二〇〇三年三月

三月一日

まほろさんのタイピングソフトが発売延期になっていたとは知らなんだ。

まほろさんから発せられた文字列は、万難を排してでもわたしどもは打つと思う。すぐブラインドタッチが出来そうで怖い。

三月二日

『空飛ぶゆうれい船』を見ながら飯を食べていたら、喰いすぎて失神する。日が変わる直前に目を覚まして出社し、メールを見て腹を立てる。しねしね

三月三日

同僚C氏が小倉マーガリンサンドと柿ピーを抱えて「小腹が空いた」と云っていたが、アレは「小腹」ではなく「大腹」の間違いであるとわたしどもは確信している。氏の体重は目下、70kg代後半と推測される。

三月四日

小説Cの日々(その一)

目を覚ましたとき、Cは砂丘に転がっていた。傍らで、左手に包帯を巻いた國府田マリ姉がヴァイオリンケースを抱えて、Cの顔を覗き込んでいた。皆目、状況に見当をつけられないCは「此処は何処でしょう」とまり姉に尋ねた。

「此処はちきゅうだよ♪」

Cはマリ姉に夫と子どもがいることを思い出した。そして不機嫌になった。

三月五日

心配事が多々あり、不安げな一日を送る。食欲だけは旺盛で始終腹を空かせる。

三月六日

雨が降る。

今は亡き同僚のYが、冬の雨を見るといつも里村茜を思い出すと云っていた。

美しい生き方は難しい。

三月七日

小説Cの日々(その二)

Cは社会科の得意な小学生だった。Cの両親は「秀でたものが在ることは良いことだ」とそれを喜んだ。Cの未来には無限の可能性が開かれていた。

中学生になったCは、『機動警察パトレイバー』に夢中になった。部屋は次第にLDとCDに浸食されていった。Cの両親は不安の影を感じた。

高校生になったCは、國府田マリ姉に恋をした。両親は絶望した。

三月八日

昼帰りの為、暗くなってから出社する。

おねいさんのおっぱいを飽きるほど揉まねば、えろアニメのシナリオは書き得ないと云う議論に、同僚のHが「おねいさんのおっぱいは飽きるという事があるのですか」と泣きながら異見をする。

仕事が早々と片づいたので帰る。飯を喰って寝る。

三月九日

昼前に起きる。鍋を食べながら『ウインドトーカズ』を見る。食べ終わる頃に、クリスチャン・スレーターの首が飛び「ほほお」とやや嘆ずる

続けて二本映画を見て疲弊する。その後、会社に行って四時間ばかり働いて帰る。

三月十日

昼前に起きる。少し書見をして会社に出る。

会議がある。上司の中の人もたいへんだなあと思いながら鼻糞をほじる。夜明けに家に帰る。疲弊する。寝る。

三月十一日

昼に起き、会社にはいる。又会議あり。気まずい空気在り。

狂信的マリ姉ファンの同僚C氏から、マリ姉のNEWアルバムを借り受けて聴く。「あなたがいないと〜わたし息が出来ない〜〜♪」等在り、鼻血を出す。

朝に帰る。腹が減る。疲弊する。寝る。

三月十二日

小説Cの日々(その三)

にんげんは無垢なる時の顔が最もおぞましい。それは、例えて謂うなら、國府田マリ姉のことを想う時のCの顔の様な物だ。

朝までビデオゲームに興じたCは、夕刻に会社に出た。八千円台を割りつつある株価を見て、Cは嘆息を交えながら考えた。皆、マリ姉を愛せば世界から争い事はなくなるだらうに。

