冷戦後の大国関係について


 冷戦終結後、国際上のさまざまな力関係が新たに分化、結合し、各大国あるいは国家ブロックは新たな戦略を定め、相互の関係を調整し、自らに最も有利な力の結合の実現に努め、各自の利益を最大限に追求し、将来の世界情勢の中で有利な地位を占めようとしている。

 二極構造が解体してから、世界は多極化に向かって発展している。現在の世界の構造の総枠組みは、「一超多強」である。総合国力ではアメリカが唯一の超大国で、軍事的には米ロが二大大国であり、経済面では日米欧の三つどもえで、日本を除く東アジアが経済面での第四の勢力となる可能性を指摘する学者もいる。また、政治的には米、欧、日、ロ、中の五大勢力が中心となり、多極化の構造を形成する過渡期においてはさらにいくつかの強国が出現してくる可能性もある。

 調整

 ソ連の解体によって、世界には唯一の超大国のアメリカだけが残った。アメリカは冷戦の勝利者をもって自認し、至る所でアメリカを主導とする一元的世界を打ち立てようとしているが、それは冷戦後の多極化の動向に逆行するものである。ここ数年来、中国、ロシア、フランスの三大国が多極化世界の構築を共同で提唱し、ドイツと日本も一元的世界には賛成しないという態度を表明している。

 アメリカの総合国力が最強であるとはいっても、第二次大戦後の実力はそれ以前に比べてかなり衰弱している。アメリカの国民総生産(GNP)は第二次大戦後に全世界のGNPの半分を上回ったこともあったが、今では二七%前後を占めるのみである。その一方でその他の大国の総合国力はある程度増強され、アメリカとの差は縮まるばかりだ。それゆえ、今後世界がアメリカの独走する一元的世界になるはずはない。

 ここで指摘しておくべきことは、現在の大国関係の中でアメリカはなお際立った地位にいることである。アメリカはその強大な総合国力を盾に、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の終結、中東和平プロセスの推進、大量破壊兵器拡散防止などの重要な国際問題においてリーダーシップを発揮してきた。だが、前述の重要国際問題はアメリカとその他の大国が足並みをそろえ、さらには国連が積極的に参与するといった条件の下で初めて効果が挙がるものである。アメリカはその際立った地位ゆえに、その他の大国との対立は避け難いものとなっている。例えば、欧州問題の主導権争いにおける欧米の対立、日米貿易摩擦、北大西洋条約機構(NATO)の「東への拡大」問題における米ロの対立、台湾問題、人権、貿易などの問題における中米の食い違いなどである。たとえグローバル戦略であっても地域戦略の角度からの考慮であっても、いずれにせよアメリカはこれら大国との関係を調整する必要がある。

 冷戦終結後、中米関係は多くの曲折や絶え間ない調整のプロセスを経てきた。一九八九年から九七年上半期までの八年間は、一言で言えば中米関係が激しく起伏し、複雑で変化の多い時期であった。そして九七年下半期になって両国関係は改善に向かい、江沢民国家主席はアメリカ公式訪問を成功裏に行い、翌年にはクリントン大統領が中国を答礼訪問し、両国は建設的な戦略的パートナーシップを構築することを決意した。

 現在の大国関係の調整の中で依然として人々の関心を集めているのは、中米関係、米ロ関係、欧ロ関係、日ロ関係などである。ここ数年、中ロ関係は安定して発展し、絶えず深まり、日増しに成熟してきている。一九九六年、両国は戦略的協力パートナーシップを打ち立てた。だが、米ロ、欧ロ関係は改善されたとはいえ、主にNATO拡大問題に端を発する複雑な情勢が現れている。ここ数年来、日ロ関係にも新たな糸口が見つかり、九七年には両国首脳の非公式会談が実現した。そして一九九八年、両国首脳は両国政府に平和条約の早期締結に向けて交渉をするよう要請した。

 特徴

 平和と発展は昨今の世界における一大テーマであり、冷戦終結後の国際情勢は全体的に緩和に向かっており、大国間の相互依存度も強まってはいるが、それと同時に対立と競争も後を絶たない。現時点の世界情勢の特徴は、次の通りである。

 一、現在の大国関係の主流は協力であって、対立ではない。グローバル経済の一体化の進展は速く、各国の相互依存度は強まり、各大国はいずれも多極化の動向に適応した協力関係を築き、対話を対立に替えて共倒れを防ぐことを願っている。それと同時に、平和と発展の時代にあって、大国の間で対話と協力を通して食い違いを解決することは、地域と世界の平和と安全ばかりでなく、それぞれの国の利益をも維持することになる。世界各国が直面している経済発展、環境保全、犯罪の取り締まり、核拡散防止など一連の全地球規模の問題について、大国は協力を強化し、共通の対策や足並みをそろえた行動をとるべきであると要求される。

