謎宮会 2000/03
広沢吉泰
２０００年を迎え「探偵漫画日記」も「探偵漫画日記２０００」として、新たなフォー マットで始めることとしました。もちろん、新刊だけでなく、旧刊も紹介してゆくつも りです。よろしくお願いします。
【内容紹介】ＮＡＴＯの情報将校・エーベルバッハ少佐は「鉄のクラウス」と異名をと る筋金入りのスパイである。彼の任務はソ連の二重スパイ「イワン」の亡命のサポート と、彼の配下のスパイの救出だ。果たして、少佐はＫＧＢを出し抜くことができるのだ ろうか？ 他に歴史物の「トラファルガー」とギャグ物「アイビーＮＡＶＹ」を収録。
【評価など】同じ作者の『エロイカより愛をこめて』では脇役であったエーベルバッハ 少佐だが、本書では堂々と主役を務めている。ＫＧＢに加えＣＩＡまで絡んでくる複雑 なプロット、エーベルバッハと彼の命を狙う暗殺者オレグとの駆け引き、そしてラスト でのどんでん返し――とスパイ物のツボを押えた好篇である。
『明智少年の華麗なる事件簿』
原作 天樹征丸 漫画 さとうふみや
講談社 講談社コミックスデラックス 平成12年２月17日刊行 ５５２円
【内容紹介】『金田一少年の事件簿』の脇役・明智警視が主役を務める短編集。推理力 だけでなく、音楽・フェンシングにも類まれな技量を発揮する明智少年は、まさに「天 才」と呼ぶにふさわしいキャラクターだ。そんな明智健悟が高校生時代に解決した「明 智少年 最初の事件」「殺意の四重奏」「幽霊剣士殺人事件」の３作が収録されてい る。
【評価など】単行本初収録は「幽霊剣士」のみ（他２作は『金田一少年の事件簿』に収 録済）。にもかかわらず、こういった本が出るということは、明智警視というキャラに 人気がある証拠である。やはり美形キャラは得だ。「幽霊剣士」は刃物が存在しない状 況で発生した刺殺の謎を解くというもの。明智が凶器を発見した方法が一番の謎であ る。
『ＨＡＩＫＡＲＡ事件帖 第１巻』
原作 黒沢哲哉 漫画 里見 桂
集英社 ジャンプ・コミックスデラックス 平成12年２月７日刊行 ５０５円
【内容紹介】時は明治末期の東京。警視総監を務める父親への反発から家を飛び出し て、新吉原界隈の長屋で貧乏暮らしをしている青年・一乗寺開。長崎で学んだ科学知識 を生かして難事件を解決してゆく開の活躍を描いた作品。「白い顔の死体」「魔の十二 階」「汚れた油絵」「哀しみの鹿鳴館」の４つのエピソードが収録されている。
【評価など】死斑、リトマス紙、グライダー、レントゲン――といった当時は知られて いなかった知識を利用して事件を解決するというパターン。この手のものは展開が単調 になりがちだが、本書はそうなっていない。それは「明治時代」という魅力的な時代 を、黒沢・里見コンビが資料を駆使して、充分に描き切っているからであろう。
『トルリマン物語（トリロジー） 新ジュエリー・コネクション(2)』
著者 野間美由紀
白泉社 花とゆめＣＯＭＩＣＳ 平成12年２月25日刊行 ３９０円
【内容紹介】宝石を題材にした「新ジュエリー・コネクション」シリーズの第２弾。オ カモト貴金属の調査部の高岡美鳥と梶野史朗のおしどり夫婦が今回遭遇したのは、三人 の姉妹が亡くなった祖父から贈られた宝石の意味を探るというものだった。「トルリマ ン物語」三部作に学園ミステリの「Ｊｏｋｅｒ」の第3作が収録された作品集である。
【評価など】贈られた宝石には、それぞれ意味があって、その謎を解決することで三姉 妹がハッピーエンドを迎える――という凝った趣向の三部作。併録の「Ｊｏｋｅｒ」は 「パズルゲーム☆はいすくーる」の後継のはずが、人気がいまひとつでコミックスも一 巻で終ってしまったものの単行本未収録作。めずらしいものではあるが中身はいまい ち。
『カケル 第11巻』
著者 竹下堅次朗
小学館 ヤングサンデーコミックス 平成12年３月５日刊行 ５０５円
【内容紹介】高校生・台場駆が、五感が鋭敏になる超能力を生かして事件を解決するシ リーズの第11弾。野生の動物のように暮らす身寄りのない少女・唱。その素性を探るカ ケルは、唱に母親と双子の姉がいることを突き止める。だが、母親の元を訪ねたカケル は「唱は七年前に死んだ」と告げられる――家族の絆を問いかける「生命賛歌」を収 録。
