謎宮会 1997/01

井戸端ミステリ会議 −1996.11−

香月 桂・浅井 秀明

 井戸端ミステリ会議は、毎月共通の作品について感想と採点をつけようというものです。参加者を募集しております。こちらまで連絡を頂ければ、翌月のお題を連絡します。感想の方は100〜150文字、採点は★5個で満点です。

今月のお題 香月 桂 浅井 秀明
小杉健治
『多重人格裁判』
双葉社

1996.10.25 発行
¥1700
 小杉健治ならば法廷ミステリのディティールは良く書けて当然か。早い時点で簡単に種が割れてしまうのが辛いが、でも後半での容疑者・早瀬の過去の追求は読ませたし、とりあえずは小杉健治の新境地を祝福して(原島の登場は新境地に挑む作者のお守りの意味か?)おきたい。★★★  事件だけを見ると、なぜ原島弁護士を必要としたのか、原島がこの事件を引き受けたのかがわからない。不勉強で申し訳ないが、多重人格を扱った裁判をこういう風に書いてよいものだろうか(特に検察側)。個人的な意見だが、この裁判の結末に私は反対である。    ★★
京極夏彦
『絡新婦の理』
講談社ノベルス

1996.11.5 発行
¥1500
 気が遠くなるほどの深謀遠慮な計画を敢行する犯人の凄み。その計画に対し読者が蜘蛛の巣を思い浮かべた時点で作者の勝ちは決まったようなものだろう。まぎれもなく「絡新婦」の物語、「妖怪小説」としての面が最も良く書き込まれた傑作。『魍魎の匣』と並ぶ最高傑作!★★★★★  一人称視点ではなく多重視点のため、京極堂が出てくるまではややわかりにくいが、そこから後は一気呵成に読ませる。しかし、いつもと違って予定調和の世界から抜け出ないのが残念。やはりサル(ハハハ)というフィルターを通した方が不条理感を倍増させると思う。 ★★★☆
西澤保彦
『麦酒の家の冒険』
講談社ノベルス

1996.11.5 発行
¥780
 全く動きのない長編を飽きもせずに読み終えることができるのはシリーズ・キャラクターが楽しさに溢れているから。謎も不可解で魅力的だし、全編推理だけのミステリを書こうというチャレンジ精神を評価したい。ただし論理展開に強引なところも感じられるのが玉に瑕です。★★★☆  読んでいるこちらの方が酔ってしまうよう論理の展開。一の疑問に十の結末をつける落語のような話でしかないが、個人的には、タックとタカチのコンビは好きである。犯人が何故、20円高いエビスを選んだのかがわからない。しかしビールはエビスが一番である。 ★★★
貫井徳郎
『天使の屍』
角川書店

1996.11.30 発行
¥1700
 主人公の息子の描き方に疑問を感じた――という点はあるにしても、読みやすい文章、抑制の効いたストーリー展開、この手の話にありがちな後味の悪いラストを避けた点など好感の持てる仕上がり。貫井さんは期待していい作家だと思うので、今後の活躍を楽しみにしています。★★★  アイディアとしてはかなり仰天もの。心理的にはかなり矛盾するような気がするが、中学生の心理はわからないので何とも言えない。しかし、中学生の描き方は結構リアルだと思う。社会派新本格(そんなジャンルあるのか?)の星として頑張れ、貫井。★★★

to be continued.


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謎宮会 webmaster:meikyu@rubycolor.org(高橋)

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