精神療法における落とし穴

飯森眞喜雄「精神療法の「現在」−断層と箇条書き−」 『こころの科学』、No.101/2002年1月、20−26頁より。

 飯森氏によれば、「精神療法にはいくつかの落とし穴がある」。

 「それを知っておくことは最悪の仕事をしないために大切である」。


 「落とし穴」は以下のように分類できる。

まず、
「(1)時間的・空間的枠組の維持ができない場合の落とし穴」である。

これはさらに、以下、A、B、Cに分類できる。

「A 時間が野放図に使える状態では患者の注意力はそがれてしまい、 課題に集中して話すことができなくなる。」

「B 時間や空間の制限は極めて社会的、現実的な事柄であるので、 それが全くないような設定では、患者は容易に不健全な退行をし、 治療者は治療の流れを制御できなくなる。」

「また時間が無制限の状態は患者にとって心地よいため、ただ治療者と 一緒に過ごすことが目的になってしまう恐れがある。」

「C もっとも大きな問題は、上記A、Bの事態により、治療者が治療を 継続することが難しくなるということである」。

次いであげられるのは、
「(2)患者・治療者関係上の落とし穴」である。

 これもまた、
以下のように分類される。

「A 治療者の苦手意識:これは専門的訓練と慣れとで多少克服できるが、 自分自身の苦手意識を自覚することが大切である。」

「B 治療者の誤った譲歩:治療者が治療上好ましくないことを人道上必要と 誤解し、してはならない譲歩を患者にしてしまう場合である。」

「C 治療者にある特定の役割を担わせるのがうまい患者:
みずからの抱える人間関係の病理を治療関係で露わにする患者がおり、 治療者もそれに嵌められてしまう場合がある」。

「たとえば患者が治療者に「あなたほど私をわかってくれる人はいない」 と伝えると、治療者は「自分がいなければだめだ」と感じてしまい、 いっそう患者に尽くすようになる」。

「その結果、患者の期待を裏切らないことが治療者の目的となってしまい、 患者はますます貪欲になり、ついには治療者は患者を重荷と感じ、治療関係 そのものが潰えてしまう。」

第三番目に挙げられる「落とし穴」は
「(3)治療の継続上の落とし穴」である。

この点について飯森氏は次のように述べている。

 「次のような場合、治療者はこのまま自分が 治療を継続するべきであるかどうかを考えてみなくてはならない」と。

 この「落とし穴」を、飯森氏はさらに次のように分類している。

「A 患者の抵抗が強すぎ、自分の力量で扱えない場合。」

「B 患者とあまりにも個人的になりすぎた場合。」

「C 両方そのものが形骸化した短調な繰り返しになり治療的な 効果を失っている場合。」

「D 激しい行動化、自殺企図の繰り返しがあり、そのことが 患者・治療者関係の中で習慣化している場合。」

「E 治療者が患者の病的世界の非現実的な幻想の対象に なっている場合(妄想の内容に深く組み込まれてしまうなど)。」

「F 治療者の個人的生活史と患者あるいは患者の近親者の それとが重なるほどよく似ている場合。」

「G 患者の病態レベルを大きく読み誤って治療導入をし、 本来必要な治療関係からとり返しがつかないほど隔たった 状況になってしまった場合。」

飯森氏はさらに、このような状況における適切な医師の対応を、 次のようにまとめている

「以上のような局面では、治療を中断するか、治療者を替えることを検討する。」

「治療者は敗北感や無力感、患者への執着や嫌悪感を認識しながらも、 「かかわって、かえって状態を悪くする」ような関係を仕切り直さなくて はならなくなる。」

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