MISSION 2  「廃棄工場不法占拠者排除」

 

 地下都市“ザムシティ”の片隅、人類を地下に追いやった大破壊後の復旧計画で建造され、今では完全に廃棄されていた工場に、銃火器の砲声が響きわたった。
 40mm徹甲弾を十数発浴びせられた、クローム社の初期の傑作作業用MT(Muscle Tracer)、WK750“ビシャモン”が、上半身をひしゃげさせてその場に崩れ落ちる。半世紀近く昔の機体で、装甲が施されている訳でもない。AC(Armord Core)の装甲をも貫く弾丸を防げるはずもなかった。
 弾はコクピットから外れてはいたが、着弾時の衝撃で発生した破片がコクピット内を跳ねまわり、パイロットをずたずたに切り裂いた。
 パイロットは、この工場の従業員ではない。テロリストグループ“エスィート”が、放置されていたMT、作業機械を強奪し、この工場に立てこもったのだ。ザムシティ・ガードによる攻略は失敗し、解決は世界最強の傭兵組織、“レイヴンズ=ネスト”へと委ねられた。
 ビシャモンを撃った濃いグレーのAC、“ブラックウィドー”を操る傭兵(レイヴン)のエルバリオ・カイザは、ビシャモンのガラス式コクピットの中でミンチになったテロリストを一瞥するも、大して感慨を抱かなかった。この混沌の時代、喰うか喰われるかだ。それに、依頼主からは、テロリストの生死を問われているわけではない・・・
 一年間のレイヴンとしての苛酷な生活が、彼を非情な戦士へと変貌させていた。
『7時方向、敵接近。秒速15m。距離150』
 ブラックウィドーの管制コンピュータ、エルバが“サンドラ”と名付けた人工知能が、脅威目標を探知して警告を発する。後方から、ショベルカーがアームを振りかざして襲いかかってきた。
 エルバはACの左腕に仕込んだレーザーブレードを展開させると、背部のブーストを吹かして高速旋回しながら、すれ違いざまに切りつけた。磁場によって成形された超高熱の刃が、ショベルカーのアームと左半分を容易に切り裂く。
 ショベルカーは突進してきた速度そのままで工場の壁に激突し、爆発した。
 大した敵ではない。装備は前時代的なMTと作業機械、乗っている連中も素人同然だ。だからこそ、ネストから派遣されたレイヴンは、エルバただ一人であった。
「脆すぎるな・・・サンドラ、状況を報告」
『敵残存兵力、MT2、作業機械3。MG-500、残弾13。残パレット1』
 サンドラが女性的だが、何の感情も無い声で現状を淡々と報告する。AIの設定は、機体形状、カラーリングの様に、搭乗者の趣味が反映される。エルバも、昔は色々いじっていたものだが、一番実用的なのは、必要最小限な情報を淡泊に報告するAIである、と気づくのにそんなに時間は掛からなかった。
『2時方向、高速飛行物体接近。レーザー誘導光補足』
 警告されると同時に、エルバはブーストレバーを目一杯押し込み、回避運動を行った。ジェネレーターのタービンが唸りを上げ、機を一気に加速させる。
「ものは何だ?」
『質問意図、不明瞭』
「ええい、飛行物体は何なんだと聞いている!」
『推定、対戦車ミサイル』
 次の瞬間、爆発音とともに衝撃が襲ってきた。コアへの直撃は避けたが、回避しきれなかったようだ。一瞬モニターの映像が乱れたが、すぐに回復する。だが機体はバランスを崩し、ブースト時の勢いのままうつ伏せに転倒してしまった。
「てて・・・まずったな、武装したMTでもいたのか。サンドラ、被害はどうだ」
 返事が無い。着弾時の衝撃で、システムがダウンしたようだ。
「どうした?サンドラ!」
 自動的に再起動が行われ、コンソールに光が戻る。レーダー画面に、ゆっくりと接近するMTが表示されていた。
『システム起動。戦闘モード、リカバリー終了。モウシワケアリマセン』
「定型文はいい。被害を教えろ」
『右肩、対戦車HEAT弾着弾。右腕動作不能。全回路、閉鎖』
 HEAT弾は、2世紀ほど前から対戦車用の兵器として用いられている。成形火薬によって発生した超高温のジェット流が、装甲を貫くのだ。ブラックウィドーの右肩には穴が空き、内部が完全に焼ききられていた。もしコアに当たっていたなら、ジェット流がエルバの身体を完全に炭化させていただろう。
「へへへ、やったぜ」
 外部センサーが、テロリスト達の声を拾った。どうやら対戦車ミサイルは、ビシャモンにくくりつけてあったようだ。連中は、ブラックウィドーは完全に壊れたと思っているらしい。
「企業の犬が。ちょっといい機体に乗っているからって、いい気になりやがって」
「よし、パイロットだけを殺せよ。機体は奪って俺達で使うんだ」
 冗談じゃない・・・エルバは他に被害が無いのを確認すると、スティックを握りしめていつでも動けるようにしておいた。
「でも、壊しちまったぜ?スクラップで売った方がいいんじゃないのか?」
「バーカ。コアさえ無事ならいいんだよ。ACはコア周りが一番高くつくんだ」
 コアには電子機器が集中している。大破壊後、高性能の電子機器を作ることが出来る工場は限られていた。その為、値段もAC全体の1/2以上を占めている。
「はん、なるほど。じゃあ早速・・・」
 近付いてきたビシャモンがブラックウィドーを起こそうと手を掛けてきた瞬間、ブラックウィドーの左手が動き、ビシャモンのコクピット前方に当てられる。レーザーブレードが一瞬成形され、搭乗者と共にコクピットを消し去った。
「そうだ。確かにコアは高い。だがなぁ、他のパーツだって安い訳じゃない・・・」
 エルバは、ブラックウィドーを立ち上がらせながらWG-500のマガジンを交換し、左手に持ち換えさせた。装填されたのは、無慈悲な徹甲炸裂弾。装甲を貫通した衝撃で爆発し、内部をずたずたに引き裂く。
「どうしてくれんだよ。お前ら倒すのは、報酬少ないんだ。まだローンも残っているんだぞ・・・また借金増えちまうだろうがぁ!」
『修理費推定15000C。本ミッション、赤字確定』
「くたばれぇ!」

 

 数分後、ブラックウィドーによる掃討が完了したのを確認して、ザムシティ・ガードのパトロール用MT“ガードウォーカー”が突入し、事態を終息させた。エスィートのメンバーと思われる死体発見されたが、ほとんどがバラバラの肉片になっており、身元の確認はされていない。また、エスィートの首謀者“H.H.リベット”も発見されなかった。
 レイヴンズ=ネストから来た回収用キャリアで運ばれながら、エルバはブラックウィドーのチェックを行っていた。右肩は内部が完全にいかれており、修理はまず無理なことが、大して知識の無いエルバにも分かった。
「しょうがない。JUNKにでも行くとするか・・・」

 

〜Mission 2 Complete〜

*この話は、アーマードコアのミッション2「不法占拠者排除」を元に書かれています。

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