事実は雄弁に勝り、ウソは反論しなくても自らぼろを出す
―「コックス報告書」に再反論する―
中国国務院新聞弁公室
一九九九年七月十五日
五月三十一日、国務院新聞弁公室の責任者は米下院特別調査委員会の公表した「アメリカの国家安全および対中軍事・商業関係に関する報告」(「コックス報告書」と略称)について談話を発表し、「コックス報告書」をでっち上げたことは反中国の情緒を煽り立て、中米関係を破壊する茶番劇であると指摘した。事実をはっきりさせ、真相を明らかにするため、国務院新聞弁公室はその後同報告書に書かれている内容についてさらに調査を行った。大量の事実が示しているように、「コックス報告書」の実質は反中国の情緒を煽り立て、中米関係を破壊することにある。この政治的目的を達するため、同報告書はあろうことか事実を歪曲する、他のものにすり替える、主観的臆測で断定する、根も葉もないことをつくり出す、人心を惑わすなどさまざまな卑劣な手法を弄んでいる。そのため、報告書の結論はデタラメきわまるもので、成り立たないものであり、ひいては多くの面で基本的な科学技術の常識に反している。報告書発表後、中国人民のこの上ない憤慨を引き起したばかりでなく、アメリカを含む世界の有識者の厳しい批判をも浴びている。
(一)人々をびっくりさせるようなウソ
「コックス報告書」は人々をびっくりさせるように、中国がW―八八、W―八七、W―七八、W―七六、W―七〇、W―六二、W―五六の七種を含む、アメリカのすべての最先進の熱核弾頭の機密情報を「窃取した」と攻撃し、「中国は七〇年代末にロ−レンス・リバモア国立実験室からアメリカ核弾頭W―七〇(強化輻射弾、中性子爆弾ともいう)の設計上の機密を『窃取した』から、一九八八年に中性子爆弾を実験したのだ」と言っている。これは根も葉もない悪意にみちた中傷であり、中国人民と中国の科学者に対するこの上ない誹謗である。
周知のように、五〇年代に入ってから、中国は自力に頼り、多くの才能のある創意性にあふれた科学者に頼り、全国人民の全力あげての支持に頼って、それほど長くない期間に一連の技術上の難関を攻略し、核兵器の技術を掌握した。一九六四年十月十六日、中国は最初の原爆実験に成功し、一九六六年十二月二十八日、水爆の原理と技術を突破し、一九六七年六月十七日に最初の水爆実験に成功した。この期間に、中国はまたミサイル核兵器の実験を行い、自らの自衛核反撃力を一応もつようになった。七〇年代と八〇年代には、米ソ両国の未曽有の核軍備競争が激しくなり、数万基の核弾頭の暗影が世界人民の上に覆いかぶさり、中国の安全をも直接脅かしていた。そのため、中国は核兵器技術の研究・開発と自らの核兵器システムの改良を続行せざるを得なくなり、しかも前後して中性子爆弾の設計技術と核兵器の小型化技術を掌握した。
中性子爆弾は、一般の人から見れば、とても神秘的のようであるが、実際を言うとそれは特殊な水爆である。中国は原水爆の技術を掌握した国として、それほど長くない期間の努力を経て中性子爆弾の技術をも掌握したが、これは道理にかない、時機が熟すれば自然に熟すことである。
「コックス報告書」の列挙したW―八八を含むアメリカの七種類の核弾頭の構造、サイズ、重量、形状、威力、円確率偏差および使用期間などのデータは、多くの公開資料とインターネットでも検索することができるものであり、機密情報ではまったくない。インターネットでも検索できる中性子爆弾の原理と構造に関する資料だけでも百篇以上もある。科学知識をすこしでも持ち合わせるものなら誰でも、これらのデータに頼るだけでは核兵器を設計できないことを知っている。伝えられるところによると、アメリカの核兵器専門家、ロス・アラモス国立実験室の元責任者のアグニュー氏、ローレンス・リバモア国立実験室の元責任者のフォスター氏は最近、『ワシントン・ポスト』紙のインタビューに応じた時、「たとえ核弾頭のサイズ、重量、形状、当量などの機密性の非常に高いデータがあったとしても、それはいかなる真の意味の核弾頭設計をも代表しない」と語り、フォスター氏はまた、中国人が知っているのは、アメリカが何年も前に公開したデータである、つまりわれわれが彼らに教えたのであると見ている。これらのデータが核兵器の設計上の機密でない以上、中国がこれらの資料を「窃取して」核兵器を開発したと「コックス報告書」が非難したことはかけ値なしのウソであり、丹念にでっち上げはしたが、しかし、手口の拙劣なペテンである。
「コックス報告書」はまた、アメリカが千余回も核実験を行ったが、中国は四十五回の実験を行っただけで先進的な弾頭技術を掌握したのだから、中国は定めしアメリカの核技術を「窃取した」にちがいないと推量している。これはコックス氏らが中国人民と中国科学者の創造力を過小評価し、いまになってもなお人種差別の観点にしがみついていることをあますところなく示している。
「コックス報告書」は、「中国はアメリカから『窃取した』核兵器設計技術の基礎の上で新しい核兵器を開発するため、アメリカから熱核弾頭設計のコンピュータ・ソフトウエアを入手することを差し迫って必要としていた」と非常に独断的に臆測し、また「中国は実際にはすでにMCNPT、DOT三・五、NJOYCを含めて、アメリカのコンピュータ・ソフトウエア・コードを入手した」と言っている。実際には、この三つのコードは世界ではここ数十年来、原子炉工事設計、原子炉輻射遮蔽安全分析など核エネルギーの研究分野で広く応用されている標準コードであり、すでに国際原子力機関(IAEA)加盟国の多くの研究機構、大学と核エネルギー工事研究設計部門で広く応用されており、熱核兵器弾頭の設計となんら関係がないものである。
中国の原子力発電所建設の発展を促すため、中国は早くも八〇年代初めにIAEAから原子炉の安全を計算するのに用いるコンピュータ・ソフトウエア・コードDOT三・五を無償で入手し、八〇年代の中・後期にはさらに同じ問題を解決するコンピュータ・ソフトウエア・コードMCNPTと核データ研究に用いるコンピュータ・ソフトウエア・コードNJOYCを入手した。長年らい、中国の科学者は使用の過程で発見した問題と計算の結果をすかさずIAEAとコード作成部門にたえずフィードバックしてきた。中国の科学者はこれらのコードの機能を改良し完全なものにすることに自らの貢献をしたことははっきりしている。中国はIAEAの責任を負うメンバーとして、長期にわたって国内の数十の大学と研究機構を組織して、この国際的な協力研究に参与している。中国科学者の研究成果とコンピュータ・ソフトウエアも、つねにIAEAに提供され、各加盟国にそれを利用させている。「コックス報告書」をでっち上げた者は、中国が世界の原子力平和利用事業になした積極的貢献を、中国が核兵器を発展させるためにコンピュータ・ソフトウエア・コードを「不法に」入手するためだったと中傷しているが、これは彼らの科学技術の常識に対する無知を暴露するだけで、まったく泣くに泣けず笑うに笑えないことである。
さらに指摘すべきなのは、中国がアメリカのマイクロ融合核実験と対潜水艦マイクロウェーブ技術の機密を「窃取した」と「コックス報告書」が中傷していることである。これはまったくでたらめな話である。科学技術の知識をやや持ち合わせている人であれば、中国の著名な物理学者王淦昌氏が早くも中国が最初の原爆実験に成功した一九六四年に、レーザー核融合の初歩的概念を打ち出し、氏が世界でも最初に独自にこうした概念を打ち出したものの一人であることを知っている。その後、中国はレーザー核融合問題の系統的研究を始めた。一九七三年、中国はレーザーでデューテロンアイスを駆動して、実験する時中性子を観察することができた。一九七四年には、一次レーザーを駆動してデューテロン・ポリマーをターゲットに採用して核反応を生じさせ、しかも実験の際デューテリウム・デューテリウム(DID)反応によって生じた中性子を観察することができた。一九八六年、中国は直接駆動方式でデューテリウム・トリチウム(DIT)・ガスが充満したカブセルから中性子を生じさせた。続いて、一九九〇年から一九九二年までの期間に、実験を通じ、間接駆動方式で熱核融合反応を実現し、熱核中性子を観察することができた。中国の著名な物理学者アカデミー会員の于敏氏とその指導下にある多くの中国科学者は、七〇年代中期にレーザーが入射口から重金属の外殻に囲まれているキャビティに入り、X線輻射駆動方式でレーザー融合を実現する概念を打ち出すとともに、柱形のホローキャビティの中央にターゲット・ペレットを置くという構造上の設計を提出した。続いて、七〇年代末から八〇年代にかけて、中国は独自のレーザー核融合研究に用いるレーザーデバイス 神光装置をつくった。その後、アメリカが暗号を解読した資料の中から、中米の科学者がほとんど同時に各自の研究の中で類似の概念を提出したことを発見した。それは、科学の法則が客観的に存在しているものであり、人類がどのような方法を用いても、遅かれ早かれそれを把握することができることを十分に物語っている。コックス氏らは真剣に専門家から教えを乞い、科学知識を少し学習したなら、こうして科学常識の欠如のために笑いものにされることがなかっただろう。
