謎宮会 1997/10
冴西 理央・葉山 響・浅井 秀明
井戸端ミステリ会議は、毎月共通の作品について感想と採点をつけようというものです。参加者を募集しております。感想の方は100〜150文字、採点は★5個で満点です。1冊でも読まれましたら、感想をwebmasterの方までお願いします。
今月は特別として、1000文字感想1本勝負です。
今月のお題 | 冴西 理央 | 葉山 響 | 浅井 秀明 |
探偵小説研究会編・著 『本格ミステリ・ベスト100』 東京創元社 1997.9.25発行 ¥1300+税 | 「幻影城」以降の現代本格作品を通観するため”なのはいいけれど、それは誰が「通観」するのだろうか。とりあえず私のように、100冊中11冊しか読んでないようなミステリ初心者には、その資格はないらしい。少なくとも,この本の作品未読者への無遠慮さはそう言っているとしか思えない。「十角館の殺人」。私にとって数少ない既読の1冊だったので、途中でねたばれの予告があっても読み進めた。「十角館」作中で、「バールストン先攻法」が出てくる部分が引用され、その意味について説明がある。ここまではいい。しかし、なんでそれを使った作品例を、具体的にあげなければならないのか。御丁寧に3作品も。そのクイーンの作品を読んでいない私は確かに不届きものなのだろう。しかしだからといって、それらの作品を読む楽しみを奪われるのは絶対に納得が行かない。この他にもちょっとねたばれ微妙な解説がある。では、結局この本は掲載作品を大半読んでいる人がターゲットなのだろうか。しかし,もしそうであれば、ここまで粗筋に文字数を費やす必要があるのだろうか。小学生が宿題の読書感想文に粗筋ばかり書いたら先生はいい顔をしないが、読んだのならまだいいかと諦めるかもしれない。しかし、市販される本の原稿で,既読者向け解説の半分以上に渡って粗筋を並べてどうするのだ。これは、粗筋要約のテクニックを競う本ではないはずだ。もしそうなら「本格ミステリ粗筋要約ベスト100」とでもしてもらいたい。「ベスト」は「粗筋要約」の修飾にならないのでこれも適切じゃないけど。ミステリの作品解説集は性格上、未読前提か既読前提にしないと,どちらにも役立たないものになってしまうのだろうか。それにしてももう少し,何とかならないの? さて怒りのあまりさんざん書いてしまったが、読みたくなった作品及び、元々読みたかったものだがさらに「未読の山」内の優先順位をあげたくなった作品はあった。麻耶雄嵩,筒井康隆「ロートレック荘事件」我孫子武丸「殺戮に至る病」東野圭吾「放課後」天藤真「大誘拐」井上夢人「ダレカガナカニイル…」でも、この解説が信用に値するのかなあ。評価は★。 | 瀬戸川猛資編『ミステリ・ベスト201』みたいな本を期待してたんだけどなあ‥‥。ベストに挙がった百冊のうち、読んでないのは二冊だけ(自慢)。『明治断頭台』は最近復刊されたからこれから読むとして、残り一冊、奥泉光『葦と百合』を集英社は一刻も早く文庫化すること。読みたいけど文庫になってから買おう、と思ってもう何年経つんだろう‥‥まあ、それはまた別の話なので本題に移るが、『ウロボロスの偽書』って本格か? 『火車』って本格か? 『大誘拐』って本格なのか? それもあの名作『大誘拐』が三十五位とは何事だ? 『大誘拐』を熱烈に愛している私としてはこれは許せない(他にも『放課後』『ぼくらの時代』の真相をわざわざ書いてしまう必要性は感じられない)。どうも作品選定の基準がはっきりしていない上、原稿を書くときに十三人の執筆者の間で<こういう本を作ろう>という調整が成されなかったのか、判りやすいブック・ガイドを書いている執筆者がいる一方で難しい用語と言い回しばかり使って書いている執筆者もいるという具合で、果たして初心者に送るブック・ガイドを作りたかったのかそれともマニアに向けた評論書を出したかったのか判らない。