アメリカのグローバル戦略と世界の趨勢
アメリカが主導する北大西洋条約機構(NATO)がユーゴスラビアに対して武力に訴え、ユーゴ駐在中国大使館を爆撃したことは孤立した、偶然のことではなく、アメリカのグローバル戦略の必然的反映である。アメリカのグローバル戦略は何か。クリントン政権の昨年の「国防レポート」によると、「向こう十年間から十五年間までに、アメリカはグローバルな問題の介入を積極的に続ける」、すなわち、「新たな干渉主義」を推し進め、世界に覇権を唱えることである。この半年以来、アメリカはグローバル戦略の実施のテンポを速めている。西側では、NATOの「戦略新概念」を打ち出し、冷戦時期の防衛的軍事ブロックを、地域を越えた攻撃的、軍事的、政治的機構に変えた。この新戦略のテストのため、米英両国のイラクに対する「爆撃外交」についで、米国はまたNATO諸国をかき集めてユーゴに狂気じみた無差別爆撃を加え、ひいては中国大使館を公然と爆撃した。東側では、日米安保システムを強化し、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を「周辺」地域に拡大し、「戦域ミサイル防衛(TMD)システム」の開発に拍車をかけ、中国の台湾をもそれに含めようとしている。米国のグローバル戦略の調整は世界に次のような「三つの大きな影響」をもたらしている。第一に「単極世界」でもって「多極世界」の発展を阻み、世界の多極化枠組みの発展趨勢をスローダウンさせようとすること。第二に「人権」を口実に「主権」を踏みにじり、覇権を推し進め、戦争と不安定の要因を増やし、「平和と発展」という世界の潮流をひどく阻害していること。第三に国連を迂回し、国際法に違反し、国際協調メカニズムをぶちこわすことによって、国際社会をさらに無秩序にし、矛盾をさらに複雑にすること。
一、 米国の単極は「多極世界」の発展趨勢を阻むことができるか。
ソ連の解体、冷戦の終結は両極世界の枠組みが終結し、世界が「多極化」の方向へ発展することを示している。数年前に「多極化」の発展趨勢を楽観視しすぎ、「多極化」の発展趨勢がますます速くなると見て、多極の枠組みがすでに形成されたとまで思いこむものがいた。NATOがユーゴに対して武力に訴え、中国大使館を爆撃した後、またいま一つの極端に偏り、現在は「単極至上」であり、この世界はやはり単極世界だと思いこむものが現れた。この二つの考え方はみな片手落ちである。当面の状況から見て、世界の多極化の枠組みはまだ完全に形づくられてはいないが、発展趨勢は変えることができない。最近の事態の発展は、世界の多極化の発展趨勢が明らかにスローダウンし、米国の単極がいちだんと強くなることのみを物語っている。しかし、米国がすべてを主宰する「単極世界」をつくるという米国の企みは実現することはできない。その理由は次の通り。
まずは、当面、ヨーロッパとアメリカが協力する側面が顕在化してきたが、相互間の矛盾と食い違いが依然として存在している。ユーゴでの戦いが長引くにつれて、NATO内部の相違はさらに表面化するだろう。フランスはもともと国連を迂回してユーゴに対して武力に訴えるのは少し無理であり、それは「特別の例外」にすぎないと言い、先月、シラク大統領はロシアを訪問し、エリツィン大統領と「多極モデルの世界枠組みの構築」で合意した。ドイツはNATOの行動が国連憲章に違反したことに不安を覚え、与党が直面している反戦の圧力は大きくなっている。イタリアは空襲の度合いに対しずっと異議を差し挟んでおり、NATOが武力干渉のため戦争の泥沼に陥ることを懸念している。ギリシアはギリシア正教を同じく信仰するセルビア人に対して空襲を行うことにとりわけ敏感で、軍事手段は根本からコソボ問題を解決することができないとしきりに表明している。ヨーロッパはユーゴに対して武力に訴えることで少しもメリットを手にしなかったが、米国は機に乗じて戦争によってボロ儲けをし、いとも簡単にユーロの挑戦をくい止めた。ユーゴ空爆いらい、米国のダウ平均株価は一〇%上がり、七つの記録をぬりかえた。ところが、ユーロの価格は下降趨勢を呈し、米ドルとの比価は年初の一対一・一六七から五月二十七日の一対一・〇四〇九に下がった。また、戦争がもたらした難民問題はすでにユーゴの隣国の不安を引き起こし、バルカン半島の民族的憎しみはヨーロッパの長期にわたる不安定の要因となっている。戦争がもたらした生態環境の破壊、ヨーロッパ経済に与えるマイナスの影響が現れている。これらは、アメリカが世界のボスとなる野望はつまるところヨーロッパ諸国人民の根本的利益に背くものであり、欧州は一枚岩であるはずがなく、米国と統一した一極を構成するわけがないのである。