世界の経済と科学技術の交流と協力が日増しに密接になるにつれて、中国と世界各国との経済と科学技術の交流と協力は、大きな発展をとげた。こうした大きな背景の下で、中米の核科学者は多くの分野で正常な学術交流活動を繰り広げた。アメリカ側の招きに応えて、中国の関係研究機構とアメリカの国立実験室は九〇年代から交流と協力を始めた。協力の分野には核拡散防止、軍備抑制と環境保全研究が含まれており、しかも一九九八年七月北京で「材料保護・抑制・計算に関する共同実演」活動を共催した。アメリカ側は実演会で配布したPR資料の中で、八〇年代と九〇年代初め、米エネルギー省の実験室と中国の関係研究機構は接触を経て、中米両国の関係部門が多くの共通の興味をもっており、これらの分野における双方の技術交流と協力を促すのは、中米両国の理解と信頼を深めるのに役立つだろうと考えると指摘している。
しかし、コックス氏らは、「核兵器の物理学と工学の問題を解決する情報を入手するため、中国の科学者は中米両国実験室が交流と協力を行う機に、アメリカの科学者と広く接触した」となにはばかることなくデマを飛ばし、また「アメリカの科学者もかつてこのような機会を利用して中国に情報を漏らし、中国の核兵器発展計画に利するようなこともあった」と根も葉もないことを言った。実際には、両国の実験室の間の交流と協力計画は、中米両国政府の認可を得たものであり、その分野も核拡散防止、軍備抑制と環境問題の範囲内に厳しく限られていた。中米実験室協力に参与する両国の科学者と担当官はみな非常に真剣で、責任感があり、自国の安全と利益およびそれぞれの自国の安全に尽くすべき職責を非常にはっきりわきまえていた。彼らはこうした場合、自国の核兵器についての機密を口にすることは絶対にありえない。アメリカの一部の反中国の政客は、中米実験室間の協力計画をいわれもなく非難しているが、これは中国の科学者ばかりでなく、アメリカの科学者の尊厳をも傷つけるものである。
ここで特に指摘する必要があるのは、アメリカの国立実験室が実験室協力計画を執行する訪問学者に対し非常に厳格な秘密保持と防諜管理制度を実行しているということである。ロス・アラモス国立実験室の責任者ジョン・C・ブラウン博士はかつて、米国会特別委員会の中米実験室協力計画公聴会で、次のように証言した。「実験室のすべての訪問学者に対し、一律に米エネルギー省の秘密を保持条例に基づいて管理し、実験室はエネルギー省の条例に基づいて若干の秘密保持措置と管理手続きを制定した。秘密保持措置には、行政と実物コントロールなど多くの保護が含まれている」。訪問学者は秘密保持区域に入ってはならず、アメリカ側要員の同伴のもとで非秘密保持区域で仕事することしかできない。訪問学者は機密のコンピュータ・ネットワークも使用してはならない。中国の訪問学者はみなアメリカ側の秘密保持規定を厳守したということを指摘しなければならない。「コックス報告書」は、中国の訪問学者がアメリカの兵器実験室で仕事をした時、秘密保持規定に違反した例を一つもあげることができない。これを見てもわかるように、中国の訪問学者がいわゆる「核兵器の機密情報」を入手するのは、まったく不可能である。中国に来て実験室協力計画を執行するアメリカ側の科学者と管理要員に対しても、アメリカには厳しい管理措置がある。ブラウン博士はある公聴会で、次のように証言した。「われわれの措置は、訪中の前に、すべての訪問者に対し厳格な防諜教育を行うとともに、訪問者に中国の最新の背景資料を説明するというものである。訪問者は帰国後、中国での活動状況を報告するとともに、関係あるすべての政府部門に状況を提供しなければならなかった。もう一つの措置は、相手方に国を裏切るように謀られるリスクを減らすため、代表団の人数が毎回二人を下回ってはならないことを要求している」。実際には、アメリカ代表団の訪中に対する管理はブラウン博士の言った措置よりさらに厳しいものであった。代表団の学術論文は厳格な審査を経なければならなかった。代表団は訪問を終える前、アメリカの駐中国大使館へ行って中国における代表団の活動を報告しなければならず、代表団が中国で宿泊するホテルは原則的にはアメリカ側が事前に本土で予約し、中国滞在中、代表団は一律グループで行動しなければならなかった。
コックス氏らは、中国がアメリカの最先進の核兵器の設計上の機密を「窃取し」、それを基礎として中国の新しい世代の核兵器を開発したというウソをでっち上げると同時に、「中国の近代的な戦略核弾道ミサイルの戦力はアメリカに対し、現実的に、直接的な脅威を構成することになろう」とおおげさに言った。
周知のように、核兵器の全面的禁止と徹底的廃棄は、中国政府の一貫した主張である。中国は発展途上国であり、力を集中して経済を発展させるため、平和な国際環境を必要としている。数十年来、中国政府と人民は一貫して核兵器禁止のための闘争の先頭に立っている。しかし、中国の国家の安全と主権に対する覇権主義の直接的脅威を前にして、世界にはまだ核によるおどし、核独占が存在している時、中国人民は自衛するほかはなく、これを除いて別の選択がない。中国の核兵器の研究、開発は、ほかでもなく超大国の核による脅威と核によるおどしという状況の下で、余儀なく行われているものである。中国は平和を愛する国であり、早くも一九六四年十月十六日、中国が最初の原爆実験に成功した日に、中国政府は全世界に、中国はいつ、いかなる状況の下でも、先に核兵器を使用しないと宣言した。数十年来、中国政府のこの立場は変わっていない。中国が余儀なく研究、開発した核兵器は、戦力がかなり限られたもので、まったく自衛のためのものであり、過去、現在、将来をとわず、いかなる平和を愛する国と人民に対しても脅威となるようなことはない。
(二)基本的な科学技術の常識を欠いたでっちあげ
「コックス報告書」は、中国の宇宙事業発展史を意識的に歪曲し、中国がアメリカから「入手した」技術と知識が中国のミサイルと宇宙航行計画に役立ったと言っている。実際には、中国の宇宙航行事業は、スタートから成長へ、さらには世界先進国に仲間入りするまでまったく中国自身の科学技術力に頼り、独立自主、自力更生を旨として達成したのである。アメリカなどの西側諸国が中国に対し全面的封じ込めと禁輸を行っている状況の下で、一九六四年、中国はすでに中近距離ミサイルの開発に成功し、一九七〇年には最初の人工地球衛星の打ち上げに成功し、、一九七五年には、回収式衛星の打ち上げに成功した。七〇年代末から八〇年代初めにかけて、中国の宇宙航行事業はいちだんと発展をとげた。一九八〇年には太平洋海域への長距離ロケットの発射に成功し、一九八二年には中国潜水艦による固体燃料ロケット水中発射に成功し、一九八四年には地球静止軌道通信衛星の打ち上げに成功した。これらはいずれも中国が国際商業打ち上げ市場に進出する前になしとげたものであり、同様にいかなる外国の援助も受けない状況の下でなしとげたものでもある。
「コックス報告書」は、「中華人民共和国はまず七〇年代初めに、西側の技術を基礎として、自らの通信衛星の開発を始めた」と言っている。実際には、新中国が成立した時から、アメリカと西側諸国は中国に対し全面的封じ込めと禁輸を行い、しかもいわゆるココムなるものを設置して、中国へのハイテクの輸出を厳しく制限した。このような歴史的背景の下で、中国はどうしてアメリカと西側諸国に頼って自らの衛星技術を発展させることができるだろう。この報告書はまた、中国が手段を選ばずにアメリカの衛星技術を「窃取した」と断言している。これはなおさらでたらめな主観的臆測による断定である。周知のように、中国が真にアメリカ製衛星を打ち上げたのは一九九〇年であったが、中国は一九七〇年から現在までに、四十余個の種類の異なる衛星の打ち上げに成功しており、科学実験衛星、回収式衛星、地球静止軌道通信衛星、気象衛星、資源衛星などを設計、製造する面で成熟した技術を擁している。「コックス報告書」はまた、中国の東方紅三号衛星の使った、中国宇宙技術研究院が独自に開発したコントロールプロセッサーはマトラ・マコニ社が製造したものだと言いくるめている。このような明らかな勘違いはおそらく同報告書をでっちあげた人のうかつとは言えないだろう。
