一九九九年のアメリカの人権記録
国務院新聞弁公室
(2000年2月27日)
アメリカ国務省は二月二十六日、一九九九年版の「世界人権報告」を発表し、中国の人権が絶えず改善されているという客観的な現実を無視し、甚だしい政治的偏見を抱きつつ、再度大量のスペースを用いて中国をみだりに非難した。この「人権報告」は世界各国の人権状況を非難したものであるが、アメリカ自体の人権問題に対しては口を閉ざしている。こういったことにかんがみて、われわれは一九九九年のアメリカの人権記録について考察してみる必要が大いにある。
一、脅かされる市民的、政治的権利
アメリカでは銃があふれ、暴力犯罪は深刻であり、市民の生命と身の安全はゆゆしく脅かされている。米司法省の推定によると、現在のアメリカ人が所有する銃の数は二億三千五百万挺(ちょう)で、平均してほぼ一人につき一挺の銃があることになる。銃による殺人事件は毎年百万回余り発生しており、一九七二年以来、銃による殺人、事故、自殺などで命を失った人の数は毎年三万人を越えている(注1)。ある国際的調査によると、世界の三十六の先進国のうち、銃による殺人、事故、自殺での死亡率はアメリカが最も高い(注2)。ドイツのDPA通信の九九年五月十日付発表によると、アメリカでは九五年に故意による殺人および過失致死事件二万千六百件が報道され、そのうち一万五千五百五十一件が銃を使ったもので、三万五千六百七十三人が凶弾に倒れたということである。また、八五年から九五年までの間のアメリカにおける青少年犯罪は倍増し、中でも銃による殺人事件は三倍も激増した。さらに、九七年には十五歳から二十四歳までの若者によって六千四十四件の銃による殺人事件が発生した(注3)。
アメリカのキャンパスでは銃による被害があちこちで発生し、殺人事件が跡を絶たない。アメリカでは十校につき一校の割合で少なくとも毎年一回は重大な刑事事件が発生しており、さらに銃にからんだ殺人や暴力事件がますます増える傾向にある。九七年と九八年の二年間で、アメリカでは合計四十八人が校内暴力で死んだ。昨年四月にコロラド州のコロンバイン・ハイスクールの二人の生徒が銃と手製の爆弾で十三人の教師と学生を殺害し、二十五人に傷を負わせて、アメリカ史上最も悲惨な銃による校内殺人事件となった。統計によると、アメリカの青少年十万人につき毎年平均して十五人が銃によって命を落とし、十五歳以下の子供が銃による殺人事件に不意に巻き込まれる割合はその他の二十五の先進国における合計の十五倍も多い。
アメリカの警察官がむやみに暴力をふるう現象は普遍的なものとなっており、司法の腐敗も深刻である。アメリカの『ウォーカーズ・ワールド』紙の昨年三月二十五日付の報道によると、一九七二年から九一年までにシカゴで証拠としての記録がある警察官による暴行事件は合計六十五件発生しているが、そのために取り調べを受けた警察官は一人もいない。一九九六年、三千人の人がシカゴの警察官の暴力乱用について告訴したが、それによって解雇されたものはいない。サンフランシスコで一九九〇年から九五年までの間に発生した殺人事件で、警察官の発砲によって死者が出た事件は百件につき平均四・一件あった。サンフランシスコにおける警察官に対する訴訟事件は毎年千ないし二千件に達しているが、公務執行中の発砲で起訴された警察官は一人もいない(注4)。ここ五年来、連邦職員の腐敗、野蛮な行為、およびその他の罪名で刑を言い渡されたもと司法関係者は合計七百五十六人となって、記録的数字となった。また、連邦刑務所で服役したもと司法関係者は、一九九四年の百七人から九九年の六月には約六倍の六百五十五人に増えた(注5)。
アメリカは「自由の大地」であることを自らの誇りとしているが、収監されたことのある者の全米の人口に対する割合は世界でもトップである。米司法省司法統計局が昨年発表した数字によると、九八年にアメリカで服役中、執行猶予中、および仮釈放中の成人犯罪者は成人総人口の三%の五百九十二万人に達し、三十四人につき一人の犯罪者がいることになる。そのうちの百八十二万人は現在各州あるいは連邦刑務所に服役中で、一九八五年末の七十四万四千人より倍以上も増えており、史上最高の数を記録している(注6)。一九八五年から九八年までの間に、服役者の数は毎年七・三%の割合で激増し、収監率は倍増して、収監されている者の数は十万人につき三百十三人から六百六十八人に増えた。AFP通信が今年二月十六日に米司法省のデータを引用して伝えたところによると、今年二月十五日現在におけるアメリカの刑務所に収監されている受刑者の総数は二百万人に達し、全世界の犯罪者総数の四分の一を占め、世界一となっている。
刑務所で受刑者は脅えきっており、暴力沙汰が常時発生し、受刑者の待遇も悪い。一九九〇年から九七年までの間に、アメリカにおける受刑者の平均刑期は二十二カ月から二十七カ月に延び、釈放された受刑者の割合は三七%から三一%へと下がった。また、仮釈放された後に新たに罪を犯して再び刑を言い渡されたものは三九%増え、新たな犯罪者は四%増えた(注7)。一九九八年十二月三十一日の時点において、アメリカの州刑務所の服役囚の定員オーバーは一三%から二二%に、連邦刑務所では二七%にまで達し、三十三の州刑務所の服役囚定員オーバーは百%に達していた(注8)。『ニューヨーク・タイムズ』紙の昨年四月の報道によると、ニューヨーク州ナッソー郡の刑務所で受刑者の多くに激しい暴行が加えられていることが人びとを驚かせ、殴られた人の中には死に至ったものも多かったが、十数年このかた罪を問われた刑務官は一人もいなかった。アメリカではまた、獄中で老衰死する受刑者の方が刑期満了で出獄する人よりもはるかに多い。八〇年代の初めのアメリカにおける老人の服役囚の数は九千五百人ほどであったが、今では三万六千人余りにまで激増し、二十二万人余りの受刑者が十年以内に老人の域に達することになる。
