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放射平衡


まずはじめに、系列を作らない放射性核種の量の推移を調べる。 この核種の原子数を N 、原子数の初期値を N0 とし、壊変定数を λ (λ>0) とする。 核種の壊変が進むにつれて原子数 N は減少していくが、この減少の速さが壊変率、すなわち放射能を表している。 したがって放射能は原子数 N を時刻 t で微分したものであり、 dN/dt と書き表すことができる。 放射能の強さは原子数に比例することがわかっていて、その比例定数を壊変定数 () というのである。 下の(1)式がなりたつ。

dN/dt = -λN (1)

(1)式を dN/N = -λdt のように変形して積分すると(2)式が得られる。

ln(N) = -λt + C (2)

ここで ln は自然対数、C は積分定数である。 さらに変形して N = exp(C)exp(-λt) を得る。 exp(x) とは ex のことであるが、表記の都合上 exp(x) のほうを用いる。 次に積分定数 C の値を定めよう。 時刻 t=0 において N0 = exp(C)exp(0) であるから exp(C) = N0 となる。 これで核種の時間的推移を表す式が導かれた。

N = N0exp(-λt) (3)

核種が半数に減るまでの時間を半減期という。 これを T とする。 (3)式において t=T のときを考えると、 N0/2 = N0exp(-λT) であるから、

λT = ln(2) = 0.693 (4)

の関係式が得られる。 半減期 T を用いると(3)式は次のように表すこともできる。

N = N0(1/2)t/T (5)

半減期は T のかわりに T1/2 が用いられることもある。 核種の平均寿命も求めておこう。 時刻 t=0 から t= までの範囲で N を積分したものは、 N0 個の原子の寿命をすべて合計したものになる。 それを N0 で除算すれば平均寿命 T1/e が得られる。

T1/e = (1/N0)[0,)Ndt = 1/λ (6)

(3)式において t=T1/e のとき核種数は (1/e)N0 となる。 平均寿命とは、核種が 1/e の量に減少するまでの時間といってもよい。 (4)式より平均寿命 (T1/e) と半減期 (T1/2) の関係が導かれる。

T1/e = T1/2/ln(2) = T1/2/0.693 = 1.44 T1/2 (7)

続いて、複数の核種が系列をなしている場合を扱う。 核種Aが核種Bに変化し、核種Bが核種Cに変化し、というように次々に壊変が連続するものを壊変系列という。 核種Aの原子数を N1 、原子数の初期値を N1,0 、壊変定数を λ 、半減期を T1 とし、核種Bはそれぞれ N2, N2,0, μ, T2 として原子数の推移を調べよう。 次の微分方程式を解けばよい。 お急ぎの方は(12)式までとばして読んでもらってもかまわない。

dN1/dt = -λN1
dN2/dt = λN1 - μN2
(8)

(8)式の第1式は系列を作らない場合と同じなので、 N1 = N1,0exp(-λt) と解ける。 核種Bは、核種Aの壊変により増加する一方、核種B自身の壊変によって減少するため、(8)式の第2式のような微分方程式になっている。 第2式を解くために次のような u,v を仮定する。

du/dt = λN1 = λN1,0exp(-λt)
dv/dt = -μv
(9)

(9)式の第1式を積分して u = -N1,0exp(-λt) 、第2式からは v = C exp(-μt) を得る。 そしてこれらの線形結合を N2 とする。

N2 = α exp(-λt) + β exp(-μt) (10)

これの微分 dN2/dtλN1-μN2 は、

dN2/dt = -λα exp(-λt) - μβ exp(-μt)
λN1-μN2 = λN1,0exp(-λt) - μ(α exp(-λt) + β exp(-μt))
(11)

(8)の第2式から(11)の両式は等しい。 exp(-λt) の係数を比較することにより、 -λα = λN1,0-μα となる。 したがって λμ のとき α = N1,0λ/(μ-λ) が得られる。 (12)式の Λ を用いると α = ΛN1,0 となる。

Λ = λ/(μ-λ) = T2/(T1-T2) (12)

(12)式の後半は壊変定数と半減期の関係式(4)からわかる。 次に β の値を定めよう。 N2 の初期値は N2,0 であるから、(10)式で t=0 とすることにより、 β = N2,0-α = N2,0-ΛN1,0 となる。 これで N2 が求まった。 N1 とともに示す。

N1 = N1,0exp(-λt)
N2 = ΛN1,0exp(-λt) + (N2,0-ΛN1,0)exp(-μt)
(13)

娘核種Bの壊変定数が親核種Aの壊変定数よりも大きい (λ<μ) とき、つまり娘核種の減少が親核種よりも速い場合には、核種AとBの間に放射平衡が成り立つ。 λ<μ のとき exp(-μt)exp(-λt) に比べて減少が速いため、十分に長い時間が経過した後では exp(-μt) を含む項は無視できる。 (13)の第2式で後半を無視すると、次の関係が導かれる。

N2 = ΛN1,0exp(-λt) = ΛN1 (14)
λ N1 = (μ-λ) N2 (15)

娘核種Bの壊変定数は μ であったにもかかわらず、親核種Aの壊変定数 λ にしたがって減少をしていることがわかる。 十分な時間が経った後では娘核種は親核種と一定の比率 () を保ちながら壊変をする。 この状態を過渡平衡という。

娘核種Bの壊変定数が親核種Aに比べて非常に (桁違いに) 大きい (λ<<μ) とき、(15)式は(16)のように見なせる。

λ N1 = μ N2 (16)

このとき、(8)式は dN2/dt = λN1-μN2 = 0 となっている。 娘核種の量は、親核種の壊変による増加と娘核種自身の壊変による減少がつり合って、変化しない。 この状態を永続平衡という。

娘核種Bの壊変定数が親核種Aの壊変定数よりも小さい (λ>μ) とき、親核種が先に無くなってしまい、十分な時間が経過した後では娘核種は本来の壊変定数 μ にしたがって減少を続ける。 この場合には放射平衡は成立しない。

最後に、残っていた λ=μ の場合の N2 を求めておく。 このとき N2/N1 を微分すると定数 (λ) になる。

(d/dt)(N2/N1) = (-λ(N2-N1)N1+λN2N1)/(N1)2 = λ (17)
N2/N1 = N2,0/N1,0 + λt (18)

したがって λ=μ のときの N2 は次のようである。

N2 = (N2,0 + N1,0λt) exp(-λt) (19)

このような場合の具体例は存在しないが、 λ=μ のときも放射平衡は成立しない。



引用・参考文献
放射線入門