チベット自治区の民主改革と医療・衛生事業
全国人民が中華人民共和国建国五十周年を祝うのと同時に、チベット自治区もその民主改革四十周年を祝っている。
一九五九年に実施され始めた民主改革は、チベット現代史上の大きな出来事である。それはチベットの発展と進歩にかかわり、チベットの人口の圧倒的多数を占める百万の農奴が暗黒な封建農奴制の束縛から解放され、チベット社会の主人公となることができるかどうかにかかわっている。歴史が立証しているように、チベット民主改革は広範なチベット人民の利益に合致する、人類の人権獲得史上の壮挙である。
民主改革を実行するのはなぜか
十世紀に吐蕃王朝の奴隷制政権が崩壊した後、チベット社会は封建制度に移行し始めた。十三世紀前後に、農奴制はチベットで一応形成された。十三世紀中葉にチベット地方は全国を統一した元朝政権に帰属し、チベット地方の首領は中央王朝から世襲の職位を授けられ、領主制はさらに強化され、強固になった。
旧チベットは等級の厳格な社会であり、社会は農奴主と農奴という二大等級に分けられていた。人口の約五％を占める農奴主（主として寺院、貴族、役所の三大領主）はチベットのほとんどの耕地、牧場、森林および大部分の家畜、農具を擁していた。他方、人口の九五％を占める農奴は耕地、草原など基本的生産手段がないだけでなく、自分の体さえも農奴主に属し、無条件で農奴主のために労役に服し、小作料を納めなければならなかった。現在の四十歳以上のチベットの勤労人民は皆自分がかつてだれの奴隷だったかを忘れていない。旧チベットでは、農奴主と農奴の二大等級の限界が非常にはっきりしており、農奴主は農奴を抑圧、搾取、支配する絶対的権威を持っていた。旧チベットで三百余年も通用していた「十三法典」と「十六法典」は人を三等九級に分け、貴族、大活仏、高級役人は「上等人」、一般の僧俗・役人、下級将校、上等人の執事は「中等人」、農奴と奴隷は「下等人」と規定していた。「法典」は、上等上級の人の命の価値は同じ重さの金に等しく、下等下級の人の命はわら縄一本の価値しかないと規定した。今世紀五〇年代になっても、チベットは依然として僧俗、領主が吐蕃時期から踏襲してきた厳しい等級抑圧の法律と残酷野蛮な刑法に基づいて支配する社会であった。当時、チベット人の寿命はわずか三十六歳で、人口の非識字率は九〇％に達していた。
一九五一年下半期、中国人民解放軍は中央政府とチベット地方政府が結んだ「チベット平和解放の方法に関する取り決め」（つまり十七カ条取り決め）に基づいてチベットに進駐し、チベットの平和解放を実現した。「取り決め」はまず帝国主義の侵略勢力とその影響を完全に一掃すると規定し、さらに「チベットの改革諸事項については、中央は強要しない。チベット地方政府は進んで改革を行い、人民が改革の要求を提出した場合、チベットの指導者と協議する方法で解決しなければならない」と規定している。こうして、チベットの社会制度は改革されなければならないことが確定された。しかし、具体的実施案はチベットの歴史と現実の特徴、民族の特徴、上層実権派に適した利益が配慮されていた。その目的は改革目標の順調な達成を促すことにあって、人民の利益に合致するものでもあった。一九五六年、中央はまたチベットで「六年間改革を行わない」という方針を確定した。実際にはこれはチベット上層部に対する今一度の譲歩であり、その目的は彼らの一部のものが自覚するのを待って、平和的改革の目標を達成することにあった。