「コックス報告書」はまた、中国の科学者である銭学森氏の帰国のことにも言及しており、またこれを例として、中国のミサイル技術がアメリカから「窃取した」ものであると中傷している。これに対し、中国の科学者はこの上ない憤慨を覚えている。一九三五年、銭学森博士は清華大学の官費留学生としてアメリカに留学し、その後アメリカに残って仕事した。一九四九年の中華人民共和国成立後、高度の民族自尊心、民族の自信と気節を持つ若くて有為な銭学森博士は、祖国に憧れていた。しかし、当時、アメリカではマッカーシズムが盛んであったため、アメリカ政府はいろいろと「ありもしない」罪名で、銭博士を迫害した。中国政府の度重なる交渉を経て、銭博士は一九五五年に祖国に帰ってきた。アメリカ政府の制限を受けたため、銭博士は帰国の際、いかなる研究資料も持ち帰ることができなかっただけでなく、個人の生活用品さえも持ち帰らなかった。「コックス報告書」は、銭博士はかつてアメリカの「タイタン」大陸間弾道弾計画に参与していたことから、アメリカのミサイルと関係ある技術を不法に中国に持ち帰ったと言っている。これは根も葉もない誹謗である。アメリカ科学者協会(FAS)の出した「アメリカの核兵器の初期の発展」という資料によれば、アメリカの「タイタン」ミサイル計画は、一九五三年十月に発足したアメリカ空軍の「戦略ミサイル評定審査委員会」(のちにフォン・ノイマン委員会と称された)の提案に基づいて確定されたものである。一九五五年になってから、アメリカの関係部門はようやく開発契約を正式に結んだが、その前の一九五〇年七月に、銭博士はアメリカ政府によって機密研究に参与する資格と自由を取り消され、勾留された。その後は保釈されたとはいえ、一九五五年にアメリカを離れるまでは、終始アメリカ移民局の制限と連邦捜査局の監視を受けた。コックス氏らの数万語からなる報告書は非常にきめ細かに書かれているようだが、実際には時期の後先さえはっきりさせていないのである。これは一時的な粗忽などではないだろう。
一九八五年、中国は国際商業打ち上げ市場に進出した。これはもともと宇宙空間技術の平和利用の一つの方面で、正常で規範的な国際サービス貿易である。しかし、「コックス報告書」はなんと、中国は自国のミサイルの能力を高めるため、商業ベースの打ち上げを通じて、アメリカのミサイル技術を「窃取する」かあるいは不法に「入手した」と言っている。これは、事実に反しているばかりでなく、基本的な科学技術の常識を欠いている。
少しでも科学技術の常識を持ち合わせている人なら誰でも、運搬ロケットは弾道ミサイルの基礎の上に発展してきたことを知っている。運搬ロケットとミサイルの誘導の精度に対する要求は違っている。ロケットの誘導は主として衛星の軌道に乗る精度をコントロールするもので、ミサイルの誘導は、動力による飛行空域、自由飛行空域、再突入空域、この三大空域の偏差をコントロールして、最終的に弾頭の落下地点の命中精度を満たす必要がある。ミサイルの誘導の精度が運搬ロケットのそれより高いことは、火を見るより明らかである。商業ベースの衛星打ち上げの精度が高ければ高いほど、コストもますます高くなる。一般の状況の下で、経済性、合理性から考慮して、商業ベースの打ち上げは高すぎる誘導技術を採用する必要がない。だからロケットの誘導技術でミサイルの誘導精度を高めることがありうるだろうか。
「コックス報告書」はさらに、中国は商業ベースの衛星打ち上げを通じて、アメリカの運搬ロケットフェアリング技術を入手したが、これは「中国の未来の多弾頭大気圏再突入ミサイルと潜水艦による弾道ミサイル発射とその信頼性の設計と改善に役立っているかもしれない」と言っている。実際には、中国はフェアリング設計面で成熟した経験を持っている。早くも一九九二年以前に、中国はすでに二種類のフェアリングの開発に成功し、たびたび冬季に高空で風が吹いている条件の下で発射に成功した。中国は商業ベースの打ち上げで採用した長征二号クラスター式ロケットのフェアリングは、長征シリーズロケット衛星フェアリングが十回飛行に成功した基礎の上で設計、生産されたものである。中国は、商業ベースの打ち上げサービスを通じて、アメリカのロケット・フェアリング技術を入手する必要がなく、フェアリング技術のいかなる改良と発展も自力に頼って完成したものである。
さらに指摘しなければならないのは、運搬ロケットフェアリングの設計技術とミサイル多弾頭フェアリングの設計技術には著しい違いが存在していることである。多弾頭ミサイルフェアリングは全天候と全方向の作業環境を要求し、一般にはトータル設計技術を採用しているが、運搬ロケットは通常横向き分離式の設計技術を採用している。そのため、ロケットフェアリング設計技術を利用して多弾頭フェアリングの設計技術を改良する問題は存在しない。
「コックス報告書」は、中国はイリジウム衛星の打ち上げを通じて、スマート・ディスペンサー(Smart Dispenser)技術を「入手」し、複数個別誘導再突入式飛行器(MIRV)の個別誘導技術に用いたと言っている。実際には、中国はイリジウム衛星を打ち上げる前に、複数衛星の打ち上げに何回も成功している。一九九〇年七月、中国の長征二号丙ロケットが初めて発射された。同ロケットはパキスタンの衛星を一個積載し、二つの衛星を打ち上げたが、二つの衛星はそれぞれ近地軌道と地球静止移転軌道に乗った。一九九〇年九月、中国は、長征四号ロケットで三個の衛星を打ち上げ、太陽静止軌道に乗せることに成功した。一九九二年十月、長征二号丙ロケットは、スウェーデンのフレヤ衛星と中国の回収式衛星を同時に打ち上げ、二つの衛星を二種類の異なる近地軌道に乗せた。一九九四年二月、長征三号甲ロケットで実践四号衛星と模擬衛星を打ち上げた。そのため、中国は早くからディスペンサーの設計技術をマスターするととも絶えず発展させており、いかなる突破し難いカギとなる技術も存在しておらず、イリジウム衛星の打ち上げを利用して中国の複数弾頭ディスペンサーの技術を高めることはなおさら言うに及ばない。
(三)事の真相に対する拙劣な歪曲
「コックス報告書」は二章のスペースをさいて、一九九五年一月二十六日長征二号クラスター式ロケットによるアジアパシフィックサット 打ち上げと一九九六年二月十五日の長征三号乙ロケットによる国際七〇八衛星打ち上げの二回の故障の調査の過程を論述し、これを借りてさかんに騒ぎ立て、中国が故障調査を通じて、アメリカの宇宙航行技術を「窃取した」かあるいは「不法に入手した」としている。この報告書は、「アメリカの衛星メーカーは法定特許証を取得していない状況の下で、ミサイル設計面の資料と技術・技能を中国に譲渡した。これらの資料は中国の民間用と軍用のロケットの信頼性を高めた。同時に不法に譲渡した資料も中国が未来の弾道ミサイルの設計とその信頼性の改善に用いることができる」と言っている。事実が示しているように、この結論は全く成り立たないものである。
「コックス報告書」は、この故障の調査の過程で、アメリカの衛星メーカーは中国に故障を分析する「診断プロセス」を提供し、「ミサイル設計面の資料と技術・技能を譲渡した」と言っている。実際には、中国は四十余年間も独自にロケットとミサイルを研究、開発し、みずから一連の信頼性設計方法、故障の診断処理マニュアルを持っており、厳しい品質保証体系もある。百回にのぼる飛行の試練を経て、中国は質も、信頼性も高いミサイルと運搬ロケットの開発を十分に保証することができ、しかも打ち上げの過程における難問題を処理し、故障を取り除く能力を完全に持っている。アメリカと同種の使い捨て運搬ロケットと比べて、中国の運搬ロケットの信頼性は少しもひけを取らない(下の表を参照)。一九九五年、中米両国の企業が共同で長征二号クラスター式ロケットによるアジアパシフィックサット 打ち上げの故障を分析する前に、中国の長征二号丙ロケットはすでに十四回も連続打ち上げに成功した記録を持っている。その後はまた六回も続いてモトローラ社のイリジウム衛星を打ち上げ、これまでずっと100%の成功率を保持している。だが、アメリカの「タイタン4」ロケットは一九九八年八月二日、一九九九年四月九日と三十日、三回も続けて打ち上げに失敗した。これらの数字はすでに多くの問題を説明することができる。
