WTO加盟の利害得失を正しく認識しよう
WTOは世界唯一の多国間貿易機構であり、現在、百三十四カ国・地域が加盟している。中国のWTO加盟にはいったいどのような利害得失があるのだろうか、またどのようにして利を確保し、損失をなくすのか。
一、 WTO加盟の利害得失
WTO加盟は、中国が改革を深化させ、開放を拡大し、社会主義市場経済体制を確立する内在的要求であり、経済を発展させる上で必要なことである。発展途上国としてWTOに加盟するのは、中国の経済発展に対し利もあれば損失もあるが、全体から見て、損失より利の方が大きい。
さらなる輸出拡大と外資導入に役立つ。WTO加盟後、中国は加盟国が享有する最恵国待遇を受けるが、これによってその他の国・地域が市場を開放するメリットを享有し、主だった貿易大国に中国に対する差別待遇を徐々に取り消させることができるばかりでなく、中国の製品に以前よりもっと有利な競争条件を備えさせ、中国の輸出貿易とくに強みをもつ産業の輸出の発展を促すことができる。WTO加盟後、中国はWTOの定めた義務を履行し、国内市場を徐々に開放しなければならないが、これは外国のための投資環境をいっそう改善し、中国市場の外国に対する魅力を大きくし、外国の資金、技術、管理経験をより多く導入するのに役立つだろう。
国内の産業構造の調整と最適化の加速に役立つ。産業構造の調整と最適化は中国の経済発展の重要にして緊迫した任務である。WTO加盟後、その他の加盟国が中国にその市場を開放し、中国は供給過剰の製品と産業を外国へ移転することができる。同時に、中国はその他の加盟国に市場を開放し、外国の資金と技術を利用して中国の在来産業を改造し、ハイテク産業とサービス業の発展を加速し、産業発展の全般的レベルを高めることができる。
経済体制改革を引き続き深化させることに役立つ。WTOのルールは実質的には市場経済のルールの世界的範囲における運用と発展である。WTO加盟は、中国の改革プロセスを推進し、同時に国有企業の改革を促し、現代企業制度を確立し、貿易、銀行、保険、証券、商業など諸分野の改革の深化を促して、これら分野の逐次開放の必要に適応する。
中国の国際貿易新ルール制定への参与、中国の正当な権益の擁護、中国の国際的地位の向上に役立つ。WTO加盟は、国際経済事務において中国にいちだんと役割を果たさせる。同時に中国は多国間紛争解決メカニズムを利用して、その他の国との真正面からの摩擦と衝突を減らし、中国の正当な権益を効果的に守ることができる。
中国の世界経済のグローバリゼーションへの参与に役立つ。経済のグローバリゼーションは、避けられない歴史的潮流であり、中国が全面的に国際競争と国際協力に参与し、強みを十分に生かすのに役立つ。同時に、中国が多国籍企業と幅広く協力し、多国籍企業の資金、技術、管理経験を導入し、販売ルートとネットワークを利用して輸出を拡大するのに役立つ。WTO加盟は、中国が自らの多国籍企業を設立し、その他の国に企業を設立し、中国経済の国際競争力を高めることにも役立つ。
WTO加盟後、われわれはしかるべき権利を享有するとともに、それ相応の義務を担う必要もある。まず最初に、市場のさらなる開放によって国内の製品、企業、産業はより激しい競争に直面する。過去において、中国は市場参入、関税引き下げ、非関税措置取消などを自主的に決定したが、WTO加盟後は、WTOの市場開放についての規定を守らなければならない。これは中国の市場開放の速度と段取りに対しある程度プレッシャーとなる。市場参入の拡大、関税引き下げ、非関税措置の取消に伴って、外国の製品、サービス、投資がより多く中国市場に進出する可能性があり、国内企業は厳しい競争に直面し、とくにコストが高く、技術水準が低く、管理が立ち遅れている企業は厳しいチャレンジに直面するだろう。次に、中国の対外経済貿易管理はある程度WTOのルールの制約を受けるだろう。現在中国で施行されている渉外経済法律、法規、政策はまだ完全にはWTOのルールの規定に合致していない。第三に、多国間紛争解決の裁決は、中国に不利な結果をもたらす可能性もある。中国の市場経済は整備が待たれており、このほか若干の政策・規定と企業行為がWTOのルールに合致せず、その上WTOのルールに対する理解が足りず、経験不足であるため、われわれはWTOの紛争解決メカニズムの中で「敗訴する」可能性もある。
二、利害得失に弁証的に対処する
この問題に対しては、全面的、発展的、弁証的な観点で対処する必要がある。