新しい発見もなかったので少し寂しかった(そりゃおまえがマニアだからだろうって? そりゃあもっともだ、あはは)。そしてもう一つの問題点は、百冊をどのように選んだかという点が「投票形式で行われた」としか書いていないこと。作家一人最高五作品というラインがある以上、純粋な投票だけではないでしょう? 一人何作品挙げたとか、同点の場合はどうしたかとか、個々の作品の優劣をどのようにつけたかなどがはっきり書かれていないから、なぜ『大誘拐』が三十五位なのだという不満も生まれるのです。‥‥なんか文句ばかり書いてしまったなあ。でも、掲載してあるほとんどの作品には丁寧にあらすじが付記されているので、それぞれの作品が紹介されてある頁を読みながら、すっかり内容を忘れている作品などは「ああ、そういえばそんな内容だったなあ」と懐かしさにも浸れたし、『絃の聖域』『時のアラベスク』『幽霊列車』『崖の館』それに『カストロバルバ』(これが入っているのには驚いた)など、大好きだけれど最近読み返していない本たちを、もう一度読み返してみたくなりました。以上。(★評価は付記されていませんでした) | いったい何をやりたかった本なのだろう。「ベスト」をやりたかったのだろうか。それとも『幻影城』以降の本格の「再評価」をやりたかったのか。作り方があまりにもいい加減で、中途半端なのだ。この本の最大のおかしいところは、たった13人でどうやってベスト100を選定し、順位付けをしたのだろうかという根本的なところにある。ただ100冊を選ぶだけなら問題はない。しかし、順位付けは別だ。この本の中には、1位〜100位までをどうやって選定したのかが書かれていない。これではあまりにもアンフェアだ。選定基準も集計方法も書かれていないベストなんて信用に値しない。しかも13人で100冊あげるには、100位以下の本のことを考えると、一人15〜20冊は挙げた勘定になる。「ベスト」をやるにしてはあまりにも多い数字じゃないか、これは。いくら『生ける屍の死』が1位だ、『姑獲鳥の夏』が2位だなどと言われても何の説得力もない。ましてや高木彬光や仁木悦子がとってつけたように出てくるのはなぜだ? 『大東京四谷怪談』が85位に入るほどの作品か? かつての本格作家を無理矢理出しているとしか思えない。ではこれは「本格の再評価」をする評論集なのだろうか。とてもそうには見えない。100作品に付いている作品紹介とコメントのうち、作品紹介の方のウェイトがとても大きいのだ。とても「再評価」しているようなコメントは見あたらない。だいたい、「本格の再評価」をやりたいのなら、古い方から順を追って解説するはずだ。「ベスト」という形式を取ってしまったがために、漏れてしまった作品は数多い。「本格」を研究するのなら、「本格」とはこうだ、ということを定義するのがまず最初だろう。この100冊の中でポツンと『百舌の叫ぶ夜』『そして夜は甦る』というハードボイルドが入っているのもわからないし、『殺戮にいたる病』や『大誘拐』、『火車』などが本格とはとうてい思えない(そんな作品が10冊以上)。ガイドブックにしては「ネタばれ」寸前のコメントも多いし、正直言って素人作りの中途半端な本。言いたいことはもっとあるが、字数がない。評価としては★。最後におまけ、私の未読は10冊(そのうち3冊は読む気ない)。 |
なお、「謎宮会」では有志による「『本格ミステリ・ベスト100』になぜか載らなかった作品50作」を現在選定中。来月〜再来月には公開予定。
次回会議予定
皆川博子『死の泉』(早川ミステリーワールド)
大沢在昌『新宿鮫此”紘顱戞文文社 カッパノベルズ)
横溝正史・江戸川乱歩『覆面の佳人』(春陽文庫)
to be continued.
謎宮会 webmaster:meikyu@rubycolor.org(高橋)