一九九五年一月二十六日、長征二号クラスター式ロケットによるアジアパシフィックサット 打ち上げに故障が発生した後、中国側はただちに故障調査指導クループと故障調査委員会を設置した。調査委員会の下には、ロケット残骸分析、フェアリング分析、動力学カップリング分析、録画分析、遠隔測定データー分析など六つの調査グループが設置され、フェアリング構造を含むいくつかの重要な方面で突っ込んだきめ細かな研究と故障分析を行うとともに、衛星と運搬ロケットの連結方式に疑問を出した。アメリカ側も運搬ロケットと衛星に対し故障分析を行った。一九九五年七月二十三日、中国長城工業総公司と米ヒュース社は北京で共同コミュニケを発表し、可能性のある故障の原因として、最終的に次の二つモデルを確定した。
(一) 冬季に高空で乱気流が生じる条件のもとで、衛星、アッパステージと運搬ロケットとの特殊な連結方式に共振が発生したため、衛星の一部構造が破壊された。
(二) 冬季に高空で乱気流が生じる条件のもとで、運搬ロケットのフェアリングの一部構造が破壊された。
中国側は、第一種のモデルであると認定し、衛星、アッパステージとロケットに共振を発生したため、失敗をもたらしたと見ている。 米ヒュース社は第二種のモデルであると認定し、失敗の原因はフェアリングの強度が足りなかったことにあると見ている。双方とも互いに受け入れられる明確な結論を引き出すことができなかった。それぞれの観点をサポートするため、分析成果を公表するのは正常なことであり、誰が誰に技術を漏洩する問題など全然存在しない。中国側はあくまで、中国にはフェアリング設計の面での成熟した経験があり、長征二号クラスター式ロケットのフェアリングがフェアリングを取り付けた長征シリーズロケットが十回も飛行に成功した基礎の上に設計、生産されたものであるとしている。実際には、中国がいまでも使用している長征二号丙と長征三号ロケットのフェアリングは、アジアパシフィックサット のフェアリングと同じ種類のものであり、強化措置はとられていないが、その打ち上げはいずれも成功した。一九九九年六月十二日、二個のイリジウム衛星の打ち上げに成功した長征二号丙/SDロケットのフェアリングも同じ種類の製品を使用している。
「コックス報告書」は、中国が故障調査を通じてアメリカから衛星力学モデル技術を不法に入手したと言っている。これも事実に合わない。ロケットと衛星の荷重カップリング計算作業を進めるため、衛星を提供する側は衛星の力学モデルを提供しなければならない。いわゆる力学モデルとは、数学の手段を通じて、衛星の構造を力学面で完全に等価の一組のデータに縮減することを指す。中国はロケット開発初期に、すでにロケットの力学モデルをつくりあげている。このほか、飛行過程のさまざまな外力(例えばエンジンの推進力、空気の動力)も早くから確定されている。この種のモデルの縮減方法も早くも一九八〇年に中国で出版された『強度と環境』という専門誌でとくに紹介されており、一九八四年以後は、復旦大学の「構造振動と動態サブ構造分析方法」という教科書に収録されている。この種の方法は、全世界で通用する、衛星の構造を描き出すことのできる効果的な方法でもある。これについては、旧ソ連とアメリカも公開発表したことがある。この方法で縮減されたあとの衛星の構造がロケットのモデルと結合した後、荷重カップリング計算作業を進めることができる。国際商業打ち上げサービスがこの方法が一般に使われ、それによって、衛星とロケットとの荷重カップリング計算を行っており、さらにまた力学モデルを利用すれば衛星の真の構造に還元することができないため、衛星を提供する側が衛星の技術上の秘密を保持するのに役立つからである。
一九九六年二月十五日の長征三号乙ロケットによる国際七〇八衛星打ち上げの故障調査に対し、「コックス報告書」は、独立評定審査委員会(IRC)のアメリカ専門家の指摘があったこともあり、中国はこの故障の最終的原因をつきとめ、アメリカの衛星会社は故障を調査、排除する過程で、長征ロケット誘導システムの設計と信頼性をいかに改良するかを中国に実演して見せており、この技術は弾道ミサイルに使うこともできると攻撃している。事実、故障の原因はまったく中国の専門家が独自につきとめたのである。確定された最終的故障の原因は、ロケット慣性プラットフォームのフォローアップフレーム回路の電子部品の溶接の質がよくないことにあった。このような低い段階の問題はロケット設計の改良と全然かかわりがない。
この故障が発生したあと、中国の国際商業打ち上げの主な請負業者である中国長城工業総公司は一九九六年二月十八日、中国宇宙航行専門家からなる故障分析グループ、故障調査委員会、故障審査委員会の主なメンバーの名簿を対外発表し、続いて調査の段取りと進展の状況を公表した。二月末、中国側は故障はプラットフォームにあると絞り込み、三月末には、考えられる故障の原因として、インナーフレームのトルクモーターのワイヤが切れたこと、インナーフレームアクシスがブロッキングしたこと、フォローアップフレーム回路が故障したこと、環境応力の故障の四つを確定した。それ以後、中国側はこの四つの考えられる故障の原因に対し、一つずつ突っ込んだ、きめ細かな調査・分析と実験・検証を行い、そのうちの三つの原因に対する疑いを相継いで排除し、五月中旬には、クローズド・ループセミハードウェアのシミューレーションテストを通じて、フォロー・アップフレーム回路の故障が最も考えられる故障の原因であるという結論を引き出した。六月十七日から七月六日までに、突っ込んだ分析、試験、部品の解剖検査を経て、最終的に故障の原因は部品にあると確定した。つまり、フォロー・アップフレーム回路のパワーモデュールの溶接が退化して、フォローアップフレーム回線に電気が流れなくなって、フォローアップフレームが故障し、慣性プラットフォームが傾き、打ち上げを失敗させたのである。
この故障を調査する過程で、中国は特定の環境と条件の下で、アメリカ、ドイツ、イギリスの六人の専門家からなるIRCを受け入れた。当時、長征三号乙ロケットの失敗はそれ以後の契約に、とくにそのあとすぐ打ち上げるアジアパシフィックサット1Aの契約の履行に重大な影響をもたらした。国際慣例によれば、商業ベースの衛星の打ち上げは衛星とロケットに保険をかけてからはじめてできるのである。国際保険業界は当時、中国側がIRCを設立して、中国側の故障調査を評議しなければならないとたびたび強く要求した。これはアジアパシフィックサット1Aの保険を受け入れる前提条件であった。
IRCは四月十五日に設立され、五月十三日に活動を停止するまで、合計二十数日しかなかった。この間に、IRCは実際には会議を二回しか開催しなかった。一回は四月二十二日と二十三日の二日アメリカで開かれた会議で、もう一回は四月三十日と五月一日の二日北京で開かれた会議であり、実際に活動を行ったのは四日間しかなかった。アジアパシフィックサット1Aの打ち上げに使用したロケットは、「二・一五」事故を起こした長征三号乙ロケットではなくて、長征三号であった。そのため、中国側が保険会社とIRCに説明した重点は、長征三号乙ロケットのプラットフォームと長征三号ロケットプラットフォームとの違いであった、その目的は、長征三号乙ロケットの故障はアジアパシフィックサット1Aを打ち上げる長征三号ロケットのプラットフォームの信頼性に影響しないと説明することにあった。同時に、保険会社に再びロケット打ち上げの自信を持たせるため、中国側も試験を通じて検証した「二・一五」事故の故障の段階的調査結果を保険業界とIRCに公表した。激しい市場競争を前にして、中国はロケット製造の機密をそう簡単に他人に漏らすようなことをしない。IRCの存在する全過程で、中国側はIRCに「二・一五」事故の故障に対する全面的分析・調査を援助してもらおうと考えたことは一度もなかった。そのため、中国側は故障調査状況を全部IRCに知らせることはしなかった。この状況の下で、IRCが長征ロケットの誘導システムの設計の「改善」を中国に実演する可能性はどうしてあろう。このような「改善」はいったいなにを指して言っているのか。事実、IRCの評議の意見も「中国側と合致しない理由を発見しなかった」と指摘しただけで、中国側にいかなる技術をも輸出しなかった。事実上、IRCが存在していた期間でも、中国側は終始みずからの計画に基づいて、故障の分析を積極的に続行した。だから、中国側はまったく自力に頼って故障の最終的原因をつきとめ、是正の措置をとったから、その後の長征三号乙ロケットの打ち上げに連続して成功したのであると言うことができる。
