砂あらしの被害と教訓
葉 楼
今年の春、北京は何回も砂あらしに襲われた。三月三日から四月中旬までの間に、数日ごとに大風が吹き、砂塵が舞い上がる天気に見舞われた。そのたびに砂塵で空が暗くなり、建築物のシルエットがぼんやりと浮かび、大気の中の総合浮遊状粒子はいつもひどい汚染度を記録した。北京気象台は天気予報に砂塵についての予報を組み入れることになった。
頻度を増す砂あらしは市民の生活と野外作業に極めて大きな不便をもたらしている。女性たちは外出前にネッカチーフを用意しておかねばならなくなった。いつ地面から巻き上げられる黄砂を真正面から受けて、目を開けられなくなるか分からないからである。室外で歩いていると、息切れがし、ノドが変になる。空気の中には濃厚な砂のにおいがある。退勤して家に帰ってきた主婦たちは、キッチンのテーブルの上に積もっている黄砂を拭いてからでなければ、ご飯が作れないほどで困ったことになった。往き来する車も黄砂を被り、車の窓をかたく閉めたまま走っている。芽をふき出したばかりの草木や満開の花も萎んでしまったようで、人々は春のピクニックへ行く気にもならなくなった。そればかりでなく、死傷者まで出た。三月二十七日の昼ごろ、北京のある二階建の建物で作業中の人が大風に吹き飛ばされて、二人が死亡した。同日、ある自動車部品店が大風で倒壊し、ある飲食店の高さ五メートルの煙突が風で傾いた。四月六日、北京空港に定刻に離着陸できなかった航空機は三百便余りに達し、数十便は天津、石家荘、太原などの予備空港に着陸せざるをえなかった。また、やむなく折り返えした日本の航空便もあり、北京空港で立ち往生した乗客は千人を超えた。安全を保障するために、一部の建築工事現場は高所作業を中止する以外になかった。
この期間に、中国の西北地区の東部、東北地区の南西部、華北地区の北部の一部の地区も砂あらしに見舞われた。国家気象センターの統計によると、三月から四月までの間に、内蒙古、河北、遼寧の西部、北京・天津地区などの地区に黄砂を伴う五ないし七グレードの風、突風八ないし十グレードの北からの強風が巻き起こった。同センターの裘国慶教授は、例年の同期と比べて、今春の砂あらしを伴う天気は明らかに多くなったばかりでなく、その上例年よりも早く、その頻度の多いこと、範囲の広いこと、強度の大きいことはいずれも今までの同期に見られないものであった。
異常な気候
頻度を増した砂あらしは国内外の専門家とメディアの関心を集めている。専門家たちは、気温が高く、降雨量が少なく、大風が多いことが砂あらしを伴う天候になる主な原因であり、生態環境と都市建設によってもたらされた問題も重要な原因である、と考えている。
国家気象センターの丁一匯研究員は次のように説明している。
砂あらしの形成とその度合いは、風力、気温、降水および関連土壌の表層の状況とかかわりがある。今春に入ってからの気候の異常は砂あらしの主な原因の一つである。三月以来、華北地区と西北地区の東部では気温が著しく上昇した。その上昇幅はセ氏二度ないし三度に達し、一部の地区にとっては四十年らいまれにみることとなった。これによって、土壌の解氷期間が例年より繰り上げられ、土壌の水分の蒸発が速まり、砂地が大風で地面から巻き上げられやすくなった。異常が起こったもう一つの原因は、今春、北部地区ではほとんど降水がなく、解氷後の大面積の表層の土壌が乾燥し、柔らかくなっていたため、植生がまだ形成されておらず、しかも大風が毎回到来する前に黄砂の巻き上げを抑制できる明らかな降水がなかったことである。そのほか、三月以来、寒気の動きが頻繁となり、その上冷たい空気が押し寄せると同時に温帯性低気圧が内蒙古から東北地区に至るまでの地域にどっと入り込んできたため、風力の明らかな増大を招いたのである。
丁氏は、地球温暖化という大きな背景も砂あらしの原因でもあるとし、さらに次のように述べた。
目下、地球全体が温暖化し、多くの地域では降水が減っている。このすう勢は向こう三十ないし五十年間も続くものと思われる。推測によれば、中国の西北地区と華北地区の気候もそのうちに暖かくなり、しかもそれが持続することになる一方、降水が引き続き減っていくため、砂あらしの頻度の増加を招いているという。
砂漠の包囲の中に
中央気象台と国家林業局の一部の専門家はさらに次のように指摘する。
植生が破壊され、砂漠化が絶えず広がっていることが砂あらし多発の重要な原因である。今回の北京の砂塵は主にモンゴルと中国の内蒙古自治区の砂漠地区からのものであり、後者にはフンサンダク砂地、コルチン砂地、マウス砂地とアラサン砂地が含まれており、その中でも主なものはアラサン砂漠である。
