苦境に直面する中国の民間航空事業

 一九九八年に中国の民間航空は十九年にも及んだ急速な成長に終止符を打たれ、全業種に巨額の赤字が現れたことで、内外で注目された。

 それから半年余りしか経ていない八月十六日に、新華社は中国の民間航空が全業種において七月末に赤字解消が実現し、一月から七月までの利潤は二億六千二百万元に達した、というニュースを発表した。

 中国の民間航空はどうして一九九八年に巨額の赤字が現れたのか、またどうしてわずか半年で黒字に変わったのか、中国の民間航空はすでに不況を脱したのかどうか。

欠損の原因

 昨年は全世界の民間航空にとっては望ましい年ではなかった。数年前の世界的な民間航空の不景気からみると、民間航空の業況は回復しつつあるが、アジア金融危機によってもたらされた衝撃が大きくはないとは言えず、とりわけアジアの民間航空業種への衝撃はさらに大きいものであった。中国民航の全業種の欠損は国際環境を背景として現れたものである。

 欠損の原因の一つは、中国の民間航空の輸送力が過剰で、旅客数が少ないことが上げられる。関係資料が明らかにしているように、一九九八年、中国の交通運輸業種の旅客輸送回転量は五・八%増えたが、民間航空のそれはわずか一・七%しか増えなかった。深せん=北京間の国内線を例にあげると、一九九八年における輸送力への資金投下は旅客数の増加をはるかに上回り、一日に提供できる座席数は約千七百五十、一番多い時は二千四百以上に達したのに対し、一日の旅客数はわずか千人ぐらいで、最も少ない時は七百七十人にしか達しなかった。

 一九九八年に中国の民間航空は市場を活性化させるため、かつて「一つの正規料金に数種類の割引」という国際慣行の航空券価格の政策を取り入れたこともある。これは国際慣行にふさわしい改革的な実践だと言うべきだが、実際の取り扱いの中で客足という基本的な条件を見落とし、しかも割引幅が大きすぎるため、各航空会社の間では形を変えた値引きの競争が現れるようになり、民間航空に大きな損失をもたらした。これによって、中国の民間航空の輸送総回転量は前年より六・三%伸びたが、収入はかえって九・五%下がった。それと同時に、販売代理の面でもかなりの問題が存在していた。全国には各種類の航空券販売代理店が一万軒近くあり、民間航空全体の七〇%の航空券はこれらの販売代理店が販売を行い、毎年の代理費用だけでも二十億元以上にのぼっている。販売代理店の設置が多すぎることは市場の秩序をかき乱し、民間航空の収入を流失させることになった。

 欠損のもう一つの原因は次の通りである。ほとんどの航空会社はまだかなり濃厚な計画経済の性格を帯びていて、責任・権利・利益もはっきりしないため、投資、経営、管理などを含めた航空会社の企業行為は市場経済の要求に十分に適応することができず、さらに経済効果がダウンする、コストがなかなか下がらないということにもなった。例えば、ボーイング737航空機一機の配置人数の国際平均数は百人であるのに対し、中国の大多数の国有会社は四百人にものぼっている。

赤字解消に全力投球

 業種全体の経済効果の低下という深刻な状況に直面して、中国民航総局の劉剣鋒局長は年初次のように語った。今年、民航はどうしても赤字解消という目標を達成しなければならない。内部管理の原因で欠損を招いた直属の航空会社と販売店の主な責任者に対しては、一年目は「イエローカード」を与え、二年目は即時免職する。今年の成長目標は前年より輸送総回転量が六・四%、旅客数が五%、貨物・郵便物取扱量が七・九%、主要輸送収入が一〇・五%それぞれ増えるというものである。

 航空券価格の政策という欠損を招いた主な原因に対応して、国家発展計画委員会、民航総局は、国が定めた優遇対象以外、国内線航空券価格は公示価格にしなければならないことを決定した。また、各航空会社が随意に航空券価格を値上げしたり、値下げすることや、さまざまな名義で割引を行うことは許されない。

 伝えられるところによると、「国内線航空券価格の管理強化と値下げによる競争販売の行為禁止についての通達」が公表、実施された後の二月から七月までに、民航直属の航空会社の国内線の旅客輸送量による収入は前年同期より九・六%増え、十一億七千万元の増益となった。

 今年は航空券販売代理店を整理しなければならないということも、劉剣鋒局長によって明らかにされた。六月末現在、不正の販売代理店百二十三軒が取り締まられ、処理された。そのうち、三十三軒は販売代理許可証を取り消され、航空会社九社が規則違反で処罰された。

 輸送力への資金投下を削減、制限し、コストを下げることも欠損解消のためにとった措置の一つである。七月末現在、航空機の実際減少数は八機であった。夏季と秋季の国内線の便数と座席数は昨年同期よりそれぞれ五・四%、二・八%減り、国際線とローカル線および香港行きの定期便の輸送力投入は約二%減った。一月から七月まで、民間航空の航空会社のトン当たり輸送コスト水準は前年同期より六・一%下がった。

 今年、民間航空は業種全体の航空機の座席数のゼロ成長を確保するため、リースの譲渡、リースのキャンセル、退役、売却などの方式で余分な航空機を処分した。また、新しい大中型航空機の購入についての認可の一時停止を続けるのと同時に、航空機の購入とリースについての管理手続きと基準を充実させた。

