信州秘境決死の抜穴

− 長野県南佐久郡臼田町・広河原洞穴群 −

member
出たトコ隊長 伊藤 顕
切り込み隊長 佐藤和哉

〜 謎の地底湖 〜
 
 97年7月、「長野県・臼田に地底湖がある」という噂を聞きつけた無鉄砲2人組は、松本を出発して一路臼田へ向かった。「一路」といっても、本当は目的地などあってもなくてもどうでもいいような人間たちである。当然のように途中ほうぼう寄り道が入る。
 臼田駅でタクシーがつかまらなくて困っていたお婆さんをちょいと送って、なぜか小遣いをもらってウハウハ言ったり、日本に2つしかないとかいう、誰も知らない臼田の五稜郭に立ち寄ったり、あまりにも適当な「一路」である。いつものことだが実に困ったものだ。
 
 舗装されてはいるがヘアピンカーブが続く細い峠道を越え、群馬県峡に程近いところにそれはあった。
 出発した時間が遅かったせいもあるが、途中寄り道ばかりしていたために、着いた頃にはもう薄暗くなりかけていた。
 
 地底湖改め正式名称「最勝洞」。道端に看板が一つあるだけである。特に観光地でもない。大小数十個所あると言う洞穴群の、天然記念物であるいわれだけがつらつらと書かれている。前情報どおり「地底湖」の文字が確認できるが、このぶんだとただ洞穴に水が溜まっているだけのものくさい。外れ物件であったか。落胆ムードが漂う。
 そこに、切り込み隊長・佐藤が「抜穴」の文字を発見。抜穴? 通り抜けられるのか!? にわかに期待が高まるが、もう既に日も暮れかかっているので、とりあえず今日は偵察だけして明日行ってみようということになった。
 
 
〜 決死の抜穴 〜
 
 偵察部隊は人のあまり通っていなさそうな踏跡を、いつの物かよく分からない不安な標識をたよりに進んでいく。日が暮れかけているといってももう夏である、どっと汗が噴き出る。セミがうるさい。
 いくつかの洞穴の入り口の位置を確かめながら、明日のメイン・イベントになるであろう「抜穴」にたどり着いた。屈んで入らなければならないほどの小さな入り口であるが、穴の前に立つと、中からからはひんやりとした心地よい風が吹き出ていた。
 
 これは完全に吹き抜けている! いてもたっても居られなくなった2人は、偵察などと言っていないで今入ってしまおうという結論に達した。どうせ洞窟の中だ。昼も夜もないのだ。
 幸い懐中電灯は、出たトコ隊長・伊藤のナップサックの中に入っている。(後にもこのザックは幾度となく登場することと思う。自分が常に携帯しているこのザックは、あと食料さえ入っていれば充分非常用持出袋として使えるほど何でも入っている不思議なザックである。)2人で一つでは少々心もとないが、なに、いざというときにはこのザックにはマッチだって入っている(笑)。
 

「這いつくばって通るような狭いところ、
懸垂のようにして上らなければならないような段差が続く。」
 
 まったくと言っていいほど整備されていないこの洞窟への進入は、まさしく探検以外の何者でもない。狭いながらもひたすら長く続くその洞窟は、ところによっては這いつくばって通るような狭いところ、懸垂のようにして上らなければならないような段差が続く。それこそ川口宏なんて目じゃあない。
 狭いためにすぐ頭をぶつける。ヘルメットがほしいところだ。そもそも我々はヘルメットどころか、底の滑らない靴さえも履いていない。だいたいが、二人ともまったくの普段着なのである。汚しちゃあまずいわけではないが、かといって湿った洞窟の中で這いつくばるような格好ではない。
 
 ふいに懐中電灯の明かりが弱まり、さらには消えてしまった! …実はこの懐中電灯、以前から接触が悪くちょっとした拍子に消えてしまうことがあるのだが、そんなこと知る由もない佐藤は結構動揺している。
 大丈夫、接触が悪いだけと伝え、マッチをつけて接触の悪いトコいじくれば大丈夫と言って安心させたところに、ちょいと茶目っ気を出してマッチ箱の代わりに、大きさと形が似ているホチキス針の箱を渡したところだいぶパニクっていた。後日談よると本気で焦っていたらしい。笑える。
 

「最後に厳しいオーバーハングがあって苦戦したが、
無事、「抜穴」通り抜けに成功したのだった。」
 
 手探りで接触不良を直し、一呼吸おいたところでさらに進んで行く。しかし、かなり来たはずなのだがなかなか出口が見えない。途中、引き返すのも難しいような難所も何箇所かくぐりぬけてきており、もし先が通じていなかったら… 先行きの不安が増してきたところに、ようやく前方に外から差し込んでいる薄らぼんやりとした明かりを発見した。 やはり通じていた! 最後に厳しいオーバーハングがあって苦戦したが、無事、「抜穴」通り抜けに成功したのだった。
 出口付近ではとても明るく感じられた外の光も、表に出てみると既に日も暮れており、 いつのまにかセミの大合唱も終わっていた。
 

「出口付近ではとても明るく感じられた外の光」
 

〜 余韻の2日目 〜
 
 翌日は最勝洞の入れる洞窟すべてに入っていくことにした。先日の抜穴で狭いところには慣れっこになってしまった我々は、普通ならまずは入れないようなところまで入って行く。
 こうなってしまうともはや調子に乗って手のつけられなくなる佐藤は、どんどん狭いところにも入っていってしまって見てるこっちが心配になってしまう。何しろ、肩幅ほどもない穴にも入っていってしまうのだ。それについて行く自分も自分だが…。時には自分が率先してはいっていってしまうのだからお互い様である。
 狭い穴から出る姿はまるで岩から人間が生えているようで笑える。後になって写真を見ると、よくこんなとこ通ったなあと感心するばかりである。
 

「狭い穴から出る姿はまるで岩から人間が生えているようで笑える。」
被写体はすべて切り込み隊長・佐藤
 
 2日目の探検は前日ほどの感動はなく、地底湖のほうも抜穴のインパクトに比べればいまいちであった。やはりメインは「抜穴」だと再チャレンジ。すると思ったより簡単に通りぬけられた。慣れというものは恐ろしいものである。
 初回の「本当に通り抜けられるか分からない」という恐ろしさが、未知なるものに対する好奇心こそが、やはり探検の醍醐味なのであろう。
 なお前にも触れたように、この「最勝洞」はほとんど整備されていないので、もしここにチャレンジしようというもの好きがいるならば、危険を承知で望んでもらいたい。最低でもヘルメットと両手が自由になる懐中電灯にしっかりした靴、そして何よりスリムな体が要求される(笑)。笑い事でなく、それほどのところである。

1998.12.15 Itoh Akira


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