謎宮会 2000/11-12

探偵漫画日記(2001年1月)

広沢吉泰

最近は、漫画雑誌でもミステリーが取り上げられることが多くなってきた。

例えば、「ミステリーDX1月号増刊」として「浅見光彦ミステリー」(角川書店)が刊 行されたのは、漫画の世界でも、内田康夫の人気が熱烈なものであることを裏付ける現 象といえよう。「天河伝説殺人事件」(作画・花村えい子)「歌枕殺人事件」(作画・ 杉尾尚子)が収録されており、花村の作品は319頁の大作を一挙掲載している。

「ミステリーDX」本誌では、「朱色の研究」(作画・麻々原絵里依)が連載されてお り、建築探偵シリーズ(作画・秋月杏子)、巫弓彦シリーズ(作画・南天佑)、Vシ リーズ(作画・皇なつき)、さらに「JOKER」を原作者本人がアレンジした「エキ ストラ・ジョーカー」(作画・蓮見桃衣)が断続的に掲載されている。

さらに、秋田書店の「サスペリア増刊」は、毎回誌名に「名探偵」という言葉を入れて ミステリコミックを掲載していることをアピールしている。最新号は「不滅の名探 偵」。この号には、浅見光彦をはじめとしてメルカトル鮎、狩野俊介が登場。これまで にも、森江春策や二階堂蘭子、渋柿信介といったところも登場している。次回は「名探 偵からの贈り物」である。予告によると「百日紅の下にて」(横溝正史原作・ささやな なえこ作画)が再録されるとのことで、非常に楽しみである。

こういった雑誌がドンドンと出てくるのは「キャラ萌え」という側面から理解できなく もないが「マンガで読む本格ミステリー」と銘打った「Hiミステリー」(宙出版)ま でくると、ひょっとしたら、ミステリ漫画は、女性が読むコミックスの一ジャンルとし て定着してしまったのかと考えさせられる。同書の 最新号(2月号)の特集が東野圭吾 の『毒笑小説』+『探偵倶楽部』である。さらに『犯人のいない殺人の夜』から短編を 2編セレクトしてコミックス化している。これはすごい(次号は「結婚崩壊」という テーマで貫井徳郎や夏樹静子の作品のコミックを掲載するようで、この方がまだ読者層 が理解しやすい。「まるごと一冊東野圭吾」っていうのは、どういう読者を想定してい るのだろうか……) まあ、なんにせよ雑誌の方も目が離せなくなってしまった。

『草壁署迷宮課 おみやさん』 全3巻 著者 石ノ森章太郎
双葉社 双葉文庫[名作]シリーズ 2000年12月25日刊行 各600円(本体)

【内容紹介】未解決事件が眠る資料課――通称「迷宮課」に勤務する“おみやさん”こ と鳥居勘三郎。彼とコンビを組む新米警官・七尾洋子は、希望していた第一線勤務でな いことに当初は腐るが、徐々に「迷宮課」で携わる事件と“おみやさん”に興味をひか れていく。81〜83年にかけて「ビッグコミック」(小学館)で連載された作品の再刊。

【評価など】凄いトリックがある、あるいは驚天動地の論理のアクロバットがあると か、そういった楽しみはないが、“おみやさん”の語る人間観・人生観は心に響くもの がある。また、当時流行していた現場写真や証拠品を添付したミステリをパロディにし た「二の字二の字の下駄のあと」(第3巻所収)にはニヤりとさせられるものがある。

『Q.E.D.』 第8巻 著者 加藤元浩
講談社 講談社コミックス(月マ) 2000年12月15日刊行 各390円(本体)

【内容紹介】吊り橋を利用したバンジージャンプの施設で消防学校の教官が墜落死す る。容疑者は二人。そして、そのうちの一人は高所恐怖症だった(フォーリング・ダウ ン)学園祭の展示の準備を行う燈馬たちは停電のため一旦の外出を余儀なくされる。 戻ってくると同じフロアの各部の展示が壊されていた。犯人は一体……(学園祭狂騒 曲) 【評価など】毎回毎回殺人事件に遭遇するが、燈馬想と水原可奈は高校生なのであっ た。そんな基本設定を思い起こさせてくれるのが「学園祭狂騒曲」である。各部の展示 を壊す機会と動機を探ってゆくと、動機のある部はアリバイがある閉塞状況に陥る。そ れを切り開く燈馬の(そして加藤元浩の)腕前は実に見事である。私のお気に入りの一 作。

『浅見光彦殺人事件』 原作 内田康夫 作画 月嶋つぐ美
秋田書店 サスペリアミステリーコミック 2001年1月5日刊行 514円(本体)

【内容紹介】いまわの際に母が漏らした謎の言葉――「思い出のトランプの本」。詩織 の父はその意味に気づいたが真相を告げる前に殺される。さらに、同じように本の謎に 気づいた父の部下・野木も殺される。ひとりで事件に挑む詩織に支援を申し入れたのは 名探偵・浅見光彦であった。そして、詩織につきまとう謎の青年・木下の正体は?