「コックス報告書」は大きなスペースをさいて、次のことをくり返し説明している。中国側は三月末に四つの故障の原因を確定したが、四月にはフォローアップフレームを含む二つの原因を排除し、焦点をインナーフレームの原因に集中させた。IRCが介入してから、その「指摘」を経て、中国側は「インナーフレームの原因を直ちに放棄し」、「フォロー・アップフレームの分析に熱中し」、「IRCの提案したシミュレーションテストを行い」、最終的に故障がフォロー・アップフレームにあることを確定した。事実上、フォローアップフレームはずっと中国側の調査の重点であった。四月初め、中国の専門家は一連の理論分析を行って、その故障性を認定した。四月九日、フォローアップフレームのクローズド・ループの実物シミュレーションテストを行うことを決定した。四月十六日から、中国側は実物シミュレーションテストの大綱の制定に着手し、テスト方法と実現の条件に対し一連の準備を進めた。中国の専門家はロケット本体、サーボメカニズム、ジャイロ数学モデルを設計し、実験用飛行ソフトを作成し、テスト用プラットフォーム、シミュレーションローテーションスタンド、ロケット積載コンピューターなどのハードを用意し、プラットフォームサポートデッキ、インターフェイス回線、ケーブルなどテストに必要な付属設備の生産を手配した。期間は一カ月である。これらの作業はいずれもIRCが介入する前に完成したものである。IRCの評定と審査はアジアパシフィックサット1Aの保険から派生したものであり、同保険も中国の長征三号乙ロケットの故障調査期間の短い出来事であるため、中国側は実験検証の結果だけを提供するという原則に基づいて、IRCに限られた資料を提供した。そのためIRCが知ったのは、中国側の故障調査の段階的結果にすぎない。「コックス報告書」は、中国側はIRCが指導したあと、原因がインナーフレームにあることを「ただちに放棄した」と言っているが、これは事実に全然合わない。中国側は五月中旬、シミュレーションテストを通じて、原因がインナーフレームにあることを慎重に排除し、同時に原因がフォローアップフレームにあることを最終的に確定した。中国側の故障調査はずっと自力に頼り、科学的な方法で行ったものである。中国の故障診断プロセスは数十年の実践の検証を経てまったく正しいことが立証されている。
「コックス報告書」は、「中国長城工業総公司の確定した失敗の根本的原因が、慣性測量装置の中のフォローアップフレームモーターのパワーアンプリファイター内部のワイヤを接続するところが破損したことにある。これはまさにIRCと中国側の責任者が会議でおよび初歩的なレポートの中で指摘した問題である」と言っている。これは事実にも合わなければ、科学的調査の根本的法則にも背くものである。中国側の故障調査は五カ月も続き、大量の実験検証を行った。実際には、故障の原因をこれほど具体的に確定するにはある程度の実験もせずに、調査初期の一部資料を調べるだけでは、できない相談である。IRCが実際には四日間しか仕事をせず、「二・一五」故障調査がまだ故障の原因に対する分析実験段階にあり、大量のサブシステム、部品、素子の実験がまた行われていないのに、どうして素子にまで細分された故障の最終的な個所を予知できるのだろうか。
「コックス報告書」は、「二・一五」事故故障を調査、排除する過程で、中国側に誘導システムの設計案を改善させたとしているが、実際には、長征三号乙ロケットの失敗をもたらした故障は慣性プラットフォームに現れたとはいえ、その故障の性質は素子の品質の問題だけであって、プラットフォームの設計案と全然関係がなく、いわゆる誘導システムの改善とはなおさら関係がない。「コックス報告書」の言う故障の調査と排除が「当該ロケットの誘導システムの設計を改善した」という結論はどこから引き出したのか、さらにはこの改善が「中国によって未来の機動式打ち上げ型大陸間ミサイルのシステムに用いられる」という推論はどのように引き出されたのか知らない。このような理論に基づいて人騒がせな結論を羅列した「コックス報告書」を、誰が敢えて信じるだろうか。
(四)しり切れトンボの「物語」
「コックス報告書」の中で最もでたらめなところは、第七章つまり「中国の打ち上げ現場の安全問題について」である。コックス氏らの論理によると、中国が商業ベースの打ち上げを通じてアメリカの衛星技術を「窃取する」最大の可能性は、アメリカの衛星と関連資料が中国の打ち上げ現場に運ばれた時にある。そのため、コックス氏らは打ち上げ現場の安全についての書き方について苦心に苦心を重ね、取るに足らない資料やこまごましたことを大量に収集、羅列して、中国がアメリカの技術を「窃取した」ことを証明しようとしたが、とうとうなんらの証拠も探し出せなかった。だから、「コックス報告書」も、「打ち上げ現場の安全措置が効を奏しなかったため中国にコントロール対象となる情報を譲渡した事件が現れたことを実証する証拠がまだない」ことを何回も認めざるを得なかったのである。ところが、コックス氏らは事前に仮想した、中国がアメリカの衛星技術を「窃取した」という結論を放棄することに甘んぜず、仕方なく「もしも」、「かもしれない」などの推量語を大量使用して世論をミスリードーしている。
一九九〇年以来、中国は西昌、太原、酒泉の衛星打ち上げセンターで合わせて二十回以上も商業ベースの衛星打ち上げを行ったが、酒泉、西昌で打ち上げたスウェーデンの衛星、パキスタンの衛星と西昌で打ち上げたシノサット一号衛星を除いて、いずれもアメリカ製の衛星であった。アメリカ製衛星の安全を確保するため、中国は早くも一九八八年十二月にアメリカ政府との間で「衛星技術の安全に関する取り決め覚書」に調印した。「取り決め覚書」は、アメリカ製衛星が中国で打ち上げられる際の技術上の安全を守るため、次のような苛酷と言えるほどの厳しい規定を行っている。
一、アメリカ政府は技術コントロール計画の実施状況を監督しなければならない。すべての設備と技術資料に対する接触は、アメリカ政府の安全規則トレーニングを受けたアメリカ側の要員によって二十四時間コントロールされなければならない。打ち上げ準備、衛星の打ち上げおよび設備のアメリカへの持ち帰りの全過程における接触は、いずれもこれらの要員によってコントロールされるべきである。
一、宇宙航行器、設備および技術資料を運ぶ航空機とその貨物が中国で通関する時は、チェックを免除され、しかも中国の国内で検査を受けない。
一、アメリカ側以外の要員は、アメリカ政府から権限を授けられた人員の特別の許可を得なければ、いかなる目的であっても衛星準備作業区内に入ってはならない。アメリカ側以外の要員が許可を得て衛星準備作業区に入る場合は、いかなるところでもアメリカ側要員が同伴しなければならない。
一、 アメリカ側の設備に接触する必要のあるアメリカ側以外の要員は、「訪問者」と明記した色の異なる臨時身分証明書を所持しなければならない。これらの身分証明書の発給はアメリカ側要員がコントロールする。
商業ベースの衛星打ち上げサービスを引き受けて以来、中国側は両国政府間の「取り決め覚書」を厳守している。中米双方は十余年間に百回も技術協調会を開いたが、この間にアメリカ側は、中国側が中米衛星打ち上げ安全取り決めに違反する行為があったと一度も提出したことがなかった。政府間取り決めの執行を確保するため、中米両国政府から権限を授けられた代表団は毎年一回その年度の話し合いを行って、取り決めの執行状況を点検したが、十余年来アメリカ側はアメリカ製衛星の中国での技術上の安全について一度も問題を提出したことがなかった。これまでのアメリカ製衛星が打ち上げられる前に開かれる技術協調会、衛星が打ち上げ現場に運び込まれた後毎日開かれる調整会、双方の技術者の接触、衛星の中国国内への搬入、打ち上げ現場でのアメリカ製衛星のテスト、衛星とロケットとの接続の全過程は、アメリカ政府が指名、派遣した安全要員の監視コントロールを受けていた。毎回アメリカ製衛星が打ち上げられる時、アメリカから中国に来た衛星関係者のうち、安全要員はおおむね総人数の三分の一を占めていた。