アメリカの刑務所当局は利益を得るために受刑者を労働力として大量に使い、服役囚たちに支給される金は一日二十三セントから一ドル十五セントと幅はあるが、現在のアメリカにおける最低賃金は時給五ドル十五セントである。『ボストン・グローブ』紙の昨年九月二十六日付の報道によると、九十四カ所の連邦刑務所で服役している受刑者が米司法省管轄下の会社で電子部品、家具、アパレルおよびその他の製品の生産に従事させられ、その会社の一九九八年における売上高は五億四千万ドル近くとなった。アメリカのある刑務所ではすでに料金徴収を始めており、受刑者は入獄するだけではなく、入獄期間の費用を支払わなければならなくなっている。八〇年代には安い労働力と高い利潤を国外に求めていた企業も、視点を変えて百八十万人の受刑者の労働力を利用するようになったのである。アメリカの二つの会社は政府機構と契約を結んで百カ所余りの刑務所に収監されている十万人近くの受刑者の管理を請け負い、毎日頭割りで料金を徴収した。一人の受刑者の食費や居住費に管理費を加えると一日三十五ドルになり、受刑者の数が減らない限り契約期間内にこれら二社の毎年の総収入は千二百七十八万ドルに達することになる(注9)。
アメリカには政治犯が一人もいないと、アメリカは自ら公言している。しかし、アメリカの『ウォーカーズ・ワールド』誌の昨年四月二十九日の報道によると、アメリカでは少なくとも百五十人の政治犯が収監されているという。その多くは六〇年代末から七〇年代初めにかけて、米連邦捜査局(FBI)の防諜プログラム「コインテルプロ」のために投獄された人たちである。自衛権を行使し抑圧に反抗するいかなる被抑圧者の運動や東南アジアの戦争においてアメリカに反対する運動、およびプエルトリコの独立を支持する運動などのすべてがコインテルプロの攻撃目標となった。一九六七年五月から六九年十二月の間だけでも、コインテルプロによって逮捕されたブラック・パンサー党のメンバーは七百六十八人を下らない(注10 )。
アメリカが標榜している民主主義は、もともと少数の金持ちのためのものである。一九九八年にアメリカで出版された『議会買収 特殊な利益がいかにあなたの生命、自由と幸せを求める権利をかすめ取っているか』という本では、米連邦議会はすでに特殊な利益集団の道具になっていると指摘されている。同書に列挙された例によると、一九八七年から九六年までのアメリカの五百の大企業が連邦議会の政府活動委員会を通じて議員たちに少なくとも一億八千二百万ドルを寄付し、民主、共和両党に七千三百万ドルに達する政治献金を提供したという。同じ期間にいくつかの大手たばこ会社が行った連邦議会議員と二大政党に対する「献金」は三千万ドルを上回り、その見返りとして連邦議会は大手たばこ業者に優遇措置を取った。また、保健・医療関係の企業も議員に七千二百万ドルを上回る寄付を行い、議会は大中企業がその従業員の健康保険費用の企業全体のコストに占める割合を一九八〇年の五四%から九三年に二〇%にまで引き下げることに協力した。銃による事件も後を絶たないが、アメリカの銃協会は二カ月間に百五十万ドルの遊説費用を使うことを通じて、議員たちを自らの目論見通りに操り、アメリカの大多数の人が強く支持し切望している銃取締法案を否決に持ち込むことに成功した。こういったことのため、アメリカの民衆の政治参加の意欲は日々にしぼんでいったのである。一九八八年のアメリカにおける中間選挙の投票率はわずか三六・一%で、投票率が下降する傾向にあったここ三十年のうちでも最低の比率となった。三十六の州で、投票率は一九九四年と比べていずれも低いものとなった。共和党支持の有権者の投票率は四・三ポイント下がり、民主党支持の有権者の投票率も二・一ポイント下がった。
アメリカには報道の自由があるとアメリカは自ら誇吹しているが、アメリカのメディアはすでにアメリカの「国家権力の資源」および為政者が民意を形成する宣伝の道具となっている。CNNのコソボ問題報道の内容に関する統計を分析したところ、CNNのすべての報道の中で片方の言い分だけによるものが六八・三%を占め、しかもそのニュースソースはアメリカ政府筋の手によって厳格にコントロールされていたことが明らかになった。統計によると、そのニュースソースの五〇%がアメリカ政府筋発表の情報からであり、二六・五%と一四・七%はそれぞれ北大西洋条約機構(NATO)軍側と「コソボ解放軍」および国外に逃亡したアルバニア系難民が提供した情報であった。ある全国規模の調査の結果によると、記者の言葉を信じる人は二%、テレビのニュース番組を信じる人は五%、テレビの取材番組のキャスターに対する信頼度の比率は一%でしかないことが判明した(注11)。
二、経済的、社会的権利の状況は深刻