そのため一定期間、経済面では農奴主の利益は少しも損なわれず、広範な農奴は依然として農奴主のために労役に服し、小作料と利子を納めた。政治面では旧制度がそのまま保存され、チベット政府の各級役人は依然として権力を握り、政務を主管し、案件を判決し、税金を取りたて、ほしいままに農奴を処罰し、ひいては殺害した。チベット地方の封建農奴制が国内のその他の地方で普遍的に土地改革が行われ、新民主主義、社会主義の制度が確立された状況と同時に存在していたが、これは実際には新中国で一国二制度を実行した最初のケースである。
しかし、チベット上層部の反動グループは根から改革に反対し、人権を人民に与えたがらず、それゆえ「六年間改革を行わない」ことに飽き足りずに「長期間改革せず、永遠に改革しない」とわめきたてた。一九五八年、国外に逃げたかいらい人民会議分子が印刷、発行した『チベット鏡報』は、チベットの旧制度がこの上なく素晴らしいものであると大っぴらに宣伝し、あらゆる平和的あるいは暴力的方法でこの種の制度を守らなければならないとわめき立てた。当時のチベット政府の一部の役人は反乱分子が局地的反乱を行い、チベット駐在の中央機関、部隊を包囲して襲撃したり、国と大衆の財産を略奪したり、罪のない人びとをやたらに殺したり、婦人に暴行を働くのを放任、支持した。中央のチベット駐在代表は再三彼らに厳しく警告したが、これらの反動分子はそれに耳を貸さず、あろうことか一九五九年三月に「十七カ条取り決め」を公然と破棄し、「チベットの独立」を宣言し、チベット軍にチベット軍区とチベット駐在中央機関を包囲させ、三月二十日の払暁にこれらの機関に全面的攻撃を行った。そのため、チベット問題の平和解決の道が塞がれ、「六年間改革を行わない」方針も余儀なく中止された。祖国の統一を守るため、中央政府はチベットの反乱を平定する命令を下した。こうして、チベットは反乱平定と改革の新段階に入った。
旧チベットでは、搾取と抑圧に耐えかねて、農奴は何回も反抗し、闘争したが、その都度農奴主の弾圧を受けて失敗に終わった。平和解放後、ますます多くの農奴は、自分の労働で三大領主を養い、チベットのすべての富をつくりだしたのだから、自分こそ社会の主人公であることを認識した。そのため、彼らは改革を強く要求し、農奴制を徹底的に粉砕し、自分たちが耕していた耕地および自分たちの人身の主権を奪回することを要求した。
チベット自治区準備委員会は一九五九年六月に第二回全体会議を開いた。この会議には一部の勤労人民代表も参加した。十分な協議を経て、会議は「民主改革に関する決議」を採択した。同「決議」はチベットの民主改革は平和的方針に基づいて行わなければならないという中央の指示を再確認し、奴隷を解放し、人身従属制度を廃棄すると宣言した。
民主改革の第一歩として、反乱、労役制度、奴隷化に反対し、小作料、利子を減らす運動が繰り広げられた。政策に基づいて、反乱平定において、反乱に参加した領主の土地に対し「耕した者が収穫する」ことを実行し、反乱に参加しなかった領主（とその代理人）の貸し出した土地に対しては小作料を減らすことを実行し、一九五八年以前に三大領主に対する農奴のすべての債務を取り消し、一九五九年に反乱に参加しなかった領主から借りた債務の利子を月一分に引き下げた。一九五九年から一九六〇年にかけての民主改革が基本的に終わった時の統計によると、全自治区で廃棄された高利貸しは食糧に換算すれば約四億キロに達し、こうして農奴はひどい束縛と抑圧から完全に解除された。
根本的解放を目指す農奴の差し迫った要求を考慮した上で、自治区準備委員会は一九五九年九月下旬に第三回全体会議を開き、「封建的農奴主土地所有制の廃棄と農民土地所有制の実行に関する決議」を採択し、百万にのぼる農奴の正義の要求を満たし、封建的農奴主土地所有制を廃棄し、農民土地所有制を実行することを決定した。「決議」は、反乱に参加したとしなかったことを限界として、それぞれ農奴主とその代理人の土地とすべての生産手段を没収し、買い戻して、農奴と奴隷に分け与えるようと規定している。