ここでいくつかの例だけを挙げて、アメリカ側がアメリカ製衛星をいかに厳しくコントロールしていたかを説明してみよう。
一、 アメリカ側の衛星を運ぶ航空機が打ち上げ現場に着くと、アメリカ側の安全要員がただちに責任をもって番をした。航空機から衛星をおろし、車に積む作業は、いずれもアメリカ側要員が進め、飛行場から打ち上げセンターまで運ぶ途中、アメリカ側の設備を積んだトラックはいずれもアメリカ側要員が護送した。ひいては毎回打ち上げた後に残った衛星推進剤を処分する時も、アメリカ側の安全要員が立ち合わなければならなかった。
一、 アメリカ側の衛星が打ち上げセンターのテスト工場に搬入される前に、アメリカ側の安全要員はすでに工場の建物に対し何回も安全検査を行っており、すべての窓のカーテンは、アメリカ側の要求に従って、かなり厚くて重い、風によって吹き上げられないようなものに換えられた。打ち上げ作業を進める全期間に、アメリカ製衛星とその設備を置いてある工場の建物はすべて、アメリカ側の安全要員が責任をもって警備に当たり、中国側要員は絶対にそれに近づいてはならず、仕事の必要で中に入らなければならない場合も、両国政府間の「取り決め覚書」に厳しく従って、事前に許可を受け、出入りする時は登録をし、アメリカ側の発給した証明カードを胸につけ、アメリカ側の安全要員の同伴のもとではじめて中に入ることができるのだった。
一、 衛星のテスト工場建物、衛星に燃料を注入する工場建物、衛星のコントロール室、打ち上げ装置の衛星操作プラットフォームにはアメリカ側がコントロールするモニタカメラが十八台据え付けられ、衛星とそのテスト設備に対し二十四時間の監視が行われた。衛星テスト工場の衛星作業区だけでもモニタカメラが四台据え付けられ、異なる角度から焦点が衛星に合わせられていた。
一、 毎回の会議でアメリカ側要員がいかなる質問をするかあるいは質問に答える時もアメリカ側の安全要員の同意を得なければならなかった。例えば、西昌衛星打ち上げセンターの電子はかりを精確に調整するため、打ち上げセンターが調整用のウェートを整えておく必要がある。中国側はどのような精度のウェートが必要かと尋ねた時、アメリカ側の安全要員はアメリカ側の技術者に答えてはならないとほのめかした。
相手のやり方にお返しをしないのは失礼にあたる。アメリカ側がアメリカ製衛星に対する監視コントロールを強化することは中国の運搬ロケットの技術上の安全にもかかわるため、中国側は措置を取って中国のロケットに対し二十四時間の監視コントロールを行わざるを得なかった。
「コックス報告書」はまた「中国での打ち上げに現れた安全面のミス」を百以上あげて、中国がこれらのミスを利用してアメリカ製衛星の機密を「窃取した」「可能性が大きい」となんら根拠もなく勝手に推測している。例えば、「衛星の燃料注入工場の外にあるシャワーが使えなかった」ことも「安全のミス」に数えられたが、実際にはそれは衛星に燃料を注入する際に万が一漏れた時に作業員がシャワーを浴びるのに使われるもので、衛星の「技術上の機密」とはなんら関係もないのである。
もっとおかしいのは、「コックス報告書」が「二時間の時間を与えるなら、中国人は衛星内部の状況をさぐってしかもなんの痕跡も残さないことさえできる」、「もし中国人が制限を受けずにアメリカ製衛星に二十四時間接触するなら、学び取れないものはほとんどない」と言っていることである。周知の通り、衛星は極めてぼう大で、極めて複雑で、極めて精密なハイテク製品であり、何千何万もの素子、何百何千ものユニット、数十のサブシステムから構成されており、多くの学科の知識にかかわるもので、どうして数時間でそれを掌握することができるだろうか。これこそ「人に罪をなすりつけようと思うなら、いくらでも口実を設けることができる」ということだ。
かつて何回もアメリカ製衛星の打ち上げでアメリカ政府の安全要員を務めたことのあるA・D・コーツ氏は、一九七二年三月二十二日にオーストラリアのBI衛星の打ち上げが失敗したあと、中国側要員に、「アメリカ政府の安全要員として、私は責任をもって、中国国内でのアメリカ製衛星打ち上げに関する中米両国政府の技術安全取り決めを中国側が完全に守ったと言うことができる。オーストラリア衛星打ち上げについて契約を結んでからの三年余りの間に開かれた各回の技術協調会議および今回の双方の共同作業では、許可を経ていない技術譲渡は一度もなかった。私は中米双方の協力にこの上なく満足しており、またあなたがたの協力に感謝する」と語った。米国防総省機密保持局のターベル局長も「このような接触がアメリカの国家安全にゆゆしい影響を与える技術譲渡をもたらしたことを実証するいかなる証拠もまだ見つかっていない」ことを認めた。
(五)正常な科学技術と経済 貿易の交流活動を意識的に歪曲
中米両国の間で平等互恵の科学技術交流と経済貿易協力を発展させることは、中米両国国民の利益に合致し、歴史発展の流れにも合致している。今の世界で、国と国の間でこのような科学技術交流と経済貿易協力を行うのは、正常なことである。ところが、「コックス報告書」はこのような交流と協力に対してさえ大きなスペースをさいて意識的に歪曲している。
中米両国は一九七九年一月三十一日、中米政府間科学技術協力協定に調印した。二十年にわたる発展を経て、中米の科学技術協力はかなりの規模をもつようになった。現在、両国政府間の窓口部門はすでに教育、農業、宇宙、大気、海洋漁業、医薬・衛生、地震、環境保全、水資源、エネルギー効率、再生可能エネルギーなど三十三の分野で協力協定書に調印した。農業分野では、双方は大量の種子資源を交換し、中国側は、多くの珍しい野生資源を含めて二千余の農作物の品種資源をアメリカ側に提供した。医療衛生の分野では、双方は多くの重要な医療統計データと資料を交換し、中国側がアメリカに提供した全国の延べ二億四千万人のがん分布調査資料および発病率、死亡率、地区分布に基づいてまとめた「中国のがん分布図」はアメリカが比較研究を行い、がんを予防、治療するうえで重要な意義をもつものである。中米が共同で設立した地震観測ネットワークのおかげで、アメリカは毎年地震観測ネットワークの十五万枚ものマイクロフィルム記録とその他の記録資料を中国側から入手しており、これは地震発生の原因、形成メカニズムを研究し、予報水準を高めるうえで重要な価値がある。「コックス報告書」のなんら根拠のないウソは、中米両国の科学者の感情をひどく傷つけたばかりでなく、両国間の正常な科学技術の交流・協力活動にも影響を及ぼしている。
「コックス報告書」の最も悪らつなやり方は、科学技術を発展させる中国の国策と方針、中米両国間で正常な科学技術交流活動に携わっている研究機構と研究要員、両国の経済貿易の正常な活動に従事するビジネス機構とビジネスマン、アメリカで正常な活動に従事する政府と民間の駐在機構と駐在員、アメリカ在住の中国系アメリカ人、在米中国人留学生などをことごとくいわゆるスパイ活動と結びつけていることである。これは典型的な人種的偏見であり、中華民族に対するこの上ない侮辱である。これはアメリカの五〇年代のマッカーシズムの亡霊が再び現れたようなものであり、アメリカの一部の反中国政客が中国が発展し、強大になることを敵視する変態的心理の現れである。
「八六三計画」は中国政府が一九八六年から実施した公開の正常な科学技術研究・開発の中長期計画であり、中国が自国の知力、資金力、資源を利用して独立自主に科学技術を開発し、国外の先進的科学技術水準との格差を縮めることによって中国の国民経済発展を速める戦略的政策決定である。ところが、「コックス報告書」の中では、中国の「八六三計画」もなんの根拠もなく、アメリカの技術特に軍事面の敏感な技術を「窃取する」ことと結びつけられている。中国は過去においても現在においても、いわゆる「窃取」を基礎として科学技術の研究、開発を行ったことがなく、将来もそのようなことはあり得ない。
