・・・その巨人は轟音を上げて、地面へと崩れ落ちた。

『バカ・・・ナッ・・・機械・・・魔・・・めるぎとす・・・ガ・・・二度マデモ・・・』

岩石と機械、そして禍々しい黒い疾風の交じり合ったその物体は、そう言った。

『・・・ク・・・クク・・・マァ、イイデショウ・・・忘レルナ・・・ヒトガイルカギリ・・・』

「わかっているわ。あなたも、’源罪カスラ’もなくならないと言いたいのよね?」

黒髪の少女は自分に言い聞かせるようにそう言った。

「しかし、僕らは決めた。もう、過去の因果や因縁には縛られない。だから・・・」

眼鏡をかけた黒髪の青年はそういって巨人をにらみつける。

「そうね。メルギトス、あんたに約束するわ。たとえ、何度あんたがよみがえろうと、何度’源罪’が猛威を振るおうと・・・」

「僕たちは・・・それを止める。止めて見せるのさ。」

茶髪の少女と、背の高い眼鏡の青年と印象が似ている男はそう言って頷く。

『サァ・・・アラタナセイヤクヲ・・・ワガ、クロキオオカミノチカラアルウチニ・・・』

蒼い光があることに気がつく。

その光は、黒い疾風・・・’源罪’を飲み込みながらそう言葉を発した。

「わかったわ・・・行きましょう、ネス、アメル。」

「そうね、行くわよぉ・・・キール?」

「ハイ!今・・・我ら三者の魔力の全てを・・・」

「エルゴの王たる誓約者と・・・」

「偉大なる超律者へと預ける・・・!」

アメルと呼ばれた茶色い長髪の少女の号令に沿って、背の高い青年・・・キールと眼鏡の青年・・・ネスはその杖をかざした。

アメルの背中には、幾枚もの天使の羽。

そして、ネスの体も機械が露出している・・・

三人の腕に、体に宿った光は黒髪の少女と茶髪の少女に集まっていく・・・

「行くわよ、トリス。」

「オッケー、ナツミ!」

二人の体がまぶしく輝き始めた。

「・・・誓約者 (リンカー)と・・・」

「超律者 (ロウラー)の力を持って!」

「今ここに新たなる誓約を果たさん!!」

光が練り、織り込まれ・・・

そして・・・

『オ・・・オノ・・・レェェェッェェェェェェェェッ!!!』

光が放たれる。

「今度こそ・・・永遠の闇の中へ・・・」

「か・え・れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

カカッ!!

・・・そして、気がつけば光とともに、巨人の姿も消えていた・・・

そして、心なしか黒く染まった蒼い光が言葉を発した。

『ガンセキダイシュリョウトソレニヤドッタオンネンハハラワレタ・・・ソシテ・・・イマ、ベツノクウカン・・・ワタシノイタクウカンデダレカガワタシヲヨンデイル・・・』

「そう・・・」

『ソシテ・・・キミタチモマタ、ソノセカイニヨバレルダロウ・・・キミタチガ、『ナモナキセカイ』トヨンデイルセカイノサラニソト・・・』

「覚悟は、できているわ。」

「パッフェルさん?」

ひらひらのウェイトレス風の服を着た女性・・・しかし、きっとかなりの修羅場をくぐってきたであろう女性がそこに現れる。

「そうですね・・・私はかまいません。」

忍者のような格好をした男がそう言った。

『ソノセカイデノシハ・・・キミタチニハナンノエイキョウモアタエナイ・・・シカシ、アエテクナンヲアユムトイウノカ?ワタシノノコッタチカラヲモッテスレバ、ソレヲムコウトスルコトモデキルガ・・・』

「・・・ほっとけないじゃない?あなたにはお世話になったわけだし。」

「そーだよねぇ。それも、今までの話じゃぁ、あたしの世界に似てるみたいだし・・・その世界。まぁ、まさか『仮面ライダー』がいる世界とは思わなかったけどね?」

蒼い光の言葉に、ニッコリと返してトリスとナツミはそういった。

『ソウカ・・・ナラバ・・・』

蒼い光が、一段と強烈になり・・・そして、蒼い光は消えた。

そこに残された、蒼いサモナイト石。

それは・・・この世界の・・・リィンバウムのサモナイト石ではなかった・・・

そして、一瞬風が吹く。

そして・・・

「あ・・・?」

彼らの心もまた、遠い遠い世界への一瞬だが、とても長い旅へと旅立ったのだった。


超弩級巡洋戦士ウラタンダー !
第五話 「護界」前編



馬鹿にいい天気だった。

良い天気過ぎて、日中の最高気温が 35℃を突破した。

当然、夜は熱帯夜。

こんな日が数日続いていた。

実に夏らしい天気ではあるが、正直勘弁してもらいたい陽気だった。

「・・・まぁ・・・寒いよりははるかにマシだがよ・・・」

ふと、歌が聞こえた。

――――あの海・・・遠くまで・・・

どこかで聞いた気がする。

また、歌が聞こえる。

―――――限りなく駆け抜ける・・・心の彼方へ・・・

まただ。

――――――・・・

疲れているのか・・・?

