メドゥサ、鏡をごらん

呪いの書

(感想を書く上で、どうしてもネタバレをしないと説明が出来ない作品です。タイトルを見て少しでも興味を惹かれた方は、読了後にこれを読む事をお勧めします)
ホラーのような、ミステリーのような。その境が割と曖昧な作品です。ミステリーに分類するには犯罪も起こっていなければ勿論犯人もいないし、何よりも謎が全然解き明かされていない。超消化不良。超気持ち悪い。そのくせ、ホラーにするには怖くなり始めるのが遅いんだな。いや、ホラーなんていうのは読後感がゾッとすればそれでいいんだろうけど、こう、何つうかなあ。語り口がミステリなんだよね。まあどっちつかずではありますが、一晩で一気に読んでしまえるだけの勢いはあります。文章も読みやすいし、少なくとも私はページを捲る手が止まりませんでした。
それにしても、この作品がホラーであれミステリーであれ、怖い事には変わりありません。怖いっつうより、可哀想すぎて読後感がイヤンな感じ。本当に人間というのは、下手な幽霊よりも残酷なものですな。不可抗力の事故によって顔に大火傷を負って、今までクラスのアイドル的存在だった女の子が突然苛められっ子になる。これがタイトルにもある「メドゥサ」の正体なんですが、容姿を上げつらって苛めなんて、読んでて凄く不快になりますよ。まあ小学生というのは分別もついてないし、実際そんなものなのかもしれんが、それにしても酷い。しかも、彼女のいた小学校のキチガイっぷりには驚くばかりなんだけど、彼女をメドゥサに配役して学芸会でギリシア神話をやっちゃうんだ(小学校の学芸会でギリシア神話をやるのもどうかと思うけど)。そうする事で、クラスメイト達は彼女を堂々と「メドゥサ」と呼んで罵る事が出来る。鏡を突きつける事が出来る。その後で彼女は自殺と言ってもいい死を遂げますが、自分をそんな風に扱った奴らを皆殺しにしたくなっても、そりゃあ仕方ないよ。つうか私は、彼女の選択は正しいと思う。
私は、人間誰しも差別をしてしまうという心は持っていると思うんですよ。理性では「こんな事を考えちゃいけない」って解っていても、例えば身障者を見た時とか、本当に失礼だと自分で解っているんですが、「ああ、私は五体満足で健康で良かった」って思っちゃうんだよね。他にも、学力、体力、その他諸々で自分よりも明らかに能力的に劣った人間と接する場合。よほど完成された人間でないと、そういう差別的心理というのはどうしても働いてしまうと思うのです。でもさ、それを表面に出すか出さないかが、人間かそうでないかの違いなんじゃないかね。例えば、動物は劣った個体は容赦なく切り捨てていくよね。そうしないと群れている場合はその群れ自体が駄目になる可能性があるし、単体でいる場合はすぐに他の種によって捕食されたりします。つまり、弱い個体は消えていけってのが動物なんだよ。でも、人間は違うでしょ。弱い個体をどうやって他の個体が庇い合い、補っていくか。共存するか。言うまでも無く、皆で潰し合うなんて以ての外だよね。
という私も、過去そういう事をした事が無いのかと言われればどうだろう・・・と考えなくてはなりません。確かに小学生くらいの頃には、酷い事をした事があるかもしれない。でも、絶対越えてはいけない一線てあるよね。普通の苛めはどうだか解らんが、少なくとも不可抗力のケロイドに対する罵りや無視なんかは、苛めではなく暴行だと私は思いますよ。その子には本当に、何の落ち度も無いしどうする事も出来ない。どうにか出来るもんだったらしてもらいたいのは彼女の方なんだから。しかも、そんな子にメドゥサの役をやらせるとはコレ何事。純粋に腹立たしさを感じますな。唯一救いだったのは、メドゥサは決して悪の象徴ではなく、むしろこのギリシア神話において悪だったのはメドゥサ退治を名乗り出たペルセウスであると(井上氏のこの解釈はナイスだと思う)、彼女がちゃんと理解していた事です。
直接的にしろ間接的にしろ、彼女を知った者は皆無差別に殺されるという点ではこの作品、「リング」に通ずるところがあるかもしれません。確かに貞子も可哀想ではあったけど、私はこの「メドゥサ」の方こそが、本当に可哀想で堪りませんでした。しかし!!可哀想であると同時にやっぱり怖い事に変わりは無いのは事実。私は次の日一日、鏡を見るのにちょっとドキドキしましたよ(笑)。途中でフォントが変わるというのも表現的にはいいですね。ついつい話に引き込まれ、可哀想で腹立たしくて怖くて、そして後味が悪い後にさらに鏡が見られなくなる作品。如何でしょうか。

