当面の国際問題に対する中国の立場
―第五十四回国連総会における唐家せん外交部長の演説(全文)
(九月二十二日)
今回の国連総会は今世紀最後の総会であり、特殊な意義を持っている。「過去のことにかんがみて、今後のことを知る」。百年来の移り変わりを振り返って見ると、人類社会は空前の物質的富と精神文明をつくり出したが、同時に二回にわたる世界大戦による災禍と半世紀近くの冷戦による災難をも被った。冷戦終結後、世界は多極化に向かい、国際情勢は全体として緩和に向かっている。平和を擁護し、安定を求め、発展を促すことは、各国人民の共通の願いおよび声となっている。しかし、厳しい現実が示しているように、天下は依然として極めて太平ではない。冷戦思考がいまなお存在し、覇権主義と強権政治が新たな発展を見せ、軍事ブロックが拡大、強化され、軍事干渉主義の傾向が台頭、発展している。また、民族、宗教、領土などの問題によって、世界各地で局地の衝突と紛争が引き起こされている。さらには、南北の対立が日増しに先鋭化し、貧富の差が引き続き拡大されている。世界平和問題の解決はまだ程遠く、発展問題はなおさら重大なものとなっている。
覇権主義と強権政治は、当面の世界情勢に激動をもたらした主な根源である。コソボ戦争の発生は、人々に深刻な警告を発している。一つの地域的軍事組織が「人道」と「人権」を口実として、国連を無視して一つの主権国に対し大規模な軍事行動を取ったのは、国際関係において極めて劣悪な前例をつくった。この行為は「国連憲章」と公認の国際関係準則に違反し、国際平和と安全を擁護する面における国連の主導的役割を弱体化させ、国連安保理の権威をひどく損なった。この戦争で、在ユーゴスラビア中国大使館が爆撃され、人員が死傷し、建物がひどく破壊された。これは外交史上まれに見る出来事であり、当然のことながら全中国人民のこの上ない憤激を引き起こし、国際社会の強い非難を浴びた。
国連安保理常任理事国としての中国政府のコソボ問題に対する立場は、一貫した、明確なものである。われわれは、私利を謀らず、正義を主張し、世界平和擁護という大局から出発して、コソボ問題はユーゴスラビア連盟の主権と領土保全の尊重およびコソボ地域各民族の合法的権益の保障を踏まえ、平和交渉を通じて解決すべきであり、いかなる理由による武力行使にも反対すると主張する。
人類は間もなく二十一世紀を迎えようとしている。世界はどこへ行くのか、どのような国際政治経済新秩序を構築するのか。これは各国政府と人民が直面している急務である。
世界には重大にして深刻な変化が生じつつあるが、変化した世界にはそれに適応する国際政治経済新秩序が必要である。公正かつ合理的な国際新秩序を構築するのは、世界の平和と発展にとって必要なことであり、国際社会の共通の願いでもある。平和共存五原則、「国連憲章」の主旨と原則およびその他公認の国際関係準則は、国際新秩序構築の基礎となるべきである。ここで、特に次のいくつかの点を強調したい。
一、主権平等と内政不干渉。ここ一時期以来、いわゆる「人権が主権より高い」「人道主義による干渉」などさまざまな論調が大いに気炎を上げており、一部の国はこのような論調を実践に移しさえしている。われわれは、人権と基本的自由を促進、保護するのは各国政府の神聖な職責であり、いかなる国にも「国連憲章」の主旨と原則に基づき、国際人権に関する文書に従い、自国の国情および関係法律と結び付けて、自国人民の人権と基本的自由を促進、保護すべき義務があると考える。しかし、各国の政治制度が違い、発展レベルが異なり、歴史的、文化的背景や価値観がまちまちであるため、各国の人権問題に対する認識が異なり、ひいては食い違いが生じるのは正常な現象である。各国は平等と相互尊重を踏まえて対話と交流を行い、理解を深め、共通の認識を拡大し、食い違いを適切に処理すべきであって、対抗したりあるいは人権問題を口実として他国の内政に干渉すべきではない。本質から言って、人権問題は一国の内部の事柄に属し、主として各国政府自身の努力に頼って解決すべきものである。世界は多様化しており、すべての国にも自国の国情に合った社会制度、発展の道、価値観を自主的に選ぶ権利がある。中国とその他の発展途上国の歴史が示しているように、一国の主権はその国の人民が人権を享有する前提と基礎である。主権が損なわれれば、その国の人権が効果的に保護されるのは難しい。各国の主権平等と主権の相互尊重、相互内政不干渉は、現代国際関係の基本準則である。冷戦終結後、国際情勢に重大な変化が生じたが、国家主権の尊重と相互内政不干渉の原則は、決して時代遅れとなっていない。これらの原則を離れるかそれに背くなら、公認の国際関係準則が存在しなくなり、覇権主義が横行し、強権が正義と見なされ、新たな「砲艦政策」があふれ、一部の小国、弱国の主権と独立が損なわれ、世界の平和と安定も重大な脅威を受けるだろう。そのため、当面の情勢の下で、世界の平和と安定を守るためには、国家主権の尊重と相互内政不干渉の原則は弱体化されるべきではなく、着実に強化されるべきである。
