謎宮会 2002/09-10

探偵漫画日記（2002年10月分）

廣澤吉泰

今月の話題は、なんといってもミステリ漫画の専門誌「ミステリーBst.（ビィストリート）」（幻冬舎）の創刊だろう。前身の雑誌「Ｂstreet」でもミステリコミックは掲載していたのだが、誌名に堂々と「ミステリー」をうたい、隔月刊での発行となった。幻冬舎のホームページでは次のように創刊趣旨が述べられている。

「名探偵、助手、敵役とキャラクター重視。魅力ある絵柄のオリジナル漫画と、話題の小説を人気実力漫画家がビジュアル化！
他のミステリー漫画誌と一味もふた味も違う魅力いっぱいの本格ミステリーをお届けします」

「キャラクター重視」というのは、先行誌「ミステリーＤＸ」や「サスペリアミステリー」と同じ路線である。そうしたなかでどのように独自性を出すかがポイントになろう。

掲載作品のうち「話題の小説を人気実力漫画家がビジュアル化」したコミカライズ作品は『ささらさや』（原作・加納朋子　漫画・碧也ぴんく）、『冷たい密室と博士たち』（原作・森博嗣　漫画・浅田寅ヲ）、『キッド・ピストルズ～パンク＝マザーグースの事件簿～』（原作・山口雅也　漫画・霜月かいり）といったところがある。

また、独自色を出すうえで重要な役割を担うオリジナル物では『烏丸響子の事件簿』（原作・広井王子　漫画・コザキユウスケ）、『死神探偵と幽霊学園』『華族探偵素成の華麗なる冒険』（いずれも漫画・斎藤岬）、『シルエットバリエ』（漫画・木々）、『888(スリーエイト)』桑田乃梨子、『ゴージャス・カラットGALAXY』（漫画・氷栗優）、『空想奇想式庭園』（漫画・宏橋昌水）、『Under the Rose』（漫画・船戸明里）、『見参!!獅子王丸晶様』（漫画・東城和実）、『(有)悪代官』（漫画・岩田鷹吉）。なかにはミステリ味の薄いものもあるのだが、記念すべき第１号の掲載作品ということで列挙しておいた。オリジナル作品の中には前身の雑誌「Ｂstreet」からの継続の作品もあるので創刊号なのに「連載第○回」作品があったりするのが、こういった新装刊雑誌の面白いところではある。

口絵の部分では山田章博が「探偵・玄居煉太郎シリーズ」と題してミステリ絵物語を連載している。分量が１回あたりで雑誌３頁分程度なので、少ない分量の中でどのように話を転がしていくのか非常に興味深いところである。また特別付録として「華族探偵素成の華麗なる冒険」のドラマＣＤがついている。キャストは池田素成（置鮎龍太郎）、森村千代（桑島法子）、三條濱子（冬馬由美）ほか、というもの。人気声優を起用した豪華なものである。

　というところで、前置きが非常に長くなってしまったが、まずは雑誌のレビューから。 「ミステリーＤＸ」（角川書店）11月号の長編読み切りは『三毛猫ホームズの推理』（原作・赤川次郎　漫画・佐々木みすず）160頁の作品を巻頭カラーで掲載している。「推理」の原作は各登場人物の思惑が交錯しており、分量の割には密度の高い作品であるためか、160頁のボリュームでも少し駆け足のような印象を与える点が残念である。「Ｊ－ミステリ倶楽部」は、ＯＬの部屋からブランド品を盗んだ犯人を３名の容疑者の中から絞り込んで……という「盗まれたブランド品」40頁が掲載（漫画・夏宮麻里似　監修・Ｊ－ミステリ倶楽部）冒頭に示された現場の模様の描写が犯人特定の鍵になっている。新井理恵の野心的なサスペンスシリーズ『∞少年みやび』は早くも展開上のヤマを迎える。着衣に無差別に火を付ける放火魔が友人の一人ではないかという疑惑を抱いた主人公・笠原慎は「人間の醜い感情」を読み取るみやびの能力を利用しようとするが……今後の展開が楽しみな作品である。他の掲載作品は、原作物は「花園の悪魔」（原作・横溝正史　漫画・ＪＥＴ）、『ＴＲＩＣＫ』（原作・林誠人　漫画・西川淳）に加えて『危険な童話』（原作・土屋隆夫　漫画・花村えい子）が掲載されている。花村えい子は土屋の代表的な長編を83頁の分量にうまくまとめている。また、有栖川有栖の火村シリーズは「２０１号室の災厄」（漫画・麻々原絵里依）が掲載されているが、前号に続いてこれも再録。しかし、ついに次号から『朱色の研究』が再開されるようだ。しかも、再開後の連載第１回目は巻中カラーで90頁の分量とのころ。あと、オリジナル物では新シリーズ「麻月探偵事務所」（漫画・矢尾なおや）がスタートした。

