いやだったって言ったら?」
「―――本当に残念です。ぬ?な目にあわせます」
その言葉に、凛押し黙る。
『おい、凛、サーヴァントの気配だ』
まぁ、ぬ?ってなんのことか、私も知りませんけど。
『ええい、イレギュラー!貴様気づかんのか!!』
「あの、凛?ここでこうしていても埒明かないですから、入りません?」
「声、震えてるわよ?」
『だから、サーヴァントが近づいてるぞ!!』
「うー、まぁ否定はしませんけど、本当に入りませんか?好い加減、店の前で邪魔ですし」
「はーい、超辛麻婆豆腐三丁あがりアルー!」
…また不吉な音声が聞こえました。
それで、二人とも固まってしまいます。
『おい、凛、好い加減話を聞け!』
…通行人はくすくす笑ってるし、もうなんというか恥ずかしくて仕方ないです。
「何してんだ、お前ら?」
と、そんな所で、声がかけられた。
声をかけてきたのは…
また、なんていっていいものやら。
ほっかむりで顔を隠したアロハシャツの男性でした。
今は冬で洒落にならないくらい寒いというのに、そんなこと全く埒外といった感じで、いい感じに焼けてますし。
というか、この人。
「「ランサー!?」」
あ、ハモった。
『だから、さっきから言っていただろうに!!』
目の前にいたのは間違いなく、蒼いの。
いやいやいやいや!
何でこんなところにいるのか全くわからないんですけど、もうなんていうかどういっていいやら。
とりあえず、間違いなく、見まごうはずもなく、その人は蒼い槍兵さんでした。
「よう。久しぶりだな、お嬢ちゃんたち」
敵意の欠片もありませんでしたが。
後、さっきからアーチャーが何か言ってたような?
/凛・どうしろ、と?
『貴様、何故ここにいる?』
わたしの背中から声が聞こえる。
それは、間違いなくわたしのサーヴァント、アーチャー。
目の前にいるのは間違いなくあの夜わたしたちとやりあった、ランサー。
「あんた、一体何してんのよ」
アーチャーの問には答える気がないのか、ランサーはほっかむりをしたままでわたしを舐める様に見て、悪びれもせずに続けた。
「そりゃ、遊んでる。もうこの戦いはあんまり意味がない。俺の望みは…多分、今回もかなわないしな」
「は?」
言った意味がわからない。
わからないけど、わからないまま、わたしは呆けたように言葉を紡ぐ。
「意味が、ない?」
「そうだ、ねーんだ。全く、聖杯戦争なんて面白そうだから来て見ればよ、やったらつまらねえことになりそうなんだよ」
彼は、槍兵はそう言って背の釣竿を掲げる。
それは、まるで、
―――まるで、何かの証のように。
ほっかむりしたまんまで、なんら様にはなっていないのだけれども。
アロハが寒風にいやに溶け込んでいるのは錯覚だろうか?
わたしはまだ呆けたままで。
「あの、何でそんなほっかむりを?」
「おう?ああ、一応聖杯戦争中だからな。サーヴァントとばれちゃ困るだろ?」
『気配でバレバレだッ!』
アティとランサーの、どこかずれた会話と。
『ええい、貴様も私の話を聞けランサー!!今の話、そしてその格好!訳を話してもらおうか!!』
半ば以上無視されている私のサーヴァントの叫びも、頭には響いていなかったのだ。
もちろん。
「何をしている、貴様ら。魃さんの店の前で失礼とは思わんのか」
マーボー皿を抱え込んでいつの間にかわたしたちの後ろで、仁王よろしく立っている似非神父損のことも。
あっけに取られるわたしたちを尻目に神父…言峰はマーボー皿を流れるような動作で机に投げた。
もちろん、言うまでもなく中身は一切こぼれていない。
どうやったのかはわからない。
わたしの頭の中はまだまだ混乱中。
この赤いだけのマーボー、相変わらず食べてるのかこのくそ坊主は、とか、ランサーの聞き捨てならない台詞とか、言峰のよくわからない挙動とか。
「なるほど、イレギュラーも共か。丁度よい」
神父はそうつぶやくと、カウンターに万札を置いて、「釣りはいらん」それだけを言って店から出た。
「毎度ありがとアルー!」
似非華僑っぽい女の子の声とともに、言峰は店の扉を閉める。
何もかも意味がわからなくて、ネジが飛んだ声を自分が出している。
それすら気づかないし、自分の出した台詞もわからなかった。
「何、あれ…?」
「ふむ…食べたかったのか?」
「「「「冗談っ!」」」」
わたしと、回りの三人の声が奇妙にハモっていた。
…意味ありげに微笑む神父のある種の不気味さだけが、その場において絶対的なものであった。
情けないが。
「ふん…なら行くぞ、教会へな」
その言葉だけが、わたしの脳裏にはっきりと聞こえていて。
それが、わたしの頭を駆動させて。
「何か知ってるって言うなら、いってやろうじゃない…!」
そのつぶやきとなっていた。
つづく
さるまたけ
やぁお久しぶりです。
スランプでした。
申し訳ありません。
何とか、5月末までに最後まで行きたいなぁ。
ではまた。
WEB拍手返信
3月24日分
>fateもsummonも大好きだー!
どもども、ありがたいことです。二ルート用意してますんで、どうかこれからもごひいきを…
3月26日分
>Mr.X様へ 名前を間違えていて本当に御免なさい、この場をお借りして謝罪いたします。大変失礼しました
>インパルスロボ出鱈目な強さですね〜 本気で戦ったらベルリンは更地になっていそう やば過ぎッスよ
Mr.X氏曰く、ベルリンはホントに更地にしたいとのこと。ヒ○ラーにでもうらみあるんでしょうか?
名前の件については、全ての責を私こと浦谷竜蔵が負う事になりそうです。
>真チェンジ!インパルスロボ読んでて爆笑しました。個人的にシンが主人公しているのが嬉しいです。
Mr.X氏曰く、やっぱりキラが嫌いとのこと。でも、TOEのキールは好きだとか。