アメリカの「ニューエコノミー」の啓示
アメリカ経済は九年連続して成長をとげてきたが、いまだ停滞または衰退の兆しが見られず、戦後の経済成長期最長の記録をつくったばかりでなく、経済諸指標も良好な状態にある。これはかつて見られなかった現象であり、「ニューエコノミー」と称されている。現在、経済のグローバル化は日増しに明らかになり、一国の経済発展の経験はその他の国にとっていっそう明らかな参考の意義がある。そのため、アメリカに「ニューエコノミー」が現れた原因と特徴を分析し、その中からなにがしかの啓示を得ることは、とても必要であるように見える。
科学技術の進歩が経済構造の変化を促す。アメリカに「ニューエコノミー」が現れた最も根本的な原因は、科学技術の進歩の推進の下でアメリカの経済構造に根本的な変化が生じたことにある。このため、アメリカは世界で真っ先に工業社会から情報化社会に移行し、アメリカの経済は新しい物質的基盤を探し当て、新たな発展の原動力と新たな成長要素を獲得した。一国がある時期に科学技術の進歩と世界経済の発展の方向を的確に把握し、重点的に発展させる産業部門を明確にし、それに国民経済全体のわりに速い成長を促させることができるかどうかは、その国の経済が成功を収められるかどうかのカギである。戦後に経済の奇跡をつくり出した日本が成功を収めた原因は、とりもなおさずすべての発展段階に明確な重点的な産業部門があったことにあるが、過去十年間に日本経済が深刻な苦境に陥った原因も、ほかでもなく今後の経済発展を促進できる重点的産業がどこにあるかがわからないことにある。日本人の言い方によれば、経済の前進方向を見失い、世界経済発展の流れに順応してすかさず産業構造を調整できなかったことである。数年前、東アジアと東南アジア諸国で発生した深刻な金融危機と経済危機もこれと関係があった。
投資が開発研究、成果の産業化と結合。産業構造の変化は知識の革新と科学技術の進歩にかかっており、知識の革新と科学技術の進歩は大量の資本の投入と支持から離れられない。近年、アメリカは科学技術分野に資本を最も多く投入した国であり、毎年研究・開発に三千億ドル近くも投入し、日本、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、カナダの六カ国がこの分野に投入した資本の総和よりも多い。もしこのようなベンチャー投資がなかったならば、経済に質的飛躍を生じさせ、成功を収めさせることができず、終始他人の後についていくことしかできず、受動的な立場に立たされる。
研究と開発の成果を獲得した後、それを生産に取り込んで、新たな生産力と産業部門を形成し、経済の発展に対し実際の役割を果たさせるには、同様に大量の投資が必要である。近年、アメリカが情報産業に投入した資金は毎年二千億ドル以上で、年間の伸び率は一〇%を超え、アメリカの年間の投資総額に占める比重はすでに四〇%以上に達した。だから、アメリカの情報産業が国民経済に占める比重が一〇%足らずであるにもかかわらず、国民経済成長への貢献は三分の一を超え、その貢献度はアメリカ経済の三大支柱(鉄鋼、自動車、建築業)を合わせたものよりも大きい。
世界的範囲において在来製品が相対的に過剰する状況の下で、アメリカは自国のために新たな発展分野を開拓して「ニューエコノミー」を出現させた。それが投資と開発研究および成果の産業化と良く結合できるため、経済が進歩をとげたのである。