メドゥサ、鏡をごらん    井上夢人 著     双葉社



蟲師

この世はヒト知れぬ生命に溢れている

こういう独特の雰囲気を持った作品は大好きです。また、やっぱりこの話も小説よりは漫画で表現された方が、読み手により印象を深くさせる事が出来るんでしょう。とにかく場面場面の印象が鮮烈。こんな世界観や自然の情景なんかを文字で表現する事が出来たら、凄い文字書きになれるんだろうなあ。
再三言っているように私は絵の事はよく解りませんが、この作家さんはそんなに「上手い」と言われるような部類ではないと思います。でも、こういう絵柄が好きな人も割りと多いんじゃないかな。何つうか、素朴な感じと言いますかね。まあ主人公のギンコはどことなく某海賊コックに似てる気がしなくもないんですが(ムートンショットはいつになったら出るんだろう)。でも、山とか沼とか渓谷とか、そういうものを描く人の中では群を抜いて上手いと思いますよ。
・・・・・・アレ?今私「上手い」って言ったっけ?
う〜ん、それこそ上手く言えないんですがね。この作品から感じるのは風景そのものの「美しさ」ではなく(勿論「絵」として見た時の風景画も綺麗だとは思うんだけど)、その風景から通して伝わってくる「ノスタルジー」みたいなもの。「綺麗だなあ」と思うより先に、どことなく「懐かしいなあ」と思うわけです。私はそれなりに都会っ子なので山やら渓谷にはそんなに見覚えは無く、どうして懐かしさなんてものを感じるんだろうと疑問に思ったわけですが、そうやって考えてみると「もののけ姫」やら、「風の谷のナウシカ」に通ずるところがあるような気がするのよね。もしかしたら、ああいう類のものにジ〜ンときちゃうのは、全ての人間に古い記憶が備わっているせいなのかもしれませんな。太古の昔、人間はそういった環境で生きてきたわけで、それは現代に生きる我々の中にも意識しない記憶として眠っているのかもしれません。もう使われなくなっちゃった尻尾の骨みたいにさ。それこそアカシック・レコードみたいで、ちょっと良くないですか。
さて、日本では「八百万の神」なんて言って、万物に命があるという考え方をしたようですが、この「蟲師」もちょっとそんな流れを汲んでいるようです。
一話完結の形式をとっていて、毎回違った人物が主人公のこの物語。同じ人物は二度は出てきません(例外的に化野先生なんかがいますがね)。その点では、話の大きな流れとしてはギンコという蟲師が主人公なんですが、個々の物語を見ていくと、ギンコもあくまでストーリーテラーでしかないのかもしれません。その第三者的な視点がまた面白い。中でも私が一番好きなのは3巻「眇の魚」です。この話では、謎の多いギンコの幼い頃のエピソードが少しだけ明かされるんですね。しかも主人公だからといって大袈裟な描き方をするわけでもなく、あくまで一歩引いた場所から見ている感じで。
畏れや怒りに目を眩まされるな。皆、ただそれぞれがあるようにあるだけ。
こんな深い言葉は、小説でもなかなか読めるものではないと思います。まさに万人に読んで欲しい漫画ですね。つうか、漫画がこんなハイレベルなのばっかだったら、それこそ小説は存亡の危機だなあ。