聞こえてくる歌は、どれも物悲しい響きを秘めたものばかり。

目の前に、蒼い光が見えた。

眩しい・・・

―――――――聴かせてよ・・・溢れるメロディ・・・迷い子の・・・

歌が、どんどん増えていく。

5つ、6つ、いや7つも8つも悲しい響きを秘めた歌が聞こえてくる。

気が狂いそうだ・・・

「・・・使いすぎだな・・・チャンネルの開きすぎだ・・・」

浦谷はそういうと、酷い眩暈に襲われバッタリと路上に倒れた。


「ん?……ありは…」

と言うわけで、鮫島やくとです。やっぱり一人称が一番よく僕には似合うと、作者Y先生からの要望で、勝手に一人称ですが登場しました。(カシコ

そんで僕は、何時もの如くジャンク屋で対極悪メタル用兵器の部品の買い物を済ませて、帰宅途中に遠めで何かを発見した。

今日は、帰宅ついでに浦谷さんに、差し入れを持って言ってやろうとこうコンビニで色々買い込んで、寄っていこうかと思った。

最近、ってか一寸前にガロード君達が彼の何か月分の食料を奪って行ったのが発端で、彼は余り食事と言う者を摂取していないと思う。

もしや、極悪メタルの陰謀!?

そろそろ、危険レベルが…『幻覚症状』まで引き起こす程のレベルに達してるかと思うし…放って置くと、放って置いただけ仕返しが来る。

でなければ、僕のアイデアの詰った『科学者の魂』を破壊されるほど叩かれるかもしれないし、それに浦谷さんは友達だからかな?

「って…今言うのもなんだけど……」

「………」

目の前の光景を見て僕は有無も言わず走りよった。

「うわぁ!浦谷さんが行き倒れ、これは危険レベルGだべー!!戦闘員かむぉん!」

『ヤック!ヤック!』

すぐさま、戦闘員を招集して浦谷さんを急いで、あのマンションに連れて行った。


『マンション榊荘』

綺麗に布団まで引きずり出して、浦谷さんを寝かせるY(ヤクト)団兵。このマンションの中でもこの部屋は一風古いから、少し不気味に感じてしまう。

あ、そう言えばここって、随分前霊的な調査を行って危険レベルGが出たんだっけ、何気なく何度も来ているからすっかり忘れていたけど。

今更ながら、よくこんな所で何ヶ月もすんでられるなと、感心してしまった。

「首領、彼の部屋からこんな物が……」

変な機械を、タンスから引っ張り出してくる、怪しいけどこんなメカは僕の部屋でも少しあるからさほど気にならないのだ。

「戻しといてよ、浦谷さん…私物触られるとすごい怒るから……」

「やっく……」

残念そうに戦闘員Gは機械を、元の場所に戻しておく。

「ご苦労さん、皆もう帰っていいよ」

『やっく!』

僕がそう言ってぞろぞろと戦闘員達は浦谷さんの部屋から去っていく。改めて、この部屋を見渡す、浦谷さんの私物が色々ある代わりに、外層はまだ大家さん(秋子さん)が手を加えてないためかまだ木造の古いところが残っている。

古い木が少し浅黒く見え…どこからか血が飛び散ったんじゃないかって思う。

「か、科学者の卵がそんな、非科学的な事を……」

僕はSUPで天槍のバリエーション計画や、『無限』計画のメンバーに加えられた…もはや卵じゃなくて、僕は本当に科学者として結城さんに、認められたんだ。

Y(ヤクト)団首領の武装も、改良して…段々あの強力な極悪メタルに段々近づいているのだ。この世に、霊的な噂なんて…人の心が生み出した空想の虚像にすぎないんだし……

………
「あ、あはは…」

倉田先輩みたいな笑い方をしてしまう。

そうだ、浦谷さんはこんな部屋に居るから、精神に異常を来たしてしまうんだ。大家さんに行ってもらって別の部屋に移らせないと、このままだと浦谷さんが精神崩壊を起してしまうべ…

