謎宮会 1996/10


みすてり読断城どくだんじょう


城主 刑部姫おさかべひめ

九月一日

 秋これ読書。読書これ不平不満鬱憤の山と、たまの嬉しき感激。下世話にも申す。 ひとりつぶやくグチよりも、ぬしを巻きこむぼやきがよい。

敬称略で、けなすべきはけなさん。犯人その他、未読の衆の興を削ぐディテールは 最小限に。ほむべきはしかとほめん。ただし、知恵ある読み手は命を惜しむ。 匿名じゃ、悪しからず。

九月三日

 倉知淳の『星降り山荘の殺人』(講談社)またやられてしもうた。 前の『過ぎ行く風はみどり色』も、細心の注意を払うていた気で、 ツメでやられたが、こたびもみんごと術にはまってしまった。 相性の問題かの。「やられた!」の快感がたまらぬぞえ。読み返してみたが、 きちんとフェアに書かれておった。どうせ姫の目はザルじゃ。

九月九日

 加納朋子の『いちばん始めにあった海』(角川書店)。東京創元社以外の 出版社より出すは初めてであろうか。好きな作家なれど、薄うてすばやく 読めそうゆえ、いますこしヒマになるまで棚上げとしょう。誰の本にても、 薄くて字数少なきハードカバーは腹が立つ。厚うて重き(誰ぞの)新書も 別の意味で腹は立てど、まだしも読後の満足感に期待が持てる。薄きは 感動も薄しと見えてならぬ。偏見と証明してくりゃれ。

九月十日

 篠田節子の『聖域』(講談社)の出だしだけ読む。言っては何じゃが 『贋作師』に乗れず、それきり手を出しておらなんだ。メフィスト(?) 掲載の短編を読み、買うてみたところ、うまい。よい。本気で読み出さば はまりそうゆえ、これまた、いますこしヒマができるまでお預けといたす。

九月十二日

 このところ涼しきゆえか落ち着いて本が読める。佐竹一彦の『よそ者』 (角川書店)、面白く読めた。女の主人公造形に心砕きしがありあり。 されどページがスカスカじゃ。ハードカバーなれば価格分、みっしり 字で埋めてくれねば困る。せっかくよき探偵じゃ。一段と詳しゅう書いて もらいたかった。そもそも、警察内部が見てきたように(見てきたのだが) 書ける作家が何人いやる? 同業者のためにも詳細を旨として書かぬか。 解決部分もまだまだ盛り上げてほしかったわえ。シリーズにいたすので あろうか。いたさば買うがの。

九月十三日

 歌野晶午の短篇集が出ておる。面白いのであろうか。作者を問わず、 短篇はあまり好かず。短篇集はさらに読まぬ。連作で、最後に全体を貫く 一本の謎が解明されるたぐいは読める。その最後の謎と解決を知りたきが ゆえじゃ。短篇を好かぬは、姫が人間ならぬ妖怪なるがゆえか。短篇小説 は閃光の人生と申すゆえ、姫は蛍光灯か鬼火の人生が好きなのであろう。

九月十四日

 といって好きな短篇がないとは言わぬ。

九月十五日

 清涼院流水の『コズミック』(講談社)を読み出す。近頃の新人は 読者の手首への負担を全く考えておらぬ。これでつまらなんだら、刻む ぞえ(作者を)。まだ途中なれど今のところは悪うない。ただ、カタカナルビ に何語か不明のもの、また明らかなる誤用あり。振るは好みゆえかまわぬが、 誤りや思い違いがあってはの。振るならしかと調べた後に振りゃれ。 誤植もあったが、あれは作者のせいではあるまい。手がかりとも 考えられるのう。先へ進む前にいま一度確認しておかねば。

九月十六日

 急にあれこれ用事が入ってしもうた。半月分しか書いておらぬが、 これで初会はよしといたそう。思えば横溝賞の受賞作もいまだ読んでおらぬ。 乱歩賞・鮎川賞両受賞作もほどなく発売とのこと。朝日新聞にて連載の 始まりし宮部みゆきの『理由』も、先の気になる作品じゃ。新聞小説に 活字の詰まりおるは嬉しき限りよ。今回の原稿に拒絶反応の出ねば、 次回はそのことも書けるやもしれぬ。


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