個々の産業から見れば、WTO加盟は強みを持つ産業に発展のチャンスをもたらすだろう。例えば、農業の果物、肉類、野菜など、工業の一般機械・電子製品、軽工業製品、繊維製品、消費類電子製品、サービス業の建築、観光などは、いずれもより大きな市場シェアを獲得することができる。しかし、WTO加盟は国内のいくつかの産業にある程度の衝撃と圧力をもたらすだろう。例えば、農業の食糧、工業の自動車、サービス業の銀行、保険などは、いずれも先進国からの競争の圧力に直面するだろう。産業全体から見て、WTO加盟が中国の産業にもたらすチャンスは衝撃より大きく、多くの産業はより多くの発展のチャンスを獲得するだろう。
短期的に見るなら、WTO加盟は強みをもつ繊維製品、機械・電子製品の生産と輸出を拡大し、より多くの外資とくに多国籍企業を導入、誘致して、経済成長と就業の拡大に役立つが、WTO加盟が一時的にせよ強みのない産業に対してはその生存に一定の圧力となり、ひいては若干の衝撃をもたらすが、これらの企業が適切に対応しさえすれば、競争の中で発展をはかることもできるのである。長期的に見れば、WTO加盟は中国の経済体制改革、産業構造調整、国際競争力の増強、国際地位の向上に積極的な影響をもたらすだろう。
WTOから与えられる権利を適切に利用すれば、輸出をいちだんと拡大し、外資をより多く導入し、国内の製品と産業をより適切に保護、支持し、一部の国の貿易差別にいっそう力強く対処することができる。適切に利用しなければ、上述の利益を十分に獲得することが難しくなり、ひいては失うものも現れるだろう。
三、チャレンジを受けて立ち、利を大きくし、損失をなくす
WTO加盟は、中国にとってはチャンスでもあれば、チャレンジでもある。
各業種もWTOの要求と中国の約束に基づいて、それに対応した実行可能な対応措置を検討、提出する必要がある。まず最初に農業を合理的に保護、支持しなければならない。WTOの「農産物取り決め」の規定に基づいて、国内の農業生産を合理的に保護し、輸入農産物のもたらす衝撃を防ぎ止め、軽減する。農業生産の構造を調整し、資源配置を最適化させ、農業の科学技術の進歩を加速し、ブランド品・優良品・新生産物と地方色を持つ生産物の比率を拡大し、農産物の国際競争力を向上させる。次に、工業企業の国際競争力の向上に努めなければならない。企業の改革を深化させ、社会主義市場経済のニーズに適応した現代企業制度と経営メカニズムを確立し、WTOの認可した貿易補助措置を合理的に運用する。例えば、緊急輸入保障措置と反ダンピング措置を講じて、中国経済の安全と重大な利益にかかわる産業の健全な、安定した発展を確保する。第三に、サービス貿易市場を計画的に開放する。中国がWTOに加盟する時に行う約束に基づいて、電信、銀行、証券、保険、商業などのサービス分野の対外開放を選択的に逐次拡大し、管理体制改革を積極的に推進し、管理を強化し、サービスを改善し、競争力を高める。同時に中国の法律に基づいて、審査・認可手続きを厳しくし、監督・管理を強化しなければならない。第四に、文化製品の管理を改善する。関係ある法規建設を強化し、業種の管理を改善、整備し、各国との文化の交流と協力を拡大し、同時に輸入する国外の文化製品に対する審査・認可を厳しく行い、好ましからぬ文化の侵入を防止しなければならない。
WTOの行為規則と運営メカニズムの多くの内容は、われわれにとっては新しいものであり、われわれは意識を変革し、メカニズムを転換しなければ、WTOの要求に適応することができない。各クラスの政府と関係部門、各種企業はWTO運営メカニズムの要求にも適応すれば、社会主義市場経済の特徴にも適応する政府の運営メカニズムと企業の経営メカニズムをできるだけ速く確立し、特に人事労働管理、賃金収入分配、生産要素流動などの面で、有効なインセンチブ・メカニズムと厳格な制約メカニズムを確立する必要がある。
WTOのルールを突っ込んで検討し、中国の現行の渉外経済の法律、法規、政策を充実させ、調整、整備し、経済貿易法律体系の確立と整備を加速し、法律手段を十分に運用して中国の正当な権益を擁護しなければならない。
中国の国情を熟知し、外国語のレベルが高く、豊かな専門知識を身に付け、WTOのルールと国際経済法律に精通する多くの専門人材の養成を加速し、国際経済貿易規則の制定に効果的に参加し、多国間規則と国際慣行の手段を十分に利用して中国の貿易を発展させ、中国の正当な権益を保護する。同時に、国内企業の経営管理者の育成に力を入れ、彼らに国際経済貿易活動の規則をできるだけ速く熟知させ、その国際市場を開拓する能力を増強させなければならない。