File No.051
マンジュウドロホコリ
Enteridium lycoperdon (Bull.) Farr
(変形菌門変形菌綱コホコリ目ドロホコリ科)
「これ、タケ(注:播磨言葉できのこのこと)じゃないのか?」
と、いっしょに山を登ったTさんが、山道の手入れ用のなたで指したのは、
地上2〜3mほどのアカマツの幹に張りついた、直径5cmくらいの半球状の変なものだった。
表面は銀灰色で、うすく大理石様にひび割れている。
Tさんがなたの先でちょっとつついたら、意外なほどあっさり崩壊して、受けとめた手の中で、茶色の土塊になってしまった。
「何だかわからないけど調べてみます」と、とりあえず持ち帰った。
きのこのようにも見えるが、あんまりきのこらしくない。
というか、事情を知らなければただの土の塊にしか見えない。
もしかしたらきのこでないのかもと思い、顕微鏡でのぞいてみて、驚いた。
きれいな網目模様があり、何かの胞子であることに間違いはない。
かなり特徴的な胞子なので、胞子の形の似たきのこをあたると、ニセショウロ属にそんなような胞子を持つものがある。
しかしニセショウロ属が木に生えるわけはない。
誰かが地上からきのこを拾い上げて、木になすりつけたのかとさえ思った。
これ以上調べてもわかりそうな気がしなかったので、Hさんに助けを求めたら、
「変形菌のマンジュウホコリだと思います」との返事だった。
変形菌というと、柄があって房があって、もっと小さなものというイメージがあったので、直径5cmもあるようなまんじゅう形のものが
変形菌とは思い至らなかった。
さっそく町の図書館に行って「日本変形菌類図鑑」を調べたら、あった。
改めて図鑑を一通りめくってみると、ふつうのきのこ並みに大きくなる変形菌は少なくない。
思わず落とし穴にはまってしまった気分だが、おかげで変形菌の世界のおもしろさに目覚めてしまった。
ちなみに、胞子の網目は、風にのって遠くまで運ばれるのにつごうのいい仕組みだそうだ。
ゴルフボールの表面に穴があいているのと同じ理屈である。
[データ]
採集日:2001年4月22日
発生地:兵庫県相生市