中国伝統医薬の近代化を促進
中国伝統医薬のイノベーション・システムの確立と普及が今年から議事日程に盛り込まれ、国家伝統医薬近代化研究センターが発足した。このセンターは医薬・衛生部門のアカデミー会員二十一人のレポートをもとに、安全性、効果性、コントロールの可能性、安定性、高効率、速効性、効力の長時間性、薬の使用分量、毒性、副作用が小さく、生産、貯蔵、輸送、携帯、服用が便利であるという近代的な伝統医薬の特性について新たな概括を行った。これは伝統医薬の近代化プロセスが特別に注目され始めたことを示している。もしもこの面で突破的な進展を見せれば、疑いもなく伝統医薬の世界医薬業界における地位を向上させ、伝統医薬という中国の貴重な宝の潜在的な大きな役割を発揮することができるようになる。
近年、市場経済の発展に伴い、中国の製薬メーカー、特に漢方薬メーカーは絶えず技術への資金投下を増やし、伝統医薬生産の技術を向上させるとともに、治療効果の面での伝統医薬の不足を改めることに力を入れ、伝統医薬に内在する大きな強みを発掘し、一部の著名な伝統医薬製剤をさまざまな患者と市場に受け入れられる形にし、内外業界の認知を受けるよう努力している。しかし、西洋医薬に比べれば、近代化というプロセスにおいて、伝統医薬は疑いもなく長い道を歩むことになろう。
最近、中国の東北地方から人を奮い立たせるニュースが伝えられた。それは遼寧中医（中国医学）学院の王義明教授が長年にわたる研究により、複合的成分からなる近代的伝統医薬としての意義を持つ製品が近い将来、合成薬剤に取って代って血液の中の生命情報物質の一酸化窒素（ＮＯ）の含有量を広範囲において倍増させる見込みがあり、それによって広範囲な生理作用を誘発し、人体のさまざまな機能の調整を促進し、レベルの高い健康状態が実現するということを発表したことである。そして、一酸化窒素の含有量を向上させる役割は単一の化合物、単一の作用物質の一倍を超えるものである。もしこの結論が実践の検証を受けて正しいものと認められれば、伝統医薬の近代化を促すことは疑いない。
一酸化窒素の独特な役割は今世紀における生命科学分野での人類の一大発見である。一酸化窒素の特有な生物活性は、血管、気管支の平滑筋を拡張し、胃腸の平滑筋と括約筋の自発的収縮、血小板の凝集を抑制し、海綿体腔を拡張し、大脳、血管、免疫系統、肝臓、すい臓、肺、生殖器官などと生理機能にとって重要な情報伝達作用を果たす。この結論は間もなく二十一世紀を迎える人々に血小板とプロテアーゼをよく知るようにその体の中の一酸化窒素を注目させ、一酸化窒素の含有量と健康な状態を認知させ、注目させることになろう。
一酸化窒素の人体の機能に対する特殊な役割は「偶然の」実験で発見された。一九七九年、アメリカの学者たちはある薬理実験の中で、その助手が規定した段取りに従わずに誤ってある合成薬物を環状の血管標本の中に注入したところ、この薬物は想像し難いほどの血管の拡張作用をもたらした。八〇年代の初期、学者たちは、血管の内皮細胞がある物質の釈放によって血管の拡張力と血小板の凝集の抑制を維持することを発見した。一九八六年の国際薬理シンポジウムで二人のアメリカ人学者はそれぞれ証拠を提出し、このような血管の拡張力と血小板の凝集の抑制を維持する物質が一酸化窒素であることを実証した。一九九二年に、一酸化窒素はアメリカの『サイエンス』誌によってその年度のスター的存在の分子に選ばれ、この研究はノベール賞に次ぐといわれる医学賞に輝いた。一九九八年、二人の学者は一酸化窒素への研究での際立った貢献がゆえにノベール賞医学賞を受賞した。
世界にセンセーションを巻き起こしたこの発見の唯一の応用実例は、またもアメリカのある会社によって打ち出された。ことの発端はバイアグラで心臓血管病を治療する第一期の臨床実験が終わった後で薬物を回収しようとした際、六人の被験者は実験用薬物を返そうとしなかったことである。その理由はこの人たちが意外にもこの薬が男性の性機能障害に特殊な治療効果があることを発見したからであった。その治療作用は、海綿体動脈血の一酸化窒素含有量によって実現したものである。
ところが、このような薬物は明らかな治療作用があると同時に、非常に明らかな副作用もあった。従って、もしも伝統的医薬で同じように血液中の一酸化窒素含有量の向上を促進できる薬を抽出して組み合わせれば、最も理想的なものとなる。遼寧中医学院の王義明教授は一九六九年抗凍傷薬物を開発した際に、東北地区に産する薬用植物からある物質を抽出して、動物のバイオソーム動脈注射の中でこの物質の血管を拡張する効力が特にはっきりしており、しかも速いことを意外に発見した。実験を繰り返した後、結論は一致して肯定的なものであった。王義明教授はある種の情報をもたらす物質を発見したと見るに至った。今日の結論から見ると、その時に発見されたのは血液中の一酸化窒素含有量を増やす物質だったのである。
