中日陝西協力会の発足と第一回会議

 中国共産党と中国政府の次の世紀における大戦略である中国中西部地域がいよいよスタートしようとしている。一昨年の春に陝西省西安市で「中日経済知識交流会」が開催された際、陝西省側から日本側に中国北西部の重要な省(陝西省)は中西部開発の面で日本側の知恵を借り、協力の可能性を探りたい、という意向が伝えられた。その後、陝西省から引き続きいろいろな形での働きかけがあり、日本側もそれに応える形で、できるかぎりの根回しをし、一九九九年の十二月七日に、宮崎勇元経済企画庁長官らが超多忙の中、なんとか都合をつけて西安市を訪問し、「中日陝西協力会」の発足式と第一次会議に参加した。

 十二月八日午前、李建国中国共産党陝西省委員会書記ら陝西省の指導者が西安市内のホテルで宮崎勇氏をはじめとする日本側の方々と親しく会見し、一行に感謝の意を表わした。

 そのあと、中日陝西協力会発足式および第一回会議が開催された。

 開幕式の司会をつとめた張偉陝西省副省長は、あいさつの中で次のように述べた。

 昨年四月、この地で中日経済知識交流会が開催された時、中日深ロレ協力会、上海研究会、天津研究会につづいて中国の内陸部の陝西省に中日経済交流面でハイレベルの研究、促進をめざす組織をつくってはということが話し合われた。その後、中日経済知識交流会日本側の宮崎勇氏と中国側の馬洪国務院発展研究センター名誉主任および関係者の支持のもとで、中日陝西協力会が今日発足することになった。わたしは中日陝西協力会の中国側を代表して、みなさんのご支持に心より感謝するものである。

 つづいて李建国中国共産党陝西省委員会書記が要旨次のようなあいさつを述べた。

 一九九九年六月、江沢民国家主席が陝西省を視察した際、西部大開発戦略の実施を急ぐようにと述べた。一九九九年十一月に開催された中央経済活動会議ではこのことについて布石がおこなわれた。これは中国の近代化をめざす建設の大局にかかわる事であり、新しい世紀に向けての重要な政策決定である。現在、中国の西部大開発の序幕はすでに切って落とされ、実質的なスタートの段階に入っている。陝西省は中国の西北地区に位置し、東部と西部をつなぎ、南部と北部を結びつける地域的な強みがあり、科学・技術、教育、エネルギー資源、文化財、観光資源などの面で強みがある。省都の西安市は西北地区最大の都市であり、西北地区の経済、金融、交通、情報のセンターである。陝西省は西部大開発の「橋頭堡」となる条件がそなわっている。わたしは、中日陝西協力会が、西部開発と陝西省の発展のためにアイデアを提供し、より多くの資金、技術、人材が中国の西部や陝西省に入ってくることを促し、企業界、文化・教育界およびその他各界の友好往来と広範囲における協力を促すよう願っている。

 コーヒー・ブレークのあと、第一回会議が開催された。

 まず、賈治邦副省長が「西部大開発のチャンスをとらえて、陝西省の飛躍的な発展をめざそう」というテーマで、要旨次のようなスピーチをおこなった。

 中西部地域の発展を加速することは、オヒ小平氏が九〇年代の初期に明確に打ち出した「二つの大局」という戦略思想の重要な構成部分である。

 大局のひとつは、東部沿海地域がプラスの条件を十分に生かして、対外開放を加速し、まずかなり急速な発展をめざすことであり、中西部地域はこの大局に心を配るようにしなければならない。もうひとつの大局は、一定の段階にまで発展し、今世紀末までにまずまずのレベルに達すれば、より多くの力をさいて中西部地域の発展の加速に力を借さなければならず、東部沿海地域もこの大局に心を配るようにしなければならない、これがその内容である。一九九九年六月、江沢民国家主席は西安で、西部大開発の戦略的条件が基本的にそなわり、機がすでに熟し、このチャンスを逸することなく中西部地域の発展を加速し、とりわけ西部の大開発について検討し、実施することを急がなければならない、と語った。

 これはオヒ小平氏の打ち出した「二つの大局」の考え方を実践に移すための重要な布石であるとともに、党中央が全体の局面をトータルにとらえ、新しい世紀に目を向けて行った重要な政策決定である。

 西部大開発戦略の実施は、内需の刺激、経済成長の加速ということと直接関係のあることであり、また、民族の団結、社会の安定とも関連があり、東部と西部のバランスのとれた発展と最終的にともに豊かになることとも関連がある。

 陝西省の地下には豊富な天然資源がある。省全体ですでに確認された鉱物資源は九十二種類もあり、そのうちの二十八種類は全国でトップスリーの中に入っている。陝西省南部の四川省に隣接する山間地帯は、世界の生物資源の宝庫といわれている。この地域に生息しているジャイアント・パンダ、トキ、キンシザルなどは、世界的にも稀有なものである。現在開発されている陝西省北部の神府炭田は、灰分、リン、硫黄の含有量が少ない環境保全型の良質動力用石炭の産地であり、確認埋蔵量は千三百三十九億トンに達する。陝西省北部の天然ガスの想定埋蔵量は四兆一億八千万立方メートル、確認埋蔵量は三千百八十四億立方メートルに達している 。

 陝西省の製造業の基盤もしっかりしている。 航空機、ロケット、通信、コンピューター、精密工作機械、オートメーション計測器、医薬などは全国でも重要な地位を占めている。

 西部大開発の実施によって、東から西へ、南から北への人間の移動、物資の移動、情報の流れ、資金の流れなどが形成され、陝西省には巨大な開発ブームが起こることになろう。

 西部大開発は、中日両国の経済技術協力にも大きな可能性をもたらすことになろう。 陝西省は日本の京都府、香川県と友好省・県関係を結んでおり、西安市、咸陽市、宝鶏市、漢中市は、日本の奈良、京都、船橋、宇治、成田、八幡、出雲などと友好都市関係を結んでいる。 一九九八年末までのところ、陝西省に設立されている日本の企業は百八十社に達し、実際に投下された資本は二億四千七百万ドルで、陝西省に来て投資している国および地域の中では第四位を占めている。陝西省の対日貿易額は省全体の輸出総額の一五%以上を占めている。

 中日陝西協力会が発足し、その第一回会議が西安市で開催されたことは、陝西省にとっては得がたいチャンスでもある。理論面での討論を踏まえて、さらに実務的な中日経済技術協力につながることを願っている。

 このあと、馮煦初西安市市長もスピーチをおこなった。

 日本側からは宮崎勇氏の発言のあと、浜口義曠農林中央金庫総合研究所理事長が「日本における農業機械の開発、研究の現状」というテーマの発言をおこなった。また、渡辺武敏日本空輸株式会社マーケティング室部長が「陝西省にとっての航空輸送」というテーマで発言した。佐藤嘉恭前駐中国大使・東京電力顧問からは陝西省の社会状況についての質問があった。投資協力ではソフトの環境状況を的確につかむことはもちろん必要であり、中国通といっても過言ではない元ベテラン外交官の質問は的を射たものだったと思う。

 十二月九日、宮崎勇氏らは西安航空機工業公司を見学、視察した。

 陝西省の幹部は、党中央の呼びかけにこたえて大西部開発に乗り出そうとする意欲に燃えていた。しかし、環境破壊のひどい現実、交通・通信インフラの立ち遅れ、水資源の不足という現実をもちゃんと見て取っているようだった。中国には、「愚公、山を移す」ということわざがあるが、われわれの孫の孫の頃になれば、すばらしい大西部が現実となっていることだろう。

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