「月刊サスペリアミステリー」１２月号（秋田書店）では、看板ともいえる内田康夫作品『「横山大観」殺人事件』（漫画・たまいまきこ）が連載第３回目となり佳境を迎えている。今回の巻頭カラーは「横溝正史生誕100年記念特別企画第３弾!!」として取り上げられた『犬神家の一族』（漫画・長尾文子）。今回が連載第１回目である。あわせて『金田一耕助の冒険』所収の短編「瞳の中の女」を鳥羽笙子が漫画化している。他のコミカライズ作品としては、渋柿信介シリーズである「スマイルは遠すぎる」（原作・二階堂黎人　漫画・河内実加）、「浪花少年探偵団　しのぶセンセを仰げば尊し」（原作・東野圭吾　漫画・大塚あきら）、「じっくりコトコト殺人事件」（原作・太田忠司　漫画・大橋薫）、「砂蛾家の消失」（原作・泡坂妻夫　漫画・文世空也）がある。若干補足しておくと、渋柿信介シリーズは12月26日にコミックスが発売されるとのことである。また「浪花少年探偵団」は、卒業というひとつの区切りを迎えたのだが、新春２月特大号から「独立編」が始まるとのことで、こちらも楽しみである。オリジナル物では「飛び出せ　お嬢探偵」が最終回を迎える。「愛するがゆえに」（原作・金子レミ　漫画・月嶋つぐ美）は、これまで脇役であった浜野綾子の推理で事件が解決するという異色編。次号からは、本来の主人公である殺し屋教師・田中一朗が活躍する。別冊付録は吸血鬼美夕の小説版（原作・平野俊貴　原作／画・垣野内成美　著・早見裕司）と「猫丸先輩の事件簿５」（原作・倉知淳）である。「事件簿５」の収録作品は「生首幽霊」（漫画・宗美智子）と「喪中の家」（漫画・あさみさとる）である。

「Ｈｉミステリー」１１月号（宙出版）では、特集「殺されそうな女たち」として折原一の『101号室の女』（講談社文庫）からの漫画化作品「101号室の女」（漫画・はやさかあみい）、「恐妻家」（漫画・瀧川イヴ）を掲載。それぞれがヒッチコックのサスペンス映画「サイコ」と「見知らぬ乗客」を踏まえた作品であるため、映画を観ているとさらに楽しめるのではないだろうか。一方、オリジナル作品として花村えい子「閉ざされた沈黙」、光崎圭「ＲＥＶＥＮＧＥ」、森川久美「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」、佐藤史生「まさかのときのハーレクイン・ロマンス」、樹村みのり「あざみの花」、倉多江美「球面三角」が掲載されている。また、「クリスマスのぶたぶた」（原作・矢崎在美　漫画・安武わたる）の予告編が掲載されていた。前号で完結した『刑事ぶたぶた』の単行本がエメラルドコミックスとして11月６日に刊行されるとのことである。と、いったところで単行本のレビューに移ることにしたいところだが、例によって奥付けの発行日は、実際の発売日とは異なっている場合があり、この日記は購入時点をベースとしているので、その点はご了承いただきたい。それから『柳生十兵衛死す』（原作・山田風太郎　漫画・石川賢）の第５巻（完結）が10月23日に刊行されたのだが、依然として比較対象とすべき原作を読了できていないため、今月は保留とする。いよいよ尻に火がついてきた……。そして、10月分の新刊に入る前にひとつ７月分の積み残しを。