世界のその他の国のハイテク開発計画と比べて、中国の「八六三計画」には次のような特色が見られる。 発展途上国のハイテク計画として、かなり限られた分野と目標が定められ、主として経済発展と人民の生活の向上をめぐって手筈を整えている。 ハイテクの基盤がわりに立ち遅れているという状況の下で、正常な国際慣行に合致した方法を通じて、世界の効果のある経験と先進技術を謙虚に学んでいる。中国の「八六三計画」とかかわりがあるのは主として国民経済と総合国力の発展と関連のある科学技術である。例えば、「八六三計画」の第八次五カ年計画期(一九九一〜一九九五)に実施した十三件のカギとなる重要な技術プロジェクトとその重要な成果転化プロジェクトとしては、次のようなものがある。1、両系法水稲交雑技術、耐虫害綿花などの遺伝子転換植物、悪性腫瘍など疾患の遺伝子治療技術、大規模並行計算、光ファイバー・アンプおよびポンピングソース、二・一六メートル解像率の高い自己調整光学望遠鏡、二・四八GB/S SDH高速光ファイバー伝送システム、航空リモート・センシングリアルタイム結像伝送処理システム、STEPに基づくCAD/CAPP/CAMシステム、水中六千メートルで使うロボット、高温空気冷却原子炉、二層グロープラズマイオン金属浸透技術、ダイヤモンド・フィルム製造技術などカギとなる重要な技術プロジェクト。2、遺伝子工学多ぺプチト薬物、両系法水稲交雑の栽培、曙光コンピューター、大出力レーザーデバイスとその応用、企業におけるCIMS普及計画、ロボット自動化実演プロジェクト、高性能低温焼結多層セラミック・コンデンサー、酸化ニッケル電池とその関連材料などの重要な成果転化プロジェクト。
「コックス報告書」は中国の「八六三計画」の研究プロジェクトを意識的に歪曲している。例えば、「八六三計画」の中の遺伝子研究計画は明らかに新薬品を開発するためのものであるのに、コックス氏らは「この研究は生物戦に使われる可能性がある」と言っている。清華大学の高温空気冷却原子炉の発展計画は民間用の核エネルギーを開発する実験であり、核エネルギー開発の基礎的研究であるのに、「核兵器の発展に役立つ」と言いくるめている。これでは、人々にコックス氏らのデマをつくる能力が実に強すぎると感じさせないわけにはいかない。
「コックス報告書」はまた、中国の「情報と技術に対する欲望は際限がないようであり、しかもこれにたずさわる意気込みは十分ある」とも言っている。これは完全に悪意にみちた中傷である。九百ページ近くの「コックス報告書」にこの結論を支える証拠がないばかりか、それとは反対に、「コックス報告書」をでっち上げた人たちが中国の軍事技術と情報を盗む欲望にきりがなく、しかもやる気十分であることを示している。およそ「コックス報告書」を読んだことのある人は誰でも次のような認識をもつだろう。この報告は初めから終わりまであれほど多くのいわゆる材料を羅列しているが、その結論を十分に証明できる確固たる証拠と具体的事実はなに一つない。それとは反対に、報告書は中国の核兵器、さまざまなミサイル、衛星、軍用機、軍用船舶などに対し系統的な描写を行い、性能指標と構造略図を列挙したものもあれば、開発、研究の詳しい過程を描いているものもある。「コックス報告書」の挙げた具体的な規格の「中国の軍事装備」は、輻射増強兵器(中性子爆弾)、CSS―2、CSS―3、CSS―4、CSS―5、CSS―6、CSS―7、CSS―8とCSS―52の八種類の弾道ミサイル、DF―31大陸間ミサイル、JL―1、JL―2の二種類の潜水艦発射弾道ミサイル、C801、C802の二種類の対艦巡航ミサイル、YH―4巡航ミサイル、K―8軍用機、F―10戦闘機、直―G11軍用ヘリコプター、早期警戒管制機、FSW、FSW―1、FSW―2の三種類の写真撮影偵察衛星、094潜水艦、「夏」クラス弾道ミサイル原子力潜水艦などがある。この報告書はさらに中国の将来のミサイル、核兵器、人間の搭乗する宇宙航行の発展計画についてもあれこれ述べている。ここでは「コックス報告書」の列挙した上述のいわゆる「軍事装備」およびその発展計画について論評するつもりはないが、これはコックス氏らが他国の軍事機密を窃取することに非常に熱中し、興味津々であることを十分に示している。これはかけ値なしの「盗人が他人を盗人呼ばわりする」行為である。
(六)でたらめでおかしな論理
中国は発展途上国であり、資金力が限られているため、国際市場で技術が先進的でないが、価格がやすく、商業上引き合う中古設備を購入している。しかし、コックス氏らはこのような正常なビジネス活動を中国がアメリカの技術を「窃取する」行為と見なしている。「コックス報告書」は大きなスペースをさいて、第十章で中国航空技術輸出入総公司が一九九四年、米マクドネル・ダグラス社から中古設備を購入したことについてさかんに書き立て、さかんに誇張している。「コックス報告書」がこの純然たる商業活動を勝手にアメリカの国家安全と結びつけるのは、まったく道理のないことである。
事実上、中国航空技術輸出入総公司は一九九四年二月、米マクドネル・ダグラス社との間で中古の機械加工設備と計器を購入する契約を結び、機械加工設備と計器二百余台(件)を輸入した。中国がこれらの中古設備を購入するのはまったく商業的考慮から出たものである。事実、これらの設備はすでに長年使われ、先進的な設備ではない。この二百余台の設備と計器のうち、十九台はアメリカ政府の輸出許可証を必要とするものであった。設備を輸入する前、中国政府の関係部門はアメリカ側の要求に応じ、そのうちの十八台のために「最終ユーザーと最終用途の説明」を提出し、もう一台については中国のユーザーが現場で企業担保書を書いた。次のページの表はこの十九台の設備の製造期日と技術状況を詳しく説明している。
この表が物語っているように、この十九台の設備はアメリカ政府の輸出許可証を必要とする設備であるとしても、長年稼働しておらず、多くの部品がすでに壊れ、精度が下がり、部品を大量に取り替えなければ稼働できない。中古設備であるため、値段は新設備の二五ないし三〇%である。
「コックス報告書」は、中国がこれらの工作機械を購入した目的は軍事装備の製造に用いるものと見ているが、これはなおさらでたらめである。事実上、中国がこれらの設備を購入したのは、米マクドネル・ダグラス社と商談できめた幹線航空機製造プロジェクトおよびマクドネル・ダグラス社、ボーイング社と商談できめた航空機部品の下請生産プロジェクトに用いるためである。そのため、中国航空技術輸出入総公司は米モニター社と合資の機械加工工場を設立する予定であった。その後、商業上の理由で、合資工場の設立をやめた。上述のすでにアメリカ政府の輸出許可証を取得した十九台の設備の中には、性能の最も先進的な5A3P(5座標3主軸)工作機械が四台あり、中国に運ぶ前に、アメリカでモニター工場にリースした。もし中国側はこれらの設備を軍事方面に流用する気があれば、この四台の最先進の設備を国内に運んでくることを真っ先に考慮すべきで、アメリカで他人にリースすることはなかっただろう。これは、中国のユーザーがこれらの設備を輸入する目的がまったく商業利潤のためであることをも物語っている。
「コックス報告書」は南昌航空機製造公司が十九台の設備の中の弾性プレスを繰り上げて荷解きしたことをめぐって盛んに騒ぎ立て、中国がこれらの設備を輸入したのは軍用品の生産に用いるためであることを証明しようとしている。実際には、この種の弾性プレスは一九八三年に製造された中古設備であり、技術が先進的でなく、中国は国際市場で性能がさらに先進的な類似の工作機械を購入することができ、しかもすでにそのようにしている。
(七)歴史の流れに逆行する思考
コンピューターの発展と応用は、現在の世界の科学技術発展の最も著しい成果の一つであり、世界経済の発展と人類文明の進歩に対し重要な促進的役割を果たした。今日では、コンピューターと人々の日常生活との関係がますます密接になり、経済と社会生活の各分野で広く応用されており、教学・科学研究活動、ビジネス活動、観光旅行、日常生活、医療衛生、金融、財務管理でも、天気予報、交通、通信などの面でも、コンピューターが応用される状況が見られる。だが、コックス氏らはコンピューターの軍事面の用途を意識的に過度に強調しており、コンピューターの開発と応用を人類に幸せをもたらす要素と見なすのではなく、人類に脅威をもたらし、ひいては壊滅させる道具と見なし、しかもこの方面で盛んに宣伝している。コックス氏らは他の国へのコンピューター輸出規制を強化することを提出したが、これはまったく歴史の流れに逆行するやり方である。
