大学での「給与革命」

 昨年の十一月から、清華大学は全国の大学・高専に先駆けて、教員の待遇を大幅に引き上げることにした。この分配制度改革案によると、教職員全員は今の給与以外に、それぞれの受持によって九つの等級に分かれた手当がもらえるようになる。最高の九級の教員の年俸は五万元増え、最低の一級教員でも毎年三千元増えることになる。以前の年平均給与が二万元足らずの教員たちにとって、この変化は確かに驚くべきものである。

 清華大学のこの措置により、全国の大学・高専の人事分配制度改革の幕が切って落とされた。現在、北京大学、復旦大学、上海交通大学なども、「賃上げ」に似た改革の準備に拍車をかけているが、鳴物入りで進められているこの「給与革命」は実は最近始まった大学・高専人事分配制度の改革に端を発するものである。

 教育部のある責任者の話では、この改革をめぐる基本的な考え方はこういうものである。つまり、大学・高専では学科づくりが最重要だと強調され、党・行政の管理部門に対しては簡素化と調整を行うべきで、学校管理部門の「政府化」という傾向を是正し、教学と科学研究の組織方式も改革を進め、高い能率をもって教育資源の合理的配置と効果的利用を促進するほか、ポスト任用制度を強化し、「鉄のめし茶碗(親方日の丸という日本語に近い)」と悪平等を打ち破り、職務上の「終身制」をやめて、競争メカニズムを構築するということである。

 教育部が出したこの重要な改革に関する文書は明確に次のように述べている。二十一世紀の初めに、大学・高専の教員の給与水準を、国民経済の十六業種の中の中以上に引き上げる。一部の大学が世界一流の大学を目指すことを優先的にサポートするため、教育部と関連部門は今後二ないし三年間で北京大学、清華大学、復旦大学などの名門校に対する経費支出を増やすことを相次いで決定した。その内訳は、北京大学、清華大学がそれぞれ十八億元、復旦大学が十二億元を獲得し、上海交通大学、中国科学技術大学、浙江大学、西安交通大学、南京大学、ハルビン工業大学なども金額は違うがそれぞれ六億元以上を獲得することにしている。今回増額した支出金に対して、教育部はその一定額が教員の収入増加に使われるよう明確に要求した。これはこの五十年来、初めてのことだという。

 悪平等では人材を引き留められない

 長年の努力を経て、大学・高専では教員の生活状況と仕事環境が著しく改善されたことは言え、教員の給与は依然として低く、それが理由で多くの教員は落ち着いて教学や研究に打ち込むことができないでいる。

 北京商業情報諮問公司と北京工業大学が行った調査の結果が示しているように、三〇・九%の大学教員は鞍替えをするつもりがあるかあるいはそうしたいと考えている。また、他の集計で分かったことだが、若い教員で鞍替えをするつもりがある人はさらに多く、四十五歳未満の教員ではその比率はなんと四一・四%にも達した。これらの教員が第一に考えた理由はほかでもなく収入のことである。調査によると、大学教員の収入とその希望値との間にかなりの差がある。現在、北京にある大学の教員の月給は平均約千三百二十元であるが、その希望する平均月給は三千元である。

 清華大学人事課の裴兆宏課長はこう語った。「わが校を卒業した学生がもうけたお金はその先生たちの給与より多い。わが校の教員は学校をやめてすぐ近くの中関村科学技術ゾーンで職につけば、年収が今の数倍になる。収入が低いということで、教員たちは体面が保てる暮らしをすることができないので、一般社会から見下げられている。そのため、一部の教員が心理的バランスを失うのも無理はない。大学に人材を引き付ける強みがなければ、どうして人材を導入し、人材を引き留められるだろうか」

 かなり多くの優れた人材が国有企業や民営の会社に転勤するか、または国外に流出した。八〇年代以来、外国に赴いた中国人留学生は累計二十万人を上回ったが、学業を終えて帰国したのは七万人しかいない。北京大学物理学部を例にとって見ると、一九九七年から毎年、学生総数の三分の一の学生が外国留学を選び、現在、アメリアに留学している学生だけでも五百人に達する。

 清華大学の呉文虎教授は中学生コンピューター学科オリンピック競技の監督をずっとつとめてきた。国際コンピューター学科オリンピック競技で優勝した生徒は全員呉教授の教え子である。呉教授の話によると、一九八九年中国が国際コンピューター学科オリンピック競技に出場して以来、前後して数十人がメダルを獲得したが、そのほとんどは国外へ行ってしまい、国内で博士コースに進んだ学生は二人しかいなかった。この二人も卒業後、一人が中国にあるIBMの研究院に籍を入れ、もう一人がコンピューター公司を開業し、清華大学に留まった人は一人もいなかった。

 分析によれば、大学教員の収入が低い理由は二つある。一つは国の財政が苦しいこと、今一つは大学自身の運営が悪く、悪平等のメカニズムで教員の収入を増やすことができず、その意欲を引き出すこともできないことである。大学では「三つの三分の一」という言い方があり、つまり教員が教職員の三分の一を占め、行政管理者が三分の一を占め、職員が三分の一を占めるということである。教育部の要求に基づいて、昨年初めから各大学は内部の改革に取りかかり、行政機構を簡素化し、多くの大学の行政機構が四〇%以上簡素化された。機構簡素化の完成後、教員の待遇をあげることが議事日程にのぼった。