沖縄に生まれたCは、何時だってこころはあの蒼い海と空とマリ姉の胸の中にある。Cはその事を幸福であると信じて疑わなかった。

三月十三日

昼起きる。出社する。夕方頃、上司やや発狂。

納品を終えた同僚のKが、頗る幸福そうな顔で社内を踊る。目障りなので、ボールペンを投げつける。

夜半過ぎに帰る。今日は普通に寝られそうで、仕合わせを感じる。

三月十四日

昼起きる。出勤中、道端で猫が転がる。

同僚C氏の腹まわりが、増加の一途を辿っている様に見受けられ、気になる。これでも食事制限している積もりだと氏は云う。不思議な人だ。

夜半過ぎに帰る。書見して寝る。

三月十五日

小説Cの日々(その四)

Cは幸福であったが、苦悩がないこともなかった。栄養価に頼らず膨張を続ける胴回りは謎であったし、妹の子どもに己のことをどう呼ばせるか頭を悩ませた。Cは「おぢさん」と呼ばれることだけは避けたかった。

愛したおねいさんを抱けたことは、Cには一度もなかった。それは、異性との交渉に関する無知や不慣れの証左とも言えたが、また他方で、Cの愛情に値したおねいさんが、誰それもC当人の劣情を誘発せしめることもなかったのである。

Cは大好きな國府田マリ姉の新曲を聴きながら、観念愛と肉欲の両立について考えた。Cは周囲から悩み無い人間だと思われていたが、それは単にかれが悩みを見せないだけの話だった。

三月十六日

朝に帰り、昼過ぎに起きる。

鍋を食べながら『八甲田山』を観る。食べ終わる頃に、凍死者第一号が出る。追加でもう一本映画を見て、会社へ行く。二時間ほど仕事をして日付が変わる前に帰る。

三月十七日

疲弊のため12時間気を失った末、昼過ぎに起きて会社へ行く。

車で外出し、史香おねいさんはいつ戻るのだろうか、などと悶々とする。

夜明けまで時間が空いたので、物を書いて閑を潰す。早朝に帰る。寝る。

三月十八日

昼過ぎに起きる。会社へ出る。

エレベーターを揺らして遊ぶ。動かなくなって肝を冷やす。その後、埼玉へ行く。電車の中で書見をする。

夜が明ける前に仕事が終わる。帰って寝る。

三月十九日

昼前に起きる。午前中の内に会社に出る。お昼過ぎに上司発狂。

睡眠時間少なく、心持ち悪化。夜半過ぎに失神して、床に転がる。

翌朝帰る。

三月二十日

昼過ぎに起きて、出社。

外出先でYUKI先生の新曲を買う。同僚のO氏がそのジャケットにあるYUKI先生のお顔を目にして絶叫。「これぢゃ、aiko先生の方が増しだヨ。あんなに可愛いお声をしていたので、すげえ可愛いお顔をしていると思っていたのに。非道いヨ、非道いヨ」と泣く。たいへん五月蠅い。コピーコントロールは難なく突破。ざまあみろ、エピックレコード。しねしね。

朝に帰る。過労の為、失神する。

三月二十一日

春分の日。夕方に起きる。たくさん寝られたので心持ちが良い。夜に出社。

四時間ばかり働いて、日付が変わった後に帰る。映画を見て寝る。

三月二十二日

昼過ぎに起きる。夕方になって会社へ出る。

椅子に足を投げて『美味しんぼ』を読む同僚C氏の腹の弛み具合を、同僚のHが批判する。終いには「その腹を揉み揉みしたい」と錯乱しつつ泣き叫び、たいへんに五月蠅い。

夜半過ぎに帰る。昨日、途中まで見た映画の続きを見て寝る。

三月二十三日

小説Cの日々(その五)

その晩、Cは同僚から己の肥大する腹まわりについて批判され、悔し涙を浮かべながら新青梅街道を西進して、帰宅の途についていた。信号待ちの時、星の見えない暗惨な空を彼は見上げて、ICBMの再突入体が不発になって目の前に落下してくる情景を夢想して、顔を緩めた。20分後、駐車場から自宅である所の木造2階アパートまでの道のりにあったCは、漂うカレーの臭いを感じ、腹を鳴らした。

