クローンパンダは必要だろうか


 中国科学院動物研究所生物学者、パンダ繁殖技術専門家の陳大元氏は、今年六月からマスメディアが流した「クローンパンダの胚胎(はいたい)細胞に成功」という報道に頭を悩ませている。

 今年六月、中国科学院動物研究所のある研究グループは雑誌『中国科学』に文章を載せ、パンダの体細胞から細胞核を除去したウサギの卵細胞に核移植を行い、パンダの早期胚胎の育成に成功して、クローンパンダの直面している二つの重要な問題の一つを解決したと発表した。陳氏の指導するこの研究グループは早期胚胎を動物の子宮に着床、発育させるというもう一つのキーとなる問題の解決にとり組んでいる。

 ところが、北京大学の動物学博士課程指導教官、米スミス協会とサンチアゴ動物協会兼職の研究員潘文石氏はこの科学実験をめぐって、自己の見方を提出し、クローンパンダのやり方は取るべきではないと提起した。このパンダ保護に関する学術論争とパンダの生存状態に関する問題は社会各界の広範な注目を引き起こしている。

パンダ保護に新しい方法を

 資料が示しているように、数十万年前から十万年前まで、パンダは今の河北、河南、湖北、湖南、江西、福建、浙江、安徽、広東、広西、貴州、雲南、四川、陝西、山西など中国の多くの場所をはじめ、今のベトナム北部、タイ北部、ラオス、ミャンマーなどにも分布していた。

 パンダの激減は一万二千年前の新石器時代から始まった。人類が全世界範囲で発展しはじめ、パンダを含む地球上の数多くの動物の生息地が破壊された。

 歴史書の記載によると、十八、十九世紀に、長江中・下流の湖北、湖南、広東、広西などの辺ぴな地区に依然としてパンダが生息していたが、現在、パンダの生息地は中国西部の秦嶺南坡、岷山、キュウライ山、大相嶺、小相嶺、大凉山の六つの山系だけになっている。

 科学界の一般的な見方によると、現在パンダの数は千匹前後であるというが、実際にはもっと少ないと思われる。人類が森林を絶えず乱伐し、パンダの生息地が広範囲に破壊され、野生パンダの数は絶えず減ってきている。同時に、竹を食べるだけで生殖能力が弱いなどから、パンダは絶滅の危機にさらされている。

 中国科学界はパンダを救うことを共通の使命としている。数十年来自然繁殖が芳しくないという状況の下で、中国科学者が開発した人工受精技術は、パンダの運命に一種の希望を与えている。

 陳大元氏はパンダの人工繁殖に従事して十余年になるが、九〇年代初期に、「二つの制御」の方法で、パンダの繁殖に取り組んだ。この方法では、人工受精の方法を採用し、雄のパンダの精子を冷凍し、ホルモン注射などの方法で、雌のパンダの発情と排卵を制御し、パンダに多く排卵させ、雄のパンダの精子を雌のパンダの子宮内に入れ、パンダの繁殖数を増加させるのである。約六年間に、陳氏は成都、福建など関係ある部門と協力して、この人工受精の方法で、パンダの六産十二子、七産七子の繁殖に成功した。

 この「二つの制御」の方法は一定の成果が挙がったが、非常に効果のある方法とは言えない。陳氏の紹介によると、パンダは精子、卵子が少なく、それに多くの雄のパンダが繁殖に加わることができないか雌のパンダの発情がよくないので、この人工受精では大量繁殖が実現できないという。

 陳氏はパンダを救うには多種の方法が必要であるとしている。

 一九九七年三月、陳氏はクローンパンダの構想を打ち出し、一九九七年下半期から実験を始めた。一九九八年、陳氏とその研究グループは中国科学院の重点プロジェクト特別資金援助を獲得し、一九九九年、国家科学技術部の重点科学技術プロジェクトの資金援助を獲得した。

 この実験はパンダの体細胞を異種脱核卵胞質に移植して、パンダの新たな個体を出産させることを目標としている。

 今年六月、陳氏の実験が段階的成功を収めたが、生命科学の中での重大な突破となりそうなこの計画に異議を唱える人が現われた。

「クローンパンダは意義がない」

 長年にわたってパンダ生息地研究と保護活動に従事している潘文石教授は「私はクローンパンダに反対する」ときっぱりと言う。

 潘教授は普遍的意味でのクローン技術は発展させなければならないが、クローン技術は発展を必要としている技術であり、現在の成功率はまだ低く、クローン技術を発展させるためなら、豚、牛、羊などの家畜やネズミ、ウサギなどの一般的な実験用動物を利用することができるのに、どうしてパンダのような野生動物を選ぶ必要があるのかとしている。

