「兄さん。こんな夜遅くまでどこに行ってらしたんですか?」
なんて毎夜毎夜うるさい小姑のような妹が……
「何のような、ですって」
何のようなって、そりゃ小姑に決まっているじゃないか秋葉。
「そうですか。兄さんは私のことをそう思われていたのですか」
「あ」
驚きと恐怖で体が竦む。す、すげえよ遠野志貴。
帰宅直後にマイプリティーシスターにエンカウントするとは。
すぐさま逃走に移りたいがイベント戦闘らしく逃げることができない。
視界の隅に知得留先生がこちらに向かって手招きをしていた。バッドエンド直行っすか?
もう一人の俺、七夜志貴が警笛を鳴らし始める。しかし遅すぎた。
先ほどから体が全く動かない。遠方から俺を見ると真っ赤に包まれているんだろう。
「小姑ですか。ということは兄さんにはどなたかいい人がいるのですね」
「違いますよ秋葉様。きっと他に表現する言葉がなかったんですよ。そうですよね志貴さん?」
「……志貴さま」
秋葉の脇には見慣れた顔が二つ。言うまでもなく翡翠と琥珀さんだった。
「どちらでもいいですが、兄さん?」
「は、はひ!」
現時点での絶望と明日への希望とで板ばさみになり上手く声が出ない。
「いい人はどなたでしょうか」
いや秋葉、いい人も何もいないんだが…って聞いちゃいねぇ(汗
「あの、秋葉さん?」
「あらあら、どうしたのですか兄さん。そんなに怯えてしまって」
だからその檻髪をしまってくれ。
「大丈夫です。後で兄さんの言い分もちゃんと聞いて差し上げますので」
我が妹ながら無慈悲な。やはり8年間も放っておいたのがいけなかったのだろうか。
もう兄ちゃんのラヴは届かないのか!
「話し合いの余地はあるよな、秋葉?」
「琥珀っ!」
パチンと指を鳴らすとすぐさま琥珀さんが応じる。流石に速い。
「あはーすみませんね志貴さん」
「兄さんを地下室へお連れしなさい」
れ、例の地下室ですか。シキが監禁されていたという遠野家に伝わる地下室。
遠野の影の支配者だけあって琥珀さんもなんか手馴れてるし。俺もうダメデスカ?
「早くなさい」
「わかりましたー」
一人簀巻きにされて地下室へ連行されていく俺。あーる晴れたーひーる下がりー♪
ドナドナを琥珀さんが歌っている。牛じゃないんですけど(汗
「もう、志貴さんたらわがままですよー」
ココは何処だーそしてコノ俺は誰だー逃げろ逃げろ、逃げろ逃げろ、ドアを開けろー♪
そう、それじゃないとシックリこないんだよなー。
「着きましたよーって志貴さん?」
無理矢理に現実逃避してたのに琥珀さんの声で現実に戻されてしまった。ああ無情。
「それでは兄さん。後は琥珀に言いつけてありますので、ごゆるりとお楽しみください」
「まずは10ラウンド・セメントマッチですー。なんだか照れちゃいますねー」
腰をくねりながらイヤンイヤンしている琥珀さん。はっきり言って怖い。
「そんなことしたら、琥珀…わかってるでしょうね」
「は、はい。もちろんですよー」
琥珀さんと俺を睨み、秋葉が去っていった。ある意味秋葉よりタチが悪い琥珀さんを残して。
「大丈夫ですよ志貴さま。優しく飼ってあげますから」
そのネタどこかであったような。歌月プレイ済みの人しかわかりそうもないな。
「最初は指チュパの練習ですね♪」
いやそれって翡翠の役目ではってなぜ俺が?
「もちろん私の為ですよー」
昨晩の俺の記憶はそこで終わっていた。
あの後、何をされたのかは定かではないが、あまり思い出したくないのはなぜだろう。
朝起きるとちゃんと自分のベッドで寝ていた。ちゃんと運んでおいてくれたらしい。
ちなみに両手首に残る縄跡が無ければいつも通りだった。
物思いに耽っているとコンコン、と控えめにノックされた。
「志貴さま」
続けてガチャッとドアが開かれる。
入ってきたのはもちろん翡翠。
ただ違うのは今この時間に起きているはずのない俺を見て驚いていることだ。
「おはようございます、志貴さま」
恭しく頭を下げ、挨拶をする。
「うん、おはよう翡翠」
翡翠を見ながら挨拶すると何故か顔を赤くして視線を逸らされた。
「そ、それではこちらにお着替えを置いておきますので」
「ああ、すぐいくよ」
そのまま部屋を出て行こうとしたがこちらへ向き直る。
「志貴さま。お客様が見えているようなのでなるべくお早めに居間に行かれてはどうですか?」
「え」
翡翠の言葉で凍りつく。
アルクェイドは…ありえる。猫のようなあいつのことだ。
シエル先輩もだな。多分来てるとしたらアルクとセットに決まっている。
……ちょっと待て、何か忘れてるような気もする。
まぁいいか。おいおい思いだすだろう。
そんな気楽な気持ちで居間へ向かったのがいけなかった。
直ぐに部屋を出て行った翡翠のあとを追うように居間へ向かう。
なんだか賑やかだ。怒鳴り散らすような声と破壊音。
ようやく着いてみると翡翠がドアのノブに手をかけて立っていた。
「あ、あの翡翠、さん?」
なんとなく悪い気がする、とかじゃ済まないっぽい。
俺の目の前で翡翠がさも意地悪そうに口の端をニヤリ、と歪めながら
「志貴さまがいらっしゃいました」
そのとたんドアの向こうはしん、と静まり返った。
静かになったのはいいが、妙なプレッシャーが感じられる。
出来ることなら逃げ出したい。
そうもいかないのがこの面子なわけで。
翡翠に監視されながらドアの向こうに踏み出す。
「おはよー志貴ー」
バフっとタックルで突っ込まれながらマウント。
思わず都古の年季の入ったタックルが懐かしく思った。
「むーおはようってば」
「あ、おはようアルクェイド」
そのままゆっくりと眼を閉じて唇が近づいてくる。
モーニングに必須なおはようのKISSですか?
