謎宮会 1997/5

井戸端ミステリ会議 −1997.5−

香月 桂・冴西 理央・魔亜耶・浅井 秀明

 井戸端ミステリ会議は、毎月共通の作品について感想と採点をつけようというものです。参加者を募集しております。感想の方は100〜150文字、採点は★5個で満点です。

今月のお題 香月 桂 冴西 理央 魔亜耶 浅井 秀明
西澤保彦      
『瞬間移動死体』  
講談社ノベルス   
          
1997.4.5 発行   
¥800
 ミステリファンならば一度は考えそうなバカバカしいアイデアをぬけぬけと作品化してしまった点は面白いのだが、不完全燃焼に終わった気がする作品。とはいえ読んでいる間は楽しめたのであまり厳しい評価はしたくない。読んでいて楽しい作品を書くのはなかなか技量の要ることです。★★★。  彼の作品は初読。文章が読みやすくてあっという間に読んでしまった。瞬間移動って題材はなかなか面白い。それがアリならなんでもアリ、になっちゃいそうな危険もうまく対処してると思う。それだけに、もう少しインパクトある結末が欲しかったな。瞬間移動の説明に行数を使いすぎで★★☆だけど、他作品も読んでみたい。  なんかこういうのはあんまり……。というわけで、星の評価はひかえさせていただきます。否定はしないけど。  テレポーテーションでアリバイ作成という、毎度の事ながらの奇妙な設定の発想には感心するが、残念ながら今回はそれだけ。命題と証明の辻褄はあっているが、何の感動ももたらしていない。設定が奇想天外であっても、ドラマがなければつまらなくなるんだなと実感した。★☆。
森博嗣 
『封印再度』    
           
講談社ノベルス
1997.4.5 発行
¥900
 随分と萌絵の造形がわざとらしくなってきたような気がして興を削がれる。内容はつまらないわけではないが、人に薦めようという気にもならない。と思っていたら壺の中の鍵の取り出し方はなかなか面白かったので、読後感は予想より良かった。犀川がある人物と対峙するクライマックスも、ちょっといい。★★★。  論理ミステリって「森博嗣著」ってことか?トリック(?)も動機も、私には決して解き得ないし、ちょっとタイプじゃない。6時の蔵の状況のあたりは面白かったんだけど。犀川の萌絵への感情が一番のミステリだなあ。ところで密室でアレするにはアレがないんだけど以下略。小説としては★★★、ミステリとしては★★☆。 ああっ、もうっ。う、うまい……。何ヶ月か前に、ぼーっとしながら考えていたトリック(というか、こういうのもあるなあっていうレベル)をヤられてしまいました。しかも、ものすごく高度にうまく。もう、いや、理系ってものすごくおトクなんだもの。★★★★☆。  過去5作ではこれが一番面白かった。事件もそうだし、瓢と匣の設定も良かった。しかしながら、今までの5作はミステリと呼ぶよりも、犀川と萌絵のラブ・ストーリーなのかなという気もする。けれど萌絵はイヤな女だね。事件の難解さのためなら人の命を何とも思っていないし、自分勝手だし。★★★☆。
篠田真由美
『原罪の庭』    
講談社ノベルス

1997.4.5 発行
¥860
 前回の『スラム・ダンク・マーダー その他』の星五つを取り下げてまでも、この作品に★★★★★を付けておきたい。謎と設定のみを重視する傾向がある新本格界の中にありながらもストーリー作りに手を抜かない貴重な存在だからこそ成し得た輝かしい成果、今年度ベスト10入りも期待できる篠田作品の最高傑作!  彼女の作品も初読。現場がちょっとグロくて苦手。「著者のことば」どおり動機にこだわったのは伝わってくるけど、それでも行動がちょっとオーバーじゃないかなあ。加害者の本当の姿についても、もう少し伏線張って欲しかった。とはいえ「WHY」が面白かったのとラストが気に入ったので、★★★。 ちょっと高いところにいた篠田サンが、とてつもなく高いところに昇っていってしまったような……。久々に超感動したミステリ(ちなみに、これほどまでに心を動かされた作品には、まだほんの数回しかめぐりあっていない)。人間って、まだまだ捨てたもんじゃないね。★★★★★。  こちらもシリーズ最高傑作といって良い。『蒼』の過去がここまでヘヴィーだとは思わなかった。これほど壮烈な、そして悲しすぎるWHY DONE IT は見たことがない。ページをめくるのがもどかしい、第一部完に相応しい作品。第二部以降、『桜井京介』は何処へ行くのだろう。★★★★☆。
小森健太朗
『バビロン 空中庭園
の殺人』  
祥伝社 NON POCHETTE
1997.4.20 発行
¥552
 作者の個性が抑えられた薄味な作品。空中庭園からの失踪の謎も、現代に起こった殺人の謎も簡単に判ってしまった。そんな訳でラストまで楽しく読み進めたかというと、ちょっと展開が地味で……。でも文庫で出たんだからまあいいか、星は★★☆。来月に刊行される『神の子の密室』に期待します。  未読です。 いつもの小森さんとはちょっと違ったフツーっぽいミステリ。ハデなトリックになれてしまっている身にはちょっと物足りないかも。でも、こういうのもキライじゃない。たまにはいいかな、っていうカンジ。★★★。  古代と現代の二件の人間消失。不可能犯罪の解決には「おっ」と驚くか、「なんだこりゃ」と呆れるかのどちらかだが、残念ながら今回は後の方。古代の空中庭園の説明にウェイトを置きすぎたせいか、探偵役が希薄なためか、解決があっけなさ過ぎる。舞台が面白いだけに、もっとページがほしかったんじゃないかな。★☆。

 次回会議予定
  小森健太朗『神の子の密室』(講談社ノベルス)
  折原一『遭難者』(実業之日本社)
  北森鴻『狐罠』(講談社)
  帚木蓬生『逃亡』(新潮社)

to be continued.


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謎宮会 webmaster:meikyu@rubycolor.org(高橋)

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