謎宮会 1996/11


毒 書 日 記 −1996.10−


浅井 秀明

 直木賞を取ったためか、やっと乃南アサ『幸福な朝食』が文庫化(新潮文庫)。仮にも第一回日本推理サスペンス大賞優秀作なのだから、『魔術はささやく』(宮部みゆき)より後に出るというのはおかしい(たぶん、直木賞を取らなかったら、永久に出なかっただろうな)。新潮だけではないけれど、仮にも「賞」と名のついた作品なのだから、大した作品でなくても、大事にしてほしいと思う。

○月○日 副題だけで買った『蛹たちは校庭で 名門石清水中学将棋部殺人事件』釣巻礼公(出版芸術社)に騙される。この作者は将棋のことを何もわかっちゃいない。調査不足も多いし、章題の意味づけも強引だし、中に出てくる詰め将棋(というのも笑っちゃうが)もこじつけでしかない。はっきり言えば、事件に将棋を搦める必然性は全くない。要するに、羽生ブームに便乗しただけの作品と思うので、厳しく★。ちなみに、「詰め将棋大賞」は存在しないし、《煙の中の魔法陣》などという詰め将棋は99.99999%実現不可能。

○月○日 やっと読んだ鮎川哲也編『本格推理G』(光文社文庫)。ここまで来るとトリックのパターンが似通ってくるのはしょうがないのかね。作品よりも、最後の黒輪土風の名前の謎解きの方がずっと面白い。もうちょい作品を厳選した方がいいと思いつつ★☆。

○月○日 今頃読んだ近藤史恵『ガーデン』(東京創元社)。出てくる人物が皆退廃的で、異世界の話にしか見えないのは作者の狙いなのか、それとも私の読み方が悪いのか。まあまあ面白かったが、登場人物の誰にも感情移入できなかったので★★☆。個人的には『スタバトマーテル』(中央公論社)の方が好み。男にとって滅茶苦茶怖いラストだが(ちなみに★★★)。

○月○日 意外と面白かった芦辺拓『時の誘拐』(立風書房)。ハイテク(と言うほどではない)を駆使した現代の少女誘拐に、戦後の「大阪市警視庁」をからませたのはなかなか上手いが、前半にいろいろと詰め込みすぎたせいか、後半に割り切れなさとあっけなさが残る。そのわりにラストがぐずついているので、もう少し鮮やかに、切れ味よくしてほしい。中身を交通整理すればよかったのにと思いながら★★★。映画などの古い作品の蘊蓄をちらっと見せる手法は、好き嫌いが分かれるところだけれど、個人的には?。どうせなら、大藪春彦が銃と車にとことんこだわったように映画等にこだわったミステリを書いてほしい。

○月○日 人気原作の漫画化、河内実加/我孫子竹丸『人形はこたつで推理する』(ソニーマガジンコミックス)を読む。ミステリの漫画化には、原作に忠実であるか、それとも漫画家の方でアレンジするかに分かれるが、これはかなり忠実な方ではないか(原作はほとんど忘れているので、自信はないが)。朝永ってこんなに格好良かったかという疑問はあるが、無難な作品かなと言う感じで★★☆。むしろ、同じコンビで『半熟探偵団』(秋田書店 きらら16)の方が楽しみである。なんたって舞台が私立高校の探偵養成クラスというのは楽しみ。ところで、河内実加の(たぶんタイトルはあっていると思うけど)『彼女と嘘と二つの月』(新書館 Wings連載)はコミックスにならないの? この設定と話、結構好きだったんだけど。

○月○日 こちらも漫画化、JET/横溝正史『八つ墓村』(角川書店 あすかコミックス)は今一つ。JETは『獄門島』、『本陣殺人事件』、『睡れる花嫁』や、『エラリー・クィーンの事件簿』の漫画化があるが、ページの都合のためか、省略が多いため、今一つであった。今回も、ストーリーの一部を抜いてアレンジしているが、物足りなさは残った。一度、思いきり書かせてみたいものだ、と思い★★。どうせアレンジするなら、長田ノオト『屋根裏の散歩者』(秋田書店)ぐらい大胆にやってほしい。

○月○日 久々の宮部みゆき『蒲生邸事件』(毎日新聞社)。事件は起こるが、これはミステリではない(『スキップ』をミステリに入れる人から見ればミステリかも知れない)。しかし、最後は感動させられる成長物語であると思うので★★★★。しかし、超能力者を平然と出す手法はこの作品を最後にしてほしい。こういう手を使わなくても、いい作品を書ける作者なのだから、たまにはストレートで勝負してほしい、ついでに言えば、そろそろミステリでも勝負してほしい。

○月○日 「本格」について考えさせられる東野圭吾『名探偵の呪縛』(講談社文庫)。『名探偵の掟』について、あまりにも色々な、そして作者の意図を理解していない勝手な評論が出回ったため、あえて「天下一名探偵」を使ったこの長編を書いたと思われる。しかし、舞台設定や事件に無理が感じられるので、★★☆。しかし、「本格」とはこんな風にしか書くことのできない舞台になってしまったのだろうか?

○月○日 今年の鮎川賞、満坂太郎『海賊丸漂着異聞』(東京創元社)は?。文章の上手いことは認めるし(会話が現代文なのはおいとくとして)、結構面白く読めた。しかし、その面白さは設定の面白さであって、ミステリの面白さとしてはほとんどない。消失の謎にしろ、殺人の謎にしろ、推理がないまま話が終わっている。もっと面白い謎があれば傑作だなと残念なので★★☆。


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