よし遠野家の長男たるもの、甘んじて受けようじゃないか。
しかし次の瞬間には宙を舞っていた。
わけがわからない俺の目の前にはアルクの頬を染めたラブリーな顔ではなく、鬼の形相をした
「誰が鬼の形相ですかっ!」
鬼の形相をした秋葉がいた。
「あはーさしずめ秋葉様は赤鬼ですねー♪」
「…正論です、姉さん」
幼なじみ2人のおかげで秋葉の檻髪が赤から朱に、やがて紅に変貌していく。
ちなみに俺の体が宙に浮いたままなのは秋葉の髪に拘束されているからである。
向こうではアルクとシエル先輩がギャアギャアとわめき散らしていた。
傍目にもうるさいことこのうえない。
「兄さん、おはようございます」
まさに鬼面で睨んできた。千鶴さんじゃあるまいし。
「それはもういいです!琥珀、後で離れにきなさい」
「はうー」
うな垂れる琥珀さんを早くも簀巻きにして引きずっていく翡翠。
秋葉も琥珀さんから吸うのは血だけじゃなく素直さとかこう、
胸部の膨らみとかいただけばいいのに。
「何ですって、兄さん」
「おはよう秋葉」
妹に威圧される兄。世の中にはこんな兄妹は滅多にいないだろう。
俺は兄君とか兄様とか12人の可愛い妹達に囲まれての
酒池肉林…じゃなかった楽しい生活を送りたかったのに。
何が哀しゅうて、より意固地になってる八年ぶりの妹と暮らさにゃならんのよ(涙
「意固地ですみませんね」
「いや何でもないです」
「兄さんのおかげで今日も人外の既知害の方がいらしてるんですけど」
「秋葉その言い方マズいって」
「あら、ではガイ○チの方がよろしかったかしら?」
何時の間にか争いをやめてこちらを見ているアルクとシエル先輩。
必死でフォローするも願い叶わず。
「ぶーぶー妹も充分人外じゃん」
「そうですよ。秋葉さんは既に人のカテゴリーには収まりません」
「じゃあ皆さん揃って人外ズですねー」
「……。(コクン)」
琥珀さんがなぜいるかは謎だけど(汗
「そうですよ。遠野先輩も人間なわけないでしょう」
「もちろん志貴くんもだよね」
…あれ?なんか今いる筈がない人の声が聞こえたような…ハテ?
「志貴さんひどいです。一緒にお蕎麦食べた仲じゃないですか」
「愛の力って偉大だよね。志貴くんのために舞い戻って来ちゃった」
晶ちゃんは秋葉の後輩で、あの事件以降この屋敷に遊びにきてるのでわかるけど。
なんで弓塚さんがいるの?
「だから愛の力だって。これから志貴くんとのめくるめくラヴストーリーが始ま(以下略)♪」
いやだって前回(幻月夜一話参照)であれだけシリアスってたのに…
「なんかギャグっぽくなってきたからって。作者が言ってたよ」
それなら一応納得しよう。それ以上突っ込むとどうにかなりそうだ。
「晶ちゃんはまた遊びに来たの?」
子狐のようにソワソワして落ち着かない晶ちゃんに話を振ってみた。
「ちちち違いますっ!今朝起きたらまた視界がぐにゃーんとして」
い、嫌な予感が。
その先を聞いたら、いや他の誰かに聞かれたらいけない気がする。
七夜も危険を感じ取ったのか、ニゲロと告げてくる。
「未来視で志貴さんが結婚するのが見えたんです!」
その一言で周りが凍りつく。あ、俺も含めて。
………………………マジデスカ?
「兄さん」
「志貴」
「遠野君」
「あはー♪」
「志貴さま」
「志貴さん」
「志貴くん」
「どういうこと(ですか)!?」×7
皆がズズイッと俺に押し寄せる。あぁ琥珀さんの何も考えてないような笑顔が素敵だ。
「琥珀」
秋葉の一声が響く。
「了解しましたー」
同時に皆が俺を中心に円陣を組む。
いやそれって捕鯨船の配置ではって獲物は俺ですか?