「う…むぅ……」

布団の中で嫌な呻き声をあげて、浦谷さんが布団からがばって起き上がった。

「つ、くぅ。んあ?」

「浦谷さん、だ…大丈夫ですか?」

「ああ?やくとか?」

うわ、寝起きが悪い人の代表の顔だよこれは……

「何故に貴様がここに居て、俺たまがここで寝てんのかって話しよ…」

「え、えっとですね」

「早く訳を言わんと、お前のその科学者の知識の宝庫をからっぽにしたる」

はーっと、浦谷さんが握りこぶしを作ってはーって言う…僕はすぐさま訳を単調に明確に、浦谷さんに話した。

「ほう、倒れたから、助けたってか?っく、ああ人生の汚点がまた出来ちまった」

「…どういうことですか?」

「貴様のような、科学者エッグの僕ちゃんに助けられたなんてよぉ」

彼は、決してあやまらない…礼も言わない人だって解っていても何だか少しむかつくなぁ。

「一応、礼は言っておくわ、カツオノエボシの事も借りがあったからなぁ」

「ええ?」

それって、お礼のつもりかな…この前海の事も、なんだかお礼を言ってるし…

「そういう事にしといてください」

「む、なんかムカつくな」

パコーン

結局僕の頭を、浦谷さんがこつかれたのだった。まったく僕の頭はもう卵じゃなくて、本当に科学者になったんだから。

「それにしても、路上で倒れるなんてな(ったく、一人でスーパーロボット並の力を持つ娘やら何やら呼びすぎたからか……)」

浦谷さんは、布団からすくっと立ち上がって、僕が買って来た買出しの品をあさり始めてそう言った。

「浦谷さん?やっぱり、この部屋の霊的な危険度が高いから……倒れちゃったりするんじゃないですか?」

「むー…そ言えば、確かこの部屋そうだったな」

「って今まで気づかないで?」

「いや、ただ忘れていただけだ……」

「……この人は…」

何だか少し、心配して損をした感じもするがここに居たらまた危険だって事がわからないのか?

「むぅ、さほど心配ないがな…(そいえば、こいつには幽霊よけの精神波ユニットの事は全然話して無かったか……話す必要もねぇがな)」

「と、とも角ここは危険だから大家さんに言って、部屋を変えてもらいましょうよ」

「大丈夫だっての、ったく…うっせぇな」

浦谷さんは一向に聞き入れようとせずに、買出しに持ってきた食べ物にたかりつく。

「ほう、これ使ってないとやっぱここは危険なわけか」

「これ?よく解らないけど、そうですよ…ここは危険なんです」

非科学的な事は信じないが、ここの空気がこの人に悪影響を及ぼしてるのは間違いないんだから。

「むー…(もしかして、こいつこの手の話が苦手か……)」

「浦谷さん?」

「よし……やくと、百物語ってしってっか?」

「うえ?」

聞いた事あるけど、何人かで百の怖い話をしていき、1回ごとに百本のロウソクを一本ずつ消していく。

最後に一本消したら本当に何か出てくると言う……

「やくと、携帯かせ」

「な、何するつもりですか?」

それを聞くと、いやーなにやけ笑いを浮かべながら僕の方を振り返る。

「やるのよ…それを…」

「それって、百物語?」

「百とはいわねぇ、ただここに集まって、そっち系の話をすりゃ、盛り上がんじゃねぇのかとおもってのぉ」

「何だってぇ!?何考えてんすかあなたはぁ」

よりにもよって、こんな部屋で怪談話をするなんて貴方の考えが解らないよぉ。

「っと思ったが、俺が電話したら…誰も来なくて……俺とお前の二人で怪談せにゃならんからな。メンバー集めないと、怖い話がさらに怖くなるぞ」

「うう……僕に、『逃れる』って言う、選択権はないんですね?」

「ああ、ないともさ」

うう…浦谷さん助けた恩を仇で返すつもりらしい。と言うわけで、人当たりの悪い浦谷さんが電話をかけられないのでメンバー召集を僕がする事にした。

二人だけで怪談話なんて、気まずいし…何より嫌だ。

「時間は夜8時で、俺のこの部屋(あの話が本当なら、最後にあれを止めたら、おもしろいかもな…)」

「何だか嫌な予感がするけど……呼ばなきゃ」

携帯の履歴から、メンバーを選び出した。


最初・ガロード君

『何!?カイダン?何だそりゃ……新しい敵か?』

予想通りの回答…向こうの世界の人は、こういう事しないのかもしれない。

『何だか解んねぇけど、面白けりゃいくぜ。あのおっさんの部屋にティファ連れて行くわ!それよりやくと、お前がくれたケイタイってのは便利だなぁ』

話題が、召還した後…僕がやった携帯電話の話が続く。でもその話は同じマンション近い部屋に居る事と、ガロード君の声が大きいからか…直接耳に当てなくても聞こえるのだ。

「『んじゃな、楽しみにしてるぜ!』」(「」内は直接部屋の方から聞こえる)