蟲師    漆原友紀 作     講談社



ちくま日本文学全集 江戸川乱歩

ミステリーやホラーを語る上では欠かせない作家ですね。でも、本名は太郎というらしいです。それもびっくりだけど、71で大往生した際の戒名が「智勝院幻城乱歩居士」というらしいですわ。ここまでくると、戒名もペンネームかよ。私もいずれ戒名を付けてもらう時には、「六」という字を入れてもらおうかな。で、以下が収録作品。
■収録作品■
1、白昼夢
2、火星の運河
3、二銭銅貨
4、心理試験
5、百面相役者
6、屋根裏の散歩者
7、人間椅子
8、鏡地獄
9、押絵と旅する男
10、防空壕
11、恋と神様
12、乱歩打ち明け話
13、もくず塚
14、旅順海戦館
15、映画の恐怖
16、幻影の城主
17、群集の中のロビンソン・クルーソー
18、「探偵小説の謎」より 奇矯な着想〜意外な犯人〜隠し方のトリック〜変身願望
「屋根裏の散歩者」と「人間椅子」はあまりにも有名なので、読んだ方も多いと思います。どっちも着眼点というか、発想が斬新。そりゃ今まで自分が何気なく座ってた椅子の中に人間が入ってたら気持ち悪いわな。今で言うストーカーぽい匂いがして、この時代にこんな話を書けたという事が凄いと思います。・・・っが!!私が一番興味を惹かれたのは「鏡地獄」です。
これも有名なので知ってる人は多いと思いますが、端的に言えば、鏡貼りの球体の中に自ら入って発狂した男の話です。球体の鏡の部屋で、男は何を見たのか。何故発狂しなければばらなかったのか。これ、純粋に気になりませんか。合わせ鏡ならやった事もあるし、どういう映像が見られるかも分かるんですが、球体の鏡の部屋なんて入る機会も無いでしょ。そんな発狂するくらい凄いもんが見えちゃうのか。そういうわけで、探しましたよ〜。球体の鏡の部屋内部の映像!!まずココを見るがいいさ。
・・・・・・どうですか。結構凄くないですか。で、球体って事は当然動くわけだ。ゴロゴロ転がるわけだ。そういうわけで、アニメーションも探してみました。→ココ
キモ〜!!つうか怖ッ!!特に動く方、凄いですね。こんなとこ入ってたらやっぱ発狂しちゃうかもしれないですね。
それより気になるのは、乱歩はこんな映像が見られるって事を知っていて書いたのかどうかです。勿論乱歩だってそんな鏡の部屋を作ったわけじゃないだろうし、今みたいにパソコンやら何やらでシュミレートするわけにもいかんでしょう。だとしたら、乱歩は何の根拠をもって「発狂する」と書いたのか。それは単なる想像なのかどうなのか。
こうしてよくよく考えてみると、実はこの話を書いた乱歩という人間が一番怖いかもしれないんじゃないかとか思いますね。あるいは、乱歩は球体の鏡の部屋に写る映像がどんなのか知っていたというのでも私はいいと思います。江戸川乱歩という作家は、それくらい不可思議な要素を持っていると言えるんじゃないでしょうか。
シュミレートするまでもなく乱歩には何が見えるのか解っていた。それもまた、乱歩らしくて素敵じゃないですか?

ちくま日本文学全集 江戸川乱歩     筑摩書房



木島日記

あってはならない物語

典型的オカルト物語。これをオカルトと言わずして何をオカルトと言うのかと。つうか、解説文にもはっきりそう書いてあるしね。著者は大塚英志。「多重人格探偵サイコ」の原作者として有名なので知っている人も多いでしょう。
で、この木島日記、ただの「ムー」的なオカルトではないわけですよ。人魚伝説やらヒトラーユダヤ人説やらロンギヌスの槍やら、どう考えても荒唐無稽ではあるんだけれども、それを上手い事民俗学と絡めてある。オカルトなんつうのは民俗学とは切り離せられないものだとは思うんだけど(フォークロアとかね)、昭和初期のオカルトブームと民俗学、果ては国家までをも織り交ぜてあるとなると、「ムー」的オカルトも立派な読み物だよね。
この木島日記には、木島平八郎という仮面の男が出てきます。彼の職業は「仕分け屋」。この世にあってはならないものと、そうでないものをある国家的機関から依頼され仕分ける人なんですな。・・・・どうでもいいけどさ、木島平八郎とか聞くと「鉄拳」を思い出しちゃうのは私だけじゃないと思うわけね。で、彼が当然主人公なんだけど、実際彼よりも焦点が当てられているのが「折口信夫」という民俗学者です。彼は学者という立場上オカルトには懐疑的なんだけれども、ある意味木島とは表裏一体であるわけね。ちなみに折口信夫は実在する民俗学者ですが、実際の彼はこの物語とは何の関連性も無いそうです。
オカルトと民俗学、国家が入り混じったトンデモ小説ですが(大塚氏には失礼だけども)、史実は「作られた」ものであるという陰謀めいたものが垣間見えてなかなか楽しめる話でした。木島平八郎の謎めいていて、それでいて知的でクールな人物像も魅力的です。オカルト好きさんは是非御一読を