消費と蓄積の関係を正しく処理。アメリカ経済の中で、消費支出は七〇%以上の比率を占めている。情報産業の台頭は、大量の新製品を開拓し、それによって消費需要の拡大を刺激した。それと同時に、情報産業の迅速な発展が国民経済全体の成長を促したことから、住民の収入もある程度増加を見た。失業率が下がり、賃金が増加し、企業の利潤と配当が増え、株価がうなぎ登りに上がって、住民の収入をある程度増やし、消費能力を拡大した。アメリカでは、生産は消費の分野を拡大し、住民の消費能力をも高めた。消費の拡大はアメリカ経済の持続的成長の重要な要素となった。アメリカの「ニューエコノミー」は、生産と消費がこれまでずっと互いに補完、促進し合うものであり、そのためたえず科学技術の進歩に頼って新しい製品と市場を開拓し、新しい需要をつくり出す必要があり、同時に、経済の発展につれて住民の消費能力をたえず高め、増加した製品が売れるようにする必要があり、この二つの方面の関係をりっぱに処理してのみはじめて国民経済はより速く持続的に発展できるということを示している。
経済の発展におけるスピードと品質の関係をうまく処理。情報産業が発展した結果、多くの在来の産業部門もそれにつれて改造を行って、再び活力を取り戻し、企業の競争力を高め、国民経済全体もわりに速い成長をとげることができた。それはまた企業が経営管理をたえず改善し、管理の段階と人員を減らし、効率を大幅に高めるように促した。これらはいずれもアメリカの経済をよりよいミクロ基礎の上に立たせ、それによって持続的発展の条件を整えた。アメリカの「ニューエコノミー」は経済成長を促進すると同時に、質と効率の向上にも気を配ったからこそ獲得したものであると言える。
マクロ経済環境を改善。アメリカの「ニューエコノミー」はアメリカのマクロ経済環境の改善と大きな関係がある。
まず、アメリカの財政状況が大きく好転した。アメリカの経済は長期にわたって巨額の財政赤字に悩まされ、高い時は年間三千億ドルにも達した。現在、アメリカの連邦財政は赤字を消滅したばかりでなく、二年連続して黒字となり、しかも一年の黒字は千二百億ドルを超えるものであった。これによって、アメリカ政府は国民経済に対しマクロ規制を行う面でより大きなゆとりをもつようになった。アメリカの財政状況の改善は財政・税収政策の大幅な変化を通じて実現したのではなくて、国民経済が持続的にわりに速い発展をとげた結果である。この点は注意に値する。
次に、ここ数年来アメリカは比較的適切な金融政策を実行した。例えば、一九九八年の三回にわたる利率引下げ、一九九九年下半期以来の五回にわたる利率引上げは、毎回の調整の幅は大きくないとはいえ、タイミングをわりによく把握したため、いずれも所期の目的を達し、効果をあげた。同時に、国民経済のより大きな震動を引き起こすことはなかった。
外資を大量に効果的に利用。アメリカの国内貯蓄率はとても低く、国内の資金はとても経済成長の必要を満たすことができない。しかし、アメリカは外国の資金を大量に利用してこの問題を解決した。アメリカが毎年利用する外国資金は千億ドルにも達し、世界最大の資本輸入国となっている。大量の外国資金のテコ入れがなかったならば、アメリカに今日のような「ニューエコノミー」が現れなかったと言える。だから、どのように外資を利用し、それを真に自国の経済発展に役立たせるかは、すべての国が留意すべき問題である。
もちろん、アメリカの経済にも問題がないわけではない。
長期にわたってアメリカ経済を困らせてきた貿易赤字が解決されるどころか、逆にいっそう深刻となり、一九九九年は二千七百億ドルに達した。長期の貿易赤字と外国資金の大量流入で、アメリカは世界最大の債務国となり、対外債務は正味一兆五千億ドル前後に達している。国際金融市場には動揺が現れ、国際資本の移動方向に変化が生ずれば、アメリカの経済は重大な影響を受けるだろう。アメリカの株式市場でもバブルがふくらんでおり、これはアメリカ経済にとって大きな潜在的災禍となりつつある。
これらの問題が引き続き発展し、うまく解決できなければ、アメリカの経済は少なからぬ衝撃を受け、より大きな動揺を引き起こすことになろう。
上述のことを要約すると、アメリカの経済は今後の一時期引き続き成長をとげ、しかもアメリカの「ニューエコノミー」の現象は依然としてさらなる観察、研究、参考に値するものであるということができる。