「……あ、うん、じゃね」

2番目・陣内君家

『あははー、季節外れの怪談話なんて面白そうですねぇ。陽介さんも帰ってきましたし、舞も連れて行きますねぇ』

「あ、お願いしますです……」

陣内君家に、倉田先輩と川澄先輩が一緒に住んでるから全員来るらしいから良かったよ。

3番目・氷隼ちゃん

『ええ!?怪談話ですかぁ?』

「もしかしてこの手の話はダメかな?」

『はうぅ、正直だめですぅ……でもお願いされたから、行きますよ』

「うん…助かるよ」

4番目・水瀬さん家

『うん、お母さんの了承を得たから、皆を連れて行くからね。あ、真琴は美汐ちゃんとお泊りだから』

「あ、うん…解った」

電話に出たのが水瀬さんだったから良かったよぉ。

「でもこの手の話って、苦手じゃない?」

『う、うん…わたしもあゆちゃんもそうだけど、お母さんがどうしてもって言うから』

やっぱり、あの大家さんか……さっきは、浦谷さんの部屋の事で直に頼みに以降と思ったけどいざとなるとなんか、怖くなってくるよ。

ある意味お化けより怖いかもしれない……あの人は…

『それじゃあ、いざと言う時のために祐一も連れて行くからね』

「解った、じゃあ…宜しく」

かちゃ

と言うわけで、メンバー召集を完了させたけど、相沢君も来るらしい。

それでも行き先不安なのは変わりないのだ。

「おう、メンバー召集は終わったか?」

「うん、えっとガロード君にティファさん…陣内君に倉田先輩、川澄先輩…氷隼ちゃんに相沢君、あゆちゃんで水瀬さんに大家さんです」

「結構集まったな、それならば盛り上がろうな。んじゃあ、やくと!お前これでメンバー分の料理作れ、そしてロウソクを用意しろい」

「浦谷さんって、こんなに祭り好きだったっけ?」

「あん?なんか言ったかきさん…」

「いいえ、何も……」

はーっと、拳に息を吐きかける浦谷さんを何とかなだめて…浦谷さん曰く祭りの支度を始める事にした。


2時間後

「ふう、下ごしらえはパーペキっと…」

並べられた料理を目の前にして、僕は一息ついた。

「ほう?科学者の卵にしては、美味そうな飯がつくれんじゃねぇか…」

まあ、科学者の卵だからこれくらい作れなきゃやっていけないだろう。

「摘まないでくださいよー、みんなが来たら食べるんですから」

「硬いこと抜かすな、科学者の卵黄」

卵から何だか降格されたような気がしてならないんですが……

そんな事を言い合ってると、浦谷さんの部屋のドアが叩かれた。

「あ、はいはい」

「来たかー、ささ、やくと出れ」

料理の前で、浦谷さんは勝手に僕の作った料理を摘みながら、僕を顎で使う。

「こんばんわー」

この間延びしたのん気な声は…

「はーい、いらっしゃい。倉田さん達」

一番最初に来たのは、倉田さんと川澄さんに陣内君だ。

陣内君、なんか特別な任務で大怪我をしたそうだけど、全然…その痕も全然無さそうだ。

「やあ、陣内君」

「鮫島…結城さんから聞いたぞ、SUPの科学陣に正式配属になったんだな」

「これで、同僚だね僕達…」

まさか、あの赤黒いメタルスーツは陣内君の特殊装備だったなんて、思いもよらなかったよ。

「それで、この祭りに呼び寄せた張本人はどうしてる?」

その言葉に僕はギクリとする。

なぜならば、それをいえば間違いなく、この気難しいこれから同僚となる人を怒らせることになると、簡単に予想できたからね・・・

「あ・・・その・・・中でつまみ食いしてます。そりゃもう遠慮なく・・・」

ハハ、と力ない苦笑を見せながらそう言うと、僕は一歩部屋から離れる。

明らかに不機嫌になってしまった彼を止める自信は僕にあるはずがない。

ズカズカと陣内君は部屋に踏み込み・・・

一瞬後、部屋から不機嫌な声が聞こえる。

どうせ、もう少しでどちらかの罵声が飛ぶだろうと予想して。

僕は水瀬さんたちを呼ぶためと称して一目散に階段を下りていった・・・



「ふざけているのか、貴様・・・?」

その声が俺の機嫌を明らかに損ねたのは間違いない。

メインディッシュを食うのは流石にまずい、とサラダの切れっ端とかをつまんでいた俺の耳にその声が入る。