次に、NATOが東へロシアの玄関まで拡張し、横暴にユーゴに対して軍事力に訴えたため、NATOとともに欧州安全体制を確立しようとするロシアの夢は水泡に帰してしまった。ロシアは西側諸国と国交断絶する勇気がないため、譲歩せざるを得なくなった。しかし、歴史的にナポレオンを打ち負かし、第二次世界大戦でヒットラーにも打ち勝ったことがある民族が長期にわたって他のものに左右されることはあるまい。ロシアは現在は経済力が弱まり、政局も安定していないが、軍事力とりわけ核兵器をなお保有しているため、いったん力を取り戻すならば、西側、とりわけ米国の覇権主義との矛盾がさらに激しくなり、米国が「単極世界」の枠組みをつくることを受けいれることはないのである。
第三に、かつては日米の経済矛盾が目立ち、米国は日本に負けることを懸念していたが、近年、政治上、軍事上の相互の必要、すなわち日本の右翼勢力が米国に頼って政治的軍事的大国になる目標を達成しようとする一方、米国も日本の力を借りて東アジアにおける「防衛ライン」を強固にしようとし、双方は近づこうとしている。しかし米日間の矛盾は依然存在し、日本が歴史的に侵略したことのある東アジア諸国との矛盾は依然存在している。日米同盟があまりにも遠くへ走りすぎれば、日本は東アジア諸国の中で孤立するとともに、日本国民の反発を引き起こすことになろう。米国側には真珠湾の教訓があり、日本軍国主義の台頭に必ずしも見過ごすとは限らない。長い目で見れば、日米の矛盾も発展することになる。
二、平和と発展の潮流を逆転させることができるか。
NATOが東へロシアの玄関まで拡張し、またその伝統的勢力範囲におけるユーゴスラビアで軍事力を誇示することにより、ロシアと米国、NATOとの矛盾は全面的に発展している。第一次世界大戦はバルカンで始まったから、世紀末の「コソボ戦争」は確かに懸念させるものであり、当面世界に戦争と不安定の要素が明らかに増えたと思われる。それでは、平和と発展という世界の主題あるいは主要潮流を逆転させることができるのか。
いわゆる「主題」あるいは「主要潮流」はそのものには二つの側面が含まれている。一つは世界人民には平和と発展の願いがあるとともに、そのために奮闘する決意と行動がある。いま一つは世界にはまだ平和と発展をぶちこわそうとする逆流が存在している。最近の事態のなりゆきは主流にさからって動き、主流を妨害する逆流が空前に狂暴化したことを示しているものの、「平和と発展」という世界の総趨勢を変えることにはまだ力不足だろう。NATOから見れば、国内と世界人民の反対によって、戦いを拡大する恐れがあり、戦争をコソボのみに限定している。ロシアには本当に力がないため、戦争に巻き込まれる勇気もないし、その気持ちもない。それに経済的に米国に求めるところがあって、NATOが一歩一歩と迫ってくることにも譲歩するほかはない。しかし、だからと言って、世界大戦は起こることはなく、平和の大局はまだ維持することができる。
しかし、冷戦後一度薄くなったブロック意識はまたも強化され、国際関係の中の軍事的要因が増え、民族的、宗教的衝突が多くなり、地域の局地戦争が次々と発生していることを見てとらなければならない。ユーゴスラビア事件の後、世界の不安定の要素は引き続き増えることになろう。一は、全世界の民族分裂主義活動が激しくなる。NATOが主権国であるユーゴスラビアの国内の民族分裂主義勢力を支持することはほかの国の民族分裂主義勢力に対する啓発と励ましとなり、その分裂活動の発展を激化させることになろう。現在、全世界には百九十カ国、二千五百余りの民族があり、新しいホット・スポットと緊張のスポットがたくさん現れる可能がある。
二は世界的に核兵器と大量破壊兵器の軍備競争がエスカレートするかもしれない。ユーゴが打撃を受けた重要な原因の一つは、核兵器と大量破壊兵器の保護がないためである。多くの国はユーゴ事件から核兵器と大量破壊兵器の開発と実現を速めなければ、ユーゴと同じような目になるという啓示を受けることになる。世界の核兵器の競争がしだいに展開されるようになろう。
三はユーゴ戦争の結末はどうなるかを問わず、ヨーロッパのより大規模の難民の流れと民族的矛盾、宗教的矛盾はバルカンないしヨーロッパ全体の安全と安定に影響を及ぼすことになる。
四はコソボ危機が世界の枠組み、大国関係の変化とかかわりがあるため、世界情勢はさらに無秩序になり、複雑になるだろう。
総じて言えば、平和と発展は全世界人民の強い願望とさし迫った要求であり、この世界の流れを阻むことはできない。しかし、アメリカの主導するNATOは「人権」維持の旗印を掲げ、「人権は主権よりたいせつなもの」という新しい干渉主義理論のバックアップの下で、国連を軽視し、国際法を踏みにじり、世界の平和と発展をゆゆしく脅かしている。この逆流と必要な闘争を行わなければ、世界は平和もなく、発展もないことになろう。