 各会社はまた内部管理、とりわけコスト管理の強化に力を入れた。中国南方航空公司の顔志卿総裁は年初、今年は一九九八年より航空材料の在庫品を一〇%、機内食と機内用品のコストを六%、交際費、出張費、事務費、物資・材料の消耗など各項目の費用を五%それぞれ減らすという要求を打ち出し、当面、一応の成果を見るに至っている。

 ちなみに、一月から六月まで、民間航空の企業管理費用、販売費用の水準はそれぞれ二・六%、一三・二%下がった。

問題はなお多い

 民間航空の欠損解消については、異なった見方を持っている人が少なくない。民航にとっては、昨年は価格戦争の年であったが、今年は航空機をリース、売却する年になったことから、赤字が解消されたのは、各大手航空会社が航空機を売却したことによるところが大きい、と見ている業界筋もいる。

 そして、欠損が五〇%に減った原因は、民航総局が各航空会社が納めた年間航空建設基金が、それまでの販売総額の一〇%から五%に減ったことにあるという議論もある。

 航空会社側は、航空券価格への制限も収入増加の一因ではあるが、主な原因ではなく、割引厳禁という規定も搭乗率にひびいたと考えている。伝えられるところによると、今年上半期の民間航空の輸送率と旅客搭乗率はいずれも昨年同期より二・八%下がった。この数字は国際線と国内線の平均データであり、国内線の場合はもっと低い。東方航空公司の例をとってみると、今年上半期、国内線の輸送率と旅客搭乗率はそれぞれ一七%、一〇%下がった。航空券価格の値上げによってもたらされた超過収入は、搭乗率が五〇%に下がったことに相殺しただけだと会社側は称している。

 航空券価格をすべて一律にするという民航総局の管理方法に対しては、各航空会社はそれぞれ違った見方を持っている。価格全体の水準は市場のそれとマッチしないと見ている人がいる。国内経済が明らかに引き締められているのに、三年前に決められた価格をとらなければならないため、航空会社側は旅客に利益を還元しようとしても、なかなか還元することができない。例えば、旅客搭乗率がシーズンでは九〇%、オフシーズンでも七〇%に達している深せん=武漢間の定期便は各大手航空会社から熱い目を向けられているにもかかわらず、この両地の間での「夕方立って朝着く」汽車(切符の価格は二百五十元)の開通によって客足をとられた。民航総局の規定では、深せん=武漢間の航空券価格はすべて七百八十元となっているのである。今年の八月になって、このラインの平均搭乗率はわずか三〇%で、オフシーズンにはなおさら二〇%に下がった。

 航空券価格をすべて一律にするという政策の実施によって、座席のクラス分けをとることができなくなった。高い代金を払って上質のサービスを享受しようとする一部のビジネスマンの希望に沿えないばかりでなく、安価で航空券を手に入れようとする一般旅客の希望にも沿えないこととなった。

 航空券価格の自由化は問題ではあるが、これは民間航空会社の短期的利益にかかわるだけであり、所有権の改革こそ民航業種の発展にかかわる重要な問題である。

 民間航空業種にとっては、不況をほんとうに脱するまでには避けられない問題はまだ多くあると、一部の学者は指摘している。

 国務院発展研究センター社会発展研究部の王元副部長は次のように語った。

 いわゆる輸送力の過剰は、民間航空の欠損となった原因の問題点ではない。まして中国の十二億人口の中で飛行機に乗ったことがあるものはわずかに過ぎず、まだ開発されていない巨大な市場にとっていわゆる過剰は極めて低いレベルの過剰にすぎない。欠損の原因は民航自体のコストが高すぎることにある。これはまず、企業の債務負担が大きいことに現れている。ほとんどの民間航空企業は自己資金が不足し、借入金が多すぎ、負債が高すぎるといった問題が存在している。そのほか、新中国建国以来のかなり長い期間に、ほかの業種にない特殊の優遇を享受していた民航業種は今になって、特殊の優遇によってもたらされたマイナスの影響に耐えざるを得なくなった。そして、航空会社の経営と管理がまずいのも、管理コストがなかなか下がらない原因となっている。

 コストの採算、財務リスクの減少という角度から見れば、飛行時間がわりと長い今の航路に適応しない大型航空機をリース、売却することは正常な企業行為である。しかし、このやり方は焦眉の急の解決にしかならず、それは欠損解消作業の中のわずかな部分だと言えよう。長い目で見れば、民間航空業種が真に苦境から抜け出すにはコストの引き下げ、競争力の向上に努めなければならない。当面、民間航空はすでに黒字に変わったにもかかわらず、メカニズムの転換を着実に実施しなければ、「欠損―欠損解消―欠損」という悪性のサイクルに陥るに違いない。

 業界筋は次のように見ている。二年で欠損解消を達成するという目標から見ても、民航業種の長期発展から見ても、以下の四つの面を重視すべきものである。第一、業種内部のリストラを実施し、廃止すべきものは廃止し、合併すべきものは合併する。第二、航空会社自体の持株権の構成を改造し、投資の主体を多元化にする。第三、以上の二つの過程で、市場のニーズに従って航空会社の経営構成と経営方向を調整する。第四、経営と管理の水準を向上させる。

 国務院発展研究センターの陳准研究員は次のように指摘している。

 民間航空の現段階の欠損解消は、政府の独占のもとでの非競争の方式で行われたのである。長期的に見て、ある業界が活力を持つには弾力的で多様な競争手段を持たなければならない。その中にはもちろん価格競争も含まれるのである。

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