鄧小平氏と澳門の祖国復帰
賀 慶
一九九二年初め、八十八歳の鄧小平氏は中国南部巡視した際、拱北に足を運び、珠海経済特別区の奥海ビルの回転レストランの窓際に立って、目と鼻の先にある澳門を眺めた。
澳門地区は澳門半島とその南にあるとう仔島、路環島からなり、総面積は二十三・五平方キロ、人口は四十万余り、珠江デルタの南端に位置し、東は四十二カイリ隔てて香港と相対し、北は珠海市に接し、大陸部に直通する。
十六世紀中葉に、ポルトガル人は澳門に上陸し、当時の中国政府の腐敗無能に付け込み、賄賂、武力などの手段を通じて澳門を占領し、その後また「澳門永久駐留」の目的を達するため、清朝政府（一六四四～一九一一年）に迫って、不平等条約を締結させた。外国侵略者を追い出し、失地を回復し、民族の尊厳を擁護するため、中国人民は長期にわたって不撓不屈の闘争を進めた。
中華人民共和国成立後、澳門問題に対する中国政府の一貫した立場は香港問題に対するのと同じである。つまり外国侵略者が中国人民に押し付けたいかなる不平等条約をも承認せず、澳門は中国の領土であり、適当な時期に、中ポ両国政が交渉を通じて、この歴史的に残された問題を平和的に解決し、解決されるまでは暫時現状を維持するというものである。
一九八四年、中英両国政府が香港問題に関する共同声明に調印した後、鄧小平氏は澳門問題に以前より多く関心を持ち始め、具体的指導を行った。これは、澳門問題といういま一つの祖国統一の歴史的任務の順調な達成を根本から保証した。
一九八七年四月十六日、鄧小平氏は香港基本法起草委員会の全委員を会見した際、「われわれの『一国二制度』が真に成功を収めるかどうかは香港特別行政区基本法に具現されなければならず、この基本法はまた澳門、台湾に手本を示すべきである。だから、この基本法は非常に重要である」と述べた。
鄧小平氏は、香港基本法の起草作業を指導するにあたって、「一国」と「二制度」の関係、「二制度」の不変、中央と香港特別行政区の権限区分、香港特別行政区の政治制度のパターンと民主的発展、基本法の内包と要旨など重要な問題について、鮮やかな解明を行った。これらの見解は、中国側が香港基本法を起草するにあたってしたがう原則となるばかりでなく、その後澳門基本法を起草する時に基準とする原則ともなった。実際には、一九九三年に制定された澳門特別行政区基本法は、その構造、格式から内容に至るまで香港特別行政区基本法の精華を参考としている。
この期間に、鄧小平氏は「一国二制度」の方針を突っ込んで解明する時は、いつも澳門問題に言及した。例えば、「五十年間変わらない」という考えを解明した時、香港、澳門の祖国復帰後、「一国二制度」の政策は五十年間変わらず、基本法は少なくとも五十年間施行されるが、「五十年後にはなおさら変わる必要がないと補足する。対香港政策は変わらず、対澳門政策も変わらず、対台湾政策も「一国二制度」の方針に基づいて統一問題を解決したあと、五十年間変わらないと述べた。
一九八八年六月、鄧小平氏はこう指摘した。「香港、澳門の繁栄と安定は中国の発展戦略と密接な関係がある。中国の発展戦略は時間が必要であり、今世紀の十二年を除き、来世紀も五十年間必要である。今世紀末までに、中国の国民総生産（ＧＮＰ）は一人当たり八百～千ドルに達すると予測される。この基礎があれば、さらに五十年たてば、四倍増して一人当たり四千ドルとなる。こうなっても、中国は世界において相変わらず数十位以下にランクされるが、ＧＮＰは六兆ドルに達する。この数字が世界の上位を占めると肯定できる。次の五十年間に、われわれの政策が効果をあげ、予想の目標を達したならば、対外開放政策を変える理由がなおさらなくなる。だから、『一国二制度』の方針に従って統一問題を解決した後、香港、澳門、台湾は五十年間変わらず、五十年後もやはり変わらないというのである」。「今後の国家指導者もこの道理が分かるだろう」。
「一国二制度」と中国の特色をもつ社会主義の建設との関係について、鄧小平氏は次のように述べた。われわれの香港、澳門、台湾に対する政策も、国家の主体部分が四つの基本原則を堅持することを基礎として制定されたものである。中国共産党がなければ、また中国の社会主義がなければ、だれがこのような政策を制定できるだろうか。われわれの社会主義制度は、中国の特色を持つものである。この特色の非常に重要な内容の一つは、香港、澳門、台湾問題に対する処理であり、つまり「一国二制度」である。変わらないについて言うならば、政策の総体と各方面が変わらないことで、そのうちの一つの方面が変われば、その他の方面に影響を及ぼすことを考慮すべきである。
