注意
ここにある文章は管理人のオリジナルではございません。九州数学教育学会平成13年度第2回研究発表会資料の中から、無断転記したものです ^_^;。著作権は論文を書いた人達にあります。管理人ではありません。
ドイツの数学教科書Das
Zahlenbuch『数の本』の計算指導
熊本大学 中学校教員養成課程 三浦由子 中川渚 小学校教員養成課程 矢野ひかり 田島智成
自由な解決方法は、生徒の個人個人に選ばせなければならない。このように生徒自身の方法を使わせることは、1つの限定したやり方を与えるよりも、よりよい結果に導くのである。
数学的活動を取り入れた指導法の研究
福岡教育大学院 毛利真亨
近年、テレビや新聞、雑誌などのマスメディアを中心に、学力低下が叫ばれるようになってきている。特に著しいのは数学であるといわれている。その原因は2つあると考える。1つは、我々日本人の生活が豊かになり、学習することへの必要性を子どもが感じていないのではないかと思う。2つ目の原因としては、近年の学習指導要領改訂の度に教科内容や時間数の削減がなされてきたことにあると考える。このことから、早急に解決しなければならないことの1つに、生徒の数学への関心を高めることが大切ではないだろうかと考える。この数学学習への興味・関心については、IEA(国際教育到達度評価学会)の調査(第3回、H7年)によれば、下の表のような結果になっている。
第3回の上位国・地域の成績(中学校2年生)
第3回(H7年、41カ国)
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順位
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国・地域
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平均得点
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1位
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シンガポール
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609点
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2位
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韓国
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581点
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3位
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日本
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581点
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4位
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香港
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569点
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5位
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ベルギー
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550点
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数学に対する意識(第3回、中学校2年生)
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数学が大好きまたは好き
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数学の勉強は楽しい
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数学を使う仕事がしたい
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数学は生活の中で大切
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日本
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53%
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46%
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24%
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71%
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国際平均値
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69%
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65%
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46%
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92%
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授業の中で、生徒に活動の場を与えることが大切である。授業法の改善により、生徒がいきいきと活動し、思考したりすることで、数学が好きな生徒が増え、結果として学力もかなりついてくるのではないかと考える。
高等学校学習指導要領解説書数学編によれば、高等学校では、次のような思考活動を数学的活動と捉えている。
身近な事象を取り上げてそれを数学化し、数学的な課題を設定する活動
設定した数学的な課題を既習事項や公理・定義などを基にして数学的に思考・処理し、その過程で見出したいろいろな数学的性質を論理的に系統化し、数学の新しい理論・定義などを(以下「数学的知識」という)構成する活動。
数学的知識を構成するにいたるまでの思考過程を振り返ったり、構成した数学的知識の意味を考察の対象となった当初の身近な事象に戻って考えたり、他の具体的な事象の考察などに数学的知識を活用したりする活動。
これまでの授業では、生徒は黒板を目で追い、教師の言葉に耳を傾けるといった視覚と聴覚だけで理解し、記憶し、形式的にこれを他の場面にあてはめる程度にとどまることが多かったように思う。そして、教師の与えるものは、初めから要領よくまとめられ最終的な結論へと無駄なく、一直線に進められるものがほとんどである。この状況に加えて、数学の内容は抽象的・形式的なものが多く、受身の形で学ぶ学習は、上位群のものをのぞいて大部分の生徒は理解しにくく、興味・関心が高まりにくい。そのような授業は変えなければならない。数学的活動は、具体的な感覚の世界からしだいに思考の世界への橋渡しのようなものである。
児童の確率概念の発達に関する調査研究
広島大学大学院 松浦武人
確率概念の発達段階
発達段階
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確率概念
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〈第T期〉前操作期
(4〜6才) |
偶然性(可能性)と必然性の区別がつかない未分化状態。
偶然に起きた事象にも、必然性を求める。(自分なりの理由をつけたり、規則を作る。) |
〈第U期〉具体的操作期
(7〜10才) |
偶然性と必然性が分化し始める。
操作の結果を確定できないものとして偶然の概念が現れる。
大数の法としての概念はない。 |
〈第V期〉形式的操作期
(11才〜) |
偶然と必然をただ区別するだけでなく、偶然事象の中にある確定性(予見的知識、確率的知識)をもつ。
多数回試行したときの割合としての分布(大数の法)の概念を持つ。 |
代表性
1から40までの数字の中から6個の数字をえらんで、次のようなマスの中に、その数字を書いて、ビンゴゲームをします。
タケシは、1,2,3,4,5,6と書きました。
ミノルは、39,1,17,33,8,27と書きました。
どちらが、勝ちそうですか。
( )タケシが、勝ちそうだ。
( )ミノルが、勝ちそうだ。
( )どちらも同じように、勝つチャンスがある。
負の最近効果
赤い玉1つと白い玉1つを、箱の中に入れます。見ないようにして、玉を引きます。色を見て、元に戻します。ケンジは、3回玉を引いて、3回とも、赤が出ました。ケンジは、また、玉を引きます。4回目の玉の色はどうなるでしょうか。
( )白が出やすいと思う。
( )白も赤も、同じように出やすいと思う。
( )赤が出やすいと思う。
お金を投げると、「表」か、「裏」が出ます。マリコは、お金を3回投げて、3回とも「表」が出ました。4回目は、どうなるでしょうか。
( )「裏」が出やすいと思う。
( )「裏」も「表」も、同じように出やすいと思う。
( )「表」が出やすいと思う。
複合と単一の事象
2つのサイコロを、同時に投げます。次のうち、どれが出やすいでしょう。
( )5と6が出る。
( )6と6が出る。
( )どちらも同じように出やすい。
連言錯誤
サブローは、野球が好きで、プロ野球の選手になりたいと思っています。サブローは、小学生のとき、野球チームに入っていました。サブローは、中学校に入学しました。サブローは、いま、どうなっていると思いますか。
( )サブローは、中学で野球部に入っている。
( )サブローは、中学生である。
標本サイズの影響
ある町に2つの病院があります。小さい病院では、一日平均、約15人の赤ちゃんが生まれ、大きい病院では、一日平均、約45人の赤ちゃんが生まれます。男の子が生まれる可能性は、約50%といわれています。しかしながら、50%以上男の子が生まれる日もあれば、50%以下のときもあります。小さい病院では、15人の60%に当たる9人より多くの男の子が生まれた日を、一年間記憶しています。大きい病院では、45人の60%に当たる27人より多くの男の子が生まれた日を一年間記憶しています。2つの病院のうち、どちらが、そのような日が多かったでしょうか。
( )大きい病院のほうが多かった。
( )小さい病院のほうが多かった。
( )2つの病院とも等しかった。
3回のコインを投げたとき、少なくとも2回表が出る可能性は、
( )300回中200回表が出る可能性より小さい。
( )300回中200回表が出る可能性と等しい。
( )300回中200回表が出る可能性より大きい。
検索容易性
10人の中から、2人の代表を選んで作るチームの数は、
( )10人の中から、8人の代表を選んで作るチームの数より少ない。
( )10人の中から、8人の代表を選んで作るチームの数と等しい。
( )10人の中から、8人の代表を選んで作るチームの数より大きい。
時間軸の影響
ケイコと、リサは、それぞれ2つの白い玉と2つの黒い玉が入った箱を受け取りました。
@ケイコは、箱から玉を1つ取り出し、それが白い玉であるのを見ました。玉を箱に戻さずに、2つの目の玉を取り出します。この2つ目の玉も、また、白である可能性は、黒である可能性と比べて、小さいでしょうか、等しいでしょうか、それとも大きいでしょうか。
( )小さい
( )等しい
( )大きい
Aリサは、箱から玉を取り出し、それを見ずに横に置きました。リサが、2つ目の玉を取り出してみると白でした。最初の玉が白である可能性は、黒である可能性と比べて、小さいでしょうか、等しいでしょうか、それとも大きいでしょうか。
( )小さい
( )等しい
( )大きい
英国における「数学的探究」についての研究
―J.ホールディングのThe investigations bookをもとに―
熊本大学大学院教育学研究科 澁谷渚
ホールディングの捉える「数学的探究」
彼は本文において「数学的探究」を次のようにとらえている。
《「数学的探究」は新しい数学的知識を生徒が獲得することではなく、数学的思考を発達させることに目標を置いている。各問題は決して新しいものとはいえないが、生徒たちがその問題に探究的に取り組みながら、生徒同士の係わり合いのよって思考力を高めることが出来たり自分でも成長したいという実感を得ることが出来るようになることをねらいとしている。》
「数学的探究」の内容
ホールディングが述べる「数学的探究」の活動としては、観察(observation)・データ収集(collection
of data)・パターンの調査(search of pattern)・推論(conjecture)・確認(verification)・考察(insight)・分類(analogy)・証明(proof)が挙げられる。「数学的探究」は最初に問題を生徒に示し、そこから発展していく。問題はわかりやすいもの、生徒の動機をかき立てるもの、解決がすぐにできないもの、解決するのに方法が幾通りもあるものなどが挙げられる。
ここで、ホールディングの40個の「数学的探究」の題材の内容をまとめると以下のようになる。
(1)ある数学的内容に関する予備的なアプローチである問題
(2)数学の難題を元にした問題
(3)未解決問題
(4)古典的な問題を元にした問題
(5)実際の生活の中で身近に考えられるような問題 |
この(1)〜(5)について、ホールディングは次のようにとらえている。
《「数学的探究」を行う際に利用する教材は比・割合・相似・対称・考察といった基本的な数学的思考を行う場面が多くある。生徒は最初に示す問題からさまざまな拡張・発展を行うことが出来る。したがって、「数学定期探究」は尽きることのない可能性を秘めていることになる。》
「数学的探究」の方法
ホールディングは、「数学的探究」を教師が生徒に行う際の具体的な注意点や留意点を細かく挙げている。その内容をまとめると以下のようになる。
(1)問題解決学習の指導法
(2)教室の役割
(3)教室の机の配置
(4)授業計画
(5)記録やデータ収集の表現方法
(6)生徒の記録方法と発表の仕方
(7)評価方法 |
教師の役割
《「数学的探究」において生徒が活動を行う場合、教師が提示や解説を行う際に従来の授業とはまったく異なる役割を担う。つまり、教師は助言者であり、全体のまとめ役であるといえる。》
これによれば、「数学的探究」は生徒が主体的に取り組む活動であり、教師は生徒が行う活動を補佐する役目を持つべきである、とホールディングは述べている。そして、教師が生徒にどのような働きかけを行うとよいのか、その内容をまとめると以下のようになる。
(1)生徒に十分なデータ収集を行うことや記録をとることをすすめる。
(2)データ収集と記録をとる場合、系統的で効果的な方法をとるように導く。
(3)生徒が気付いていないパターンや場合に対して、その存在を指摘する。
(4)生徒が自分の意見を主張したり、その主張を正当化したり、それらを元にした発展や拡張に取り組むようにチャレンジさせる。
(5)記録をとることや、観察や結果を友達と情報交換することの必要性を生徒に認識させる。
(6)クラスやグループのフォルダや、個人のファイルを作ったり、展示を行う。 |
さらに、ホールディングが強調するのは以下の点である。
《常に生徒たちは、自分たちの理解力や洞察力を発展させるのに時間がかかると、教師側も認識するべきである。生徒たち自身が決定し、疑問を抱いたときにはすぐに戻るべきである。生徒が行っている観察やそれに伴う結果というものは、教師が説明をするのるのではない、また、すぐに正しいのか間違っているのかを判断すべきではない。教師が発問を行う場合は、例えば、「それは本当に正しいのですか?」また、他の生徒に対しては「君はこの意見に賛成なのかな?」のような発問が望ましい。》
ここで強調しているのは、「数学的探究」の教師の立場は、教師が生徒に教え込む授業での立場とは異なっていること、教師の発問は、生徒の活動を探ったり、刺激することによって、生徒の問題の解決への動きをつくることが出来るものがよいということだ。これらのことは、「数学的探究」を行う際の大きな特徴の一つとなっているように思う。
おわりに
ホールディングの「数学的探究」の意図する点は、生徒が数学的思考力を高められるようなテクニックを身につけることである。そのために「数学的探究」とは、生徒が主体的に問題を取り組み、解決方法を見つけていくという活動の場であるといえる。また「数学的探究」は、いわゆる問題解決的な数学的活動であり、日本における選択教科としての「数学」や課題学習の趣旨と類似していると考える。
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