世の中は、理不尽である。
多数の意見は絶対で、少数は無視される。
それが民主主義。
あるいは。
声の大きいものの意見が優先される・・・その大声に皆が釣られてしまうのも、民主主義だ。
かといって、独裁や専制君主制が良いかと言えば、そうでもない。
王政もだが、統治者・権力者の資質如何によって国民の運命が決まるし、独裁では周りにイエスマンばかり集まると言うことにもなる。
なぜ、こんな取りとめもないことを考えているかと言えば・・・
この、いやな現実から逃れるためであろう。
そう、自分に納得させるしかなかった。
「何を考えている?そこな青年。」
「うるせえ。」
「わ、態度悪ぅい。この町来たばかりの往人君みたい。」
「黙れ。」
「ほう・・・わたしの佳乃にそんな口を利くとは・・・解剖の用意はできているぞ?」
「俺は、ここを出て行く・・・」
「浦谷さん・・・わがままだよ。」
「そうだよ。それじゃ、友達できないよ・・・」
「・・・余計なお世話だ。」
タイヤキと眠り姫まで、俺を非難し始めた。
「勝手にしてくれ・・・」
話が物騒な方向に流れてきたのを感じた俺は、そうつぶやくと一目散に玄関へ駆け出していた。
こんな薬くさいところにいられるか。
そもそも、性倒錯者のにおいがするぞ・・・この長髪の目つきの厳しい女は。
「待てこら。てぃっ!」
ひゅん!
とす。
その時、俺の首筋にナニカが刺さる。
意識が薄らぐ・・・・・・
いやだ・・・俺は・・・なんで・・・
こんなことに・・・
そうして、俺の意識は、遠い空へかっとんで行った。
超弩級巡洋戦士ウラタンダー!
第三話「ここはいったい何なんだ?」中篇
浦谷視点なり。
そもそも、何でこんなことに。
俺は、病院の待合室にいた。
・・・だるい。
久々に泳ぎすぎたからだろうか・・・それとも、あの連中と騒ぎすぎたからだろうか・・・
いや、むしろさっき打たれた変な薬のせいかも知れん。
と言うより、それ以外考えられない。
まだ、目的のブツは手に入れてない。
死活問題なんだぞ、畜生。
それを何だ。
帰ろうとすれば、総スカンしやがって。
その上だ。
泳げばクラゲに刺されるし、肉はあのいけ好かない・・・えっと、確か・・・
何だっけ。
シュワちゃん三号で良いや。
シュワちゃん三号とその連れ合いの無愛想女のおかげで肉はろくに食えてねえし。
しかも宿がなくて・・・
連れてこられたところは・・・
やけにうるさい小娘と、シスコンの医者がいる病院だった。
しかも、逃げようとしたら、問答無用で注射器投げてきやがった。
馬鹿にしてやがる。
そして、気づけば。
「なぜ、俺はベッドに結び付けられておるのだ?」
そう、俺はなぜかベッドに括り付けられ、ご丁寧に拘束具で口以外まともに動かせない状態だった。
「貴様の仕業か・・・こら!俺が何したっツーんだ、ボケ!!」
ひょいと上から覗き込んだのは、先ほどのシスコン医者であった。
「いやなに・・・君の体に興味があるのでね・・・解剖などをサササと。」
「なっ!ふざけんじゃねえよ、このクソ医者!!」
にやりと不気味な笑みを浮かべる医者へ、心からの罵倒などかましつつ、俺はじたばたと暴れたのだが、拘束具は解ける様子もない。
「人権無視だ!ざけんじゃねえ、このシスコン!!行かず後家!!!死んで詫びやがれ!!」
その、言葉に、医者は反応した。
「ほほう。死にたいようだな。」
冷たい笑みを浮かべると、医者は、
「今日は、君は寝かせないぞ……浦谷君、君の体には興味がある…徹底的にバラしてあげよう(ニヤソ」
と言って、メスを四本も出しやがった。
「あぎゃぁぁーーーー!本気かボケェェェェ!解剖するとは、人権無視だ、がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
俺は、心のそこからの絶叫を上げた。
なぜ・・・俺がこんな目に・・・
何度目とも知れないその問いにうんざりしながら、俺は気を失った。
目が開く。
もう一度開いてみる。
・・・
生きているらしい。
どうやら顔は動くようだ。
横を見れば、マッド医者がなにやらカルテに書き込んでいる。
「・・・正常だ。まったく問題はない。」
そんなことを言いつつ、カルテを片付ける。
「感謝するんだな、そこの物体に。下を見てみろ。」
「ぴこっ♪」
ぶっきらぼうに言う医者の言葉に従い、重い体を起こしてそちらを見る。
気づけば、拘束も解かれている。
「佳乃とポテトが懇願しなければ、君などとうに鮫の餌だ。これからは口の利き方に気をつけるんだね。」
見たその先には、なぞの毛玉が・・・
毛玉?