 今年五月下旬、イギリスの科学者が初めてクローン羊「ドリー」の細胞染色体端粒についての分析結論を公表し、三歳の「ドリー」は細胞学の角度から見れば、実際には九歳であることを発見した。この結果はクローン技術の欠点を再び力強く証明した。クローン動物に発育奇形、胚胎の早期死亡などの現象が実践の過程で大量に見られ、しかもクローンの成功率は依然としてかなり低い。統計によると、胚胎に遺伝子異常が見られる比率から言えば、自然繁殖では一%に満たず、試験管繁殖では一五%、クローン繁殖では五〇%に達している。

 潘氏は陳大元グループの直面している真の試練は異種クローンパンダ計画の第二段階のある種の動物を母親の代理とし、その子宮内でパンダの早期胚胎を新たな個体に発育させることであるとしている。現在、どの動物を選んで代理母にするかは秘密の段階にある。伝えられるところによると、クマか犬であるとのことである。潘教授はクローン理論から言えば、ウサギをパンダの受胎細胞とすれば、ウサギを代理母親とすべきであるが、ウサギの子宮は相対的に小さすぎ、またパンダとウサギの妊娠期(パンダは八十七日か百七十日、ウサギは三十日足らず)が違っているため、ウサギが大きなパンダを妊娠することはできないとしている。

 世界自然保護基金(WWF)のある幹部は、クローンパンダが成功したとしても、それはただ細胞を提供したパンダのDNAがコピーされただけで、動物保護の重点は動物の数だけではなく、より重要なのは動物種の多様性と遺伝子の質を保つことである以上、クローン技術は動物種の保護に意義がないとしている。

 ある動物学者は、生まれたパンダが代理母と一緒に生活し、代理母の行為、習性を学ぶなら、将来それはパンダの外形を持つ犬やクマでしかなくなり、それがパンダの保護にどんな意義があるのか疑問だと指摘している。

 長期にわたって秦嶺南坡などでパンダの研究、観察と保護活動に従事している潘氏は自分の観点について、次のように語る。

 クローンパンダが人々に注目されるわけは、科学者を含む多くの人々がパンダは繁殖能力が弱く、絶滅する危険があると見ているからであるが、これは真実の状況ではない。

 動物園のパンダはかつて繁殖できなかったが、九〇年代以来、北京動物園、成都動物園、四川パンダ繁殖・飼育センター、臥竜自然保護区のパンダ繁殖・飼育センターなどでパンダの繁殖に成功した。例えば、北京動物園には十匹のパンダがいるが、野生パンダは一匹だけで、あとの九匹はみな動物園で人工繁殖したものである。臥竜自然保護区のパンダ繁殖・飼育センターは毎年、二匹ないし四匹の繁殖に成功しており、二〇〇二年になると、四十五匹ないし五十匹に増える見込みである。

 わたしが同僚とともに長期にわたる研究で掌握した状況から見れば、秦嶺の六百五十平方キロの範囲に百五十匹ほどのパンダが生息しているが、十三年間ずっと相対的安定した状態にあり、ここ九年間の年間増加率は三・五%である。また、一九八四年から一九九六年までに、わたしと同僚たちは秦嶺で十三匹のパンダの出産、年をとった七匹のパンダと子供の一匹のパンダの死亡を観察し、五匹が純増加した。この状況から見れば、パンダは野外でかなりの繁殖力を持っているのである。

 潘氏の長年の研究と観察によると、雌のパンダは、一般に一産二子であるが、一匹しか育てず、もう一匹は見捨ててしまう。九〇年代以来、いくつかの動物園パンダ繁殖・飼育センターで、科学技術者は人工補助の方法で雌のパンダの棄てた子の育成に成功している。大多数の棄てられたパンダの子が死ぬのは十分な世話を受けることができないからである。科学者は精力、時間、資金をこの面の研究に置くなら、クローンパンダよりむしろ手っ取り早いのである。

続く論争

 こうした反論を前に、陳大元氏は平然としている。「わたしが今やっているクローンパンダの実験は、クローンで自然繁殖に取って代えようとするものではなく、自然繁殖と人工繁殖のほかにもう一つの繁殖方式を増やすためのものにすぎない。パンダを保護するのに少しでも役立てば、努力してやるべきである」と、次のように述べた。