アメリカは現時点では世界の先進国のトップであり、その経済はすでに九年連続で成長を続けてはいるが、二極化が激しく、そのため労働者大衆の経済的、社会的権利の状況にはかなり厳しいものがある。
アメリカ社会は貧富の差が大きく、イギリスの週刊誌『エコノミスト』の一九九八年十月三日付の文章によると、アメリカの家庭総数の五分の一に相当する最も裕福な階層がアメリカの総収入の半分を占めている一方で、同じく家庭総数の五分の一に当たる貧困層の総収入が占める比率は四%にも達していないという。アメリカの予算と政策優先研究センターが昨年九月に発表した「広がる収入格差」という題のレポートは、最も裕福な二百七十万のアメリカ人の収入は最貧困層の一億人分の収入に相当することを明らかにした。一九九八年だけでも、収入の最も多い人びとと最も少ない人びととでは、インターネット加入における差は二九%も広がった(注12)。アメリカ経済政策研究所と予算・政策優先研究センターが今年一月十八日に共同で発表した「二極化:各州の収入状況の分析」というレポートによると、九〇年代末にはアメリカの家庭の五分の一の裕福者層の平均年収は十三万七千五百ドルで、最貧困層の五分の一の家庭の平均年収の一万三千ドルの十倍であるという。首都ワシントンの貧富の収入差は最も大きく、二十七倍に達した。四十六の州では最も裕福な五分の一の家庭と最も貧しい五分の一の家庭の間の収入の隔たりは、二十年前を上回っている。過去十年の間の収入が最も高いレベルにある五分の一のアメリカの家庭の平均年収は八〇年代末に比べて一五%増えているのに対し、収入が最も低いレベルにある五分の一の家庭の平均年収は一%増えただけで、税引き後の手取りは過去二十年で実質上は少なくなった。なぜなら過去二十年の間に、最低賃金と中間賃金は下がりこそすれ一貫して増えることはなく、最近になって若干上がっただけであるのに、報酬が最も多い労働者の給与は 「大幅に」増えたからである(注13)。昨年八月三十日付の『ワシントン・ポスト』紙で発表されたある研究レポートでは、アメリカ企業のトップにいる社長と従業員の平均給与額の差は九〇年代には極端なほどに拡大し、その比例は一九八〇年の四十二対一から九八年の四百十九対一にまで広がった。一九九八年における大企業のトップの役員の平均年収は一千六十万ドルで、九〇年の百八十万ドルに対し六倍に跳ね上がっている(注14)。
労働者の権利はゆゆしく侵害されており、『シカゴ・トリビューン』紙の昨年九月六日付の報道によると、過去二十年の間にほとんどの労働者の賃金はいくらか下がり、その一方で労働時間は以前に比べて長くなっているという。国際労働機関(ILO)が昨年九月六日に発表したレポートによると、アメリカの労働者の労働時間は工業先進諸国でも最長で、労働者一人当たりの年間勤務時間は一九八〇年より八十三時間長くなり、四%近く増えたことになることが明らかにされた。国際自由労働組合連盟(ICFTU)が昨年七月に発表したレポートでは、アメリカは労働者の権利を「大規模で持続的かつ驚異的に」侵害していると指摘されたが、その中には労働組合を組織する権利の侵害や少年労働者と服役囚を労働力として使っていることも含まれている。アメリカでは約四〇%の七百万人近くの公務員が労使間の団体交渉権を剥奪され、同時に二百万人余りの連邦政府職員が勤務時間あるいは賃金などの問題でストライキをしたり交渉したりすることが禁止されている。民間部門におけるアメリカの労働者はしかるべき保護が得られておらず、民間会社の不法行為を取り締まる法律は往々にして薄弱で何の役にも立っていない。ILOの労働者に関する七項目の労働基準のうち、アメリカが批准したのはわずか一項目のみで、「世界の批准記録のワースト・ワン」と言われている(注15)。アメリカは普遍的な無償医療保険制度を唯一実行していない工業先進国である。米商務部統計局の報告によると、アメリカには全人口の一六・一%に当たる四千三百四十四万八千人が医療保険に加入していないという。また、全米で貧困者全体の三一・六%に当たる千百二十万人の貧困者が医療保険に加入していない。さらに、三〇%のニューヨークの住民は一年間の大部分の日数をいかなる種類の医療保険もなしで過ごしている。
貧困人口はますます増える一方である。現在アメリカが実施している厳しい支出切り詰めと人びとの暮らしを顧みない経済政策は、多くのアメリカ人の生存を脅かしている。米商務省統計局の報告によると、アメリカでは総人口の一三・三%に相当する三千五百八十万人が極貧の生活をしており、アメリカ人六・五人につき一人の割合で貧困者がいることになる。アメリカのある雑誌が昨年四月十六日に掲載した文章は、アメリカの実際貧困人口は総人口の二二・五%を占める六千万人以上になると計算している。昨年コロンビア大学が発表したある研究レポートは、ニューヨークでは二九%の人の生活が貧困ライン以下で、五%の人の収入が貧困ラインの五分の一にすぎず、七%の人は時々食べるのに十分な金がなく、一七%の人は常に各種費用の支払いが遅延していることを明らかにした(注16)。
