TMDは世界に緊張情勢をつくり出す根源
三月十七、十八の二日、米上下両院は共和党議員が提出した「米本土ミサイル防御」案を可決した。こうして、「戦域ミサイル防御」(TMD)と「米本土ミサイル防御」(NMD)を発展させることがアメリカの国策となった。
アメリカがミサイル防御計画の実施に拍車をかけるのは、世界が平和と発展に向かって進んでいる時代の流れに逆行するもので、全世界の平和と安定、地域の安全情勢および米自身の利益に重大なマイナスの影響をもたらさないわけにはいかない。
世界的に見れば、アメリカがミサイル防御システムの研究と開発を速めることは、アメリカとその他の国との軍事面でのギャップをいっそう拡大し、今日の世界の戦略的均衡を打破し、次の世紀における世界の平和と安定に重大な影響をもたらし、また、国際社会が一九八七年に確立した「ミサイル技術管理体制」に背き、外層空間における軍事化の歩みを速め、「外層空間非武器化」プロセスを直接破壊し、人類全体の利益に危害を加えることになる。アメリカのミサイル防御計画は実際には重大な核兵器拡散行為であり、全世界に大規模破壊兵器拡散と新たな軍備競争をもたらす可能性もある。関係諸国は自国への威脅を考慮して、より先進的なミサイル・システムを発展せざるを得ず、一部の諸国も各種兵器の不拡散制度を守らなくてもいいという理由を持つことになり、世界的な軍縮プロセスの勢いが抑えられるだろう。
アメリカが世界の異なる地域でTMDを開発、配備するかあるいはその同盟国と共同で開発、配備することを計画しているが、地域情勢に影響をもたらすのは目に見えている。米日は東アジア地域でTMDを共同開発することを決定するとともに、その他の国と中国の台湾省をその防御範囲内に組み入れようとしているが、それは地域に想像し難い重大な結果をもたらすだろう。三月十五日号の香港『アジア週刊』はアジアで緊張をもたらす源はほかでもなくアメリカのTMDの配備問題であると指摘している。TMDの米日共同開発は、米日軍事同盟の全般的進攻・防御レベルを大幅に高め、これによって、日本は自国憲法における防御的軍事力だけを保つという保証に違反し、現有の制限を突き破り、軍事力を拡張し、軍事大国になろうという動きを助長するだろう。最近、日本の国内で新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)は台湾を「おのずとカバーしており」、日本は外国の基地に対して先制攻撃をかけることができるという言論がたびたび現れているが、これらの言論は日本が軍事大国となろうとしていることを物語っている。より重大なのは、TMDが東アジアで展開されれば、同地域の各国が互いに憂慮し合い、同地域に緊張情勢をもたらし、軍備競争を引き起こすことである。朝鮮政府は、朝鮮が人工衛星打上げ技術を軍事的目的に使用するかどうかは、アメリカとその他の敵対勢力の態度によって決まるとしている。台湾が米日のTMDに組み入れられたら、中国政府も強い反応を示すだろう。
アメリカのミサイル防御計画は世界の平和と安定およびその他の国の利益に損害をもたらすとともに、アメリカ自体にも大きな損害をもたらすものである。
まず、ミサイル防御システムの開発はきわめて難しく、しかも巨額の資金を必要とするプロジェクトであり、現在までに、アメリカはこの研究・開発に数百億ドルを投入したが、これは始まったばかりにすぎない。今年一月、クリントン大統領はミサイル・システム開発に六十六億ドルを追加すると発表し、今後七年間にこの開発に三百億ドルが投入される計画である。アメリカ総会計検査局の推算によると、ミサイル防御システムの発射場を一つ建設するのに二百八十億ドルかかるが、これはこのシステムの最初の段階にすぎないという。