「何じゃ、こりゃあっ!!?」
思わず太陽にほえろ風に驚いてしまうほど珍奇な物体がそこにあった。
「毛玉が・・・しゃべってやがる。」
「ほう、似たような者は似たような反応をするらしい。国崎君もそんなことを言っていたな。確か。」
妙に冷静な医者の声が響く。
こんな珍奇な物体見たことねぇぇ・・・・
驚くなというのが無理だ。
こんな、明らかにぬいぐるみの質感をした生物は、いまだお目にかかったことがない。
それは、心底ほっとしたように「ぴこ〜」と鳴いた。
はっきり言って不気味すぎる。
不気味すぎると思った俺は、それをなぜか近くにあったクーラーボックスに放り込み、ふたを閉めてやった。
「ぴこ〜」
抗議するような声が聞こえる気がするが聞こえない。
「酷いことするな・・・連れの女の子たちには好評だったんだがな・・・」
医者はあきれたようにそういった。
だが、彼女は気を取り直して次のように言った。
「さて、君は行く所があるといっていたのではないかね?」
医者の言葉に、意識を失う前に考えていたことを思い出す。
この際、俺を解剖しようとしたことには触れまい。
触れれば、おそらく今度こそ解剖されるだろう、という確信めいた何かがあったからだ。
ならば、やるべきことはひとつ。
「世話になったな、医者。いや、世話になった覚えもないが。」
「・・・その口を何とかしないと、いずれ殺されるぞ?月の無い晩は気をつけることだな。」
「そんなことは生まれたときから了解してる。ただ、闇討ちしたやつを返り討ちにしてきただけでな。」
「ふむ、なかなか度胸はいいようだな。それと、あまり言いたくもないが私の名は霧島聖だ。妹は佳乃。そこの犬はポテトだ。名前くらい覚えることだ。」
淡々と言う女の言葉の中に、‘犬’という単語が含まれていた気がするが、俺は無視することにして、外に出ようとする。
・・・外を見れば真っ暗。
完全なる闇が世界を覆っていた。
さすが田舎。
寝るのも早い・・・と想った矢先に聖に声をかけられた。
「それとだ、今は深夜12時半。どこも開いてないぞ?連れの二人も、佳乃の部屋でもう寝た。」
「マジか・・・早く言えよ・・・」
予想外だった。
夕方から今まで眠ってたって事か・・・
最悪の気分だ。
どこぞの蛇柄男ではないが、「イライラするんだよ」とかいって、そこら辺のものを蹴っ飛ばしたくなった。
そうすりゃ、「スッとする」だろう。
そんな物騒なこと考えたが、やめにした。
だって、そんなことしても気分晴れるわけねえ。
スッとするかも知れんが、その1ミリ秒後には自己嫌悪に陥るだけだ。
そういうのはごめんなので、「ふう」とひとつため息をつくと、俺は診療室の椅子に座った。
・・・それから、仕方なく医者の世間話に付き合ってやった。
「都会はどうだ?」
まずくだらない話だった。
「知らん。」
俺には不快でしかない。
まだやくとと話してた方がいいと思った。
「最近の景気はどうかね。」
どうも、女の話は長くていけない。
「ぼちぼち」
よくそんなに話すことがあるものだ。
「まさか初等教育を受けてないなんてことはないだろう?」
ま、この女も妹と二人きりに、変態生物一匹で、こんな寂れた診療所にいるのはさびしいのかもしれない。
「まさか。そのくらい誰でも・・・ってわけじゃないが、まともな国家なら普通だろう?」
話は、ようやく興味が持てる方向へたどり着いた。
教育の話だった。
「いや、知り合いに一人いるのでな、まともな教育を受けなかったのが。」
ふーん、と思って話を続ける。
「ほう、それは気の毒に。ま、勉強が役に立つ職業じゃねえなら、別段オーケーだろ。」
「ふむ、最初は大道芸人、今は米屋をやっているぞ、国崎君は。」
「米屋・・・か。」
なんかいやな予感がした。
ま、明日確かめればすむことだ。
・・・
いろいろ話していくうちに、この女はそんなに気に食わない人間ではないらしいということがわかった。
妹と二人きり、誰にも寄らずに生き続ける。
結構つらいことだ。
少なくとも、俺も少人数でやって行くことの大変さはよく知っている。
俺くらい、一人でいることになれちまうと、逆に人付き合いが鬱陶しくなるものだが。
また、脆そうな精神をしていそうだ、とも思った。
妹がいなければ、きっと潰れていたんじゃないか、と思うほど。
そう思ったとき、時計の針が午前4時を指していることに気がついた。
あれから三時間か・・・頃合だな。
そう思った俺は、「今日はもう遅い」と言い、それに対し聖は、「そうだな、つき合わせて悪かった。」と答えて奥へ消えていった。
去り際に、「君が拘束されていたベッドで休んでくれ」といわれた。
ふむ、客間はない・・・か。
シュワルツ三号め・・・このことしってやがったな。
それで、この仕打ちか・・・
張り倒してくれるわ!