十分に食べられない人とホームレスはますます増えている。アメリカ市長会議が昨年十二月十六日に発表したある調査レポートによると、アメリカの大都市では住宅と食料を緊急に必要としているホームレスは過去最多を記録し、昨年中に緊急食料を申請した人は九八年よりも一八%増え、九二年以来では最高の数になっているという(注17)。また、今年一月二十日に発表されたある研究レポートによると、アメリカでは三千万人余りが十分に食事ができない家庭で生活し、七・二%の家庭が食べ物の保障を得ておらず、一五・二%の家庭の子供が空腹を耐え忍んでいるという(注18)。昨年アメリカの各大都市で臨時宿泊所を申請した人は、九八年より一二%増えた。サンフランシスコには一万四千人近くのホームレスがおり、少なくとも百六十九人の浮浪者が、寒さ、麻薬の吸引、病気、暴力などによってサンフランシスコの路上で命を落とした。寝ているところを放火されて浮浪者が焼死するといった事件が何度も発生した後、一九九四年にニューヨークで行われたある研究によって、八〇%のホームレスが暴力犯罪の対象になっているという事実が判明した(注19)。さらに、昨年十二月に発表されたある研究レポートは、調査対象となったホームレスのうち六六%がひどい慢性病を患っており、そのうち三分の一が子供を持つ人、四分の一が子供で、三分の一が退役軍人であり、四九%の人が治療を必要とする精神病にかかっていたと述べた(注20)。
三、容易に解決されない人種差別
人種差別はアメリカで、最も長期間にわたる最も深刻な社会問題である。昨年、アメリカの政府当局による中国系アメリカ人科学者の李文和(ウェンホー・リー)氏の核スパイ疑惑事件の処理で、アメリカ固有の人種差別問題が再度浮き彫りにされた。FBIには李文和氏がスパイ行為を行ったことを証明する証拠がないという状況であったにもかかわらず、米司法省は機密を不法に扱ったという罪名で李文和氏の起訴に踏み切ったのである。米中央情報局(CIA)のジョン・ドイッチュ前局長もかつて李文和氏と似たようなことをしたことがあったが、機密文書に接する資格を取り消されただけであった。それに対して李文和氏は政府によって一年間監視されることになり、しかも刑務所に収監されて保釈さえ許されなかった。アメリカ当局がただ李文和氏のことだけを特に指摘して調査したのは、李氏が中国系であったからにすぎない。アメリカの『ウォーカーズ・ワールド』誌が昨年十二月二十三日に掲載した文章は、このようなあからさまな差別は「マッカーシズムの再来である」と指摘した。アメリカのある基金会とハーバード大学の不平等と社会政策マルチディシプリナリー・トレーニング・プログラムによる昨年十月の調査によって明らかになったように、アメリカ文化における人種の影響は根強く、多くのアメリカ人が意識しあるいは認めたいと願っていることよりはるかに深刻なものである(注21)。
アメリカの人種差別は至る所に存在している。黒人はアメリカの人口の一三%にすぎないが、服役囚の総計の四九%を黒人が占めている。黒人女性が収監されて刑に服する比率は白人女性の八倍以上も高く、ラテン系アメリカ人の女性が収監されて刑に服する比率は白人女性の四倍近くになる。十八歳以上のアメリカ・インディアンのうち、二十五人につき一人が刑務所で服役中か執行猶予中、あるいは仮釈放中である。米医療協会が昨年三月に公表した調査レポートは、白人で貧困ライン以下の生活をしている人は一五・三%だけで、メキシコ系アメリカ人と黒人の貧困率はそれぞれ四五・七%と四二・五%に達していることを明らかにした。また、米移民研究センターが昨年九月二日に発表したレポートは、移民の貧困率は一九七九年から九七年までの間に一二三%増え、移民家庭の貧困率は一五・五%から二一・八%に上昇し、貧困人口は二百七十万人から七百七十万人にまで増えたと指摘した。また、一九八九年から九七年までの間に新たに増えた貧困人口のうち、移民は七五%を占める三百万人に達した(注22)。教育の面では、白人が平均して十二・八年の教育を受けているのに対し、黒人とメキシコ系アメリカ人はそれぞれ十一・八年と九・三年足らずであるにすぎない(注23)。また、ニューヨークの白人の十分の三は少なくとも一つの大学の卒業証書を取得しているが、ラテン系とアフリカ系アメリカ人で大学の卒業証書を取得している人は十分の一にも満たない。アメリカの少数民族はすべての健康基準の面で白人より遅れていると言ってもよい。アメリカの黒人、スペイン系アメリカ人、先住民族が総人口に占める割合は二四%であるが、そういった人びとに対する医師の数は医師の総数の七%にすぎない。一九九六年生まれの白人男子の想定平均寿命は七十四歳であるのに対し、黒人男子の想定寿命は六十六歳である。また、女子の場合も白人は八十歳であるのに対し、黒人は七十四歳にとどまる。黒人と先住民族の乳幼児の死亡率はそれぞれ白人より二倍と一・五倍高い。スペイン系アメリカ人と黒人のそれぞれ三八%と二四%が医療保険に加入していないのに対し、白人は一四%のみである(注24)。さらに、デトロイトでは、手に職のない白人の失業者が新しい職を見つけるまでに平均して九十一時間を費やすが、黒人の場合は百六十七時間かかる(注25)。そればかりでなく、黒人の農民は政府の特別貸し付けを得る面で、少数民族はエイズの治療を受ける面でいずれも差別を受けている(注26)。