「・・・ふざけてなんか居るか。科学者の卵に料理ができるとは思えなかったんでな、味見してただけだよこの盆暗。」

「―――もう一度言う。ふざけるなよ、貴様。何を考えてこの祭りを企画したかは知らんがな・・・」

「は。なに考えている?きまってんだろ、暇だったからだよ。どうせ、てめえも暇なんだろうが。」

動物的な直感で、俺はそう答える。

おそらく、こいつは今暇だ。

でなくば、ここになどこない。

そして、先ほどの述べた直感もそれは告げている。

ある種の勘には優れている、と俺は自分を評価している・・・

その分、普通の勘はからきしだ。

で、その歪な勘は間違いなくこいつは暇だ、と言っていた。

「・・・確かにな。だが、それとこれとは話が別。貴様につまみ食いをする権利はない。」

「・・・ほー・・・?」

「それは皆の財産だ。ほうっておけば、どこぞの馬鹿が喰らい尽くすだろう。超弩級の根性曲がりがな。祭りが始まるまで一口たりとも口にすることは許さん。」

―――やべえ。

こいつ人格変わってやがる。

食い物の恨みにはうるさいやつなのか。

俺は認識を新たにして、部屋の端っこにおいてある壊れたシャフトを握る。

さすがに、その言動にはカチンと来るものがある。

―――まぁ、こんなものじゃあ太刀打ちできんだろうが。

妙に冷静に、そんな言葉をつむぐ。

目の前には、すらりと剣を抜く刃物気違い。

よく見ると、いつの間にか入ってきた此間のムッツリ女もヨーロッパの片手半剣バスタードソードを握っていらっしゃる。

「大食魔物・・・よくない・・・」

そんなことをつぶやきながら。

「―――待て、話し合おうじゃないか。」

―――当然、俺の弁解など無駄。

ガキガキン!

すげえ息の合った連続攻撃が、鋼鉄よりもなお硬い、自動車用のシャフトを叩ききる。

―――しばし、地獄の時間だった。



「はー!はー!!て、てめーら・・・部屋をぶっ壊す・・・気か・・・!?」

その言葉に、気違いどもがハテと気づいたように。

「―――なるほど、今気づいた。貴様の部屋なんぞどうでもいいが・・・」

何かにおびえるような声音を少し織り交ぜて、シュワルツマークネバー V(多分陽介のこと)はそんなことを言う。

ムッツリ女に目配せをすると、二人とも剣を収めた。

「―――取り合えずだ。貴様につまみ食いをする権利などどこにもない。天地神明許そうと、俺は許さんぞ・・・!」

その言葉に本気の色しかなかったので、俺は取り合えず素直に謝っておく。

「すまん・・・」

そのくらい、疲れてた。

―――夢に見ていた、あの日の影に・・・

窓の外では、なんかのゲームの歌が流れている。

謝るのは果てしなくいやだったが、そうしなければ俺は死ぬ。

膾に叩き切られたシャフトを見つめながら謝罪する。

・・・屈辱だ。

まぁ、そんなことはどうでもよいだろう。

ここで、時間は数十分飛ぶことにする。



―――取り合えず、夜。

全員集まっている。

俺の知識においては霊感が強く、怖がりであろうティファもガロードと談笑している。

精神波制御装置の機能はスイッチを切っても数時間は続く。

安心設計だよな。

そう思いながら、俺はつまみを食べる。

―――揺れる心抱えて、飛び込んで行け夜へ・・・

まだ聞こえるな。

階下で一日中 Fate/stay nightとやらをやってるヲタクがいるっぽい。

「いい歌だね。なにかライバル心を感じるけど。」

うぐう娘はそんなこと言いながら、この曲に耳を澄ましている。

ギンガンギンガン剣戟の音っぽい効果音が一杯でうるせえから、いい加減黙らしてきてやろうか。

そう思ったとき、水瀬親が立ち上がる。

「―――ちょっと音抑えるように頼んできますね。」

そんなことを言って、大家さんは出て行く。

「お母さん・・・無茶しないかな。」

不安げにねぼすけがそうつぶやいたとき、一際大きいうめき声が響く。

途端、階下から聞こえていた全ての音が消失する。

―――殺りやがったか、あの大家・・・?

