中国に消費者ローン導入


 二千元の頭金を払っただけで、新型のパソコンが家に来た。消費者ローンの恩恵を受けた一人として、上海徳栄物資公司に勤める劉洪新さんは「明日のお金で今日の事をした。銀行はローンを出してくれて、サラリーマンたちに幸せをもたらした」と喜んで語った。

 劉さんの息子さんはパソコンを習得するうち、どうしても高級パソコンを一台購入する必要を感じたが、劉さんの家庭収入は月に千八百元しかないので、一万元近くのパソコンを一括払いで買うなどとてもできない相談であった。この困っているところに、工商銀行上海支店がローンを出してくれた。九千九百元にするパソコンは二十四回払いとなり、頭金の二千元を支払った後は毎月三百五十元を月賦で払うことになった。これで劉さんが助かったのだ。

 中国でも消費者ローンが導入されるようになった。

消費者ローンの導入

 昨年から、中国人民銀行(中央銀行)は住宅ローンを促進する一連の政策を次々と打ち出し、続いて今年の三月から消費者ローンの範囲、品種、規模を全面的に広げた。今年からは中国資本の商業銀行が消費者ローンの業務の開設を認められた。

 金融機構の反応は速かった。中国銀行から、今年新規増加する貸し付けの一〇%を消費者ローンに用い、今後毎年一ポイントのペースで伸びるという情報が流された。北京市の商業銀行は北京百盛ショッピングセンターと手を組んで、今年三月二十八日から北京の市場で先がけて個人耐久消費財ローン業務を導入し、半月もたたないうちに、この業務を十八社の商業企業に広めた。建設銀行は全国において個人を対象に住宅ローン、自動車ローン、耐久消費財ローン、住宅内装ローン、助学金ローンなどの業務を正式に打ち出した。ローンの投入速度も速くなり、その中の住宅ローンと自動車ローンの残高の率が逐次拡大された。六月末現在、住宅ローンの残高は二百五十七億元で年初より百七億元増え、各種ローンは新規増加した額の一三・七%を占め、昨年同期比二百十五億元増となり、一・五倍伸びた。

 消費者ローンは当初の住宅、自動車、大型耐久消費財から、さらに装飾、家具、観光、助学金、医療、通信機器などにまで広がり、ローンの金額は数千元から数十万元へとふくらんだ。

 意外なのは、消費ローンに対する消費者の関心の度合いである。北京市の商業銀行の個人耐久消費財ローン業務が開始されると、一日に問い合わせの電話が百本もかかってくる日が数日間続いた。北京百盛ショッピングセンターの設けた問い合わせコーナーを訪れる人は後を絶たず、最初の一週間にローンの申し込み用紙をもらった人は何と八十人にのぼった。

 こうしたことに対して、業界内の人々に言わせると、中国には消費ローンを発展させる時機が訪れているということである。

 改革・開放のおかげで中国は供給不足の経済に別れを告げ、買手市場がほぼ形づくられた。市民の家庭が新しい消費構造のグレードアップ時代に入り、住宅と交通の需要と生活の質の向上を満たす方向に向かって移行していると、多くの専門家は見ている。しかしながら、市民の収入には限りがあり、また消費は全く自分の蓄積に頼るだけなので、購入する前の蓄積期間が長くなり、生産能力と消費能力の間に極めて大きなギャップが生じ、滞貨が増え、生産能力が過剰となってしまった。

 ある権威筋は、住宅、自動車、パソコンなど新しい消費需要増加要素は昨年はまだ消費のホットスポットとなっておらず、市民の収入に限りがあることのほかに、最も重要な要因は消費政策が追い付かないことにあると語った。

 実際には現在、銀行業務に占める消費者ローンの比率はただ一%足らずだが、国際的経験が示しているようにこの比率は二〇%前後であるべきである。

 社会生産の終点と再生産の起点はいずれも消費にあり、消費の需要こそ経済成長の根本的、恒久的な推進力であることを人々は認識するようになった。国民経済の成長に対する市民消費の貢献比率から言って、現在日本は六六・四%、韓国は六四・八%、アメリカは八二・八%にそれぞれ達したが、中国は長年来変動が大きくなく、一九九七年はわずか五八・八%で、イギリス、フランスの六〇年代のレベルにも及ばず、大多数の発展途上国ともかなりの開きがある。