人種差別による警察官の暴力も、次々と表沙汰にされている。昨年三月十六日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙の黒人の住民を対象とした調査により、警察官は黒人に対し常に暴力的だと九〇%近くの人が感じていることが明らかになった。昨年発表されたある別の調査は、五五%のラテン系アメリカ人と六三%の黒人が最近では警察官の乱暴な行為が増えていると感じており、六七%のラテン系アメリカ人が今の警察官は白人の肩を持ち、その他のマイノリティー人種の市民に対しては暴力的方法を取ると感じていることを明らかにした(注27)。アメリカの警察官は常に、皮膚の色が白いか黒いかを犯罪容疑の判断の基準にしている。アメリカの裁判所は、ある人に尋問を行うべきかどうかを決めるのに「人種」が問われることはかまわないと明文規定している。昨年三月の人権観察報告によると、九六年にシカゴの警察官の行為が野蛮で、問題を処理する際に人種差別的傾向が存在し、さらには暴力まで乱用したと告訴した三千人の人びと(その大多数が黒人とラテン系の人びと)がいたが、今までに解雇された警察官は一人もいない。サンフランシスコにおいて一九九三年から九六年までの間に、警察官の発砲によって射殺された人のうちの七五%はマイノリティーの人たちあるいは低収入地域の人であった。リノ司法長官は過去五年間に、警察官が職権を乱用して有色人種を虐待した事件三百件余りを米司法省が処理したことを認めた。昨年二月四日、四人のニューヨークの警察官は何ら前科のない二十二歳の西アフリカからの黒人移民アマドウ・ディアロ氏を容疑者と「誤認」し、相手が全くの素手であったにもかかわらず四十一発の弾を続けて発砲し、そのうち二十四発が命中して氏は死亡した。この事件はアメリカの警察官がみだりに暴力を振るう最近の典型的な事例となった。『ニューヨーク・タイムズ』紙は昨年五月二日付で、黒人の家庭では収入が多い少ないにかかわらず、いつの日か警察官に犯人者だと誤認されて射殺されるのではないかとだれもが脅えていると報道した。
人種憎悪による殺人事件は増加する一方で、白人至上を吹聴するさまざまな組織が次から次へと設立され、黒人、ユダヤ人、アジア人を攻撃目標と見なし、世間を震え上がらせるような人種への怨恨による殺人事件を絶えず起こしている。統計によると、アメリカの白人の「ヘイトリド・グループ」の数は一九九七年の四百七十四から九八年には五百三十七に激増した。米司法省は、一九九八年に発生した九千件近くの殺人事件のうち、半数以上が人種憎悪による殺人と関係があると発表した。人種憎悪による殺人のうち、アメリカ・インディアンが最も侵害されやすく、米司法省が昨年作成した統計データによると、九二年から九六年のまでの間に、十二歳以上のアメリカ・インディアンの千人につき百二十四人が犯罪の被害者となっており、この割合は黒人の二倍で、全国平均水準の二・五倍である。人種対立の激化によって、アメリカで三十年余り実施されてきた人種差別の悪い結果を償うという趣旨の「公民権法」は攻撃にさらされている。
四、侵害を受ける婦女子の権利
性差別はアメリカ社会の不治の病である。列国議会同盟(IPU)が今年一月に発表したレポートによると、米連邦議会議員の中で女性が占める割合はわずか一二・九%である。国家婦人・警官センターのある最新レポートは、一九九〇年から九七年までの間に全国の司法関係機関における女性の比率は三・二%増えただけであることを明らかにした。調査対象となった百七十六の警察機構のうち、三分の一の機構で上級警察官に任命された女性は一人もおらず、四分の三の機構で上級警察官に任命された少数民族の女性はいなかった(注28 )。ロイター通信の昨年七月十四日付の報道によると、アメリカの労働力の四五%前後を女性が占めているが、その平均収入は男性の七五%にすぎず、中でも黒人女性は男性の六五%、スペイン語系各民族の女性は男性の五七%のみである。大学教育を受けた女性の給与も男性の給料の七六%でしかない。建築業の男性従業員の年収は二万八千三百ドルであるのに対し、女性の年収は二万千二百九十九ドルにすぎない。
アメリカでは女性の労働に対する保護と社会保障が極めて劣悪である。一九九八年二月に国際労働組合連盟(IFTU)が発表した世界の百五十二カ国における妊婦の労働保護に関するレポートでは、アメリカの女性には三カ月の産休が無給で与えられるのみで、勤務中の授乳時間はなく、仕事を持っている母親のうちの四〇%が医療保険に加入していないことが明らかになった。ロイター通信の昨年九月二十一日付報道によると、一九六〇年以来アメリカの女性の結婚率は三分の一以上も下がった。一九六〇年には十五歳以上の独身女性千人のうち七十三人が結婚したが、九六年にこの数字は千人中四十九人のみとなった。シカゴ大学のある調査レポートによると、アメリカで子供を持つ既婚夫婦で構成される家庭が占めるパーセンテージは七〇年代初期の四五%から九八年には二六%に下がった (注29)。母子家庭が次第に増えて、生活はますます苦しくなっている。米予算と政策優先センターのある研究レポートは、一九九五年から九七年までの間に、母子家庭で最貧困層の五分の一の家庭の平均収入(経済情況によって支給された生活手当を含む)は七%近く減少し、約二百万世帯の六百万人がその影響を受けていることを明らかにした。そのうち最も貧しい一〇%の母子家庭の収入は一五%近くも減った(注30)。