 クローンパンダの技術問題は、それほど心配する必要がない。例えば、代理母の問題では、ウサギを代理母とするのは一つの選択にすぎず、ウサギの妊娠期がパンダと同じでないという矛盾を解決するため、実験の異なった段階で、別の動物を選んで代理母とすることもでき、主に胚胎と代理母の反応とその適応性が大切なのである。

 最近、国際科学技術界に注目されているクローン羊「ドリー」の寿命問題について、陳氏は「それほど心配する必要もない」としている。「細胞学の角度から見れば、生殖細胞、腫瘍(しゅよう)細胞の分裂は端粒の短縮を引き起すことができず、体細胞の分裂だけが端粒の短縮を引き起すことができるのである。生殖細胞と腫瘍細胞の端粒が短縮しない原因は体細胞には比較的豊富な酸素があるからである。だから、実験の過程で八方手を尽くして体細胞の酸素を増加するようにしている。端粒の短いパンダをクローニングでまたとしても、なお多くの実験を行う必要がある。より多くのクローンパンダをつくり、これからの実験で、端粒の短い問題を何とか解決することができる」

 「クローン技術はまだ研究段階にあり、生産段階ではない。科学者がやっている仕事は実験から経験と教訓をくみ取って、それを絶えず完全なものにすることである。科学実験は模索の中で絶えず完ぺきなものになってきている」

 陳大元氏の実験は多くの学者の支持を得ている。北京のある生物倫理学者は、クローンパンダの実験は積極的な意議を持っているとし、「絶滅に瀕している動物の保護から言えば、個体数を解決するほかに、種群意義と野生性を考慮しなければならず、十分な個体数を持ってこそ、種群と野生化の問題を語ることができ、窮地に追い込まれてから、数の増加問題を考慮するようではいけない。目下、最も必要としている問題は数を増加することである」と述べている。

 中国科学院の一部科学者は、クローンパンダは今実験の唯一の目的ではなく、クローン動物の実験はクローン技術を発展させる一つの方法であると見ている。「いったん異体でクローンパンダが成功すれば、絶滅に瀕しているその他の動物を救うための新たな方法を提供することになる。これはわれわれの望みである」と陳氏の同僚は語る。

 「陳氏であろうが、潘氏であろうが、その目的はパンダを救うことである。ただ陳氏は実験学の角度から考え、潘氏は生態学の角度から考えているのである」と北京大学生命工学学院のある学生は語る。

 中国科学院動物研究所に近い北京大学に、小さなビルが建設中で、これが完成すれば、パンダ・野生動物保護研究センターとなる。このセンターの主任である潘氏は生態学の角度から、クローンパンダの実験に憂慮を示している。「今は科学がこんなにまで進歩しているのだから、パンダの胚胎、遺伝子を冷凍して、必要なときに、それをコピーするようにすれば、パンダを永遠に保存することができると言う人もいる。しかし、これからも人類の科学技術は絶えず進歩するはずで、都市に樹木や鳥がなく、野外にパンダがいなくなり、地球全体に人類の造った鉄筋コンクリートとわれわれ人間だけの世界になるということは考えられない。われわれは多くの動物種を図書館の本のように陳列して、見たい時に冷蔵庫を開いて小さなガラス瓶中の遺伝子を見て、それがどんな動物であるかと想像したりするような世界は、果たして地球と言えるだろうか。パンダが動物の代表として、野外で絶滅するならば、それはわれわれの地球自然保護の失敗を意味する」。

 さらに潘氏は言う。「パンダに対する主な脅威は人類によるパンダの自然生息地の破壊であり、森林の乱伐であり、パンダの食性と繁殖問題によるものではない。クローン技術があるからといってパンダ保護を誤解してはならず、パンダの野外生存環境を保護することを軽視してはいけない」

 「昨年、長江水害の後、中国政府は長江の中・上流地域の採伐を停止することを決定した。これはパンダの生存にとって、疑いもなく一つの良好なスタートである。パンダの生息地の採伐を停止すれば、パンダが自分の能力に頼って次第に種群を回復することができ、その回復のテンポはわれわれの想像より速いのである。安定した生息地があれば、パンダの生存には問題がなく、私はパンダの未来に自信を満ちている」

 

 

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