土地、家畜、農具を分配する日は、すべての農奴がこれまで経験したことのない喜ばしい記念日であり、貧しい農奴たちは夢にも見なかった土地および自分に属する役牛と農具をもらって大いに喜び、中等の農奴も土地所有権を手に入れ、奴隷たちは住宅、土地、日用品などを分けてもらった。彼らは集まってかつて自分たちを束縛、抑圧した小作料と労役に関する文書および帳簿を焼き払い、狂おしく踊った。一九六〇年末までに農奴と奴隷に分け与えた土地は十八万六千ヘクタールで、一人当たり約〇･二三ヘクタールに達した。
政策に基づいて、反乱に参加しなかった農奴主とその代理人の余分の土地、家畜、農具、住宅に対し買い戻しを行った。中等の市価で買い戻した耕地、家畜、農具、住宅はそれぞれ六万余ヘクタール、八十二万頭、二万セット、六万四千二百間であり、政府は八年ないし十三年間に買い戻し金を支払った。一九六一年九月、全自治区で二千余戸に買い戻し証明書を発給するとともに、第一次の買い戻し金を支払った。反乱に参加しなかった愛国的進歩人士には仕事を与え、そのうち、自治区準備委員会で指導ポストについたものもいる。
一九六一年末、民主改革の基本任務は達成された。
チベットを発展・繁栄に向かわせる改革
民主改革は反動的で立ち遅れた封建農奴制を徹底的に覆し、百万にのぼる農奴を農奴主の束縛、圧迫から解放し、再び人間としての権利を獲得させて、チベットの広範な人民の人権状況を根本から改め、チベットの社会発展のためにも道を切り開いた。
一九五九年、中央は反乱平定の命令を下した後、チベット人民を数百年も圧迫してきた元チベット地方政府とその軍隊、法廷、監獄を直ちに解散した。一九六〇年四月、自治区準備委員会の決議に基づき、チベットは調整済みの行政区画に従って、七つの地区、一つの市、七十二の県で人民政府を樹立し、同時に二十の区と三百の郷でも人民政府を樹立した。これらの人民政権の責任者は、いずれもそれぞれの地方が人民代表会議を開き、選挙を通じて選出したものである。
一九六一年の夏から、全自治区は普通選挙を通じて各級人民代表大会と人民委員会を設立する準備活動を行い、同年七月、ドォルンデチェン（堆隆徳慶）県のギュロン（古栄）郷は率先して第一回人民代表大会を成功裏に開催し、最初の郷人民委員会を民主的に選出した。その後、各地は陸続と普通選挙を行って、末端の人民委員会を選出した。これを踏まえ、真剣に準備を整えてから、一九六三年三月、ロカ（山南）地区ネドン（乃東）県は第一回県人民代表大会を開き、チベット最初の民選の県人民委員会を選出した。一九六五年の七月から八月にかけて、全自治区の郷、県の選挙は基本的に完了し、ほとんどの県、郷は人民代表大会あるいは人民代表会議の開催を通じて郷長、県長を選出し、過去の貧しい農奴と奴隷が圧倒的優位を占める人民政権を樹立した。各地はまた自治区人民代表大会の代表を選出した。
人民が普遍的に普通選挙に参加し、民主的選挙によって県・郷政権を樹立したことは、解放された農奴が真に主人公となった重要な印であり、人民は普通選挙の中で選挙権と被選挙権を行使し、選出した代表を通じて自己の意思を表した。これは封建農奴主政権支配の下で政治的権利がまったくなかった悲惨な境地とは雲泥の差がある。人民政権の樹立は民主改革が政治面で収めた大きな成果であり、チベットに天地を覆すような変化が生じたことを集中的に表している。反乱平定・改革と普通選挙による政権樹立の活動は、農奴と奴隷出身の幹部の成長を促し、多くの反乱平定と民主改革の積極分子は闘争の中で鍛えられて、農民と牧畜民の先導者、民主的政権樹立の中堅となった。一九六五年、全自治区のチベット族とその他の少数民族の幹部は一万六千人に達し、そのうち各級の指導的職務を担当するものは四千余人ある。特に喜ばしいのは、この多くが過去の社会のどん底にあった女性から成長してきた指導的中堅であり、その後自治区の指導的職務を担当したバサン（巴桑）氏はその中の優秀な代表である。