女性は深刻な家庭内暴力の主な被害者でもある。米司法省の推定によると、アメリカでは毎年少なくとも四百二十万件の家庭内暴力犯罪の訴訟事件が発生しており、そのうち九五%の被害者は女性である。一九九二年から九七年までの間におけるアメリカの軍人の家庭の暴力事件は普通の家庭より五倍以上も多く、軍人の配偶者である五万人が家庭内暴力の被害者となった。ますますエスカレートする家庭内暴力は、アメリカの女性の健康と生活の安全に最も影響する大きな要素となっている。
アメリカの女性の服役囚の人権は、ゆゆしく侵害されている。昨年三月にアムネスティー・インターナショナルが発表したあるレポートによると、一九九七年にはアメリカの各刑務所に十三万八千人の女性が収監されており、八五年より四倍に増えている。刑務官たちは所持品を調べるための身体検査を口実に常に女子受刑者に対してセクハラ行為をし、女性の服役囚が性的暴行を受けるのは日常茶飯事である。アメリカの連邦A級女子刑務所および矯正施設の刑務官や矯正職員のうち、男性は七〇%を占めている。また、刑務所で女子受刑者に接する人のうち四一%が男性で、このことは国連の関連規定に違反している。アメリカの十一の州の刑務所を対象に行った調査では、女子受刑者のほとんどがセクハラや暴行の恐怖を体験した経験があることが判明した。何人かの刑務官が自ら性的暴行やその他のセクハラ行為をしたことがあるばかりでなく、金銭あるいはその他の利益との交換によって男子受刑者に女子刑務所に入って性欲を満たすことを許している。女子受刑者たちは何度も関連部門に刑務官の暴行を訴えたが、どこの刑務所でも救済・調査手続きは役割を果たすことができずにいる。一九九八年に行われたある調査は、九七年から九八年までの間にアメリカで二千二百人の妊婦が刑務所に収監され、千三百人の子供が刑務所内で出生したことを明らかにした。少なくとも四十の州の刑務所で妊娠している受刑者が出産する際、手足はすべて鎖でつながれ、手錠と足かせを身に付けさせられるといった状況で、出産時の体の自由が奪われ、しばしば母子ともに生命の危険にさらされている。女子受刑者の子供は生まれるとすぐに母親から引き離され、母親と顔を合わせることはできない。アメリカの多くの刑務所には医師と看護婦が常駐しておらず、ある女子受刑者は数カ月も待って、ようやく医師の診察を受けることができた(注31)。
アメリカの少年の状況には憂慮すべきものがある。アメリカは世界でも少数の、少年犯罪に死刑を適用している数カ国のうちの一つで、青少年に死刑の判決を下すことが最も多い国である。一九九四年以来、アメリカでは少年法を修正した州が四十三あり、国連の関連規定に違反して未成年者の犯罪に対して成人の犯罪と同様の刑罰で対処し、そのうちの半分の州は従来の「刑事処分対象の最低年齢」の制限を撤廃した。テキサス州議会は新しい法律の制定に着手し、死刑を適用できる年齢を十一歳に引き下げる準備さえしており、ミシガン州では自宅の隣に住む住民を射殺した十一歳の少年に無期懲役の判決を下すという事例があった。一九九七年にはアメリカで、三百二十万人の児童が虐待され、無視された。一九九五年のデータによると、インディアンの子供では三十人に一人が虐待を受けたが、全国の平均的比率は五十八人につき一人となっている。一九九二年から九五年までの間に、インディアンの子供が無視され虐待された割合は一八%に上昇した(注32)。AP通信の昨年十一月二十九日の報道によると、アメリカの一千四百五十万人の児童のうちのほぼ五人に一人が貧困の中で生活しているという。一九九八年の時点では一千百十万人の十八歳未満の少年が医療保険に加入していない。また、毎年三百万人の青少年がHIVに感染したりエイズが発病し、その他の性病を感染している。現在のアメリカ家庭では、十二歳および十二歳以下の人口の六・四%が不法に麻薬を使用している。伝統的な家族のスタイルが減少するにつれ、父親のみあるいは母親のみと一緒に暮らしている子供のパーセンテージは一八・二%にまで上昇し、一九九八年におけるアメリカの大学の新入生の三分の一は母(父)子家庭で育った子供たちであった。
アメリカでは、少年労働者雇用現象が深刻な問題となっている。ロイター通信は昨年七月十四日付で、一九九七年末におけるアメリカ連邦政府のデータ資料に基づくある研究によると、二十九万人の少年労働者が不法に雇用され、そのうち一万四千人は年齢が十四歳にも至らず、何人かの少年労働者はまだ九歳にさえ達していないことが判明したと報道した。多くの少年労働者の両親は新しい移民で、農・畜産業と園芸に従事している。これらの子供のうち、毎年四百人ないし六百人が事故によって死傷している。
少年はアメリカの暴力文化の主な被害者である。アメリカの子供が見ているテレビ番組には、一時間につき約二十カットの暴力シーンが登場する。AP通信の昨年六月一日の報道によると、アメリカの子供は十八歳になるまでに、平均して四万人の演技上の殺人者と二十万回のドラマ化された暴力シーンを見て育つということが、三十年にわたる研究によって判明したという。世界の娯楽業の覇者と称されるハリウッドのここ五年間の映画とテレビ製品による収益のうち六割前後の収入源が、テーマが暴力やセックスと関係がある作品によるものである。多くの少年の犯罪者は、映画やテレビおよびテレビゲームを通じて銃による殺人を覚えた。昨年のFBIの報告は、一九七〇年の時点では暴力による犯罪で警察に逮捕された青少年は十万人につき百四十一人であったが、九七年になるとこの割合は二百六十八人に増え、二十七年間で暴力による犯罪で逮捕された若者の犯罪者は八五%増えたと伝えた(注33)。米司法省が昨年六月に発表したレポートでは、あらゆる銃と関係する殺人事件のうち四分の一近くが十八歳から二十歳までの青少年によるものであり、犯人たちは皆ごく普通の学生である。昨年七月二十一日、ジミー・カーター、ジェラルド・フォード両元米大統領は五十六人の社会的名声のある人たちとともにハリウッドに向かい、「好ましくない文化の弊害を抑えて、アメリカの子供たちを救え」と呼びかけた。