アラサンは北京に向かって吹く風がどうしても経なければならないルートである。昔から水草がよく生い茂ることで穀倉と呼ばれたアラサンは、今では死んだ魚の骨が二つの湖一面に散在し、あたかも北京の砂の倉になっている。
国家林業局砂漠化予防・改造管理センター総合業務処の技術者羅斌氏は次のように説明している。
目下、アラサン地区の土地超過負荷率は一二〇%ないし一三〇%以上になり、一部の地方の超過負荷率は三〇〇%に達する。五〇年代には、青海と甘粛からアラサンに流れ込む黒河の流量は九億ないし十一億立方メートルに達したが、今は二億ないし三億立方メートルしかなく、植生は広範囲で枯れてしまい、四十万ヘクタール以上の土地が砂漠化した。三十五万三千ヘクタールもあった天然の植生は今では、二万三千ヘクタール以上が枯れはててしまった。
北京西北部の周辺地区の生態環境も悪化している。権威筋の調査によれば、北京西北部の周辺地区の砂漠化面積は六四%を占め、牧草地の退化や砂漠化もかなりひどい状態になっている。北京市の水がめである官庁ダム、密雲ダム、潘家口ダムの上流の桑乾河、潮河、白河およびツミ河はいずれも河北省域内に位置するが、河北省の約十分の一の土地が程度の差こそあれ砂漠化の危害を受けており、そのうち、ーモ上砂地、張家口のーモ下などの五大砂州、永定河の中・下流の砂地などが、河北省と北京・天津地区にひどい影響をもたらしている。ーモ上地区と桑乾河の沿岸の五十キロに及ぶ大風と砂塵に見舞われやすい区間はここ十数年来、北京市内から七十キロばかり離れているところまでに広がって砂漠化している。そして地形が高いところにあるため、西北の風が吹くと、砂塵が北京市を覆うようになる。そのほか、張家口の洋河の中間部にある百キロ足らずの範囲でも、砂漠の総面積が一万四千ヘクタール以上に達し、毎年のように北京に吹き飛ばされてくる砂は約百万トンに達している。
そのほか、北京の東北部にある狩猟地一帯では、内蒙古自治区の多倫県の砂地を砂の源とし、御道口牧場を頂点とした砂のベルトが四本、移動する砂丘が六万ヘクタール形成され、また年平均二六・四メートルのスピードで南東の方向へ動いており、北京・天津地区の生態環境は大風の影響を受けている。北京の真北の方向にある河北省豊寧県には大小さまざまな移動する砂丘が八十余カ所もある。これらの砂丘は北京市の懐柔県に接する境界から三十キロしか離れていないところまで来ており、しかも毎年三・五キロのスピードで南の方向へ動いている。
厳しい警告
「ある意義から言って、気候変化の原因は人類が左右できないものである。しかし、土壌に植生と防護林があったら、砂塵が舞い上がることもなく、降雨量もそんなに少ないことはありえないだろう。植生が破壊されて砂あらしが吹くのはほかでもなく、人間が自らもたらした悪影響である」と、羅斌氏は語った。
今年の春、北京とその周辺地区に起こった砂あらしは再び人々に土地が砂漠化しているという警鐘を打ち鳴らした。
王志宝国家林業局局長は次のように指摘した。中国の生態環境はいまなお厳しい状況にあり、全般的環境が悪化し続けるすう勢がまだ完全にコントロールされていない。当面、土地の砂漠化がたえず広がり、面積は二百六十二万平方キロに達し、全国の耕地面積の合計をはるかに上回り、国土面積の約二七%を占め、十四の広東省の面積に相当している。砂漠化した土地は主に北緯三十五度から五十度までの間の内陸部の盆地、高原に分布し、西部のタリム盆地から東への松花江・嫩江平原の西部に至るまでの東西の長さ四千五百キロ、南北の幅約六百キロの砂漠地帯を形成している。新疆、内蒙古の砂漠化した土地の面積はそれぞれ土地の総面積の四七%と六〇%を占めている。甘粛、青海、寧夏、陝西、山西、河北、遼寧、吉林、黒竜江などの省・自治区はいずれも程度の差こそあれ風砂の破壊を受けている。砂漠化した土地の面積はさらに毎年二千四百六十平方キロのテンポで広がっている。現在、中国は世界で砂漠化の被害が非常にひどい国の一つとされている。
国家環境保護総局の一九九八年の「中国環境状況広報」によると、現在、中国の森林カバー率はわずか一三・九二%で、一人当たりの森林保有面積は世界の平均水準の一七・二%にすぎず、世界で百十九位にランクされ、全国の三億九千万ヘクタールの草原のうち、九〇%以上はすでに退化したかあるいは退化しており、そのうち、退化の中程度以上のものは三分の一に達している。砂あらしは五〇年代に五回、六〇年代に八回、七〇年代に十三回、八〇年代に十四回、九〇年代には二十三回発生し、年を追って上昇するすう勢を示している。
風砂は大きな経済損害をもたらしている。全国で千五百キロの鉄道、三万キロの道路と五万キロの灌漑用水路が風砂によって破壊された。専門家の推算によると、ここ数年らい、全国で風砂の破壊によってもたらされた直接の経済損失は年間五百四十億元に達し、この数字は西北の五つの省・自治区の一九九六年度の歳入の四倍に相当する。