木島日記    大塚英志 著      角川文庫



クリムゾンの迷宮

TRUE END

「黒い家」で有名な貴志祐介氏の著作です。これも普通に怖いですよ。いや、怖いというより後味悪い系かな。グロいのも平気な方は是非どうぞ。
ちょっと前に「バトルロワイヤル」という小説が流行りましたが、感じとしてはあれと同じです。バトロワは一クラスまるごとというジャンボリーなスケールでしたが、こっちは大人9人。ただし、クリムゾンの方が更に「んもう堪忍してッ!!」という度合いが強くて、6的にはこっちを推したいと思います。まあな・・・・・こっちはヒト食っちゃってるしな・・・・。で、あんまりにも内容的に似てるもんだから、どっちが先に出たのか気になってちょっと調べてみたんですが、驚いた事にバトロワもクリムゾンも同じ年の同じ月に出てるんですね。何なんだ。こいつら友達なのか。それとも日本の作家は頭ん中で連合作ってんのか。それにしても、こんだけ似てるもの書いといてバトロワはあれだけ騒がれて、クリムゾンは全然だったんですねえ。まあバトロワの場合は中学生(しかも友達同士)で殺し合いをさせるというのが衝撃的だったんだろうけども。あ、一つ誤解の無いように言っておきますが、バトロワやクリムゾン以前にも海外の小説では、こういった形態のホラーがあるそうですよ(キングとかね)。所謂サバイバル系というか。だから、バトロワとクリムゾンを並べてどっちが先とか、そういう事を言うつもりは毛頭無いです。どっちが怖いかの比較はするけど。(あと、文章もクリムゾンの方が数段上手いと思うけどね)
で、ようやく内容に触れるわけですがこの小説、微妙にマニアックなヲタク心を擽ってきます。まず、サバイバルの指示なんかが携帯ゲーム(ゲームボーイみたいなもんだ)を通じて行われます。それによって、主人公達がまるでRPGの中に放り込まれちゃったようなシチュエーションになるんですね。しかも、主人公は途中でアイテムとしてゲームブックを手に入れるんですが、話の展開がそのゲームブックのストーリー通りになっていくんです。
・・・・・・・つうかね?今の人はゲームブックなんて物を知っておるんだろうか。
ゲームブックと言えば、まだ私が小学生だった時に流行った代物です。半ページくらいの短い文章に番号がふってあって、順序バラバラに一冊の中に収められてるの。で、その短い文章の最後では読み手は必ず選択を迫られて、それによって進むページとストーリーが変化していくという奴ですね。今で言うサウンドノベルって奴だ。当時ドラクエのゲームブックが大量に世に出回っていたので、我が小学校ではあっちでもこっちでも勇者が誕生しておりました。多分、全国でも勇者は異常発生していたと思います。
・・・・・話を元に戻そう。いや、私が言いたいのは勇者ロトについてではなくて、その小道具やら設定の斬新さですね。サバイバルって要はRPGみたいなもんだし。ゲームに絡めた設定で、しかもホラーというのを今まで読んだ事が無かったので、かなり楽しめました。結末については消化不良気味の感もあるけど、一気に読ませるだけの勢いは十分あります。是非ともバトロワと読み比べてみて欲しい一冊ですね。