民主改革の最終目的は生産力を解放し、人民の生活状況を改善することにある。封建農奴主土地所有制の廃棄と農民土地所有制の実現は民主改革の核心である。土地改革が完成した後の一九六〇年の春、チベットの解放された農奴は初めて自己の土地を持ち、また初めて主人公として自己の土地を耕作した。このような自主的な、自らの幸せな生活のために働くことは、昔日の農奴と奴隷にこの上なく大きな積極性を持たせ、全チベットで生産の高まりが盛り上がった。これも中国共産党チベット工作委員会、自治区準備委員会および所属機構の情熱的な支持と援助を得ており、これらの機関は幹部と工作グループを派遣して農村に深く入って行き、農民を指導して互助を組織し、家畜と農機具不足の困難を解決するとともに、貧しい農家に貸付を提供した。精を出しての耕作と行き届いた管理は、チベットに最初の歴史的な大豊作をもたらし、この年の穀物総収量は二億五百九十余万キロに達し、一九五九年に耕作した者が収穫することと「小作料引き下げ」を実行してからの四・五％増を踏まえて、さらに一二・六％増加し、民主改革前の一九五八年より一七・五％、三千余万キロを増産して、民主改革の大きな効果を顕示した。この年の家畜飼育頭数も一九五九年比一〇％増の千五十五万頭に達した。
一九六一年から一九六五年にかけて、チベットは中央の「安定的に発展する」という指示に導かれて前進を続け、広範な農民と牧畜民は互助組を中心とし、心を一つにして協力し、刻苦奮闘し、多方面から生産の条件を改善するように努めた。彼らは積極的に低収穫農地を改造し、水利を興してかんがい面積を拡大し、生産工具を購入、改良し、迷信を打破し、たい肥をつくり、肥料を施す量を増やし、虫害と獣害を消滅し、耕作方法を改善し、知恵と創造力を空前に発揮した。この期間に、国も解放された農奴に大きな支援を与え、貧しい農家に食糧と物資を貸し与え、種子、食糧、農業用物資を振り向け、農業技術者を派遣し、彼らを援助して生産の規模を拡大し、進んだ生産技術を推し広めた。数年の努力を経て、チベットの農業は比較的速い発展を遂げ、一九六五年には、食糧収量は二億九千万キロに達し、一九五八年より六六・一％増え、家畜も安定して発展した。農民と牧畜民は農業と牧畜業及び多角的経営の発展を通じて、収入が比較的大幅に増加し、極端に貧しい状態はほぼ見られなくなった。
農業と牧畜業が大いに発展すると同時に、チベットの工業、交通・運輸、財政・経済・貿易および文化・教育事業も、国の支援の下で喜ばしい進歩を遂げた。民主改革後の数年間に、チベットは自動車道路の建設を速め、一九六五年の全自治区の自動車道路開通距離は一九五八年より一・六倍増えて一万四千七百二十一キロに達し、全自治区の九〇％の県に自動車道路が通じ、ラサを中心とする自動車道路網が基本的に形成され、祖国各地との交通が阻害されなくなり、チベットの工業・農業の一層の発展のために条件をつくり出した。
民主改革後、四、五年の安定した発展を経て、チベットの経済と社会・文化事業はいずれも大きな進歩を遂げ、末端政権の建設と幹部養成もチベットの一層の発展のために基礎を築き、チッベトで民族区域自治を実行する条件が成熟した。一九六五年、チベット自治区準備委員会は国務院に報告し、全国人民代表大会常務委員会の認可を得てから、一九六五年九月一日にチベット自治区第一回人民代表大会を開き、チッベト自治区を正式に発足させた。解放された農奴と奴隷の代表を主とし、各階層の愛国の人士の代表の参加する代表大会は、憲法の規定に基づいて民族区域自治の職権を行使し、自治区の指導機構を選出し、チッベトが社会主義の繁栄と隆盛の道を進む青写真を作成した。チベット自治区の成立は民主改革の勝利の成果である。