一九九四年から、王教授はこの成果を漢方薬生産に応用し始め、開泰カプセルを開発した。天津市医薬科学研究所は、今年血清と海綿体中の一酸化窒素含有量の影響の実験で重要な発見をした。それによると、実験動物に薬を服用させて一時間半後、その血清中の一酸化窒素含有量は薬物を服用しなかった動物より六･四倍高く、しかもＥＤ治療の国際基準西洋薬より約一倍高く、動物の海綿体中の一酸化窒素含有量は薬物を服用しなかった動物の約一倍を超え、しかもＥＤ治療の国際基準西洋薬と同じであった。これは国内で初めて行われた漢方薬の一酸化窒素含有量に対する影響についての研究である。
この漢方薬が一酸化窒素含有量の向上を促すことができるのは、それは典型的な一酸化窒素合成酵素選択的アクチベーター（活性化物質）であって、人体の血管の平滑筋組織の一酸化窒素酵素を活性化させ、大量の一酸化窒素情報物質を産し、血漿中のｃＧＷＰの濃度を濃くし、血管の拡張と血液の循環をよくする血管平滑筋の拡張効果があり、大量の血液を海綿体動脈から海綿体に流すことができるからである。遼寧中医学院が超音波エコー画像診断器で服薬一時間後、二時間後の人体の海綿動脈の血液の流れの変化を測定した結果によると、一時間後には、服薬前より海綿体の血液の流れが七三％増え、ＥＤ治療の国際的実験結果によると、海綿体中のｃＧＷＰ含有量が服薬しなかった人より倍に増え、ＥＤ治療の国際基準を超えていることが分かった。
国際基準薬物との対照実験で、五千年の歴史を持つ中国の伝統医薬は、現代科学技術と先進的製薬工程を応用すると現代の合成薬の治療効果に達するか、またそれを超えて優れた天然薬物産業となることができることが立証された。この実験の成功は、中国医薬遺産に限りない潜在力と明るい見通しがあることを物語っている。
しかし、中国伝統医薬産業の近代化水準はまだ低い。中国科学院・中国工学院アカデミー会員、中国医学科学院薬用植物研究所研究員である肖境根氏によると、中国漢方薬産業の立ち遅れの原因は漢方薬製薬技術レベルが低く、漢方薬の規範基準がまだ完備せず、製品の規模と応用市場が広くないことにある。中国の伝統薬の製薬技術と包装設備が立ち遅れ、服用量が大きく、品質がまちまちであるなどは、製薬界の人々の注目を集めている。
伝統薬産業の立ち遅れによって、漢方薬は現在の境地に留まっている。理解しにくいのは、中国の精髄である漢方薬が外国から大量に輸入されていることである。ある統計によると、昨年中国が輸入した漢方薬は十億ドルを超え、はるかに輸出額を上回った。国際漢方薬市場で、中国の伝統薬の占めているシェアがきわめて小さいのは中国伝統薬産業の近代化レベルが高くないことに原因があり、中国伝統薬の製薬の近代化は差し迫った課題となっていると指摘する専門家もいる。
この意味から言えば、王義明教授の研究成果は非常に重要な意義を持っている。今年六月、中国中医薬学会薬物評価専門家委員会主催の研究成果評価会が北京で開かれた。評価会に出席したのは、中国中医研究院院長・中国中医薬学会臨床薬物評価専門家委員会主任委員王永炎教授、中日友好医院内科主任・中国中医薬学会臨床薬物評価専門家委員会副主任委員晁恩祥教授、国家薬典委員会前秘書長、中国中医薬学会臨床薬物評価専門家委員会副主任委員姚達木教授ら十人の国内著名な薬理、病理および内科の高級専門家で、四人は国家新薬評価・審査委員会委員である。
専門家たちは王義明教授の研究成果について論証を行うとともに、次のような評価意見を出した。この成果は伝統医学と伝統医薬文化の歴史の空白を埋め、世界の漢方薬体系において、治療過程の必要のない漢方薬治療の方途を開拓し、漢方薬と天然薬物体系が用量と時間の同等の前提と原則の下で、同類標準の西洋薬治療効果と、質、量の面で競争できることを実現した。製品は複合樹脂吸着技術というハイテク生産プロセスを使って有効成分含有量を増やし、漢方薬の治療効果がよくなく、治療過程が長く、服用量が大きく、効果が遅いなどの欠点を克服した。製品の分子生物学、分子薬理学、臨床作用メカニズム学などの研究が立証しているように、この成果は漢方薬が世界に進出するためのしっかりした理論基礎と臨床根拠を築き上げ、漢方薬がかならずハイテクの新時代に入ることを示している。
専門家によると、漢方薬は近代化し始めたが、道はまだまだ遠い。長年にわたって形成された産業枠組と市場要素によって、一部の企業は発展の過程で目前の利益を追求するかあるいは目標がはっきりせず、そのことが漢方薬の近代化に影響を及ぼしている。そのため、専門家たちは、漢方薬の新体系を作るという全局から出発して、企業の生産と市場観念を変え、研究への投入と製品の技術要素を絶えず増やし、外国の先進的経験と技術を学び、根本から漢方薬の近代化を促すべきであると強調している。