五、他国の人権を横暴に侵害
他国の人権を侵害する面でのアメリカの悪行は、数えきれないくらいある。アメリカには長い間放置されたままの「つけ」があり、それらは昨年続けざまに暴露された。昨年の三月、四百人のカナダ人がアメリカの受刑者の血液を使っていたために被害を受けたカナダ全国の千人余りの人びとを代表し、アメリカの裁判所に対して訴訟を申し立てて損害賠償を求め、ここ数年来国境を越えた最大の訴訟の一つになった。今年二月二十四日、カナダ通信社はカナダ保健省のある覚え書きを引用し、アメリカの血液製剤管理当局はこれらの血液製剤が刑務所からのものであり、安全ではないためにすでにアメリカでは使用停止措置が取られていることを輸入業者に通知しておらず、これらの血液製剤を使った千人余りのカナダ人の中にはすでに死亡している人も多くいると伝えた。伝えられるところによると、アメリカでは一九八〇年に多くの同性愛者と麻薬常用者の受刑者の血液を利用するとHIVに感染する恐れのあることに気づいていたが、それでも受刑者の血液をカナダ、日本、ヨーロッパおよびその他の国に長期にわたって輸出し、それによって非常に多くの人がHIV、C型肝炎などの疾病を患ったということである。当面の推定によると、北米とカリブ地域だけでもこれらアメリカの刑務所からの「黒い血液」の被害者は一万人を越えている。四月六日付の『ロシースカヤ・ガゼータ』誌は、日本の真珠湾攻撃の後でアメリカは空前の規模で日系アメリカ人を捜査、検挙し、十二万人余りの日系人がいかなる告発もなしに捕らえられ、人跡まれな砂漠に建てられた強制収容所に入れられ、第二次大戦が終わってもそのまま拘禁が続けられたことを暴露した。六月二十二日、香港の『南華早報』紙は、ベトナム戦争期の一九六一年から七一年までの間に、アメリカはベトナムの農村の非武装地帯に四千二百万リットル余りの化学兵器「枯葉剤」やその他の除草剤を散布し、約五百万のベトナムの人たちが今なおひどい後遺症に苦しんでおり、その枯葉作戦のために六十万人が重病を患ったと推定されると報じた。十月初め、AP通信や『ニューズウィーク』誌などのメディアはアメリカの老兵と生存者の証言を引用し、一九五〇年七月にアメリカ軍が朝鮮戦争初期にソウル近郊の老斤里(ノングリ)という村で女性や子供を含めた数百人の難民に対し機関銃による大規模な虐殺を行ったことが、国際世論に広く注目されていることを暴露した。また、十月六日付のロイター通信の報道は、南アフリカ共和国のアパルトヘイト時代における黒人に対する細菌と化学戦争のプロジェクトは、アメリカ政府の生物化学プログラムを基礎として始められたものであったと発表した。十月二十五日、イギリスの『ニュー・ステーツマン』誌はカナダの二人の学者の新著『アメリカとバイオ戦争――冷戦初期の秘密』を引用し、アメリカは第二次大戦中に中国で生物兵器の人体実験を行っていた日本の戦犯を大戦後ひそかに赦免し、その実験結果を利用して朝鮮戦争で中国と朝鮮に対して実際に細菌兵器を使用したという「恥ずべき過去」を暴露した。前述のことは、ほんの氷山の一角にすぎない。
古いつけはまだ清算されておらず、新たなミレニアムに入った今年、アメリカが他国で人権を侵害した新たな醜聞が公にされた。今年一月十三日、コソボ平和維持部隊(KFOR)の米陸軍兵士のフランク・ロンギ二等軍曹はアルバニア系住民のある幼い少女に性的暴行を加えた上で殺害し、コソボのアルバニア系住民の大きな憤りを招いた。また、日本の沖縄に駐留している三人のアメリカ軍兵士が一九九五年に日本人少女に乱暴して民衆の大規模な抗議を誘発したのに続き、今年一月十四日にも沖縄普天間基地所属の米海兵隊上等兵が沖縄市内のディスコで女性に乱暴しようとし、国外に駐屯するアメリカの軍人が人権を侵害した今一つの実例となった。
アメリカの軍事費の支出は世界一である。アメリカにおける昨年の実際の軍事費は、欧州連合(EU)、日本、ロシア、中国の軍事費の合計のほぼ一・五倍に相当する二千八百七十九億ドルに達した。今年のアメリカの軍事費予算は、アメリカが八〇年代中期に「スターウォーズ」を繰り広げ、ソ連と大規模な軍備競争を行っていたころの最高額の二千九百十一億ドルを上回る三千億ドルに達している。アメリカの武器弾薬の売却も一向に衰える様子を見せず、一九九一年から九八年まで八年続いて世界一の武器弾薬供給国となった。