クリムゾンの迷宮    貴志祐介 著     角川ホラー文庫



青の炎

こんなにもせつない殺人者がかつていただろうか

早く寝ないと明日起きられねーよ!!と思いつつ夜中の3時までかかって一気に読んでしまったよ。陳腐な言葉かもしれないが、読了後は切なくて胸が締め付けられるようでした。間違いなくこれは良作だ。
言うまでもなく、殺人は許される筈のない大罪です。死んでしまったら全てが終わり。誰かの人生を他人が強制的に終わらせてしまうなどという事が、あって良い筈がありません。・・・まあ、他人に限らず自分で終わらせるのも駄目なんだろうけど。しかし、その是非はともかくとして、「どうしても殺さなくてはならない」と追い詰められる人間というのは、決してフィクションのものだけではないのではないでしょうか。
この小説を読んで、私はふと「尊属殺重罰規定」の判例を思い出しました。事件自体は物凄く有名で、従来の刑法を改正に導いたものでもあるので、知らない方はココなんかを参考にして下さい。
やむにやまれぬ殺人というのも、やはり無いわけではないのかもしれません。ちょっと前まで「キレやすい若者」なんて言葉が盛んに叫ばれていましたが、それからどれだけも経っていない今では、若者に限らず人が簡単に人を殺しすぎると思います。けれど、人を取り巻く環境などというのは千差万別。誰もが勢いで凶行に及んでしまうわけではありません(と、思う)。もし自分がこの判例や、小説のような状況に置かれたと仮定した場合、絶対に同じ事をしないと言い切れるでしょうか。
山田詠美の小説「○をつけよ」にも、同じような記述があったような記憶があります。殺人自体はどんな理由があろうと罪は罪。けれど、やむを得ずそういう行動をとらなければならなかった人を、第三者が○やら×やらをつける事が出来るのか。罪にラベリングする事は出来ても、人に対して「お前は駄目だ」とか、「お前は許されて然るべきだ」とか、同じ人が断定する事が出来るのか。
この「青の炎」では、主人公がまだ高校生であるという事がいっそう痛々しさを増長しています。彼は一人で全てを背負い込んで、母や妹を守る為に事件を起こす。そして、露見しそうになる罪を更に塗り固める為にまた罪を犯すのです。
ただ、私の感想としては、全てが全て主人公に共感するというものでもありませんでした。確かに前半部分は同情を禁じえない。しかし、後半部分になるに従って、初めのやむにやまれぬ理由が自分勝手なものにすり代わっていくような気がするのです。もしかしたら、そういう変化こそが彼が犯罪者に染まっていくという過程を暗示しているのかもしれませんが。
-------そして、あの結末。
ただ、まあ何だ。この作家の小説全般に言える事ですが、この人はどうして話の中にエッチシーンを入れたがるのか。「クリムゾン」なんかのホラーならまだ分かる。恐怖とエロチシズムというのはまんざら切り離されるものでもないらしいしね。洋画のスプラッタホラーには絶対イチャパラなカップルが出てきて、真っ先に殺されるのと同じようなもんなんだろう。しかし、この作品にエロはいらんだろう。
壮絶な運命を歩む主人公なら、あくまでストイックでいて欲しいもんだと思いました。ヒロインは心の支えとして出てきても構わんけど、あくまでプラトニックでさ。
この小説に俗物はいらんのだ。

青の炎    貴志祐介 著     角川文庫



天使の囀り

前人未到の恐怖が、あなたを襲う。

最近大ハマリの貴志祐介作品です。囀りって字が難しいネ!!「青の炎」の殺害アルゴリズムと言い、今作の寄生虫についての膨大な解説と言い、この人は本当によく研究して書いてるなあと感心してしまいます。(「黒い家」は作者が元々保険の仕事をしていたそうなので、知ってて当然という分もありますが) ただ、この作品に関しては、その記述が多少鬱陶しい面もありました。確かに、内容を理解する上で最低限の知識は必要だとは思うけど、それも行き過ぎるとペダンティックになるだけです。何でもかんでも説明すりゃ良いってもんじゃないぞ。
・・・っが、ともかくも貴志作品はやっぱり面白い。読み出すと止められないパワーがあります。
いきなりネタバレになりますが、今回は「寄生虫が人間を支配し、意のままに操る」という話。それだけ聞くと瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」を思い出しますが6的にはこの「天使の囀り」の方がホラー色が強いと思います。まあもっとも、パラサイト・イヴは端からホラーじゃないと思っておりますがね。あの小説はSFだろう。
始めのうち、語り手には二人の人間が登場します。「天使の囀りが聞こえる」と言い残して自殺した作家の恋人と、恋愛SLGだけが心の友のオタク青年。この二人の交互の視点で物語は進んでいく。しかし、ネットで見つけたサイトのセミナーに参加した辺りから、オタク青年の運命は大きく変わっていきます。
今まで根暗のヒッキーだった男が、突然明るく能動的になる。嫌いだった蜘蛛を大量に捕まえてきて、部屋で飼育するようになる。頬擦りする。あげくの果てにそれを食っちゃうんだよ!?
・・・・怖い。貴志祐介怖い。生理的にキモくてガクブルしますな。そして、最後に異形の死体がかけてたピンクのレンズのサングラス。読んでもらえばこれが何を意味するのか分かるんですが、この演出にはちょっと切なくなりました。彼には助かって欲しかったんだが・・・・。
さっきも言いましたが、今作はトータル的に見て、非常に生理的に怖い作品となっています。貴志祐介氏の作品はどれも秀逸なんだけど、作品ごとに恐怖の種類が違う。そんな事に気が付いて、改めて感心してしまいました。
お食事中に読む事は決してお勧め出来ないこの「天使の囀り」。
食欲の秋の読書にいかがでしょうか。

天使の囀り    貴志祐介 著     角川ホラー文庫



墓地を見おろす家

入居者募集中!