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医療・衛生事業
一九五一年の平和解放前、チベットには官立のチベット医機構が三カ所しかなく、医療に従事する人は百人足らずであったが、今では、全自治区に医療機構が千三百カ所、病院のベッドが六千百三十六床あり、医療・衛生技術要員は一万人を超え、都市と農村にくまなく分布する医療衛生保健網が一応つくりあげられた。全人民無料医療制度を実行した結果、チベットの人口は一九五三年の百万人から二百四十二万八千七百人に増え、平均寿命も三十六歳から六十五歳に延びた。
歴史書の記載によると、チベット人民は長期にわたって疾病と闘う過程において、古代インドを含む周辺地区の医学経験を学び、特に漢方医学の理論、医療経験を学んでこれを吸収してきた。この結果、チベット医学の独特な医療理論体系が逐次確立され、豊かな臨床経験が積まれ、歴代に名医が輩出し、医学著作が多く著された。
しかし、西洋医学の科学技術が急速に発展した近代では、外国人と国民政府の駐チベット事務所が少数の都市で西洋医の診療所を開設したほか、広大な農業・牧畜地区はほとんどブランクの状態にあった。ごく少数の伝統的なチベット医機構は主として支配階級に奉仕し、広範な農奴と奴隷は治療を受けられず、薬を服用することができなかった。伝染病が流行した時、医療条件が悪いため、往々にしてそれを抑えることができなかった。人口の死亡率が出生率より高い年もあり、人口の増加が緩慢であった。
一九五一年の平和解放後、人民解放軍と国家衛生部は大勢の医務要員をチベットに派遣し、相次いでチャムド（昌都）とラサで人民医院を設立した。衛生部は毎年、医学と薬学を専攻した卒業生をチベットに配属するか在職の医療・衛生要員をチベットに派遣して仕事をさせた。これらの医療・衛生関係者は多くの患者の病気を治し、伝染病を予防し、一部の伝染病や風土病を効果的に抑え、大衆の信頼を得た。このため、長い間まじないによって大衆の病気を治してきた僧侶さえも、これらの医者に治療してもらうようになった。
それと同時に、解放初期から養成を始めたチベット族および自治区内のその他の少数民族の医療・衛生要員も、数年の養成・訓練を経て、相次いで仕事についた。一九六五年現在、全自治区の医療・衛生機構は百九十三カ所、ベッド数は千六百三十一床、医療・衛生要員は二千九百四十七人に増えた。
九〇年代に入ってから、農業・牧畜地区の医療・衛生、予防・保健、チベット医薬は、チベット医療・衛生事業の発展の重点となっている。
農業・牧畜地区の医療・衛生事業を適切に行うため、自治区はその農業・牧畜地区の初級衛生保健計画の実施に力を入れている。現在までのところ、チベットの郷鎮に三百三十カ所の診療所が新設され、中心郷診療所十三カ所、県衛生防疫ステーション十四カ所、県婦女子保健所十二カ所が改造、拡張され、さらに辺境にある二十二の県にレントゲン、超音波エコー画像検査機、ベッド、交通手段を配備し、辺境にある六十余の郷に簡単な医療設備を増やして、末端の医療・衛生施設をかなり強化した。 チベット人民の医療・衛生事業は初めから全人民に無料医療を実行する社会福祉の性格を持っている。現行の公費、無料医療管理をいっそう完全なものにし、強化するため、チベットの関係部門は一九九四年から毎年二千万元を支出して、直接各県の財政に分配している。この資金は農民・牧畜民の疾病防止・治療に対し極めて大きな役割を果たしている。