二、国際紛争の平和的解決。百年前に開かれたハーグ平和会議が提唱した国際紛争の平和的解決の原則は、「国連憲章」の重要な原則の一つであり、現代国際法の基本原則となっている。百年の歴史が示しているように、この原則に背いたため、人類は「二回も言語に絶する凄惨な戦禍を被り」、一部の国の人は外国の侵略による苦しみをいやというほどなめた。当今の国際情勢の下で、国際紛争の平和的解決の原則の堅持は、依然として現実的意義を持っている。
国際紛争の平和的解決の前提は、国際関係において武力を行使しないかあるいは武力による脅威を行わないことである。われわれは、「戦争」「冷戦」と「強権政治」「集団政治」の思考と方法に頼っては国と国の関係を処理できないと考える。すべての国際紛争と地域衝突は、平和交渉、平等協議を通じて公正かつ合理的解決を図るべきであって、軍事面の強みにたのみ、武力を使用したり武力による脅威を行ったりすべきではない。こうしてのみ根本から問題を解決して、問題を複雑化、拡大化させず、隠れた災禍を長期にわたって残さないことができ、国と国が睦まじく付き合い、共に発展することができるのであり、また、こうしてのみ世界の恒久的な平和と安定に役立つのである。これに反すれば、世界には永遠に安寧の日は訪れないだろう。
三、国連の役割の強化、安保理の権威の擁護。平和と発展を真に実現し、公正かつ合理的な国際新秩序を構築するには、国連の役割が欠かせないものである。国連の役割の強化は、歴史の潮流、時代の発展の要請、世界各国人民の共通の願いに合致する。
国連の役割を強化するには、まず「国連憲章」の主旨と原則の厳粛性の擁護に力を入れるべきである。国連が五十一の創始加盟国から現在の規模にまで発展できた最も重要な原因は、国連が「国連憲章」の主旨と原則を自らの行動の準則にしてきたことにある。今日、「国連憲章」の主旨と原則はすでに国際実践に深く根を下ろし、各国間の平和と友好関係を規範化させる法的基礎となっている。中国政府は、国際情勢にどんな変化が起きても、「国連憲章」の主旨と原則が時代遅れのものではないと考える。われわれは、いかなる理由と口実で、「国連憲章」の主旨と原則に対し無責任な解釈と改ざんを行うことに反対する。
国連の役割を強化するには、安保理の権威を擁護しなければならない。「国連憲章」の規定によれば、安保理は国際平和と安全を擁護する面で最も重要な責任を負っている。実践が証明しているように、安保理の役割は代替できないものである。当面の情勢の下で、安保理の権威性と主導的役割を擁護することは、ことのほか重要である。安保理の権威を弱め、極少数の国あるいは国家ブロックの意志を安保理の上に凌駕させるいかなるやり方も非常に危険なことであり、世界平和の擁護に役立たないばかりでなく、強権政治と覇権主義をいっそうはびこらせ、限りない危害を残すだろう。
国連の役割を強化するには、すべての加盟国が平等に国際事務に参与する権利を確保し、国連に加盟国の合理的な主張を十分に反映させ、その正当な権益を擁護させなければならない。国連の行う決定は、大多数の加盟国の共通の意志を反映しなければならない。少数の国あるいは国家ブロックが世界事務を一手に解決し、他国人民の運命を左右するやり方は、時代の潮流に背くものであり、絶対に通用しないものである。
四、新しい安全観の樹立、国際安全擁護。軍事同盟を基礎とし、軍備強化を手段とする古い安全観は、国際安全の保障に役立たず、世界の恒久的平和をなおのことつくることができない。当今の世界は、時代の要請にこたえた新しい安全観を打ち立て、平和と安全を守る新しい方途を模索する必要がある。新しい安全観の核心は相互信頼、互恵、平等、協力であるべきである。平和共存五原則と「国連憲章」の主旨は、国際安全を守る政治的基礎であり、互恵協力と共同発展は、国際安全を守る経済的保障であり、平等対話、十分な協議、平和交渉は、国際安全を守る正しいやり方である。
国際情勢の緩和と軍縮の進展は、相互に補完するものである。残念ながらここ数年、国際情勢に若干の消極的事態が現われて、軍縮の健全な進展をひどく阻害したことを指摘しないわけにはいかない。どのように軍縮の進展を推し進め、軍備競争を防止し、国際安全を守るかは、国際社会が関心をもつ差し迫った問題となっている。われわれは、根も葉もない口実で、一国の合理的な自衛を行うのに必要な量を超える軍事力を求めることにも賛同しなければ、軍縮と拡散防止の名義で他国を制限し、弱体化させ、一国あるいは国家ブロックのために一方的な絶対安全の優位を求めることにも反対する。われわれは、世界平和と国際安全に役立てるため、国際社会が新しい安全観を指針として、根本から軍縮の健全な進展を促すよう呼びかけるものである。