「小池真理子か〜、あんまり読んだ事ねえな。でもこのタイトルはホラーとして秀逸だって時々聞くしな」……そんな心持ちから読んでみたこの「墓地を見おろす家」ですが。結果から言いますとね、全然怖くなかったよ。思いっきり消化不良だよどうなってんだよ小池ッ!!そんな感じです。
順にダメ出しをしていきますと、まず盛り上がりどころが全く無い。格安マンションで次々に怪現象が起こるってのはストーリーとしてはありがちだと思うんだけども、怪現象の「怪」が読み手に伝わってこないんですな。何だか、登場人物達が一線引いた所で勝手に盛り上がってる。当然読者はポカーン(゜д゜)蚊帳の外という塩梅。
しかも、結局その「怪」は何だったのか、ネタバレは最後まで無いのです。その上でのバッドエンドで、ただでさえ「エー?」って具合になるんですが、極めつけは悪霊達によるレーザー攻撃。……何だよそりゃ。特撮ですか。幽霊が科学の力借りちゃうのか!?
ホラーってのは独特のジメジメ感があって然るべきだと思うんですが、どうやらこの小説にはそれがちょっと足らないんじゃないかなと思います。例えばこの小説には地下室というのが非常に重要なキーワードとして登場しますが、別の作家が書けばもっと違ったものになったんじゃないでしょうか。何つうかなあ、このエッセイで度々私が力説してる、「洋モノホラーとジャパニーズホラーの違い」。その観点からいくと、この小説は洋モノホラーのノリなのかもしれないなあ。とはいえ、ガラスに手形がベタベタつくなどのエピソードはそそられるものがあるので、この作品はハリウッドあたりで映像化して頂いて丁度いいのかもしれんよ。と、大きく出てみる。
まあ色々勝手な事を書きましたが、この小説が世に出たのは、巷が今のようなホラーブームに染まる以前の話です。その未開の地においてこれだけのものを書くのは、確かに凄いのかもしれません。……つってもね、もしホラーを読みたいって人がいるなら、私なら別のを進めちゃうけどね。
あ、余談ですが、前半部分はかの有名なホラー映画、「ローズマリーの赤ちゃん」をパク……いや、オマージュしておるらしい。とは言え、ホラーマニアを自負しておる小生がそんな有名な映画を見ておらんとはとてもじゃないが言えぬので、この点については割愛させて頂きますけどね。

墓地を見おろす家    小池真理子 著     角川ホラー文庫



人形(ギニョル)

変態は新化する。

とうとう来たよ。監禁小説。しかもこれと言って格好良くもないオッサンが美少年を飼っちゃうのさ。そういうのは今の時世に迎合しているのかいないのか。少なからず批判の対象にはなりそうです。
しかしこの「人形(ギニョル)」、はっきり言ってあんまり面白くなかったです。どこが悪いのかって事になると、多分「キャラクターに魅力が無い」という一言に尽きるんでしょうな。ギニョルも美少年美少年言われてる割には、こまっしゃくれてるだけで可愛げが無いし(小悪魔風を狙うにしてももうちょっと色々あるだろうに)オッサンに至っては何かキモい。しかも急に優しくなったりサディスティックになったり、はっきりしろと言いたい。作者としては、そういう揺れるオッサンを書きたかったのかもしれんが、苛々する事しきりでした。読むのが苦痛とまではいきませんが、楽しんで読むというには結構辛かったです。やっぱりキャラクターってのは大事なんだなあ。
あとは拷問シーンね。拷問ってほど拷問じゃないのかもしれんが、やっぱりそっちのケが無い人にとっては(いや、私もそうだがね)理解出来ない世界です。理解出来ないから、そういうシーンを読むのは耐え難い。何か読んでて不愉快になってくるんだよ。ケツに呪文みたいな文句が彫ってあるというアイデアはなかなか良いと思いましたが、それも何となく消化不良な感じ。これじゃあただの陵辱小説じゃねえか!!と思いました。
・・・・・・小説読むにも適不敵ってのがあるんだねえ。
余談ですが、「グラン・ギニョル座」は19世紀末びパリに実在した劇団で、拷問・殺人・狂気などストレ−トな肉体的恐怖を呼び物にしていました。それを再現したのが劇団「東京グラン・ギニョル」で、1984年に結成し1986年解散しています。その旗揚げに参加した役者「嶋田久作」は、映画化もされたご存知「帝都物語」で、帝都を震撼させる魔人役で出演しています。
そんなわけで、もしこれが変態小説として書かれたんだったら十分にその役は果たしていると思います。でも決して万人向きではありません。まあ何だ。オッサンがサディスティックに美少年を調教するのが好きな人は読んでみるといいかもしれんよ。性描写も無いし、まだ許容範囲内かもね。