扉を開けたとき、Cは細君が新聞紙の束につまずいて、「はわわ」と歳に合わない叫声を発しながら転倒する瞬間に出会した。生来がドジな性質に生まれついた細君が転倒するのは、Cの慎ましやかな家庭では、日常を逸脱する珍重な情景でもなかったので、Cはただ「ただいま」と云って玄関口に暫く身を置いた。細君は「あら、お帰り」と何事も無かったような口振りを装った。

Cは、好意的な意味で大らかな女と云う定義を細君に対して与えていた。細君は、二度の妊娠を経験し、そしてその結末は二度とも流産に終わっていた。初めての妊娠の時、細君はアパートの階段から落下した。二度目の時、彼女は不幸な事故に見舞われた訳でもなかったが、胎児は早々に子宮からこの世を去ってしまった。細君はただ「御免なさい」と小さく云ったが、不器用なCはそんな時にどの様なことを云ってよいのかわからなかった。その事は後々にまで後悔としてCを程々に苦しめた。

細君は、密かに降りかかる災難の意味に苛まれていたが、それを夫に告白する事はなく、また鈍重な夫は、細君の苦悩を露とも知らず、不幸があっても快活に生きる彼女に不安のない眼差しを注いだ。

Cは、食卓の向こう側にある細君の背中をみて、國府田マリ姉の事を想い、顔をだらしなく弛緩させた。Cはそれを特に罪悪だとは思わなかった。

三月二十四日

昼過ぎに起きる。会社に出るが、夜になるまでたいへん眠たい。

夜半過ぎに同僚のHが「妹の次は娘ですよ、娘」と目を爛々と輝かせて放言をする。

夜明け前に帰る。疲弊する。寝る。

三月二十五日

昼過ぎに起きる。夕方前に会社にはいる。

夜半過ぎには皆帰ってしまい、課内にはわたしどもだけが残される。同僚のO氏は帰り際に「寂しくなって死に給へ」とわたしどもへ向かって放言をする。

朝が来る。帰る。疲弊する。寝る。

三月二十六日

昼前に起きる。会社へ行く。出社時から疲弊。

真夜中に同僚のO氏、二口しか食べていない豆のひじきサラダ(青じそ風味)を床にひっくり返して、叫喚する。

夜明けに帰る。寝る。

三月二十七日

昼過ぎに起きる。出社する。

所沢に行く途中で立ち寄った松屋のトマト煮ハンバークによって舌が火傷する。電車の中で書見をしつつ寝る。

仕事が早く終わる。書き物をした後、夜半過ぎに帰る。映画を見て寝る。

三月二十八日

昼過ぎに起きる。会社に出る。

「それは『ないす』だねえ」と云う同僚のO氏へ、横文字を使って気障だと苦言を申したところ、氏は色を為して怒る。後、週末モードでだらだら仕事をする。

夜が明ける前に帰る。早々に寝る。

三月二十九日

夕方に起きる。会社へ行く。いくら寝ても眠い。

同僚C氏が目の前を通り過ぎる。横切るとき、氏の胴回りが衣服をたいへんに圧迫している様がよく見えて、氏にその事を指摘する。氏は困った顔をした。

仕事は夜半過ぎに終わるが、その後書き物をして朝を迎える。帰って寝る。

三月三十日

夕方前に起きる。

鍋を食べながら『オーシャンズ11』を観る。食べ終わる頃に、クルーニー様が元妻にスケコマシを始める。

夜になって会社へ行く。日が変わる頃に帰る。映画を観て寝る。

三月三十一日

昼過ぎに起きる。会社へ出る。

髭の貧相な同僚O氏にその事を指摘したら「これで髭が似合っちゃって、これ以上格好良くなっちゃったら収拾がつかないヨ」と云う。

夜半過ぎ。新青梅街道沿いの松屋にてお茶で舌を火傷する。

朝に帰る。寝る。


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