「コックス報告書」のいわゆる中国がコンピューターを発展させ、応用する主な目的は軍事分野に応用するとともに、不法な手段でアメリカのコンピューター技術を「入手する」ことにあるとしているが、これはまったく事実に合わないものである。
世界のその他の国と同じように、中国がコンピューターを発展させ、応用するのは、国民経済の発展を促し、人民の生活レベルを高め、人々の日常生活を便利にするためである。中国はアメリカから多くのコンピューターとその部品を導入したが、その中には高性能のコンピューターも含まれている。一九九五年、中国気象センターは米クレー社からCRAY/c―92型高性能コンピューターを輸入し、気象データの分析と処理に用い、天気予報を行っている。こうした全人類に有益な仕事がどうしてアメリカの国家安全に危害を及ぼすというのだろうか。
中国は正常な商業ルートと国際通用の商業規則に基づいてアメリカからコンピューターを輸入しているが、これはアメリカにも大きな商業的利益をもたらし、多くの雇用のチャンスをつくり出した。中国は一貫して、コンピューターの面では、アメリカの輸出管制政策は歴史の流れに合わず、両国の経済貿易関係の健全な発展に人為的障害を設け、両国の貿易の均衡にマイナスであると考えている。「コックス報告書」の言ういわゆる高性能コンピューターの基準は、演算速度が毎秒二十億回の理論計算値に達するコンピューターである。中国は早くもこの基準よりはるかに高いコンピューターを生産することができるようになった。いま中国が生産しているコンピューターの演算速度は毎秒二十億回の理論計算値よりはるかに高いものである。
アメリカがコンピューターの輸出に対しさまざまな制限を設けているにもかかわらず、中国は不正常なルートを通じてアメリカのコンピューター技術を「入手した」ことは一度もない。中国政府はアメリカ製コンピューター輸出許可証を申請するため、アメリカ側の要求に応じて、「最終ユーザーと最終用途の説明」を提出し、最終ユーザーと最終用途について約束を行った。中国政府の信用を守り、「最終ユーザーと最終用途の説明」提出作業を確実にりっぱに管理するため、中国政府の関連部門は一連の具体的かつ効果的な規則・制度を公布し、「最終ユーザーと最終用途の説明」を提出して輸入した商品は、当該最終ユーザーが指定された最終用途に用いることしかできず、もとの輸出国が同意しなければ、それを第三国にまわすことを決して許さないと定めた。長年来の実践が証明しているように、中国政府の管理は厳しく、効果的なものであった。
コンピューターの最終ユーザーについて調査するのは、国際的に慣用するやり方ではないが、中米経済貿易関係の発展を促すため、中国側は最大の努力を払い、一九九八年六月にアメリカ側とこの問題について了解に達した。双方が了解に達してからわずか半年の間に、アメリカ側は中国に七つの訪中要求を提出し、中国側は可能なかぎりの条件の下で六つの訪問を按配した。これは中国側の協力の誠意を体現するものであり、アメリカ側もこれに対し異議を唱えなかった。しかし、「コックス報告書」はこれを無視し、中国は約束を守っていないと中傷した。これはまったく事実に合わないものである。
(八)「コックス報告書」に対する国際メディアと専門家の批判と反論
「コックス報告書」が発表されてから、同報告書がおかしく、でたらめすぎるため、アメリカを含む一部の国のメディアと専門家、学者から非難された。
五月二十五日付けのアメリカの『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「コックス報告書」が強調している一部の事実はあまりにも突飛でかつ複雑で、その結論は独断的であり、確実な答案がなく、逮捕された容疑者もおらず、この事件は最後の数ページを欠くスリラー小説のようなもので、しりきれトンボのようだ、と述べている。
五月二十五日付けのドイツの『シュド・ドイッチェ・ツァイトゥング』紙は、「コックス報告書」は質問は多いが、答案が少なく、非難は多いが、解釈が少ないと指摘している。
五月二十八日付けの日本の『毎日新聞』は、「コックス報告書」は中国が技術を盗んだ確実な証拠に触れておらず、「多分」「らしい」といった曖昧な言葉を多く使っている、と述べている。
アメリカの『エグゼクティブ・インテリジェンス・レビュー』誌を創刊したリンドン・H・ラロシュ女史は六月二日に声明を発表し、次のように述べた。「コックス報告書」はペテンであり、そのうちの中国のいわゆる「核秘密窃取」に対する非難はまったく事実を無視してでっち上げたものであり、報告書の内容は報告を書いた者が「科学に無知である」ことを十分に証明している。いわゆる「核の秘密」はインターネットからたやすく検索することができるのだから、コックス委員会が大金を費やしてありもしない非難を調査するのは、これこそ「荒唐無稽もはなはだしい」ことである。コックス委員会の目的が米中関係の破壊にあるのははっきりしている。
アメリカのABCニュースネットワークは「手抜かりだらけのコックス報告書」と題する報道の中で次のように述べている。「コックス報告書」には驚くべき事実的ミスがたくさんある。これらのミスは、中国の宇宙航行技術に対する誤った論述のような大きなものから期日とコンピューターハードの名称のミスのような小さなものまでがある。これでは、「コックス報告書」はいったいどれぐらい信ぴょう性があるのかと疑わざるを得ない。まさか報告書の結論はこれらの誤った事実に基づいて引き出したのではないだろう。
アメリカのカーネギー国際平和基金の専門家ジョセフ・シリンシオネ氏は、「コックス報告書」は「事実の根拠を欠き」、「まったく宣伝のためのもの」であり、これまで目にしたもののうち「最も根拠を欠く調査レポートであると見ている。同氏はまた、報告書はアメリカ政府に衛星とスーパーコンピューターのような敏感な技術と設備の対中輸出の監督・管理を強化するよう要求しているが、実際にやるのは非常に難しい、というのは、このようにやるなら、商業利益グループの不満を買うからだ、とも見ている。
五月二十五日付けのドイツの『フランクフルター・フンドシャウ』紙は、現在、アメリカには新しい「邪悪な帝国」を探し出すことに熱をあげている政客が大勢いる。この報告書を公表したのは真相を究明するためではなく、アメリカの今の対中政策に打撃を加えるためである、と述べている。
五月三十日付けの香港の『虎報』は、「アメリカ人がわめきたて、猛烈に攻撃しているのは自分たちが中国人の陰影に対して抱いている幻覚である。いわゆる「コックス報告書」にまじめに対処するものは、西側にはほとんどなく、東方ではなおさら少ないと述べ、また「コックス報告書」はアメリカ政府の対中政策に打撃を加える一方で、矛先を中国に向けている、としている。
五月三十日付けの『ロサンゼルス・タイムズ』紙の記事はこう述べている。アメリカの軍事問題専門家のロバート・ノリス氏は「コックス報告書」を鋭く糾弾した。「コックス報告書」は人々に、中国の兵器面におけるすべての発展が科学技術雑誌または学術会議から得たものではなくて、スパイ活動を通じて得たものであるという印象を与えている。実際には、技術面の大量の情報は公開の出版物から入手することができ、しかも中国だけでなく、いかなる国も入手することができるものである。科学上の秘密は絶対的なものではなく、いかなる国の財産でもない。
「コックス報告書」は九百ページ近くもある長たらしいもので、資料を少なからず羅列しているが、しかし、これらの資料は意識的にでっちあげたものか極力歪曲したものばかりで、一時的には世論をつくり、世人をまどわすことができるかもしれないが、結局は長期にわたって人を騙すことはできない。一時期以来、アメリカの一部の政客は時代遅れの冷戦思考にしがみつき、国内の政治闘争で中米関係を借りてさかんに騒ぎ立て、反中国の感情を煽り立て、それによって政治の元手を手に入れようとしている。しかし、長年の実践が証明しているように、中米両国関係の健全な発展は中米両国人民の根本的利益に合致している。アメリカの一部の政客が嘘をつく手口で中米関係を破壊しようとするのは、大変面目のないことである。このような企みも実現できるものではない。