 二、大国関係は比較的安定し、順調にいっている。新しい国際情勢と多極化の動向に適応するため、各大国は新しいタイプの関係の樹立に力を注ぎ、こういった調整は一九九七年以来明らかに強まっている。二十一世紀が近づくにつれ、各大国は長い眼で見てさまざまなタイプの戦略的パートナーシップと全面協力関係を次々に構築し、大国関係は比較的安定した状態となり、併せて大国関係の順調な相互行動という喜ばしい現象も生じている。

 三、大国間には相互依存と、競争が共存している。冷戦後、大国関係の中でのイデオロギーの役割が幾分弱まったのに対し、経済と科学技術の要素の役割がますます大きくなった。経済のグローバル化と政治の多極化の発展は各国の相互依存関係を促し、大国間の協力は強化されたが、同時に競争も日増しに激しくなった。だが、冷戦期の大国間の軍備競争と違って、冷戦後の大国間の競争は主に総合国力の競争である。

 四、「冷戦思考」の影響がまだ残っていて、二つの安全観が共存している。冷戦思考は今でもまだ一部の人の頭に深い影響を及ぼしており、そのような人々は国と国との関係ついて社会制度、イデオロギー、価値観などを関係の異同を判断する根拠とし、引き続き集団政治を行い、同盟関係を強化している。アメリカは自らがリードする国際間の「新秩序」を構築しようと目論んでおり、欧州ではNATOの拡大を推し進め、アジアでは日米防衛協力の範囲を拡大しようとしている。この二つの措置には明らかな方向性があり、前者はロシアに対するもの、後者は中国に対するもので、冷戦思考が残っている証拠である。

 こういった安全観と明確に区別される新しい安全観によると、互いに主権を尊重し、信頼し合い、対話を通じて紛争を解決し、協力を通じて安全を図るべきだという考え方になる。一九九六年と九七年、中国およびロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの五カ国の元首は相次いで、「国境地帯の軍事分野における信頼譲成措置協定」および「国境兵力削減協定」に調印した。この二つの重要なドキュメントは、アジア・太平洋地域地域のないし世界各国が善隣友好関係を樹立するためのよい手本で、冷戦思考とは一線を画し、提唱に値する安全パターンである。

 発展の動向

 時がたつにつれ、「一超」と「多強」の間の力関係にさらなる変化が生じ、世界の多極化の動きはますます深くなってきている。二〇二〇年以後には世界の多極化の構造が基本的に形成され、しかも経済グローバル化の勢いも引き続き発展していくものと予想される。

 その過程ではまず第一に、大国間関係の調整が引き続き行われていくものと思われる。大国間の共通の利益の交わる点は絶えず増えていくが、新しい対立も絶えず発生するはずである。そのため、大国間関係の調整は絶対に必然的なものとなり、また引き続き行われていくことになる。経済グローバル化によって各国の経済の相互依存度は強まり、併せてアジア金融危機という状況によって大国間の協力と協調の強化が要求されたように、世界は複雑に入り交じる状態へと変化する。

 第二に、大国間の力関係は互いに制約され、比較的均衡の取れた状態になると思われる。ある計算によると、アメリカの国内総生産(GDP)は二〇二〇年には世界の一〇ないし一五%に落ち込み、その一方で欧州、中国、日本などの大国・地域のシェアがアメリカと大差のない水準にまでのし上がるという。そのためアメリカの実力は避けようもなく継続的に衰微し、世界問題に関与する能力はさらに低下することになる。世界の多極化の発展の過程で、アメリカの「一超」の地位は多くの面にわたって試練を受けることになる。

 第三に、大国間の経済と科学技術分野における競争はさらに激しくなり、経済グローバル化のマイナス面の効果は非常に速く拡散される。そのため、それぞれの大国は経済収益と経済の安全を際立った位置に置くはずである。マイクロエレクトロニクス技術とコンピューター技術を標識とする新技術革命は各国に試練とチャンスをもたらし、各国とりわけ各大国はいずれも科学技術とハイテク産業の発展のため対策を模索し、計画を立てている。国と国との間で、新たなサイクルの科学技術と経済発展の競争が繰り広げられることは、十分に予想できることである。

 

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