治療者・カウンセラーの倫理

 一般の書店で購入できる日本語の書物としては、金沢吉展(かなざわ よしのぶ)(現 筑波大学心理学系助教授)による『カウンセラー、専門家としての条件』誠信書房、1999年(1998年初版)がある。

 とりわけ、同上書「第六章 すべきこと、すべきでないこと、カウンセラーの職業倫理」117-152頁、および、「第七章 カウンセラーとクライエント、超えてはならない「一線」」153-167頁、において、倫理に関して詳しく述べられている。

 ここで金沢氏は、まず、アメリカの研究に基づいて、要約すれば、以下のような、職業倫理の7原則を挙げている。

1、相手を傷付けない、

2、教育・訓練を受けた専門的な行動の範囲内で、相手の健康と福祉に寄与する、

3、相手を利己的に利用しない

4、一人ひとりを人間として尊重する、

5、秘密を守る、

6、インフォームド・コンセント、

7、全ての人を公平に扱う。

 このうち、第一の原則に関しては、「見捨てない」ことが重要だが、他のカウンセラーにリファーする場合には、さまざまな注意が必要であり、「見捨てられた」と思われてはいけない。

 また、複数のリファー先を提示して、相手の自己決定に委ねることが重要である。

 特定のリファー先を指定することは、「クライエントの勧誘」という行為になる恐れがある。

 また第3の原則に関しては、とくに、多重関係(大学教師でありカウンセラーである人物と、教員の授業を履修する学生であり患者である、といったもの)がある場合、注意が必要である。

 最善なのは、リファーすることである。アメリカの心理学界APAから除名されたりする場合、最も多いのは、性的関係を含む多重関係であり、APAに提訴される件数は、このケースが最多であるという(159頁)。

 「勧誘の禁止」もまた、「相手を利用しない」という原則に則って挙げられている禁忌事項である。

 インフォームド・コンセントの原則でも、相手の自己決定権を尊重する、というものがあり、特定のリファー先を指定することは、この原則からも逸脱したものである(134頁)。

 カウンセラーとクライエント間の恋愛には、「合意」は存在しない、と金沢氏は指摘する。

 なぜなら、両者の関係は、明らかに権力関係だからであり、不平等な関係だからである。

 カウンセラーは、専門家であるがゆえに、両者の関係がどうあるべきか、ということを熟知しているが、クライエントは素人なのであるから、責任を負うのは専門家なのである。

 なぜ性的な関係を持っていけないかといえば、それはクライエントに重大な被害をもたらすからである(160-161頁)。

その他参考:
日本心理療法研究所倫理綱領草案
各種倫理綱領へのリンク(小山隆氏による「福祉関係者のホームページより」)


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