市民の生活に入った消費者ローン

 上海では耐久消費財ローンの業務が意外にも市民から喜ばれている。数社の大型デパートの割賦販売はなかなか人気があった。上海市百貨店第六支店では一カ月以内に割賦販売業務を五百件以上扱い、売上は五百万元を上回り、そのうち業務が最も多かった一日は七十一件で、売上は六十万元を超え、割賦販売の一日当たり売上の最高記録となった。

 上海市は中国でも消費者ローンが早くスタートした都市で、九〇年代の初めから住宅ローンの業務がすでに行われていた。集計によると、上海市では二十万世帯が住宅ローンの方式で住宅を購入した。昨年、上海は全国に先駆けて自動車ローンの業務を開始し、中国建設銀行一行だけでも自動車ローンによる購入台数は二百五十台にのぼり、売れ行きは良好である。最近の各商業銀行の動きが示しているように、上海の消費者ローンの範囲は絶えず広がっており、大は数万元から、小は数千元まで、さまざまな家庭はすべて消費者ローンのサービス対象となりそうだ。

 工商銀行上海支店耐久消費財ローン部の徐美麗総経理はこう見ている。住宅ローンと同じように、一万元以下の消費財ローンの市場見通しはかなり明るい。最初の理由は、経済の急速成長とともに上海の人々の消費理念に変化が生じ、割賦販売という形が大多数の人に受け入れられるようになったことである。次の理由は上海の金融市場が比較的に発達しており、多くの人が金融投資に参与しているので、消費者ローンは市民が合理的に資金を使用するのに条件を創り出したことである。

 天津では、工商銀行天津支店が三月六日から消費者ローンの業務をスタートさせ、家電、パソコン、家具、アスレチック器材、バスルームやトイレットの設備、楽器などが、全市で第一陣として指定された。スケールが大きく、信用が良好で、アフターサービスがよい十四社の商店で割賦販売され、この業務を引き受けた工商銀行天津支店は七つの勤務日以内にローンの申請者に返答を与えなければならず、営業ホールに責任者付きの受付コーナーを設けなければならないと要求した。

 三月十三日、ある夫婦は五歳の娘のために消費者ローンでピアノを買った。この夫婦は夫が合資企業の従業員で、妻は看護婦である。ローンは一年もので毎月元金と利息をわずか五百余元支払えばよく、返済は楽である。

 北京市の門頭溝からやってきた梁さんは、北京百盛ショッピングセンターで頭金三万八千元を支払った後、うれしそうに一台の乗用車を家まで運転してきた。こうして梁さんは消費者ローンによる自動車購入の第一人者となった。

 北京市に住む趙敏さんと楊林さんは消費ローンを使ってそれぞれ一台のパソコンを購入した。二人は百盛ショッピングセンターが消費者ローン業務を開始して五日間に、申請に成功した最初の二人である。

憂慮と障害

 消費者ローンは中国では新しく現れた事柄なので、多くの憂慮と障害がある。

 消費者にとっては、消費理念の問題である。伝統的文化と消費習慣の影響を受けて、借金してまで消費することに対して、どうしても気持ちが落ち付かないと感じる人が少なくない。ある消費者はこう語る。「これまでの理念に基づけば、今日の消費が昨日の労働のたまものであるとされ、今日のお金を使ったときでもよくプランを立てる必要があるのに、明日のお金を使うことになじまないのは自然なことである。それにまた、中国人の伝統的理念だと、借金することはメンツにかかわるもので、勤勉、倹約をむねとして家計を賄うことはわれわれの伝家の宝である。意識を切り換えるにはある過程を必要とし、消費者ローンに対しより多くの理解を必要とする」