アメリカはその強大な軍事力に頼って、国際社会の至る所でやたらと武力を行使し、他国の主権と人権を侵害してきた。九〇年代以降だけでも、アメリカが対外的に武力を用いた回数は四十回余りに達している。昨年、アメリカを主導とするNATOは国際法の準則を顧みず、「人道主義的損失の防止」という旗印を押し立て、国連安保理を公然と無視し、主権国家のユーゴスラビア連邦に対して七十八日間にわたる狂気じみた無差別爆撃を続け、第二次大戦後のヨーロッパで最大の人道主義的災難を引き起こした。アメリカを主導とするNATOは戦闘機延べ三万二千機を出動させ、二万一千トンの爆弾を投下したが、その量はかつて広島に落とした原爆の四倍に相当するものであった。また、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など国際法が使用を禁止している武器、および電磁パルス爆弾やグラファイト爆弾などの破壊力が極めて強い新型兵器をも使用し、それによってユーゴスラビアの二千人余りの罪なき非戦闘員が命を落とし、六千人余りが負傷し、百万近くの人が路頭に迷い、二百万人余りが生計の道を失った。空爆はユーゴスラビアの生産と生活の施設を破壊し、それによって失業者数は三三%増加して、二〇%の人が貧困ライン以下での生活を強いられ、百五十万人の子供が学校へ行くことができなくなり、直接の経済損失は六千億ドルに達し、ユーゴスラビア連邦とヨーロッパ全体の生態環境は長期にわたって壊滅的影響を受けた。戦争中に、アメリカを主導とするNATOはまた横暴にも中国の在ユーゴスラビア大使館をミサイルで攻撃し、中国の新聞記者三人を殺害し、大使館の建物にもかなりの損傷を与え、中国の主権と人権をゆゆしく侵害した。
アメリカは国際人権規約に加盟し、それを尊重するといった面では、一貫して悪い記録を保っている。アメリカは「児童の権利条約」に、ソマリア以外では唯一加盟していない国で、世界でも数少ない「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に加盟していない国の一つである。アメリカが国際人権規約の「経済的、社会的および文化的権利に関する規約」に署名してから二十三年たつが、今なおこの規約を批准していない。昨年六月八日に米州機構(OAS)の加盟国は「アメリカ大陸の身体障害者に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に署名したが、アメリカは同条約に署名しなかったいくつかの国の一つである。アメリカは一貫して国際法の優先適用権を承認せず、完全に国内法に基づいて国際人権規約に対し、多くの保留、声明、解釈を行っており、いくつか規約の目的に背く保留さえしている。すでに批准したかあるいは加盟している国際人権規約に対しても、アメリカ連邦政府はそれぞれの州の自由な行動に任せて、全国で実行すべき義務を引き受けることを拒み、規定通りに実行状況の報告を直ちに提出することさえせず、国連の関連機構の批判と審議の意見に消極的に対応している。
アメリカの人権記録はこれほどまでに好ましいものではないのに、それでもアメリカは「世界の人権の裁判官」たろうとして毎年「人権レポート」を発表し、その他の国に対してやたらと批評や指図をしている。アメリカ政府はまず自らの人権問題を正視し、自分のことを少しでも改善するべきで、人権を利用して他国の内政に干渉することばかりに熱中していてはならないのである。
注釈:
1 ロイター通信、一九九九年四月二十二日電。
2 AP通信、一九九八年四月十六日電。
3 DPA通信、ボン、一九九九年五月十日電。
4 米『ウォーカーズ・ワールド』紙、一九九九年三月二十五日。
5 米『「USAトゥデー」、一九九九年七月二十九日。
6 米『フューチャーリスト(未来学者)』誌、二〇〇〇年一月号。
7 米『シカゴ・トリビューン』紙、一九九九年三月二十二日。
8 米『フューチャーリスト(未来学者)』誌、二〇〇〇年一月号。
9 米『インサイト・ウィークリー』誌、一九九九年五月四日。
10 米『ウォーカーズ・ワールド』誌、一九九九年四月二十九日。
11 米『ボストン・グローブ』紙、一九九七年三月十八日。
12 米『ニューズウィーク』誌、一九九九年九月二十日。
13 ロイター通信、ワシントン発二〇〇〇年一月十八日電。
14 『ワシントン・ポスト』紙、一九九九年八月三十日。
15 ロイター通信、ジュネーブ発一九九九年七月十四日電。
16 エフィー社、ニューヨーク発一九九九年三月三日電。
17 AFP通信、ワシントン発一九九九年十二月十六日電。
18 ロイター通信、二〇〇〇年一月二十日電。
19 エフィー社、サンフランシスコ発二〇〇〇年一月電。
20 AFP通信、ワシントン発一九九九年十二月十六日電。
21 AP通信、ボストン発一九九九年十月二日電。
22 エフィー社、ワシントン発一九九九年九月二日スペイン語電。
23 エフィー社、ワシントン発一九九九年三月十七日電。
24 AP通信、ワシントン発一九九九年五月十四日電。
25 AP通信、ボストン発一九九九年十月二日電。
26 『ニューヨーク・タイムズ』紙、一九九九年一月五日、エフィー社、ワシントン発一九九九年六月二十二日電を参照。
27 エフィー社、ニューヨーク発一九九九年三月十七日電。
28 『USAトゥデー』紙、一九九九年四月十四日。
29 AP通信、一九九九年十一月二十三日電。
30 英『エコノミスト』誌、一九九九年八月二十八日。
31 AFP通信、パリ発一九九九年三月四日電。
32 英『エコノミスト』誌、一九九九年二月二十日。
33 米『フューチャーリスト(未来学者)』誌、一九九九年十二月号。
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