【評価など】『カケル』で一貫して描かれているのは人の心の闇である。そして、事件 そのものは結末を迎えるのだが、問題の根本的な部分は解決していない――ということ がしばしばある。今回も育児ノイローゼの母親や情緒を失った少女といった心に傷を 負った人間が登場するのだが、カケルは彼女たちの心の闇を払うことができるだろう か？
『ホラーコミック傑作選第５集 江戸川乱歩・原作 白髪鬼』
著者 横山光輝、桑田次郎、古賀新一
角川書店 角川ホラー文庫 平成12年３月10日刊行 ８００円
【内容紹介】江戸川乱歩のミステリを漫画化した作品を収録。『鉄人28号』『三国志』 の横山光輝が「白髪鬼」を、『８マン』『ウルトラセブン』の桑田次郎が「地獄風景」 を、そして『エコエコ・アザラク』の古賀新一が「陰獣」を――いずれも各人の持ち味 を生かしてコミカライズしている。
【評価など】「白髪鬼」と「地獄風景」は昭和45年に「週刊少年キング」に掲載された もの。その頃の「キング」は、小栗虫太郎の「人外魔境」シリーズのコミカライズも載 せていた。その当時の、探偵小説再評価の時流にのった企画ではないかと思われる。ち なみに「地獄風景」は舞台がヒッピーの楽園という設定に変更されているのが笑えま す。
『金田一少年の事件簿 Ｃａｓｅ５ 露西亜人形殺人事件（上）』
原作 天樹征丸 漫画 さとうふみや
講談社 講談社コミックス 平成12年３月16日刊行 ３９０円
【内容紹介】推理作家・山之内恒聖の莫大な遺産の相続候補者は５人。遺産を手にする 条件は山之内の残した暗号の解読。候補者の一人から暗号解読を依頼され、山之内の別 荘「露西亜館」に赴いたはじめの前に現れたのはライバル「地獄の傀儡師」高遠遙一 だった。そして、遺言の内容に沿った連続殺人が発生し、候補者は次々殺されてゆく… …。
【評価など】このところ元気のなかった「金田一少年」だが、暗号の遺言状、仕掛けの ある洋館、見立て殺人、密室での殺人――と本格ミステリのコードを満載した本書は、 ケレン味に溢れていた初期の頃を思わせる。さらに、はじめと「地獄の傀儡師」高遠の 推理合戦まであるときては、解決篇が掲載される下巻が楽しみである。
『スパイラル 推理の絆 第1巻』
原作 城平京 漫画 水野英多
エニックス ガンガンコミックス 平成12年３月22日刊行 ３９０円
【内容紹介】女子高生が墜落死した。疑いをかけられた鳴海歩は、姉で警部補のまど か、先輩の結崎ひよのとともに真相を追求し、謎の組織「ブレード・チルドレン」の存 在に気づく。それこそは「名探偵」と呼ばれていた歩の兄が追っていたものだった… …。「踊り場の見えざる手」「アポロンの矢」「ウォード錠の密室」を収録したシリー ズ第１作。
【評価など】「金田一少年のライバル」がまた一人出現した。私立月臣学園１年生の鳴 海歩だ。「論理の旋律は必ず真実を示すんだ」といった決め台詞を口にするのも金田一 少年を意識したものであろう。第１巻はオーソドックスな展開であるが、原作は『名探 偵に薔薇を』（創元推理文庫）城平京なので一筋縄ではいかないであろう。今後に期 待。
『火星人刑事（デカ） 第3巻』
著者 安永航一郎
集英社 ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ 平成12年３月22日刊行 ５０５円
【内容紹介】「火星人刑事」栗瀬十春のライバル織田川あかね――彼女に娘・雪風がい たことが判明する。病弱だった雪風は、療養の傍らあかねの手によって密かに「火星人 キラー」として養成されていたのだ。十春は火星人刑事2号・伊豆味とともに立ち向かう が雪風の強さの前になすすべがない。果たして、二人は雪風を倒すことができるのか？
【評価など】スカートを茶巾縛り状態にして変身する火星人刑事。必然的にパンツ丸出 しで闘うことになる。それは女性である栗瀬十春にとってかなり辛い戦闘体型だ。しか も「学生刑事」の任務を全うするため、三十路も近いのに、セーラー服を着て高校に通 わなければならない。これぞ、まさにハードボイルドである（本気にしないように… …）
それでは、今月は、この辺で。
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