「筑波山ハイキング」(1999年5月)
待ち合わせに失敗して、予定より1時間近遅れのスタートになった。ほんの1、2分
の差で入れ違いになっていたらしい。
参加者はSさん、Hさん、Fさん、それに今回は案内役の私。計4人。
空は良く晴れているが抜けるような青空ではなく、若干霞んでいる。それでも日差し
は相当に強く、秩父あたりでは30度を
越えて真夏日となったらしい。筑波山あたりでもひなたに出るとじっとしていても汗ばむような暑さである。それでも日陰に入れば
風は思いのほか涼しく、まだ夏の訪れには間があることを感じさせる。
参道には土産物店や宿が立ち並んでいるが、やはりどこかマイナーな観光地独特の雰囲気が漂っている。品揃えはというと、
色あせた絵葉書や、デザインの古いおもちゃ、お決まりのまんじゅうなどなど。もちろん名物の納豆とがまの油は健在である。
がまの油は最近製造元が倒産したらしいが、まだまだ豊富に出回っているようである。
筑波神社の境内を抜けてケーブルカー乗り場に向かう。境内に敷き詰めてある白砂が目にまぶしい。早くも汗ばんで来た手に
手水舎の清水が心地良い。
筑波神社に向かって右側に一本のクスノキがある。
これはマルバグスという変種で、葉が普通のクスノキと比べて著しく丸く、一時は別種とされていたものである。
ケーブルカーは約7分で男体山と女体山の中間の鞍部である御幸が原へ駆け上がる。歩けばたっぷり1時間半はかかる道のりである。
御幸が原はかなりの広さの整地された広場になっていて、10軒程のうらさびれた土産物屋が散らばっている。
とりあえず、男体山の山頂に向かうことにした。御幸が原からはわずか500m、10分程の道のりである。
案外急な、岩がちの登山道を登る道々、目に付いた植物の説明をしていく。
といっても、知っている植物だけ説明して、知らないものは無視する、いささか頼りない案内人である。
「チドリノキ」
「リョウブ」
「クロモジ」
「イヌシデ」
「ブナ」
Hさんは真面目にメモを取り、時には葉っぱを一枚失敬して手帳に挟んだりしている。FさんとSさんは「もう駄目だ。メモリーの限界を
超えた。」などと言って、もっぱら「スズメノキ」「ビョウブ」「クロマジ」などとまぜっ返して林さんを混乱させることに専念
している
ようである。
程なくイザナギノミコトをまつる祠のある山頂についた。昨年の台風で壊れたとかで木の香が漂って来そうな真新しい祠である。
眺めはあまりよくなかった。ほんらい関東平野を一望できる絶景の地なのだが、大気の透明度が低く、視程が短いことが多い。
ことにこの日のようにかすみがかかってしまうともういけない。
すぐ間近のつくばの町さえはっきりせず、富士山など夢のまた夢である。
眺めの良い場所を選んで弁当をつかい、本日のメインである自然研究路に入った。
これは男体山の山腹を一周するように設けられた傾斜の緩い道で、所々に「森のしくみ」とか、「森のどうぶつたち」というような
案内板が立てられている。
主だった出現種は、ブナ、ミズナラ、コナラ、クロモジ、アブラチャン、イヌシデ、アカシデ、クマシデ、アカガシ、ツリバナ、ネジキ、
サルナシ、ミツバアケビ、コアジサイ、タマアジサイ、ヤマアジサイ、ヤマツツジ、ミツバツツジ、リョウブなど。
ちょっとした地形の違いで出現種が全然違うのが良くわかってなかなか面白いコースであった。
一回りして、御幸が原に戻ったのが1時45分。
せっかくだからと言うので、女体山の山頂にも足を延ばすことにした。
男体山とは対照的に緩やかで広い、ブナの巨木が立ち並ぶ道を登ること15分。
女体山山頂は南に突き出た岩場で、絶好の展望台になっていた。
筑波山の南面は古くから寺社林として保護されて来たため、ほとんど植林地がなく、くろぐろとしたモミ、ヒノキなどの針葉樹と、
まだ新緑の名残を残してあざやかな若葉色の広葉樹とが複雑なモザイクをなして、見飽きることのない美しさである。
高度のせいか、風も適度に冷たく、快適そのもの。
時折飛来するパラグライダーやハングライダーを眺めつつ、40分程も山頂に留まっていただろうか。
首の後がひりひりする。だいぶ日に焼けてしまったようだ。
だいぶくたびれてきたので、帰りもケーブルカーを使うことになった。
くだるにつれて暖帯要素であるアカガシが多くなっていく。
ヒイラギソウの紫の花が薄暗い林内で一際鮮やかである。
「コナラとミズナラの区別だけはおぼえた。柄が長いのがコナラ」と、Fさん。
「バットにするのがアオダマ」と、Sさん
「アオダマじゃなくてアオダモなんですけど....」
「ええっ。アオダマで憶えちゃったよ。」
うーむ。次からは黒板でも持ち歩くかな。