 当面、家庭の消費者ローンに対する経済面の受容能力がまだ弱く、それに未来の収入に対する予期が芳しくないのも一因である。ある集計によると、現在、都市世帯総数の一〇%を占める最高所得の家庭は十五万元以上の消費者ローンに耐えることができ、都市世帯総数の三〇%を占める高所得と中の上所得の家庭は五〜十五万元の消費者ローンに耐えることができ、二〇%を占める中等所得の家庭はただ五万元以下の消費者ローンに耐えることができ、残りの約四〇%の家庭は消費者ローンを引き受ける能力がまだないのである。それに加えて、ここ二年来、市民の収入が伸び悩み、国有企業の効率があまねく振わず、一時帰休者が増える一方なので、多くの人は懐が寒いと感じている上に未来の収入にも自信がないという理由で、明日のお金で今日の正夢を見るなど到底考えられない。

 もう一つの要因がある。現在、中国の経済体制は難関攻略の段階に入りつつあり、住宅、医療、就職、養老、教育といった国民の生活と密接にかかわっている五つの措置が相次いで実施されている。一部の家庭では多少のお金がたまっていたとは言え、今後住宅の購入、医療費の支出、子供の教育に投資しなければならず、自分自身の老後にもお金がいることを思うと、楽な気分でお金を使うことは全く考えられない。

 このほか、厳しすぎる条件と煩わしい手続きがあって、消費者ローンを利用したい人も二の足を踏まざるを得なくなる。このほど中国の八大都市を対象に行ったアンケート調査が示しているように、車を購入する計画があったが、最終的には購入をあきらめた家庭のうち、一部の家庭は第三者担保を探しあてられなかったのが理由であり、一部の家庭は購入する車を抵当に入れることができなかったためで、あとの一部分の家庭は煩わしい手続きが原因で逃げてしまった。北京と上海では銀行が車の購入者に八つの融資条件を出し、十二の書類に記入しなければならず、十の節目を経る必要があり、すべての手続きを済ませるのに少なくとも一カ月かかる。昨年末北京で開催された「第一回ローンによる車販売展示会」では、問い合わせをした参観者は五千人を上回り、そのうちローンの申し込み用紙に記入したものは六百人だったが、すべての手続きを済ませた人は一人もいなかった。多くの人は手続きが面倒くさいことから遠のいていった。

 銀行にもそれなりの悩みがある。中国ではまだ科学的な個人資財信用評価システムと法律による監督枠組みが確立されておらず、個人信用が極めて弱い。各銀行は消費者ローン業務の展開を進めるに当たって、貸し付けリスクをコントロールする力強い措置を講じることができずにいる。企業の融資と比べて、銀行は個人消費者ローンの事前調査と融資リスクに対する評価を行うのが難しく、また個人の場合、流動性が大きくて実収入の把握が困難で、ローン利用者の資産信用状況を知るのも難しい。これらのことがあって、銀行は個人消費者ローン業務に対しあれこれと疑念を抱き、できるだけ信用貸し付けのリスクを避けようと、厳しすぎる条件と煩わしい手続きを設けるのを余儀なくされている。

 銀行は貸し付けを提供するのにリスクがつきものであり、これらのリスクにはモラル・リスク、返済能力の変化によるリスク、債務者の寿命リスク、商品質のリスク、社会経済政策のリスクなどが含まれる。これらのリスクの効果的な予防と解決が保証されれば、銀行は貸付を手足をしばらずに行うようになる。中国においてはこれらの保障的措置がまだ空白である。これは消費者ローンの進展を制約する重要な要因の一つであると言わないわけにはいかない。

 金融専門家はこう指摘している。消費者ローン業務の展開に力を入れている今日、抵当付貸し付けの生命保険と信用保険を導入することはすこぶる重要である。その理由は、当面、中国の商業銀行は消費者ローンを扱うに当たって、ユーザーに財産保険への加入だけを要求するのが一般化されるからである。しかし、借金するものの返済能力と信用度こそ消費者ローンにおける最も直接で最も基本的なリスクとなり、この問題が解決されないままでは、消費者ローン業務の健全な発展に響くことになる。また政府が保障と保証を提供する保障制度の確立を検討する必要があり、保険制度と保障制度が一層完全なものになれば、消費者ローンは真に人気を呼ぶようになれる。

 

 

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