 教授の間でも給与の差が出た

 教育部筋によると、今後二ないし三年間に、大学は全面的に教員任用制と全員任用契約制を実施する。どのポストも相応の職責、任用条件、権利・義務、任期期限が設けられ、また定められた手続きを踏んで学校内外で公募し、平等に競争するようにしている。技術職務と幹部職務の終身制という旧いしきたりも徹底的に取り除かれてしまった。これは教授と助教授などの肩書も終身制でなくなったことを意味する。

 最も敏感な分配問題においても、教育部のこの改革案は、よく働くものにそれなりの優遇する給与を与え、給与をポスト職責、実績、貢献度と結び付け、優れた人材、学術面のリーダー、青壮年中堅教員に対し、措置を講じてその待遇を大幅に引き上げるよう要求すると同時に、学校がワンセットとなった保障システムを確立し、人員の合理的な移動を導くよう要求している。

 清華大学はポスト任用と中堅教員の給与を大幅に増加するというモチベーションメカニズムを実行に移した。今回の分配制度改革の実施後、大学任用の重要ポスト、学院・学部任用の重点ポスト、普通ポストなどが九つの等級に分けられ、すべてのポストは必要に応じて設けられ、相応の職責もある。例えば、責任教授というクラスは学科づくりの任務を担当するかあるいはある学科の重点的発展方向に責任を負わなければならない。基礎課目の授業を担当する教員もチーフ教授と中堅教員に分けられる。契約書にはポストの職責と仕事目標をはっきり定め、教員は契約書と計画書を提出しなければならない。異なるポストと等級の人は相応に違った待遇を受け、最高収入と最低収入の差が十数倍となり、これまでの倍ぐらいの差よりかなり大きくなった。

 清華大学のある教員の話では、今回の改革が明らかに教学、科学研究の第一線、とりわけ教学の第一線に傾斜し、行政部門とサービス部門の職員は従属の地位に置かれることになった。

 清華大学には教員が二千八百人いるが、今回の改革で百名ほどの教職員がもとの仕事を失った。なかには繰り上げて定年退職したものもあれば、学校内の総務などの部門に配置転換されたものもあり、また数十人が学校の人材交流センターに回されて、再配置を待つことになった。期限内に校外で仕事にありつけない場合、彼らのもとの待遇が削減される。

 北京大学では現在、改革案がまだ公表されていないが、事情に詳しい筋によると、それが清華大学の改革案と似ているところがあるらしい。

 上海では復旦大学の王長洪学長がはっきりと次のように表明した。教育部と上海市政府が同校に与えた十二億元の支出金の中の三分の一は教員陣づくりに使われる。同校の具体的な人事分配制度改革案はまだ発表されていないが、学校側は改革後の同校の吸引力に十分な自信をもっており、六千万元の専門資金を支出して、今後二ないし三年内に中壮年学科リーダーを引き付けるため、「復旦大学の人材建設計画」を実施するつもりである。

 上海交通大学の手当は四つの等級に分けられるが、最高クラスの教授は毎年二十万元の手当をもらえ、最も低いクラスの人たちの手当も一万二千元で、約七〇%の教員はこのような手当を受けることができる。現在、十四名のアカデミー会員を擁する上海交通大学の今回の人事分配制度改革に見られる最も際立った特色は若者に傾斜していることである。大学を出たばかりの若い教員の給与は以前の初任給より数倍も多くなっている。

 清華大学、北京大学、復旦大学、上海交通大学などのテスト校四校のほかに、一部の大学も最近、ポスト任用制と給与引き上げの方案に取り組んでいる。

 制度の確立に希望をかける

 名門校が教員の給与を大幅に引き上げたことは、人材の競争が非常に激しい各大学では強い反響を引き起こした。

 大学教育を研究する学者の楊東平氏はこう語った。長年来、政府は教育への資金投下において、校舎やビルの建設、設備の購入に重点を置いてきたが、人材への投下を無視していた。今回、清華大学、北京大学などの名門校は教員の待遇アップに巨額の資金を投入し、幸先のよいスタートを切った。なお、教学や科学研究の仕事に従事する教員の待遇と行政管理、総務職員の待遇を直接区別するというやり方も奨励されるべきである。以前、政府は人材の重視を示そうと、さまざまな措置を講じて科学研究者に多額の奨励金を与えることがあったが、それは個別行為であった。今回の教員の給与引き上げは制度として打ち出されたもので、深遠かつ重要な意義をもつものである。「今回、一部の名門校は政府の大きな支持を受けた。そのため、給与引き上げによって人材の競争面においてより有利な立場に立つにきまっている。名門校の給与引き上げはいま一度人材の流動と集中をもたらすであろう」 

 中国人民大学のある教授はこう評価している。このことがすべての大学に対し刺激的役割を果たすのは明白である。人材を引き留めようと思うなら、なんとかして自らの吸引力を高めなければならない。それには収入面のこともあれば、科学研究の環境条件のこともある。今回の改革では、基準を厳しく把握するのが何より重要である。とりわけ評価の基準に対して、公平かつ公正を求めるべきだろう。そうしなければ、引き合わないことになる。

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