謎宮会 1998/03

突然ボウフラ!

のよーにわいて出たダイヤモンド・サンダーボルト

名無しの一条

題名を見て驚かれた方もいるだろうが、単に数ヶ月前に出て消えてしまったハードボイルド紹介コーナー「ダイヤモンド・サンダーボルト」が復活しただけである。今回はジョー・ゴアズ特集(といっても書いているのは二人)ということで私と葉山響氏がそれぞれ「ダン・カーニー探偵事務所」・「マンハンター」について書いている。
今回復活できたのは、「復活させようよ」といってくれた”彼”のおかげである。ありがとう。何しろ私はバイト(クビ)、引っ越し(実は夜逃げ)、実家へ帰省(借金取りから逃れるため)とめまぐるしい毎日を過ごしていたのだった。(全部いいわけ)そのためこのコーナーを続けるために行動するのもままならず、コーナーを立ち上げた身としては自責の念にかられていた(嘘もここまでくると立派)。
まあ、何はともあれ,”狂乱狂死””極悪非道”がモットーのこのコーナーを続けていきたいと願っている。夜・露・死・苦!!(ティーンズロード風)


私には何気なく買っておいて、そのあと愛読書になった本が何冊かある。この「ダン・カーニー探偵事務所」もその一冊にあたる。これはDKAシリーズの一つであり、11編の短編から成る短編集である。

ダン・カーニー・アソシエイツ(頭文字をとって「DKA」と呼ばれる)は普通の探偵事務所が行うような離婚に関する人物調査や失踪人探しはしない。詐欺、使い込み、横領罪などの調査、そしてそれに関する動産、金の回収などである。ダン・カーニーに言わせると、「我々の仕事は金であれ、物であれ、それを搾取し、横領し、あるいは契約に違反した物を調査し、彼らが雲隠れしたらそれを探し出し、財産を正当な所有者に返してやることだ」ということになる。失踪人探しもしないわけではないが、前記のような行為をして逃げた場合に限られる。

DKAの主な登場人物は6人。カーニーがDKA創設前に勤めていたウォルターズ探偵事務所からの同僚で、そばかすだらけの顔に燃えるような赤毛を持つアイルランド人、マイクル・オバノン。元プロボクサーで、自分の肌の色が黒いことに誇りを持っているわけではなく、己自身に誇りを持つ、黒人のバート・ヘスリップ。探偵という仕事と、人間としての情けとの間で揺れ動き、時にミスを犯すラリー・バラード。事務責任者だが後に急死してしまうキャシー・オノダ。その補佐役で秘書役のジゼル・マーク。そして、引き締まった綱のような体つき、つぶれかけた鼻、鉄色の髪、いかつい顔、冷たく光る灰色の眼、これらの特徴を持つダン・カーニーことダニエル・カーニー。彼は仕事に対しては厳しいが、優しさというものについてよく知っている男だ。調査員達が目の当たりにし、読者に突きつけられる過酷な現実にスパイスともいうべきカーニーの優しさが心地よい。

きめ細かなリズムのある文体。調査員の眼から写し出される街の人々が抱える問題。感傷を許さぬ現実と人間性の狭間の中でDKAの調査員達は今日もプロフェッショナルとして仕事を遂行する。

ところで全然違う話だが、いつだったか「ミステリマガジン」でドナルド・E・ウェストレイクがインタビューを受けていて隣りにジョー・ゴイズがいた。記憶があまり定かではないが、二人は親友であり、そのときのインタビュー中にドートマンダー・シリーズを映画化する話が出た。映画会社の人間からドートマンダー役には誰がいいかと聞かれ、「ハリー・ディーン・スタントン」と答えた。すると映画会社の人は「彼じゃ残念だが客を呼べない」と言った。ゴアズの作品「ハメット」は映画化されており、監督はヴィム・ヴェンダース。そのヴェンダース監督作品に「パリ・テキサス」というのがある。その主人公を演じているのがハリー・ディーン・スタントンなのだ。この4者は偶然にもつながりがある(厳密にはそこまでいえないけど)。もしかしたらウェストレイクは「パリ・テキサス」を気に入っているのかもしれない。

さて作品に話を戻そう。この短編集は日本独自につくられたものでどれも手堅くいい出来だが他にも、オバノンの痛快談「オバノン・ブラーニーの事件簿」、逢坂剛「幻影ブルネーテに消ゆ」を思い起こさせる「影を探せ」それ以外にも「マリア・ナヴァロ事件」「黒く名もなき吟遊詩人」などが私の勝手な思いこみだが良いと思う。

唯一の欠点は、この作品も含めてゴアズの作品は手に入りにくいということである。「脅える暗殺者」(扶桑社ミステリー)は「このミス’98」の第20位に入るなどゴアズの評価は決して悪くない。正式な批評の眼を持たない私が言うのだから間違いない(笑)。古本屋には結構置いてあると思うのだが。

角川は絶版・品切れになった本を復刊する計画を持っているようだが、私はそのときウェストレイクのドートマンダーものと一緒にゴアズの作品も復活させるのでは、と睨んでいる。

*なお角川のDKAものでは「ダン・カーニィ」「ラリー・バラッド」「マイクル・オーバノン」となっているが新潮社の表記に従った。白状するとえらそうなこといいながら私はこの「ダン・カーニー探偵事務所」しか読んでいない。今回は知ったかぶりさせてもらった(冷や汗)。それでは。(退場)←また夜逃げか?

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