現代の狂言「藪の中」

狂言、というとどうにもこうにも難しいという先入観がありますが、実は私もその一人でした。
元々狂言とは能などの舞台の前に演じるもので、笑いの要素がかなり強いようです。最近は映画「陰陽師」で狂言師野村萬斎さんが安倍晴明を演じて、その佇まいが話題になりましたね。同時に狂言という演劇のジャンルにも脚光が当たってきたようです。それでもやっぱり狂言を見るのは難しそう・・・・。そんな我々に朗報だ!!この狂言師野村萬斎さんが、何と現代版として親しみ易い狂言を作ってくれたんですねえ。6/20にSKYパーフェクTVでその舞台を放送していたので、早速感想を書こうと思います。
まず、演目は「藪の中」。原作は芥川龍之介です。
おおざっぱなあらすじとしては、ある夫婦が藪の中で盗賊に襲われ、男は殺害、女は暴行を受ける。だが、いざ犯人である盗賊を捕まえて話を聞いてみると、三人が三様に違う事実を語る。真相は文字通り藪の中、という話です。最近では金城武や豊川悦司によってもリメイクされているので、知ってる人も多いよね。が、さすが萬斎さん、一見難しそうなこの演目を、実に面白く脚色してくれたのですよ。んもう笑いどころ満載。
まず、舞台はある若者(萬斎氏)が「藪の中」という本を拾ったところから始まります。ダブダブのシャツとカーゴパンツ、目深に被ったニット帽という狂言には有り得ない装いの萬斎氏。何気なくパラパラと中身を捲る若者の前に水干袴を身につけた男が登場。本を開いたことで、物語の中にワープ(と言ったらいいのかどうか分からんが)してしまったんですな。何故ここにこんな格好の男が!?というのがお互いに抱いた感想のようです。更にそこへ商人のような男、僧侶のような男、そして馬に乗った夫婦が登場します。
何がすごいって、ここまでで登場人物は一言も台詞が無いのですよ。全て身振り手振り。でも何故か、ああこういうことを言いたいんだろうな、とか、ここはこういうことなんだろうな、というのが分かってしまうのです。ちなみに馬に乗った夫婦が登場と書きましたが、これも本当に乗っているわけではありません。カツギを被った女が男の肩に両手を置いて後から続き、二人で同じ歩調で足を上げたり下げたりしているだけです。それだけでこの2人はきっと馬に乗っているんだろうなと分かってしまうんですねえ。ううむ、狂言侮り難し。
そうこうしているうちに夫婦は商人風の男(だったと思う)に藪の中に誘い込まれ、そこで男は殺され女は暴行を受けてしまうのです。ここで一区切り。
そこからいよいよ3人の証言が始まります。まあどんな風に3人の意見が食い違っているかという辺りは面倒なので省略。自分で確かめよう。
今回注目するのは、物語の内容よりも我らが萬斎氏です。証言ごとに登場人物というのが変わってくるのですが、萬斎氏はその都度違う役をやっていました。まず捕まった盗賊の証言では検非違使(今で言う警察みたいなもんだ)。女の証言では観音様。殺された男の証言では祈祷師。まあこれは萬斎氏の役どころが違うというよりも、物語の中に引き込まれた若者が証言ごとに違う人物になっていると解釈するのが正しいんじゃないかと思います。で、ここでも笑いが一杯。盗賊と男が戦うシーンは普通凄く真面目にやる場面なのに、盗賊は鼻歌でも歌いそうなくらい軽く立ち回ってるし、女の証言の場面では観音様が女に引いてます。女が倒れる度に「大丈夫かよ〜」みたいな感じで恐る恐る近づくんですが、起き上がるとササッと元の位置に戻るの。挙句は「どうしたらいいでしょうか」と縋ってくる女を足蹴にして自分で扉閉めちゃうし。
何つうかですね〜。この「藪の中」、笑いのノリが実に吉本っぽいです。吉本の舞台って冷静に考えると全然面白くないでしょ?何でパチパチパンチであそこまで笑えるか、よくよく考えると不思議でしょ?この「藪の中」もそんな感じです。特に野村万作氏(だったと思う)は出てくるだけで笑えます。私が推測するに、狂言も昔からある日本古来のものだし、ああいう笑いはきっと日本人のDNAに組み込まれてんのね。強制的に笑わせられるというか。狂言と吉本を同じカテゴリに入れるときっとクレームが来ると思いますが(それはそれで吉本に失礼よね)、笑いの種類的には一緒な感じでした。
で、結局当事者である3人の意見が食い違っていて、真相は文字通り藪の中。若者はまた現在に戻ってくるのですが、再び本を開いてみてももう水干の男も馬に乗った夫婦も出てこないのでした、というのがあらすじです。
最後にカーテンコールをして舞台の中央にある扉の外に出ていくんですが、何とそこが本当に外に繋がってんのよ。搬入口っつうんですかね。実は最初に若者が登場した時もそこから出てきて、扉の向こうを人が歩いてるのやら車が走ってるのやらが見えたんですよ。そういう映像をスクリーンか何かで流してるのかと思いきや、本当に外だったとは・・・・・。だって終わった後、萬斎さん達傘さして横断歩道渡ってったもん(笑)。
あと驚いたのは、かなり登場人物は多いにも関わらずこの演目、5人か6人でやってたことですね。勿論何回も同じ人が出てくるから一人で何役もやっているというのは分かるんですが(特に萬斎氏は)、全く違和感が無くて凄いと思いました。
そういうわけでですねー。見終わった直後の感想としてはかなり満足度は高かったです。というか時間があっという間に過ぎてった。勿論本物の狂言はもっと難しいのかもしれませんが、こういうのを見るとかなり敷居は低くなるんじゃないかと思います。そういう意味では萬斎氏は凄いよね。伊達に狂言イギリス公演とかしてないよな。万人に狂言というものを親しんでもらうということでは一番の功労者なんじゃないでしょうか。
次は羅生門とか見たいなあ。今度は是非生で。





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