アメリカのミサイル防御システム開発による軍備競争が連鎖反応を引き起こし、これによってアメリカ政府はますます多くの資金を投入してその戦略的優位を維持せざるを得なくなり、財政支出が底なしの沼に陥るのは必至である。問題のカギは、巨額の投資を必要とするこの防御システムの成功率がいったいどれほどであるかである。これについてはいつも自信満々であるアメリカの科学者さえも断言できない。談論の余地のない事実は、これまでアメリカの発射した迎撃ミサイルは大部分失敗に終わったことである。それに、アメリカが開発したミサイル防御システムが成功を収めたとしても、アメリカが得られるのは「限られた防御」にすぎないかあるいは米学者が言っているような「保護の幻覚を得るにすぎない」のである。
もちろん、ミサイル防御システムの開発は疑いなくアメリカに大きなメリットをもたらす。兵器メーカーは百億ドルにのぼる注文を獲得することができる。共和党は国の安全と利益の守り手であると標榜して、まもなく行われる総選挙で有権者を多くかちとることができ、クリントンの民主党政府はミサイル防御計画を許可して共和党議員からの圧力を軽減し、しかも総選挙前に就職チャンスを提供した。ホワイトハウスのある高官は、われわれは獲得できる最大の取り引きを獲得したと語っている。しかし、アメリカ住民の巨額の税金で取り引きするかあるいは一部の人の利益をはかることが、アメリカの国家利益から言って、得になるのか損になるのか、有識者にとっては一目瞭然である。
次に、アメリカのミサイル防御計画はその他の国との関係に重大な影響を及ぼしている。例えば、ロシアはアメリカのミサイル防御計画とアメリカが「弾道弾迎撃ミサイル条約」を改正することに断固反対すると何回も表明し、この計画は第一次戦略兵器削減条約(STARTT)の規定にゆゆしく違反するとともに、第二次戦略兵器削減条約(STARTU)の批准に影響を及ぼすとしている。国外のある観察筋は、アメリカが台湾をそのミサイル防御の保護範囲に組み入れることは、中米衝突の最大の危険をもたらすと指摘している。米日が戦域ミサイル防御範囲を台湾に広げるなら、中国は次のような措置をとるだろう。@アメリカとの国際的軍事闘争をエスカレートさせる。例えば、ミサイル技術の輸出制限を緩める。A再び大陸間弾道ミサイルの目標をアメリカの主要都市に向ける。B核兵器の実験を再開し、新しい核兵器を開発する。C国際紛争問題についてアメリカと対立する立場をとる。また、アメリカのミサイル拡散に直面して、中ロ双方はジュネーブの「軍縮会議」で手を組んでアメリカの提案に反対するとともに、兵器制限反対の配置を行うだろうと分析する人もいる。
さらに、アメリカはずっと世界で核軍縮プロセスを推進する平和の守り手であると称し、世界で「指導的責任を負う」、「独自に法律を執行する能力と国際社会を導いて法律を執行する能力を高める」と揚言している。しかし、ミサイル防御システムの開発に力を入れるアメリカの行為は、もともと国際社会で良くないイメージにさらに大規模破壊兵器拡散者という悪名をつけ足した。「道にかなえば助けが多く、道にそむけば助けが少ない」ということわざがあるが、ミサイル防御システムを発展させる問題では、アメリカの軍事同盟国さえも異議を唱えている。金大中韓国大統領はアメリカの東アジア地域の戦域ミサイル防御計画に参加しないという態度を明らかにしている。
コーエン米国防長官は米国防総省のレポートの中でミサイル防御システムを発展させる二つの目的について言及している。それは「ミサイル拡散を軽減するかあるいは予防し、地域の安定を強化する」ことである。しかし、事実はアメリカの実施しているミサイル防御計画がコーエン氏が言った二つの目的に反した結果をもたらしている。つまり、地域の安定が破壊され、ミサイルが拡散し、新たな軍備競争を引き起こす可能性がある。しかもこの新たな軍備競争は米民主党のある議員が言ったように、アメリカの「安全により大きな脅威をもたらす」ことになるだけである。