一九八八年に澳門基本法を起草したとき、鄧小平氏は人民大会堂で第一回起草委員会会議に出席した全委員と会見し、澳門基本法の起草作業に対し若干の指示を行った。その後、澳門基本法起草委員会が基本法案を起草した時にしたがった「細かいよりはおおざっぱの方がよく、繁雑よりは簡単の方がよい」「香港基本法は参考するが、丸写しするのではない」などは、いずれも鄧小平の思想を具現している。
一九八四年十月三日、鄧小平氏は人民大会堂西大庁で香港・澳門同胞国慶節式典参列団一行と会見した際、初めて香港と同じように、「一国二制度」の方針で歴史的に残された澳門問題を解決することを公に提起した。会見が終わろうとした時、澳門立法会議員、澳門輸出商会会長の呉栄恪氏は鄧小平氏に澳門問題について話してほしいと頼んだ。鄧小平氏はこう答えた。「澳門問題は、香港と同じように一つの方式で解決されるだろう。澳門問題の解決がその他の問題に影響を及ぼすかどうか、早く解決した方が香港にとって有利なのか、それとも遅く解決した方が有利なのか、今これを考えている」。「澳門問題の解決は一国二制度、澳門人による澳門管理から離れられない。解決の時間が香港より早い方がいいか、それとも同時の方がいいかは、いま考慮中であるが、皆さんの意見を聞きたい」。
鄧小平氏の澳門問題についての談話が澳門に伝わると、すぐにも澳門住民の反響を引き起こした。大多数の澳門人は、「一国二制度」と「澳門人による澳門管理」で澳門問題を解決することを受け入れた。なぜなら、澳門が香港と同じように中国の領土であり、条件が熟したとき祖国の懐に帰るべきであるからである。しかし、当時多くの澳門人は澳門の祖国復帰の時間について、思想面と心理面にまだ十分な準備ができていないため、澳門管理人材の不足に憂慮と不安を覚え、社会でもさまざまな議論が続出した。
鄧小平氏は澳門問題についての考え方を知ると、またも談話を発表した。一九八四年十月六日、鄧小平氏は澳門の名人、全人代常務委委員の馬万祺氏夫妻と会見した際、「澳門のことは急いではならない。七、八年以内にそれを語らなくてもいいし、それよりもっと長い間この問題に触れず、語らなくてもいい。皆さんは安心して仕事を続けて下さい」「澳門の状況は、どのようにしてその安定と繁栄を保持するかにある」と述べ、さらに「澳門問題も、香港問題を解決する時にのっとった原則、一国二制度、澳門人による澳門管理、五十年間変わらないなどに基づいて解決される。澳門のギャンブル業は続いてもいい」と指摘した。
鄧小平氏から見れば、澳門問題を急いで解決しないのは、当時は一九九七年の香港復帰まであと十三年もあるから、何年か先に延ばしてもいいからである。当時最も重要なのは、香港・澳門地区の安定と繁栄を保持することであり、澳門問題は香港の繁栄と安定に影響しないという原則のもとにおいてのみ解決される。そのほか、澳門には借用期限などのような急いで解決しなければならない問題がなく、澳門の面積が小さく、相対的に言って澳門の状況はそれほど複雑ではなく、それに中英の香港に関する取り決めを手本とすることができるため、澳門問題は香港問題より解決しやすい。時期が熟すれば、自然に解決することができる。
鄧小平氏の二回目の澳門問題についての談話は、澳門住民の人心と社会を安定させる役割を果たし、また澳門問題解決の提出が早すぎて香港問題に与えた影響を取り除いた。
鄧小平氏はこの二回の澳門問題についての談話の中で、澳門問題に対する中国政府の一貫した立場を改めて表明したばかりでなく、澳門問題解決の時間、方式、方法についても原則的に解明を行った。つまり「一国二制度」、「澳門人による澳門管理」「五十年は変わらない」という方針に基づいて、澳門問題を解決するということである。鄧小平氏は戦略家としての政治的な鋭さで非常に慎重な態度をとり、澳門問題の解決を孤立して考えるのではなく、国の統一大業の全局に有利かどうかという戦略的角度から問題を考慮したのであり、とりわけいつ澳門問題を解決すれば香港に有利なのか、澳門人全体の利益を配慮できるのかを考えた。
十二月二十日、澳門は祖国に復帰し、鄧小平氏の念願はまもなく実現される。澳門人民は全国人民とともに今は亡き鄧小平氏を慰めることができる。