国家林業局砂漠化防止整備管理センターの専門家たちは砂漠化が深刻化した原因を次のように要約している。
土地のむやみな開墾。人口の増加と短期的利益にかられて、多くの地方は条件が備わらないばかりか、保護措置もとらないで、土地の無計画、無規制の開墾を行い、土地の砂漠化をもたらした。
むやみな放牧。現在、全国のほとんどの草原での放牧がその受容能力を超えた結果、草原の大面積の退化、砂漠化をもたらした。内蒙古草原の牧草の平均の高さは七〇年代の七十センチから現在の二十五センチに下がった。
樹木の乱伐。一部の砂漠化地帯では樹木が乱伐され、多くの貴重な砂漠植物が破壊され、土地を守る樹林がなくなった。
薬草と鉱産物のむやみな採取と採掘。経済利益だけを考慮した結果、一部の砂漠化地帯で薬草や髪菜(砂漠とゴビ地帯に生える植物)などがむやみに採取され、しかも鉱産物に対して無秩序な採掘を行った結果、多くの植生が破壊されて、直接土地の砂漠化をもたらした。
水資源の乱用。一部の地区は耕地の灌漑の面でいまなお大面積の灌漑の方法をとっており、水資源の浪費をもたらすばかりでなく、土地のアルカリ化をももたらした。
難しい課題
五〇年代に入ってから、中国政府はずっと砂漠化の防止・改造作業の展開を堅持している。改革・開放政策が実施されていらい、国務院は生態環境の整備を非常に重視してきた。一九九一年に国が砂漠化の防止・改造プロジェクトを本格的に実施し始めていらい、砂漠化の改造作業は著しく加速されている。一九九八年現在、改造された砂漠化の土地面積は累計七万平方キロに達し、一部地区の生態環境はいくらか改善された。そのうち、三北保安林(西北、華北、東北の保安林)および砂漠化の防止・改造プロジェクトの中で樹木や草が約三千万ヘクタール植えられた。それはこの地区の植生の復活、風砂による危害の軽減の上で大きな役割を果たした。
しかし、さまざまな要素の影響によって、土地の砂漠化の全般的状況は依然として悪化しており、「砂漠化がたえず広がっており、農家も続々と砂漠化したところから立ち退いている」という局面が根本から転換されておらず、状況は依然として厳しい。
羅斌氏は次のように語った。三北保安林プロジェクトを例にとってみよう。このプロジェクトは、北京が風砂の危害を受けないことを保護するために、三北地区のきわめて大きな風砂を防ぎとめる必要があるが、こうした目的を達成することは難しい。しかも三北保安林の建設にはいくつかの問題も存在している。例えば、建設のテンポが緩慢で、ここ数年は破壊が非常にひどくなっているなどがそうである。
砂漠化を根本から解決するには、地表の砂漠化を防除し、高木と低木の間作、立体的な防護を行わなければならない。砂漠の拡大を食い止めるには、東部は経済と技術の面で西部を支援しなければならない。
国家林業局の砂漠化改造専門家である楊有林氏は次のように語った。現在、保安林建設のテンポが樹木の破壊されるテンポに及ばない要因は主に管理の不備にある。地方政府は完全に管理の責任を負っておらず、耕地のむやみな開墾、樹木の乱伐、水資源の乱用に対しては禁止措置を取っていない。今一つの原因は経費の不足である。砂漠化の地区はほとんど西部にあり、これらの地区では主要な問題は生存であり、生存のためには、地方の経済を発展させなければならず、この過程において、往々して破壊的な開発が行われているのである。他方では、国の資金にも限度があることだ。伝えられるところによると、現在、砂漠化の防止と改造に使われる国の資金は年間約三千万元であるが、専門家の推算によると、砂漠化が急速に広がる態勢を完全に食い止めるには、少なくとも十五億元を必要とする。
羅斌氏はさらに次のように語った。根本から砂漠化問題を解決するには、国ができるだけ早く砂漠化の防止・改造に関する法律と法規を制定しなければならない。現行の「農業法」「草原法」「水土保持法」の中では砂漠化問題にも言及されているが、明確な規定が見られない。
来年の春に、北京市にまた砂あらしが発生するかどうか。気象専門家と砂漠化改造専門家は環境をよく整備しなければ、今後は砂あらしはいっそうひどくなると見ている。
最近、中国政府が決定した西部大開発戦略における最も重要なものは風砂を食い止めることである。国家林業局もすでに砂漠化の防止・改造に関するプロジェクト計画の制定に着手した。この計画は三つの段階に分けて実施される。つまり、二〇一〇年に危害がわりに大きいが改造し易い砂源を改造する、二〇三〇年に砂漠化の度合をある線で食い止める、二〇五〇年には全国の森林のカバー率が二六%に達し、砂漠地帯全体の砂源を効果的に改造する。