『ＳＵＺＡＫＵ』　第４巻（完結）
原作・藤木稟　漫画・坂本一水　幻冬舎　バーズコミックス　2002年７月24日刊行
５４０円（本体）

【内容紹介】恋心を抱いた高瀬美佐の面影を持つ中村茅とともに事件の捜査を進める柏木洋介。洋介は、とある酒場で被害者の藤原隆が奇妙な夢のことを語っていた事実を聞き込む。藤原が語った内容は、自分は「中村正志」という人間で茅という女給を妻に迎えた、という信じがたいものであった。昏迷する事態は朱雀十五の明察で明らかになる。
【評価など】３、４巻は藤木稟のデビュー作である『陀吉尼の紡ぐ糸』（98年刊・徳間ノベルズ）のコミカライズである。原作は柏木の視点がメインとなっているため、柏木自身が混乱してしまう解決部分での叙述が分かり難くなってしまうのだが、漫画版はスッキリ納めている。また、東中佐と十五の洋上でのセリフの遣り取り（「今回は見逃してやるが暗闇には気をつけろよ」「残念ながら僕には暗闇など存在しないのですよ」）など、コミック版の演出の方がより劇的で印象的になっている部分もある。

　と、積み残しを処理したところで、今月分のレビューに移ることとしたい。

『賭博破戒録カイジ』　第７巻
漫画・福本伸行　講談社　ヤンマガＫＣ　2002年10月４日刊行５１４円（本体）

【内容紹介】地下の強制労働施設から20日間脱出できたカイジだが、完全な自由を獲得するには６千万円の大金が必要だ。カイジは、坂崎という男とともに大当たり６億円以上という裏カジノのパチンコ台「沼」に挑戦するが６千万円をつぎこみながらも敗れる。しかし、坂崎の一連の戦いから、カイジは「沼」を攻略するための光明を見出した。
【評価など】磁石を使用した「沼」攻略は、玉を磁石の効かない真鍮製のものにした、裏カジノの支配人・一条。スマートな物腰で、鼻持ちならぬ印象を与えるこの男がパチンコ編でのカイジのライバルである。本質的に「店側が100％勝つギャンブル」であるパチンコで勝利を収めることができるのか？　カイジは、かつて自分を追い込んだ遠藤（限定ジャンケン編等に登場）も仲間に引き入れるなど、着々と「沼」攻略の手を打つ……。

『リモート』　第３巻
原作・天樹征丸　漫画・こしばてつや　講談社　ヤンマガＫＣ　2002年10月４日刊行
５１４円（本体）

【内容紹介】爆弾魔「チキン」が跳梁する学園に転校生・工藤まりなとして潜入した彩木くるみ。逃げるものがいれば爆弾を爆発させる――という犯人の宣言に恐慌状態に陥る生徒たち。氷室からの指示を受けながら、爆弾を発見したまりなだが、彼女を逃亡者とみなした殺気だった生徒に囲まれてしまう……という「サバイバルゲーム」の完結編と、くるみが大富豪の孫の護衛を務めることとなる「ボディガード」の冒頭部分を収録。
【評価など】『リモート』は、10月12日（土）夜９時から日本テレビ系列でＴＶドラマ化されることとなった。配役は氷室光三郎が堂本光一、彩木くるみが深田恭子、そしてボブ・加藤がＫＯＮＩＳＨＩＫＩである。企画段階からくるみは深田恭子をモデルに考えていたとのことなので、絶妙な配役だといえよう。この枠は過去にも「金田一少年－」「銀狼－」「サイコメトラーＥＩＪＩ」といったミステリ漫画のドラマ化作品が登場しており、非常に相性の良い時間帯といえる。また、マイクロソフトの検索サイト「ＭＳＮ」の10月18日付の「気になることば」でもドラマ化にあわせて『リモート』の話題が取り上げられていた。ブレイクの兆しが感じられる作品である。

『なんてっ探偵アイドル』　第10巻
漫画・北崎拓　原案協力・井上敏樹　小学館　ヤングサンデーコミックス
　2002年11月５日刊行　５０５円（本体）

【内容紹介】モデルの加藤恵子から見合いの身代わりを頼まれた梨奈。料理につられて出掛けたら相手は何と室戸であった。その会場で恵子が殺され、室戸に容疑がかかる、という「ウィル・ユー・マリー・ミー？」料理番組の録画中に出演者に毒が盛られた事件をアキラ抜きのトリコロールと藤巻ゆかりが解く「クッキング・クイーン」そして、校内の秘密をすっぱぬいてはホームページに掲載する犯人を捜す「スクープ・イン・スクープ」を掲載。片岡のコンサートの打ち上げで発生した殺人事件を描いた「ビハインド・ザ・マスク」は次巻への継続となる。
【評価など】「ウィル・ユー・マリー・ミー？」で梨奈と室戸が接近！　で、片岡・アキラを交えた恋愛模様はますます交錯。ライバル藤巻ゆかりは「クッキング・クイーン」でアキラばりの推理を展開し、「スクープ・イン・スクープ」では学校ではアイドルであることを隠しているアキラの正体を見抜く、という活躍ぶりでこちらも目が離せない。