「お待たせしました。快く音を下げてくれました。」

あくまでにこやかに、彼女は帰ってくる。

―――あかいあくま、ならぬ、あおいあくま。

そんな単語。

おそらく、件のゲームでもやらなければわからん単語が浮かぶ。

当然、俺は知らないはずだ。

―――

ほら、俺は知らない。

そういうことにして、話を始めようとする。

集まってきたメンバーは、予定通り。

俺とやくと、シュワルツ、ムッツリ女、脳天気女、うぐう娘、ねぼすけ娘、相沢祐一とやら、なぜかいる米屋の店主の男、ガロード、ティファ、大家に氷隼・・・だ。

ムッツリと黙り込んでいる店主は放っておいて・・・

(みちるが聞いたら夜トイレにいけないだろうな・・・)

―――?声が聞こえた気がする。

まぁ、いい。

「怖い怖い怖い怖い・・・うーうーうーうー・・・」

始まってもいない怪談に怯えて氷隼のガキは布団に包まって震えている。

―――それは俺の布団だ・・・

他人の匂いがついた布団に寝るのは憂鬱になる。

引き剥がすのも面倒なので、氷隼は置いておく。

うぐうとねぼすけは・・・

「怖いのかな?」

「怖くなきゃだめだよ、あゆちゃん。」

なんか、楽しみにしてるっぽい。

張り合いがない。

―――怖がるやつがいないと、怪談はしがいがない。

ムッツリと脳天気とシュワルツは・・・

「あははー。おもしろそうですねー。」

「はちみつくまさん」

「この手の話は余興にもってこいですからね、佐祐理さん。」

―――うむ、こいつらも同じだ。詰まらん。

いちゃこいとるガロードとティファはおいて置く。

「ガロード怖い・・・」

「大丈夫だって。俺が守るからさ!」

―――ええい、腹が立つ。

本格的に放っておこう。

相沢祐一は・・・

「―――」

つまらなそうな貌をしていた。

「どうした、詰まらんのか?」

俺がそう聞くと、男は答える。

「あ、いや。張り合いがないなぁ、と。誰も怖がってないし。まだ話し始めてないからアレだけど、氷隼ちゃんくらいに怖がってもいいと思わないか、女の子は。」

―――まったくそのとおりだ。

俺の場合は、怖がってくれるなら男でも女でも関係ないがな。

そこ行くと、相沢が眼を向けている男は理想的だ。

「―――名雪も、あいつくらい怖がってくれるとうれしいんだが・・・抱きついてくれるかもしれないし。」

動機が不純だが、まあいい。

その眼を向けている先にいるのは、間違いなくやくと。

「・・・」

明らかに緊張している。

膝は震えているし、顔もこわばっている。

必死に怖がるものか、と強がっているが・・・

さすがに、この部屋の恐ろしさを知っているものとしては、落ち着くまい。

―――それでこそやくと。

理想の反応だ。

―――このマジモンの幽霊が出る部屋で、さて何人が耐えられるか。

楽しみだな。

そんなことを思いながら、いる。

そうしていると、いやでも目に入るもの・・・

それは、暗い顔で、俺をねめつける大家の姿だった。



―――さらに一時間数十分後。

――― 一通り、皆話し終えた。

うぐうの話した話が一番上質だったのは意外。

まさか、カシマさんを持ってくるとは。

バリエーション違いを 6種類、さらにババサレとテケテケをあそこまで詳細に説明するとは。

すでに、その話のせいで氷隼は泡を吹きかけている。

髪の毛は、まるで雪のように白く見える。

―――おもしれえ。

兵士バージョン (3番目)を話しはじめたときから、こんな感じ。

やくとは・・・

「――――」

カックラキンと固まっておる。

おもしれえ。

―――さて、俺の番かな・・・

と、そのとき。

全てに耐えられなくなったか・・・

「ル ル ル ル ル ル ルワァァァァァァ!!ボルイャダァァァァ!!ゴワイヨルワァァァァァァァァッ!!ギゲンドリベヅスディ-ヂ-!!!!」

―――狂ったか。

神経が耐えられなくなったようだな。

取り合えず・・・

「黙れ。寝ておけ、鮫島。」

シュワルツが先手を打って鳩尾を打ち、馬鹿がマットに沈む。

暫し寝かせておくか。

そういえば、シュワルツが話してないな。

「おい、お前の番だぞ?」

「わかっている。では・・・」

そうして話し始めたのはこんな話。

“さても暗い夜のこと 遠い夜を思いながら女はすすり泣く 我が伴侶は何故消えた と”