それこそ、どこぞのカップ焼きそば男のように、鉄パイプもって鏡を割りまくってやろうか。
むしろ犀を使って食い殺させたい。
あのいけ好かない男に対する、殺意にも似た感情もつかの間・・・
一日の疲労は濃く、ベッドに横たわるとすぐに眠気が俺を包み込んだ・・・・・・
次の日の昼 霧島診療所
目覚めはよかった。
冷えた空気。
冷房が効いてる。
「・・・」
体を起こす。
買っておいたパンをかじる。
ふと横を見ると、書置きがあることに気づいた。
それには、
『少し出かける。佳乃が今日は居るはずなので、鍵は閉めなくてよろしい
聖
追伸 君の連れは佳乃といるはずだ。安心したまえ。』
と書いてあった。
「そうか、いないか。」
そう漏らし、俺は書置きを残すことにした。
『世話になった。会えるときには会えると思う、さらば。
そういえば、名前を言ってなかった気がする。
俺の名前は浦谷竜蔵だ。もう会えんかも知れんが覚えといてくれ』
そうかいて俺は、当初の目的を果たすため、診療所の入り口をくぐった。
・・・強い日差し。
目が焼ける。
ポケットの中の地図を取り出す。
歩く。
歩く。
十分ほど歩いて、たどり着いたところ。
海辺の見晴らしの良いところにその店はあった。
そこが、件の米屋だった。
「ここか・・・・・」
『遠野精米店』
そう書かれた看板の向こうには、無愛想な男が突っ立っていた。
「店番・・・か。」
そうつぶやくと、俺は暖簾をくぐる。
「ちわ。米ください。」
そういうと、男は「どのくらいだ。」とぶっきらぼうに答えた。
なんか、頭にくるな・・・
そうか、こいつが国崎か。
昨夜、聖が言っていた特徴にほぼ合致するその男は、精悍だがどこか常人とは違う、おかしい面をしていた。
ま、俺も大概おかしなやつだとは思うが。
そんなこと考えながら、俺は必要なだけ米袋を差し出し、会計を求める。
・・・そのときだった。
何だ、ありゃ・・・
黒い、何かが大量にここを目指してくる。
外に出て海のほうを見ると、大量にこの町に上陸しているようだ。
一般人に危害を加えてないのが幸い、か。
なぜかはわからないが、連中は近くの山のほう、そしてこの米屋。
そして、後は民家のある地域の一部のみを目指しているようだった。
何だあれは・・・
そう考える暇もなく、それは牙をむき出し襲い掛かってくる。
「またかよ・・・俺の平穏よ・・・帰ってきてくれ・・・」
もう、何を言って良いものやら。
俺の平穏は、どこへ行っても必ず崩されるものにいつしかなっていたらしい。
深いため息をつくと、財布をポケットに戻しため息をつく。
そのとき、血相を変えて、
「何、悠長なこと抜かしてんだ、おっさん!」
国崎(と思しき男)が肩をつかむ。
「うるせーよ。男にべたべた触られる趣味はねー。」
適当に手を払いのけ、俺は「避難しとけ」と言って駆け出した。
ほんの少しだけ、タイヤキと眠り姫は無事に逃げられただろうか、と思いつつ。
「手前ら・・・必ず消す!」
光が、見えた気がした。
「装着変身!!」
かっ!ずがしゃぁっ!!
赤光が身を包み、俺はその黒い獣を吹飛ばした。
「馬鹿どもが・・・死にやがれっ!!」
叫びが、あたりに満ちて、俺は幾度目かの不毛な戦いを始めようとしていた・・・
後編へ続く。