謎宮会 2001/10-11

はまりはまった蟻地獄〜私はこれでミステリファンになりました〜
鉄道からミステリーへ

たっくん

 私のような薄い人間がこちらにお邪魔するのは場違いなような気がしますが、 まぁ、年寄りの繰言としてご笑覧ください。

 多くの方と同じように小学生の時にルパンとホームズに出会いました。どちら のファンかと言えば間違いなくルパンでした。そうなった理由をつらつら考えて みると……ホームズ物で被害者が「ねずみが」が呟くお話、ありますね。私、小 学生ながら考えたのです。考えに考えたのです、「ねずみ」の意味を。絶対に真 相を突き止めてやろうと思いました。でもいくら考えてもわからず解決編までい くと……こんなのわかるわけないじゃん! と絶叫したくなりました。一方のル パン物にはホームズが登場するお話あります。ここではホームズはルパンにこて んぱんけちょんけちょんにやられます。そうです、ルパンはホームズよりも一枚 も二枚も上手だったのです、と当時は思いました。ルブラン原作のポプラ社ルパ ンはほとんど読みました。

 ルパン、ホームズ以外で小学生時代に読んだのは(憶えている限りで)こんな ところです。

 (1) クリスティー「ABC殺人事件」、「大空の死」の二本立て。
 (2) スーベルト&アランのファントマ・シリーズのお子様版
 (3) フリーマン「赤い拇指紋」のお子様版
 (4) アイリッシュ「まぼろしの証人」
 (5) 江戸川乱歩「三角館の恐怖」
 (6) エラリー・クイーン「暗黒の家の冒険」

 (1)はあかね書房の本で2話収録されてました。これを子供の頃に図書館で 借りて読んだという人があまりに多いことをネットの世界に入ってから知って驚 きました。みなさん、おんなじような体験をしているのだなぁと。今「ABC殺 人事件」を読んだとしてもどこまで騙されるかはなはだ疑問ですが、当時は作者 の意図するまんまに騙されました。Zまで行ったら次はどうするのだろうとか。 でも読むのは結構辛かったです。他のクリスティー作品まで手を出すところまで はいきませんでした。

 これまた学校の図書館で借りて読んだのが(2)です。後に「黄金仮面」で乱 歩が再利用したトリックは凄いなぁと思いましたが、話が残虐なところがいまい ち好きになれませんでした。そもそも翻訳は3冊しかなかったし。

 (3)は結構気に入ってました。例の万年筆と指紋鑑定の信憑性が問われる場 面は強く記憶に残っていて長らく再読したいなぁと思ってましたが、著者も書名 も覚えておらず、後年創元推理文庫版が出るまで待たされました。

 (4)はあの名作「幻の女」のお子様版です。

 (5)もお子様版で読みましたが、探偵役は明智小五郎ではなく篠警部でした。

 (6)は学習雑誌付録の小冊子でした。

 南洋一郎訳のルパンは必ずしもミステリーとは言い切れない面があるし、小学 生時代は量・質ともに蟻地獄にはまっていたとはいえません。

 一方鉄道少年の気があった私は、ぼろぼろになるほど時刻表を読んでました。 中学生のある日、松本清張「点と線」で時刻表トリックが使われていることを知 って興味を感じて購入しました。何を隠そう、自分の小遣いで初めて買った推理 小説でした。一読して感動しました。後年読んだ「黒い白鳥」、「死のある風景」 などの鮎川哲也の諸作、蒼井雄「船富家の惨劇」などなどに比べれば時刻表トリ ック自体は他愛ないと言うか単純というか、鉄道ファンの心をくすぐる要素は希 薄だったのですが、作中に登場するエッセイ「数字のある風景」は時刻表ファン に捧げられたような趣があって大いに頷きました。

 それからしばらくは松本清張を読みふけることになり、スズメの涙みたいな中 学生の小遣いで新潮文庫、角川文庫、中公文庫、文春文庫……と次々に買いあさ り次々に読んでゆきました。当時「未読」なんて言葉はありませんでした。

 というわけで強いて蟻地獄にはまったきっかけを探ってみると

  鉄道→点と線→松本清張→ミステリー

という流れだったような気がします。未だに松本清張は他の作家とは一線を画す 特別な存在です。それにしても……他にはほとんど目もくれず松本清張ばかり読 みふける中学生って自分で言うのもなんですけど不気味です。

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