そんな、歌のような話だ。

―――ふむ、こいつらしい。

あまり怖くはないが、味のある話だ。

「―――実話を元に、俺が創作した話だ。面白かったか?」

悔しいが、面白い。

素直に俺は賞賛する。

「おう。おもしれえ。情感が篭ってたな。」

―――まぁな。

と言って、シュワルツは黙り込んだ。

うむうむ。

レベルの高い話が多くて、俺としても大助かり。

やくとも起きて、なんとか平静を保っている。

さて・・・

今度こそ俺の番。

[これは、このアパート・・・しかも、この部屋で起こったと言われている話だ。無論、俺は微塵も信じちゃいない。だが、ここに住んでいるものならばわかるだろうな。その真性は。さ・て♪]

楽しげな音声をこめて、言うと口調を一変させる。

怪談とは声の緩急と大小をコントロールしながら話すのが肝要だ。

それだけでなんでもない話が、恐るべき話となる。

さぁ・・・

皆怖がれ。

意地悪なそんな俺の考えを見透かすようにねめつける大家の視線を無視して俺は話し始めた。

“・・・あるアパートがある。

ここには噂があった。

このアパートのある部屋に住み着いた人間は数日以内に逃げ出すか、精神に失調を起こして入院してしまうというのだ・・・

それを信じなかったある男がその部屋に住むことになった。

一日目・・・真夜中ふと目が覚めて部屋の隅を見ると、恨めしそうな女がにらんでいる。しかし、こちらには何も手出しをせずに消えてしまった。疲れているんだろう、と男は思って寝てしまった。

二日目・・・真夜中。ずる、ずるという音が聞こえて窓の外を見た。すると血まみれの男の右腕が部屋へ向かってはいずってくるではないか・・・部屋に入る寸前に、それは消えてしまったが、男はまんじりともせず夜を明かすことになった。

三日目・・・同じように真夜中にノックをするものがある・・・恐る恐るドアを開けると・・・そこには血まみれの手だけが浮いていた・・・男は気絶した。

四日目・・・引っ越すことを決めた彼は部屋に入らずにいればあんなものも現れるまい、と朝方まで遊び歩いて空が白むころ家へと帰った。だが・・・部屋の鍵を開けようとすると、鍵が開かない。廊下の隅のトイレのほうから血まみれの足が・・・

五日目・・・引越しの準備を整えた彼はもう一晩だけ、このアパートに泊まらざるを得なかった。友達を呼び、何とか平静を保とうとしていたのだが・・・どうしてもトイレに行きたくなり、無理やりに友人と一緒に外へ出ると・・・今度は階段のほうから、血まみれの足・・・二人は気を失った。