チベットでは、婦人、児童は自治区人口の三分の二を占めている。この特殊な集団の医療・保健活動を適切に行うことは、農業・牧畜地区の重要な活動である。現在までのところ、自治区の婦女子保健所が三十四カ所に増え、乳児愛護病院が八カ所設立された。自治区政府はまた一九九〇年から一九九五年までに国連児童基金会（ユニセフ）と協力して十六の県で婦女子医療・衛生プロジェクトを実施し、これにはユニセフは八十八万ドルの資金を援助し、自治区政府は千百八十七万元を投入した。このプロジェクトの実施によって、これらの県の妊産婦と乳児の死亡率はそれぞれ一九八九年の〇・七一五八％、九・一八％から一九九六年の〇・四八六四％、五・五二一％に低下した。一九九六年から二〇〇〇年までの婦女子協力プロジェクトはすでに二十三の県で始動したが、これにはユニセフは六十九万ドルを援助し、自治区政府は千三百六十三万元を投入した。
八〇年代の計画免疫活動が始まってから、ＢＣＧ（ワクチン）接種は逐次制度化している。各級医療・衛生機構の設備の絶え間ない充実、レントゲン検査などの県までの普及、関連化学検査の逐次展開につれて、結核病の診断レベルも向上した。
チベットの風土病のうち、ブルセラ症、地方性甲状腺肥大、カシンベック病などの危害が広く、一部の地区にはカシンベック病、地方性フッ素中毒などが見られる。一九八〇年の調査、推算で、全自治区の各種風土病患者数は五十万人に達し、その脅威を受けた人はさらに多いことがわかった。
一九七九年以来、自治区人民政府は毎年三百余万元以上の特別資金を支出して、人と家畜のブルセラ症の調査と予防・治療を行った。衛生、畜牧などの部門は密接に呼応して、家畜の免疫を主とする総合的防止措置を実行し、発病患者を積極的に治療し、人の発病率を大幅に低下させ、発病と流行伝染源を一応抑えるようになった。
二十余年来、チベット各地では塩にヨードを加え、ヨード乳丸を服用するなどの方法で、地方性甲状腺肥大を予防・治療している。一九九七年は六県を対象として全面的調査を行った結果、発病率は八％以下に低下し、国の抑制基準にほぼ達したかまたは近づいた。
一九九五年、全自治区の伝染病総発病率は〇・四六一八％で、一九九〇年の〇・九〇七二八％と比べて四九・一八％低下し、死亡率は五四・三四％低下した。
医療・衛生事業の現代化と同時に、チベット医薬も長足の発展を遂げた。『チベット医医典』、『四部医典シリーズ掛け図全集』など多くの専門著作が出版された。一九九五年末には、自治区内のチベット医薬研究機構は十四カ所に増え、六十余の県病院にチベット医科が増設され、チベット医機構のベッド数は五百六床に達した。そのほか、農業・牧畜地区に診療所を開いて治療活動に携わるチベット医の医者は四百二十九人いる。
チベットの医療・衛生事業も若干の困難と問題に直面している。例えば、経費が足りない、農業・牧畜地区の末端の医療・衛生組織の力が弱い、医療・衛生技術要員と管理要員の業務水準が低い、中堅がいない、疾病予防・治療の任務が依然として極めて重いなどである。
こうした状況に対して、チベット自治区の関係部門は農業・牧畜地区の医療・衛生状況を著しく改善し、すべての人に初級の医療・衛生保健を受けさせ、各民族人民の健康レベルを高めるため、一九九六年〜二〇〇〇年ないし二〇一〇年チベット医療・衛生事業発展の全般的目標を適時に制定した。
主な健康指標を例に挙げて見れば、平均寿命は二〇〇〇年は六十七歳、二〇一〇年は六十九歳ないし七十歳に達し、二〇〇〇年の乳児死亡率は一九九〇年より三分の一低下し、二〇一〇年は二〇〇〇年と比べてさらに四分の一低下し、二〇〇〇年の妊産婦死亡率は一九九〇年より二分の一低下し、二〇一〇年は二〇〇〇年と比べてさらに三分の一低下することが見込まれる。