人形(ギニョル)    佐藤ラギ 著    新潮社



暗闇坂の人喰いの木

本格の旗手が全力投球する傑作

御存知御手洗潔シリーズ。第三弾、だそうですが、これが初御手洗の6。とりあえずオドロオドロしいタイトルに惹かれて読んでみました。・・・・が、さすがミステリーの大御所、なかなか面白い!!
私は、作者が主人公に自分を投影しすぎている作品はあまり好きではありません。京極夏彦や森博嗣もそんな匂いがしますが、あれも行き過ぎると多分嫌になると思います。その点、この御手洗シリーズにも多少はそういう面はあるのかもしれませんが、前者のようないかにもという感じはしませんでした。その理由を考えるに、御手洗潔という登場人物にヒーロー色が過剰に付されていないせいかもしれませんな。確かに頭は切れるし英語はペラペラだが、普段の御手洗はと言えば狂人一歩手前みたいな扱いだし。何度石岡君に「狂ったか!!」と言われた事か。あとはやっぱ大御所の貫禄ですか。
んで、そんな本作品。ミステリーというよりはホラー色が強く、非常に面白かったです。特に前半の童話の部分や、昭和のエピソード、地下室の描写。全く、この人は描写が凄く巧いですな。腐りかけて、赤い血の糸を引いて落ちそうな皮膚-------濡れてぬめぬめと光った木の洞。そんないかにも”ぬめ〜〜”っとか、”べた〜〜”っとか、そういう湿った情景なんかは目に浮かぶようです。特に、木にぶら下がる首の千切れかけた死体の描写と言ったら・・・!!
元々晒し首の刑場だった場所に立つ「人喰いの木」と噂のある大楠。その隣の屋敷の、屋根の上に跨る恰好で発見された死体。私が「いいねえ、島田荘司いいねえ」と感じた理由の一つに、トリックがちゃんとトリックとして成立しているというのが挙げられます。-------今はあれでしょ、オチが「死体が見えなかった」とか「犯人の顔が認識出来なかった」とか、「そもそも死という概念が解らなかった」とか、そういうのが多いじゃないの。んなアホなーッ!!と叫びたくもなります。とは言え、面白けりゃいいと思うので否定はしないんですが、そういうのに「本格ミステリー」と銘打っちゃうのはどうかと思うわけね。
・・・・まあ、ぶっちゃけ京極小説を否定するつもりは無いし、寧ろ好きなんだけど。
ともかくそういう点で言えばですね、島田ミステリーはまさに正統派、「本格ミステリー」を冠するに相応しいんじゃないでしょうか。やっぱミステリーは紐やら糸やら使ってナンボよ。
で、ここからネタバレになるので未読の方は注意して貰いたいんですが・・・・・・・。
この殺人の動機。それは異常殺人者の遺伝子をこの世から消し去りたいというものでした。しかし現実問題として、そういう精神的なものは遺伝するものなんでしょうか。
心は目に見えないものだから、身体的特徴のようにあからさまに判るというもんでもありません。心や精神、意志なんかを構成するのは先天的なものではなく、あくまで環境によって形成されるんだと思いたい。しかし、以前あるテレビ番組で、一卵性双生児は同じような精神構造をしているというのを見た事があります。一卵性双生児は言うまでもなく同じDNAを持っていますが、その観点から言えば全く同じとまではいかなくても、やはり似た遺伝子構造を持つ親子もまた、似たような心を持つんじゃないでしょうか。・・・まあ、生まれた時から犯罪者の素質があるなんてのは、あんまり認めたくはないもんだが。
今は受精卵の時点で健常者かそうでないか判ると聞いた事がます。もしそれが実際に使われるようになったなら、健康な子供なら生むけれど、そうでないならいらない-------そんな選民というか、弱者を排するような傾向が生まれそうで怖いですな。それが更に進んで、先天的に決まっている将来の精神状態ででも命を選ぶようになったらどうしよう。しかも、そんなあるかどうかも分からない不確定要素で。
人間の精神というのは本当に不思議なものです。一方で神の如き慈愛を持ち合わせているかと思えば、同じ人間が平気で残虐な行為に手を染める-------ある意味戦争とかもそうなのかもしれん。一見矛盾しているように見えますが、人間とはそういう二面性を持った生き物なんでしょうな。そんな人間の狂気を取り入れたこの作品。御手洗に萌えてみるもよし、拷問のハウトゥにガクブルしてみるもよし。オススメの一冊です。

