謎宮会 1997/6

「推理の花道」に触れて

佐竹右京太夫之助裕四郎

 まずこの題目がいいじゃあないか。「花道」、この栄光やら虚飾やらがないまぜになった艶っぽくって、それでいてどこか物哀しい響きと、「推理」なんてえ生硬い言葉を組み合わせた響きが妙だね。
 この種の話にゃつきものの人情噺の部分でもつぼを充分おさえて、ほろりとさせてくれるんだが、この上その「人情」を素材に謎の設定と解決、こいつをきっちり踏まえた「みすてりい」を仕掛けてくれるんだから適いませんよ。
 何と言っても殺される師匠の役付けが、泣かせてくれる。気性が激しく口も悪いときてるが、それでいて根は優しい人情家。開口一番の台詞廻しのうまさと言ったら堂に入ったもんだ。まるで立居振舞が目に浮かぶような存在感だ。だからこそそんな師匠に、粗相をしちゃいつも怒鳴られている、誠実なだけが取り柄の不器用な主人公の生き方が、余計に胸に迫ってくるんだ。
 この師匠たちをはじめ、だれひとり悪人がいないてえのに、惨劇が起きちまう運命の皮肉も、そりゃ書き手の作為には違いないんだが少しの不自然さも感じさせない。梨園てえ特殊な舞台、特殊な人物関係、そして何より書き割の彩色にだって疎かにしちゃあいない舞台作りのうまさの所作だね。見ていて、こちらに役者の息づかいや白粉の匂いまで漂って来そうな濃艶な空気感に、何度も噎せ返りそうになったものさ。
 脱帽ですよ。演出にも役者にも、勿論筋書にも何にも不満はありやしない。どうして、この小屋じゃ、こんな演目を続けてくれなかったんだろうって、愚痴のひとつも言いたくなるもんさ。木戸銭なんざ惜しまないから、もっと足繁く小屋通いしちゃ、贔屓にさせて貰ったんだろうにってね。まさか劇中の市川紋十郎よろしく、引退前の千秋楽を気取ったんじゃあ、あるまいし。
 そうだよ、今からでも遅くはない。いつかまたこの花道を千両役者が貫禄たっぷりに大見得を切ってくれるのを、わたしゃいつまでも待ちたい気持ちで一杯なんだ。

[UP]


謎宮会 webmaster:meikyu@rubycolor.org(高橋)

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