六日目・・・友人が気付いたとき・・・男は発狂していた・・・虚ろな笑みを浮かべたまま、「俺じゃない、俺じゃないよ・・・」とつぶやく彼はすぐさま精神病院に運ばれた。

彼は今でも精神病院のベッドの上でそうつぶやき続けているらしい・・・

友人があとから聞いた話ではそこでは、とんでもなく猟奇的な殺人事件が起こり、女性が行方不明、男性のバラバラ死体がアパート中にばら撒かれていたそうだ。

おそらく、今でもその彷徨える霊が犯人を捜してうろついているのだろう、と。“


最後に付け加える。

「この話を聞いたものは、この建物に近づいてはならない。何故ならば・・・」

「―――な、何故ならば?」

ゴクリと喉を鳴らして、ガロードが言う。

「この霊は犯人を捜している。そして、この話を知るのは犯人だけだと思い込んでいる。故に・・・」

にやりと笑う。

さぁ、最後の仕上げ。

この瞬間こそが、怪談の真骨頂。

マジで怖がらせたい相手に・・・

「―――こういうことだ。」

ゆっくりと、指をやくとに振り向ける。

「犯人は・・・お前だーーーー!!」

「ギャァァァァァァァァァァァァァァ !!!ゾンナドベイジンダ ベイジンナンダァァァァァァッ!!!!ルワァァァァァァァ!!!」

さっきと同じ調子で叫ぶ。

叫ぶ叫ぶ。

一しきり叫ぶと、落ち着いたのか、ゆっくりと言った。

「―――そ、そんなわけないですよ・・・怪談やフォークロアなんて科学的に説明できます・・・へ、へへへ・・・」

不気味な笑みを浮かべながら、やくとは持論を話し始める。

―――よっぽど参ってるのかつっかえつっかえ。

やりすぎたかな。

ふふふふふふ。怪談はやりすぎたくらいがちょうど。

大家の視線がさらに痛い気がするが、無視してやくとの話を聞く。

要約すると、こんな話。

“怪談とか都市伝説は話ごとに同じような種類の話が多くあります。
時代背景や、その時流行った流行の物、場所、歴史上に起きた戦争や本当の殺人事件等が怪談や都市伝説に投影され繁栄する。
例えば、「杉沢村」と言う消された村を語るフォークロアをご存知だろうか?
これは、「津山三十人殺し」と言う実際の事件を元に誰かがネット上に流したものが繁殖したものだ。
それらは元々一つの物だったが、『口コミ』や『インターネット』と言う人から人へと渡り歩いていく特性を持つ伝達手段を経る内に様々なバリエーションを生んでいった。
それとか、口裂け女を代表する『学校の怪談』のような物は、小学生単位で増えた噂等は夏休みなどを利用して、友人グループ単位で広まったりする物も多く、小学生の間ではブームとなって、爆発的にそのバリエーションが増えたりもした。
道路関係の都市伝説などもいい例である。この手の都市伝説はいたるところに流布している。(ここには、長く単調な作業を続けると「見えないはずのもの(つまり幻覚)」を脳が見せてしまう人間の生理や心理も関係しているのだが、暴走族関係や、閉鎖されたトンネル等や、高速道路等での人身事故等の色々な事柄も関係する)
また、違う種類の噂が一つとなってできて、一つの形態となった話だって存在する。
口裂け女が、赤いスポーツカーでやってくる…なんて口裂け女シリーズに高速道路シリーズが合体したような物もあるように都市伝説は人から人へと渡って行き、増殖し…また消えたり、違う物同士が一つになったり…そしてまた新しい物ができたりする。
それ等は人は霊的な物…異形なる物等、想像上の化け物に対する『恐怖』を持つが、それに対する人にある、奇妙な感情『怖い物見たさ』と言う感情がまた、新たな噂を呼び作り出しているのだ。
故に、人がその噂に飽きたり…面白くないもの、怖くないもの、陳腐なものは忘れられていく。時期や、その時の流行が関係しているのもそれが故…。
そうして、完璧に近いフォークロアが生成されてる。人の心によって。
だから、本当の所は都市伝説は殆どが『噂』の域を通り越していなくて、本質は闇に包まれている人の心にあるのだ。“


―――むう、確かにそうだ。

やくとが語る論に一々納得しながら、聞き続ける。

「ですからね、この話は「まだフォークロアになりきれてないフォークロア」なんですよ。 Deathから怖がることなんて・・・へへへへへ。」

真面目に参っているのはわかるが、その頭でここまで言えるのはすごい。

しかし、もう終わったようだ。

不気味な笑みをこぼしながら、やくとはくず折れる。

まるで、その姿は最後の戦いを終え、真っ白に燃え尽きた矢吹ジョーのようだった。



そして、数分が過ぎたころだ。

―――そろそろかな。

精神波制御装置の効き目ももう切れる。

ならば・・・

そう思ったときだった。

それが聞こえてきたのは。

ギ・・・

床が軋む音がする。

その音に、シュワルツはハッとした様に息を呑む。

―――ふう、予想通りだ・・・?

しかし、しかしだ。

そこには予想していたのとは、まったく違う光景が写る。

そこには、蟠る闇。

それは、やがて女性の形を取ってこちらをにらむ。

俺以下、数人にしか見えていないようだが、確かにそれは恨めしげな感情を秘めた女性の姿だ。

「やれやれ、まさか本当だたぁな・・・見えてないやつに危害は加えるなよ。そこの幽霊。」

まじめに興をそがれた。

本物が出てきては、面白くない。

こういうのは、そういうのだからな。

アレのスイッチを切ったのも、やくとを怖がらせるため。

だが、これは・・・

ち、マジでやばい霊ってのも本当らしい。

「いいか、見えてないやつ。落ち着いて聞け。もう、出てる。しかもかなりやばい。にげろ。」

淡々と告げる俺の声とほぼ同時に、パニックが始まった。

―――どう収集つけんだよ、これ・・・

その思いは喧騒にかき消されていった。

つづく。



後書け。

予定より早いところで続いてしまった。

前中後編になったら、市中引き回しの上打ち首獄門晒し首確定。

ので、あとがきは次回で。

では、また。

切腹!!

シュワッチュ!!

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