謎宮会 1996/12

自己中心的毒書日記 −1996.11−

浅井 秀明

 角川書店で出ている新本格ミステリー書き下ろしシリーズだが、ラインナップに本岡類、加納朋子、貫井徳郎など新本格とはいえない作家が入っており(ラインナップそのものは嬉しい)、新本格とは何を指しているのかがよくわからない。まさかとは思うが、新本格という名前だけで売れるだろうという思惑で付けたのだったら呆れるしかない。私も平気で使ってはいるが、大体、新本格って一体何なんだろう。

○月○日 いつか出ると思っていた、折原一・新津きよみ夫婦合作『二重生活』(双葉社)。新津きよみは読んだことがないので自信がないが、構成が折原一、文章や人物設定が新津きよみではないだろうか。舞台の切替えがあやふやすぎ、最後まで読んでも作品世界を理解するのが少々難しい。連載のままらしいが、本になる前に手を入れてほしかった。どうせ合作をやるのなら、がらっとイメージを変えてほしいと思いつつ、★★。

○月○日 読むのが辛かった山田風太郎『天国荘奇譚』(廣済堂文庫)。この「山田風太郎傑作大全」なのだが、第1巻の『妖異金瓶梅』以外はどうも今一つである。特に『十三角関係』は期待していたのだが……。もう少し「傑作大全」らしい作品を希望する(いや、出版自体は嬉しいが)。『天国荘奇譚』は戦前、戦後を舞台とした風刺たっぷりのコメディを中心とした短編集だが、全然笑えなかったとだけ言っておいて★☆。

○月○日 借りて読んだ折原一『ファンレター』(講談社)。2本は雑誌で読んだことがあるのだが、まさかこういう風にまとまるとは思わなかった。とにかく、覆面作家西村香(こらこら)をめぐる様々な事件を書簡形式Onlyで勝負しているため、後半になるほど展開が読めてしまうのは残念。とはいえ、最後のエピローグは結構面白いので★★★。

○月○日 北村薫の『覆面作家は二人いる』をマンガ化した美濃みずほのオリジナル『解決するとは限らない』(角川書店ASUKA COMICS)。舞台は高校のミステリークラブ、部員の名前は、リーダー火村に法月、明智、島田。そして主役は石岡というミーハー設定、起きる事件3編はかなり小粒。もっとも、『金田一少年』みたいに高校で殺人事件がそう起きるわけないか。あれだけ起きたらすぐに廃校だ。期待しなかった分、逆に面白かったので、★★☆。しかし、何故これが『CIEL』で連載されていたんだろう?

○月○日 『八つ墓村』の映画化に合わせたとしか思えない大多和伴彦『名探偵・金田一耕助99の謎』(二見文庫)。謎本でまともなのはあまりない。特にデータハウス社のは読者をバカにしているとしか思えないぐらいひどい。『金田一ファミリーの謎』(飛鳥新社)という本も出ていたが、あまりものチープな作りに呆れてしまった(ジッチャンはやめろよ)。しかし、他の謎本と違って、きちんと横溝夫人の出版許可済みだし、かなり良心的な作り方をしている。99に合わせるため無理矢理「謎」に仕立て上げたり、個人的に?と思うところはあるが、少年物も含んだ金田一の作品、映画やテレビ、そして横溝正史自身のデータや写真などなかなか読み応えはある。今さらという人がいるかも知れないが、安価でこれだけコンパクトにまとめてもらえれば結構嬉しいし、金田一の世界を再確認できるので、★★★☆。

○月○日 やっと出ました、天藤真推理小説全集第10巻『善人たちの夜』(創元推理文庫)。危篤の父のため、そして恋人とのマイホームを手に入れるために、恋人の後輩の花嫁の芝居を引き受けた主人公と、彼女を取り巻く男女3人の悲喜劇で、処女長編『陽気な容疑者たち』や『大誘拐』に連なる「悪人のいないミステリ」である。主人公たちに対する作者の愛情があふれた佳品と思うが、ミステリ味は非常に薄く、事が上手く運びすぎなので、★★★。ちなみに後半には、初版時に削られた原稿も収録されている。個人的には、削った方がよかったんじゃないと思える部分も多いが、やはり完全版を読みたかった気がする。

○月○日 シッド・ハレー三度復活、ディック・フランシス『敵手』(早川書房)。放牧中の馬の足の連続切断事件の犯人に浮かび上がったのは、ハレーの騎手時代のライヴァルで親友、の人気テレビタレント。しかし、彼は犯行を否定し、マスコミもこぞって彼を非難するが……。久しぶりに読んだが、やっぱりフランシスは凄い(平凡な意見で申し訳ない)。あいも変わらず心理的、肉体的な面で窮地に陥るハレーだが、ぼろぼろになりながらも立ち向かっていく彼の姿は、男として見習いたい。フランシスにとって、シッド・ハレーとは別格なんだな、と思わせる筆の勢いである(大藪春彦における伊達邦彦みたいなモンだ)。しかし、ハレーってまだ35歳なんだ、と不思議に思いながら★★★★。ついでにいえば、『敵手』という題は非常に上手い!

○月○日 これも借りて読んだ井上夢人『パワーオフ』(集英社)。コンピュータウイルス及びそのワクチンと、人工生命プログラムA-LIFEを絡めた近未来サスペンス。コンピュータを知らない人には、物語の構造と恐怖感が今一つ伝わらないのではないかと思う。しかし、世界中の至る所でコンピュータが使われている現状を思うと、実に怖い。さすがに人工生命プログラムはまだ先の話だが、ウイルスだけ関して言えば十分に現在でも起こりうる可能性はある。最後にあっけなさは残るものの、サスペンスSF(ミステリと書くよりもピンとくる)としては良く出来ていると思うので★★★★。そういえば、聖りいざの『Combination』B(光文社)にはバイオコンピュータ・ウイルスというのが出ていた。当分、この手のネタははやると思う。

○月○日 ハードボイルドの若手No.1、香納諒一『ただ去るが如く』(中央公論社)。外商企業から暴力団に渡ろうとしている3億円強奪に表、裏、そして過去で絡まっている男、そして女たちが演じるピカレスクドラマ。話の本筋に入るまでは結構長いのだが、その分、じっくりと登場人物を書き込んでいるので退屈はしない。ただし、最後がややバタバタした展開になっているのは残念。最後はもうちょっと(ホンのちょっとでいいから)、書き込んでほしかったと思う。香納諒一は、もう一度会いたいなと思わせるほどキャラクター作りがうまいが、今回の作品でも、充とちづるのコンビはもう一度会ってみたい。真保裕一みたいに早くブレイクしてほしいと思いながら、★★★★。

to be continued.

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謎宮会 webmaster:maki@inac.co.jp(高橋)

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