暗闇坂の人喰いの木    島田荘司 著    講談社文庫



オフシーズン

<食人族>対<都会族>の凄惨な死闘

海外のホラー作家「ジャック・ケッチャム」と言えば御存知の方もいらっしゃいましょう。決してベストセラー作家にはなりえない、しかし一部のホラーファンには絶大な人気を誇る彼の世界はダークでグルーミイ、かつオフビートな狂気を読み手にこれでもかというほど与えてきます。
……ちなみに「ダークで云々」のちょっと恥ずかしい一文は解説を引用したものであって、私が考えたんじゃないよ。念の為。
そんな一部の人々に大人気なJケッチャムですが、この「オフシーズン」が記念すべき彼の一作目なんですな。内容は至ってシンプルで、妹が友人らを連れてオフシーズンの姉の別荘に遊びに行く。が、そこには恐ろしい食人族が……!!という塩梅。しかしこうやって短く纏めるとどうって事なさそうですが、実際に読んでみると凄いですよ。何がって、拷問、食人の描写が。
実はこの「オフシーズン」、出版にあたってはあまりの内容の過激さに、出版元のバランタイン社がケッチャムに大幅改稿を要求したんだとか。んで、その後も版を重ねる毎に内容は訂正されていったんですが(作者自身が後書きでブーブー文句を垂れておるからな)、この邦訳版はオリジナルに近い形になっています。そりゃあもう、生きたまま喰われたり、頭髪を剃って目玉を抉った頭をぐつぐつ煮たり、四肢切断したりと大変な事になっておるのよ。
おそらく読んだ人は、読後に言いようのない不快感に襲われるでしょう。そう言う私も「こんな本買わなきゃ良かった」と思ったし、読み終えた今となってはあんまり家に置いておきたくないです。が、読んでる最中はどうしても続きが気になってしまう。そう考えてみると、これが本物のホラーというやつなのかもしれませんな。映像で怖がらせるというのは割と簡単だと思うけど(特にこういうスプラッタものはな)、文章となると一筋縄ではいきません。まず読み手に情景をリアルに想像させる事が求められる。
恐怖というのは、それが身近であればあるほどより強く感じられるものだと私は思います。そこへいくと、まさに「オフシーズン」は日常の恐怖。ちょっと避暑地に遊びに行っただけなのに得体の知れない原始人のような連中に襲われ、挙句の果てに食われてしまうのです。一見ありえなさそうでいて、そういう人間がいないなんて誰にも断定出来ない。しかも何より恐ろしいのは、これが実際の事件を元に書かれた小説だという事です。
「ソーニー・ビーン」というのが作中の食人族のモデル。スコットランドの山賊、ソーニー・ビーンは妻と共に洞穴に住みつき、2人は25年間外界に出ず近親相姦によって家族を増やします。何でも最終的には50人近い大家族となったとか。彼らは追いはぎを商売とし、塩漬けにした死体の肉を常食としていました。もっとも、最終的には発見されて処刑されたんですが(男は手足を切断され、出血で死ぬまで放置。女子供はそれを見物させられたあと火あぶりにされたとか)、ビーン一族の処刑後、その地方の人口は「目だって増えはじめた」と伝えられています。
……怖イヨー。火炙りにされたって事は時代的には相当前なんだろうけど、そんな奴らが本当に存在していた事が怖いよー。
つまりは、全く無いという話でもないという事ですな。ジェイソンやフレディは100パー無いが、オフシーズンの世界はもしかしたらあるかもしれない。いや、さすがに食人族というのはいなくても、もしかしたらそれに近い異常犯罪者はいるかもしれない。現に、世界中に殺して喰ったという実話はあるわけだしね。
しかし、これだけ不快感を呼ぶJケッチャムの小説。彼の代表作にはこの「オフシーズン」と、もう一つ「隣の家の少女」というのもあるんだが、それが凄く気になるのは何故だろう。
読みたいような読みたくないような……いや……やっぱ読みたいな。

オフシーズン    ジャック・ケッチャム 著    扶桑社ミステリー





同人誌以外の本もたまには読みますよ

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル