ウルトラマンレオ第29話
日本名作民話シリーズ！
『運命の再会！ダンとアンヌ』を読み解く
ウルトラマンレオ第29話。
日本名作民話シリーズの中にありながら、
ウルトラセブンとの繋がりが示唆されているエピソード。
それはとても難解な話である。
しかしウルトラマンレオＤＶＤのVol.8に、
この話の台本の決定稿が画像資料として収録された。
そこで。
台本を参考に、改めてこのエピソードを読み解いてみたいと思う。
結局、あの女性はアンヌだったのか？
二人の再会劇が意味するものは？
そして原典である「狐がくれた子」とは？
全ての答えが台本に隠されていると信じて……。
台本と映像を照らし合わせてゆくと、
全体の流れはそこまで大きな差は無い事に気づく。
しかし、いくつかの変更点が見つかった。
興味深いそれのシーンをここで検証してみよう。
なお、シーンが前後する程度の変更は割愛する。
・幻想的な原っぱでダンとアンヌが再会するシーン
と、遠くの方からコーンコーンという狐の声が響いてくる。
女、立ち止まる。
女「ウリー」
コーンコーンという声が近ずく。
女「ウリー、おいで」
近くの草むらがガサガサ揺れる。
……そしてウリーが出てくるのである。
狐の子＝ウリ―という事が直接的に示唆されている。
誰でも内容を思いつく他の民話シリーズの原典と違って、
「狐がくれた子」という民話は聞き慣れない。
一体、どのような話なのだろうか……。
・ＭＡＣ基地でのゲン達の話。
アンヌらしき女性と再会して物思いにふけるダン。
それを見つめるゲン、梶田、白土の三人のＭＡＣ隊員達。
このシーンには台本でのみ確認出来る会話があったのである。
何と、前述の三人に加え、白川隊員が登場する予定だった。
（何故か、白川隊員の名前が俳優の名前になっている。そこは修正した）
白土「……あのまんま、もう二時間だぜ」
梶田「どうしちゃったのかねえ」
白土「おい、おおとり、お前と一緒に帰って来てからだ、どうしてだ？」
ゲン「それが、ぼくにもわからないんです」
白川「あたし、わかるわ」
ゲン「うん？」
白土「わかる？」
白川「ええ、こういうことには、乙女心の敏感さがビビッと働くのよ」
梶田「乙女心がどうしたんだ」
白川「にぶいわね、隊長の目を見てごらんなさい」
隊長たち、ダンの目をうかがう。
白土「なんだ。黒い目が二つあるだけ。ちっとも変ってないぜ」
白川「迷える小羊、隊長は悩んでいるのよ」
白土「隊長が、悩む！？馬鹿馬鹿しい」
梶田「そいつは、傑作だ」
隊員たち、笑う。
ダン、すっくと立つ。
ダン「おおとり」
ゲン「はい」
ダン「出掛ける、あとを頼む」
ゲン「はい。……あ、隊長、どちらへ？」
が、すでにダンはドアの外にいる。
ダンと隊員たち、首をかしげる。
白川隊員は出演予定があったから、
ＯＰクレジットに名前が載っていたのは分かった。
しかし、同じく名前が載っていた松木隊員は、
台本の中には出番は全く無いのだが……。
謎が一つ解けて、謎が一つ増えた。
・港でダンとアンヌが会話するシーン
ダン「アンヌ」
アンヌ「隊長さん」
ダン「隊長？」
アンヌ「だって、そうなんでしょ、あなたはＭＡＣの隊長さんでしょ」
ダン「……！」
アンヌ「わたしは、アンヌじゃありません」
女性がアンヌである事を否定する。
別に無くてもいいかと思って削られたくだりなのだろう。
しかし、これはこれで味わい深いやりとり。
・ＭＡＣとアンヌ
ウリーがダンと超能力戦をするシーン。
それを見守る隊員達の描写もあった。
ゲン「……やはり、あいつは人間じゃなかった」
白土「隊長が危ない！」
アンヌ「ウリー、いけません！」
ゲンたち隊員、アンヌを見る。
ゲン「あなたですか、隊長の知り合いというのは」
アンヌ「……」
白土「隊長は、あなたのために、わざわざ危険をおかしに行ったんですよ」
梶田「行こう、隊長を援護するんだ」
アンヌ「待って下さい、あたしが行きます、大勢で行けば、
かえってあの子は興奮して、手がつけられなくなります」
ゲン「よし、じゃ、ぼくと二人で行きましょう」
ゲン、アンヌの手を引いて駆ける。
隊員たち、見送る。
本当はこんなやりとりがあったから、
途中から白土隊員と梶田隊員は居なくなったのだ。
そこが割愛されているのが、ＭＡＣ隊員の悲哀。
・ウリ―とアンヌを宇宙へ運ぶシーン〜ラストシーン
実は、レオが運ぶのは宇宙に出るまでで。
それから二人は雲の上に乗って行くのだ。
アンヌとウリー、雲に乗って飛んでいく。
「恋しくば、たずねて来てみよ、和泉なる、信太の森の、うらみ葛の葉」
アンヌが謳うともしれぬ、か細く美しい声が、宇宙の彼方に遠ざかっていく。
ダン、ハンカチを握りしめ、立っている。
ナレーション「あれはアンヌだったのか、それとも別人だったのか……」
白土たち隊員、近づこうとする。
ゲン、かぶりをふり、とめる。
小さな雲が消えていく。
ナレーション「永久に確かめるすべはなくなってしまった……」
台本では女性の役名はアンヌになっていた。
結局、台本の中ではアンヌか否か最後まではっきりしなかった。
しかしこの女性、言動からしてダンと無関係とは考えにくい。
もしも無関係な赤の他人ならば、最初にこういうはずだ。
「アンヌって誰ですか？」と。
だけど女性は言った。「アンヌではありません」と。
これは暗に女性がアンヌだという事を示しているのではないか。
女性はアンヌであるが、名乗れない理由がそこにあったのだ。
宇宙人の子であるウリーを育てるために。
アンヌである事を捨てたのである。
我々にとってアンヌは宇宙人と戦うウルトラ警備隊の隊員である。
それが。ひょんな事から宇宙人の子を育てる事になった。
防衛軍に知れたら大問題である。
だからこそ名前を捨てて、姿をくらましたのではないか。
誰もアンヌの行方を知らなかった理由が、そこにある。
ダンとアンヌの運命の再会。
あんなにも想い合っていた二人の再会なのに。
そして今も変わらずにお互いに好意を持っているはずなのに。
二人は結ばれる事は無かった。
残酷な時の流れが二人を阻んだのであった。
かつての想いは二人の中でセピア色の思い出となっていた。
（原っぱの再会シーンはそれを示唆する演出？）
そして二人はお互いに、あの頃とは違う環境に身を置いている。
過去の思い出のために現在の生活は捨てられない。
ダンとアンヌの再会が意味するもの。
それは、青春の終わりの再確認だったのかもしれない。
そしてラストの歌。
これは原典を探る上で重要なヒントであるので調べてみた。
すると、一つの説話が浮かび上がった。
安倍晴明の母親とされている「葛の葉」の話である。
その話をかいつまんで説明すると次の通り。
一人の若者が、信太の森で狩人に追われている白狐を助けたが負傷してしまう。
そこに葛の葉という女性が看病しに現れる。
恋仲になった二人は、一人の男の子をもうける。
しかしある日、葛の葉の正体が若者に助けられた白狐である事がばれてしまう。
葛の葉は例の歌を残して、信太の森へと帰っていくのであった……。
この男の子が後の陰陽師・安倍晴明である。と、そんな話。
――恋仲の男女。
――不思議な力を秘めた子供。
――ばれてしまう正体。
――男女の悲しい別れ。
今回の話のストーリーラインは、まさしくこの説話のそれと酷似している。
ようやく原典がはっきりした。
「狐がくれた子」とは葛の葉の話だったのだ。
ここからは完全なる邪知である。
更に自分自身、半信半疑な部分もある。
恐らく、スタッフもセブンの正式な後日談として、
深く考えて意図したものではなく、
レオの１エピソードとして、
民話シリーズの１エピソードとして、
このような、一つの読み解き方も出来る、という事で了承願いたい。
今回の話を信太狐に当てはめるならば男女を逆転させると分かりやすい。
アンヌが若者で。ダンが超能力を持った狐という事だ。
ウルトラ警備隊時代、二人は恋仲にあった。
だけどダンの正体がばれてしまう。
その先にある悲しい別れ。
ここまで書けばもうおわかりだろう。
ウリーはダンとアンヌの子供って事になるのである。
そういえば。ダンとウリー、いや、セブンとウリンガには共通点が多い。
二人とも念力を得意とする。
しかもウリンガは身体の棘を分離して投げつける攻撃が出来る。
これは……まさにアイスラッガーと同系統の武器じゃないか！
そう、ウリンガはセブンの息子だったのだ！
それだと感動のセブン最終回の前に子作りに励んだ事になるぞ、とか、
そんな下世話な話は、正直どうでも良い。
ダンとアンヌとウリー。
この３人、何とも幸せそうな親子連れに見えないか。
ダンもこの話だけは馴染みの隊員服を脱いで父親のような背広を着ている。
アンヌも古き良き時代の母親のような艶やかな着物姿である。
信太狐の話は愛と別れの物語である。
それと同時に親子の物語でもあるのだ。
ダンとアンヌ、もしも愛する二人に別れが訪れずに、
人並みに幸せな家庭を築いたらこのようになってたのではないだろうか。
この話の、ダンとアンヌの運命の再会とは。
ダンとアンヌの別れに涙した当時の視聴者への、
ささやかなファンサービスなのではないだろうか。
……と、以上はあくまでも自分の個人的な見解である。
自分は映像と台本と原典、全てを重ね合わせた結果。
このような見解に至ったわけであるがどうであろう。
機会があれば是非とも諸君の見解を聞いてみたい。
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