視界の隅で琥珀さんが注射器をゴソゴソやっていた。俺的危険度MAX近い。
なにやらアンプルを出してパキッと……慣れてるし。
「ただの何でも喋りたくなるお薬ですから、安心してくださいねー」
「それって自白剤とも言いませんか?」
琥珀さんは天使のように微笑みながら続ける。
「物知りな志貴さんにはご褒美として、お注射をあげますね♪」
「そ、それだけはっ、勘弁してください!」
俺の人に言えない過去が暴かれるのは正直さけたい。都古とのお医者さんゴッコとか(鬼畜
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」
ゴゴゴゴゴと某少年漫画っぽい擬音を撒き散らしながら琥珀さん。デ○オ?
「痛いのは最初だけですからねー」
じわじわと近づいてくる割烹着の悪魔。注射器のさきっちょが首筋に触れようとするとき、
ピンポーン、と電子音が響き渡る。
「チッ」
忌々しげに舌打ちをする琥珀さんの仕草が何とも愛らしい。
「翡翠」
「かしこまりました」
一同に礼をした後に出て行く翡翠。頼むからこの事態を打開できる人を連れてきて欲しい。
例えば有彦とか。あいつを犠牲にして俺が逃げ出せれば有彦も本望だろう。そうに違いない。
ところが俺の淡い期待を裏切って翡翠は誰も連れてこなかった。
いや、少し困っているようだ。おそらく知らない人だったんだろう。
「みなさんの知り合いで蒼崎青子さんという方をご存知の方はいますか」
その名前を聞いて顔色が変わるのが3人。俺とアルクとシエル先輩だ。
秋葉や使用人姉妹と晶ちゃん、弓塚さんは?マークが浮かんでいる。
「な、ななななな」
「スリーセブンですか」
シエル先輩につっこみを入れる翡翠が新鮮に感じられる。
「違いますっ!なんでブルーがここに来るんですか!」
「わざわざ人の家に来るほど暇じゃないと思うんだけど」
シエル先輩と違ってアルクは落ち着いている。まぁ協会と教会は仲悪いらしいから仕方が無い。
それまで黙って見ていた秋葉がおずおずと口を開いた。
「青子さんとはどういう方なのでしょうか?」
俺とシエル先輩がアルクに説明を促す。
「……はぁ。仕方ないわね」
隅っこにいたアルクが前に出てきた。シエル先輩も補足するのかアルクの後ろにつく。
「ミスブルー、もしくはマジックガンナーと呼ばれている蒼崎青子。簡単に言うと魔法使いね」
「私たち教会とはあまり仲が良くない『協会』の人間です。
この世に現存する4人の魔法使いの一人で魔術は使えませんが、破壊の魔法なら最強の部類に入ります」
「最強、というと兄さんの直死の魔眼はどうなるんですか?」
秋葉が俺を見ながら質問する。そんなに見つめられると照れるぞ。
「志貴の直死の魔眼はあくまで『最凶』の力。
私の空想具現化やブルーの破壊の魔法は『最強』に近いということよ」
「それにしてもこの家とブルーの接点がわからないわね。
私やシエルに会いに来た、ってことはないと思うし」
腕組みをしながらアルク。そろそろ俺が言うしかない。
「えっとみんな、聞いて欲しいんだけど。」
「何ですか」
シエル先輩、機嫌悪いからって俺を睨まないで下さい。
ちょっと前から黙っている琥珀さんたちはこちらを面白そうに眺めていた。
できれば俺も傍観したいが、なぜか当事者にされている。
ことの原因の(としか思えない)晶ちゃんは……未来視をしているらしく目がキマっていた。
涎も少し見えてるし。大丈夫かオイ。
「先生なんだ」
?マークを浮かべるアルクにシエル先輩と秋葉。
「前言ったような気もしたけど、もう一度話すよ。先生は俺が大怪我した後に会ったんだ。
そして別れ際に人生の教訓とも言える言葉とこの眼鏡をもらったんだ」
「なるほど、だから志貴が魔眼殺しを持ってたのね。出所がブルーだったからか」
妙に納得するアルクと口をパクパクするシエル先輩。
ついでに秋葉は別のところで怒っているようだ。
そして、それは起こった。
「あーーーーっ!」
to be contnued♪(続く?
恒例となったあとがきみたいなモノ
あーやっと終わった第二話。書き上げたはいいがテキストだったため、
HTMLにするのがめんどくさかった、というのは内緒(はぁと
実はこの話、ほんとは一話完結だったのにだらだらと続いてます。
だって先生モノが書きたかった、というかなり私事入ってたり。
晶ちゃんと弓塚さんも出てたり。入れすぎると収拾つかなくなったりして。
かなり無責任&風の向くまま気の向くままなので、私の○○はこんなキャラじゃない!
とかの苦情は一切合切受け付けません(笑顔
他の人が書いてるSSってどのくらいの長さなんだろう、とか疑問に思ってます。
俺的には今回と前回は同じくらいになってる、筈です。
時間がきたので、コーヒーでも飲みながらサイナラです。次回は誰が出るでしょうか(意味深(´Д`(ハァハァ