『プルンギル　―青の道―』　第１巻
原作・江戸川啓視　漫画・クォン・カヤ　新潮社　バンチコミックス
2002年10月15日刊行　５０５円（本体）

【内容紹介】体中の関節を伸ばしグチャグチャにした死体が新宿で発見される。傍らには血文字で書かれたハングルの詩が。猪瀬刑事は横浜の事件との連続殺人事件とにらむが、偶然出会った韓国の刑事　青道（カンチョンドウ）から韓国でも同様の事件が発生していると知らされる。ただし韓国での血文字はハングルではなく日本語であった……。

【評価など】韓国と日本を股にかける連続殺人犯を、日本のたたきあげ刑事と韓国のエリート警官（ただし、元不良。武道の達人）が追跡するというもの。劇画風のクォン・カヤのタッチは好き嫌いが別れると思うが、近年の東アジアの漫画界のレベルの高さをうかがわせる水準にある。文禄慶長の役（韓国名“壬辰倭乱”）の際に投降した秀吉軍の兵士――降倭。その降倭の武将であった哀美里（えみり）の詩が現場に残されている、という設定で謎を盛り上げつつ、日韓の刑事がコンビで調査をしていく過程で生じる葛藤を通じて「韓国と日本の間の愛憎」という微妙な問題を真正面からとりあげている。

『リオン　～ガルガンチュア・ポケット編～』　第１巻
原作・和田慎二　漫画・島崎譲　講談社　マガジンＺＫＣ　2002年９月20日刊行　５１４円（本体）

【内容紹介】風光明媚なヨーロッパの小国・キュドラム。この国には世界各地から重犯罪者が送り込まれる刑務所ガルガンチュア・ポケットがあった。脱出者０のこの場所に送り込まれた少女は、ライオンのたてがみのような髪を持つことからリオンと呼ばれた。リオンは、この地獄からの脱出を狙いつつ、自給自足のこの地で逞しく成長していく。
【評価など】少女漫画畑で活躍してきた男性漫画家和田慎二と、少女漫画でデビューしながら少年漫画誌で書き続けてきた女性漫画家島崎譲の異色タッグが贈る作品。作画担当の島崎譲が出した「『銀色の髪の亜里沙』と『スケバン刑事』を足して２で割ったような」というリクエストに応えるものであれば、きっと楽しい作品になるであろう。

『美術部殺人事件』
漫画・高階良子　秋田書店　ボニータコミックスアルファ　2002年11月15日刊行
　５１４円（本体）

【内容紹介】高校の美術室に飾られた肖像画。モデルとなった少女は、５年前にその絵の前で自殺したという。そして、今度は肖像画の前で女生徒が殺されて、という表題作「美術部殺人事件」に加えて「園芸部殺人事件」「妖かし研殺人事件」「時の迷路殺人事件」といった「殺人事件シリーズ」の新作を収録。
【評価など】少女漫画界でのミステリコミックの走りとなる「ピアノソナタ殺人事件」にはじまる一連の「殺人事件シリーズ」。その新作が今年になって「ミステリーボニータ」（秋田書店）に発表されたことは既にこのコラムでも紹介したが、今回コミックスにまとまったので雑誌掲載時に見逃した人は、この機会にぜひ手にとっていただきたい。

『探偵学園Ｑ』　第７巻
　原作・天樹征丸　漫画・さとうふみや　講談社　講談社コミックス　2002年10月17日刊行　４１９円（本体）

【内容紹介】旧校舎の地下室に閉じ込められたキュウと恵の運命は!!　という「旧校舎の秘密」と、ネット上で噂になっている殺人シーンを撮影した「スナッフビデオ」を蒐集する“コレクター”の正体を明らかにするため天草流と恵が容疑者のいる高校に潜入捜査を行う「殺人コレクター」を収録。また、恒例の「おまけ」は七海光太郎出題の推理クイズと、仕掛けのあるリュウのブロマイドと相変わらず充実している。
【評価など】主人公・キュウの正体、天草流の目的、そして殺人組織“冥王星”……一つひとつの事件は解決されていくのだが、作品全体を貫く謎は徐々に増えていく、というのが『探偵学園Ｑ』の醍醐味である。この第７巻ではＤＤＳの旧校舎に関わる謎がそれに加わる。経歴不祥の設計者・九頭龍匠とは？　作者のことばにある「壮大な謎マンダラ」が明らかになるのはいつのことなのか？　目の離せないところだ。