【評価など】(ネタバレ注意)登場する浅見光彦が偽者だという、文章では可能だが、 映像では不可能だと思える大トリックを可能にした作品。浅見光彦は、これまでたくさ んの漫画家が手がけているため、これまで浅見物を描いたことのない漫画家(今回の月 嶋つぐみ)を起用すれば読者を欺けるであろうと考えた秋田書店側の読み勝ちであっ た。

『なんてっ探偵アイドル』 第2巻
著者 北崎拓 原案協力 井上敏樹
小学館 ヤングサンデーコミック 2001年1月5日刊行 505円(本体)

【内容紹介】白瀬アキラ、青井梨奈、赤坂可菜子で構成されるアイドルユニット「トリ コロール」。スタイル抜群の梨奈に、各方面に強力なコネを持つ可菜子。強烈に個性的 な二人に挟まれて、ちょっと地味なアキラだが、実は抜群の推理力を持っているのだ。

【評価など】学校の怪談物の「ロンリーゴースト」、ウォータースライダーで滑降中に 起きた殺人を描いた「アクアジェラシー」、密室殺人がテーマになってる「ダンスアン ドターン」といった感じに多様な設定で楽しめるミステリコミックに仕上がっている (ただ、機械的なトリックが多く、その点は個人的には好みではないのだが……)

『御手洗大学 実践ミステリ倶楽部』
原作 舞阪洸 作画 石田走
角川書店 ドラゴンコミック 2001年1月10日刊行 940円(本体)

【内容紹介】御手洗大学の「ミステリ倶楽部」は“実践”が冠せられるだけあって、常 に事件に遭遇する。そのメンバーも個性的だ。部長の有栖宮有栖は大富豪で強力な人脈 を持ち、顧問の篠天由美はビール好きの才媛、女装の似合う部員の西京極夏比古はなぜ か事件を呼び寄せる。新入部員の板村薫子は驚くやら、あきれるやら……。

【評価など】全3話が収録されているが、その中では「売れっ子デザイナーは何故血塗 れで殺されたのか?」が面白い。〈返り血を浴びることが分っていながら、なぜ犯人は 被害者をめった刺しにしたのか〉――というあたりから推理を展開していく件はうま い。なお、ほぼ同時期に、舞阪洸のミステリ小説『亜是流城館の殺人』が富士見ミステ リー文庫から刊行された。こちらは「御手洗学園高等部」の「実践ミステリ倶楽部」の 活躍を描いたものだが登場人物の基本設定は同じなので、読み比べるのも一興であろ う。

『スパイラル 推理の絆』 第3巻
原作 城平京 作画 水野英多
エニックス ガンガンコミックス 2001年1月22日刊行 390円(本体)

【内容紹介】“ブレード・チルドレン”の秘密を知る教師・今里が殺された。歩は現場 の状況から犯人の条件を特定し、網を絞っていくが、実行犯の理緒は“ブレード・チル ドレン”の特徴である「肋骨の欠落」を隠蔽するために思い切った手段をとる……。

【評価など】紹介したように、今回は歩と“ブレード・チルドレン”の理緒との〈対 決〉がメインとなる。ただ、将棋やチェスのように、お互いに相手の手の内を読み合 う、というのもまた「推理」であるから、これも「推理」を興味の中心においた作品と いうことはできよう。個人的には、その圧倒的な情報力で歩をサポートするひよのが単 なる便利屋でなく、歩の成長に重要な意味を持つキャラであることが分かったのが嬉し かった。

『ホームズ』 第1巻
著者 久保田眞二
集英社 ヤングジャンプコミックス 2001年1月24日刊行 590円(本体)

【内容紹介】漫画によるホームズ・パスティッシュ。猛獣にでも食われたようにズタズ タになった被害者の続出する「ロンドンの竜」をはじめ「水晶宮の水晶」「水車城の惨 劇」「片腕の鳥人」の4編を収録。各編の主人公は、日本の少年明智大五郎。帰国した 彼が、息子の小五郎(!)にホームズ談を語って聞かせるという趣向の物語である。

【評価など】一つの物語の中でホームズと明智小五郎が共演している、推理ファンに とっては贅沢な設定のパスティッシュである。実際のホームズ物には見られないおおが かりな機械トリックを使ったものには違和感を覚えるが、「片腕の鳥人」のような作品 の割合が増えてくれば、出来の良いパスティッシュになる可能性はある。

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