五、国際経済体制の改革、各国の共同発展の促進。不合理な経済旧秩序は、世界経済の健全な発展をひどく阻害し、南北の貧富の格差をいちだんと拡大している。二年前の東南アジア金融危機は、世界の多くの国に波及した。金融リスクの予防、経済安全の確保は、多くの国、とりわけ発展途上国の直面する差し迫った課題となっている。世界経済は、緊密につながって分割できない統一体であり、国際社会のすべてのメンバーは責任を負う態度、ともにリスクを担う精神で協力を強化し、ともに世界経済の安定した発展を促すべきである。そのため、現有の国際経済・金融体制を改革しなければならない。国連と国際金融機構は、金融とその他の経済リスクを予防、克服する枠組みを真剣に構築すべきである。先進国は相応により多くの義務を担うべきである。発展途上国には、世界経済の決定と関連規則の制定に平等に参与する権利がある。世界貿易機関(WTO)は間もなく新しいラウンドの交渉を始めるが、発展途上国の合理的な要求を十分に具現すべきである。平等互恵を実行し、協力を強化しなければならない。いかなる国も自国の経済、技術、金融の強みを恃んで、他国の経済安全と発展を損うべきではない。貿易面の差別扱いと不等価交換に反対し、富裕をもって貧しい国をおさえつけることに反対し、ややもすれば他国に経済制裁を加えたり経済制裁を加えると脅したりすることに反対する。先進国と発展途上国にはそれぞれ長所と強みがあり、共同の持続可能な発展を実現するため、互いに相手の長所で自らの欠点を補うべきである。同時に、環境、人口、貧困、債務などグローバルな問題の上では、先進国は責任と義務を回避するべきではなく、率先して行動し、技術、資金などの面から発展途上国に援助を提供すべきである。われわれは、適当な時に経済グロバール化の問題についての特別国連総会を開き、この方面における国際協力と共同繁栄を促す必要があると考える。
中華人民共和国は間もなく建国五十周年の記念日を迎える。半世紀とりわけ改革・開放二十一年以来、中国には天地を覆すような変化が起こり、中国人民は社会主義の経済建設、政治建設、文化建設および外交分野など各方面において、いずれも大きな成果を挙げた。一昨年の香港の復帰に続いて、中国政府は間もなく澳門に対する主権行使を回復する。いま、中国は政治が安定し、経済が持続的に発展し、各民族が団結し、社会が安定、進歩している。われわれの前進途上にはさまざまな困難と厳しい挑戦があるが、われわれは、困難を克服し、挑戦に打ち勝ち、富強、民主、文明の社会主義を建設する事業を二十一世紀に全面的に向かわせる自信があり、その能力を持っている。
絶え間なく変化する国際情勢を前にして、中国政府は確固として変わることなく経済建設を中心に据え、改革・開放を推し進め、社会の安定を保持し、独立自主の平和外交政策を実行する。われわれは平和共存五原則を踏まえて、引き続き世界各国との友好協力関係を発展させ、世界平和を擁護し、共同の発展を促すためにしかるべき貢献をしたい。
中国政府と人民はこれまで通り、中国の主権、領土保全を確固として擁護し、たえず祖国統一の大業を推し進める。世界に中国は一つしかなく、台湾は中国領土の不可分の一部であり、中華人民共和国政府は全中国を代表する唯一の合法政府で、このことは国際社会に公認された事実である。中国の領土と主権に対する分割は、絶対に許されない。祖国の最終的統一の実現は、台湾同胞を含む全中国人民の共通の願いと強い決意であり、いかなる力も阻むことのできないことである。中国政府は引き続き台湾問題を解決する既定方針を堅持している。われわれは、「台湾独立」「二つの中国」「一つの中国、一つの台湾」をつくる企てに断固反対する。いかなる祖国分裂活動も必ず失敗に終わるものである。中国統一の大業は必ず実現しなければならず、中国統一の大業は必ず実現することができる!
数日前、中国の台湾に大地震が発生し、台湾同胞の生命と財産は大きな損失を蒙った。われわれはこの重大な被災状況に極めて深い関心を示し、被災した同胞と死亡した同胞に心からの慰問と深い哀悼の意を表する。両岸の同胞は血を分けた身内であり、台湾同胞の災難と苦痛に対し、全中国人民は関心を寄せている。われわれは地震によってもたらされた災害と損失を軽減するため、可能な限り援助を提供したい。私はこの機会を借りて、国連総会の議長および国際社会が示した同情、慰問と援助に感謝する。
二十一世紀の光明は昇りつつある。世界の前途は明るいものであり、新しい世紀は必ずより麗しい世紀となるであろう。中国人民は、公正かつ合理的な国際新秩序を構築し、新しい世紀の平和と発展、人類社会の全面的な進歩のため、各国人民とともに奮闘したい。