『ＲｅｆｌｅＸ』　第３巻
漫画・飛永宏之　講談社　講談社コミックス　2002年10月17日刊行　３９０円（本体）

【内容紹介】ポルトガルの騎士団の遺した巨額の財宝。その在り処を示す断片（アズレーション）をクアトロ派との死闘の結果、弓削たちは手にするという「Ｐ・Ｊ」の完結編と、アズレーションを持つと誤解されクアトロ派から強迫されているヴァイキングの末裔・カレンから弓削とミシェルが助力を求められる「ヴァイキングの末裔」を掲載。
【評価など】世界を舞台に様々な謎に挑んできた弓削とミシェルのコンビだが、本巻からは「Ｐ・Ｊ」（プレステ・ジョアン）の財宝を巡っての強大な組織（クアトロ派）との攻防が焦点となってくる。謎のスケールが大きくなるのはいいのだが、問題は大風呂敷のたたみ方である。うまく畳んでくれることを期待したい。

『鉄人』　第２巻
原作・矢作俊彦　漫画・落合尚之　小学館　サンデーＧＸコミックス　2002年11月20日刊行　５３３円（本体）

【内容紹介】不発弾処理現場で発見された謎の装置。中国軍はこれを空輸しようとするが原因不明のエネルギーが発生し現場は大混乱となる。一方、巨大ロボットを発見した鳶尾翔の前に行方不明の父・ダグラスが現れる。彼は「世界を敵に回しても鉄人を守れ。そうでないとお母さんは死ぬ」と警告を残す。しかし、謎の装置の影響でか鉄人は暴走し、制御しようとする翔の努力も空しく長春市街を破壊していく……。
【評価など】ダグラスの突然の出現に加えて、警告の数々が謎めいており、ストーリーはさらに錯綜を極めていく。そうしたプロットもさることながら、落合尚之の作画も頑張っている。例えば、市街地を歩く場面では２頁見開きでかつ引いてスケール感を出したり、あるいはアオリで鉄人の巨大感を演出したりと巧みな画面構成で魅せてくれる。

『闇的遊戯　～ブラック・ゲーム～』　第２巻（完結）
原作・あきみれい　漫画・根津舞香　幻冬舎　バーズコミックスガールズコレクション　2002年10月24日刊行　５４０円（本体）

【内容紹介】父の行方を情報を持つ天才少年・サンダーとのポーカー勝負に挑むマサキ。音でカードを見分ける特殊能力を持つサンダーと配られた手札だけで勝負するノーチェンジポーカーで賭けをすることに！　果たして、マサキに勝機はあるのか!?
【評価など】天才ギャンブラーの活躍するシリーズということで『カイジ』のような虚々実々の駆け引きが繰り広げられるものを期待したのだが、その部分では期待外れであった。ちなみに、このシリーズは第０話が月刊誌の読み切り、１～３話が季刊誌「コミックきみとぼく」に連載され、４～７話が隔月刊誌「ＷＡＬＬＦＬＯＷＥＲ」に掲載されるという数奇な運命を辿っている（しかも、その間に版元がソニーマガジンズから幻冬舎に変わるという事態もあった）その奔流に揉まれる中で根津舞香の画力も急成長したようで、各キャラクターが１巻に比べてはるかに魅力的に描かれている。

『東京異聞』　第２巻
原作・小野不由美　漫画・梶原にき　幻冬舎　バーズコミックススペシャル　2002年10月24日刊行　６６０円（本体）

【内容紹介】帝都の闇に蠢く魑魅魍魎――火炎魔人、闇御前等々――が引き起こす連続殺人。事件を追う平河新太郎と香具師の万造は裏に名門鷹司家の家督相続を巡る争いがあるのではと睨む。同年同日に生まれた鷹司直と常。素行不良で家を追われた長男の直に、家督相続権以外は何も持たない次男の常――この２人と彼らの周囲の人間の思惑が渦巻くなか、直が見世物小屋の中で闇御前に襲われる事件が発生する……。
【評価など】94年に刊行された小野不由美の書下し長編の漫画化作品の第二巻。梶原にきの繊細なタッチの絵柄はもう一つの東京で起きた妖異譚を描くのに最適といえよう。表紙カバーの紙質や目次部分に和紙風の用紙を用いる等こだわった造本もうれしい。

　今月はここまで。

[UP]

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