MPLS / Multi Protocol Label Switching
■ MPLS。Multi-Protocol Label Switching。
IPプロトコルを補完し、
IP網でコネクション型のサービスを提供するための技術。
IETFが2001年に標準化、RFC3031〜38が主な仕様である。
MPLSは、IPヘッダとレイヤ2ヘッダとの間にMPLSヘッダを挿入する。
するとバックボーン網内のルータはこのヘッダ内のラベルを参照するだけで
高速にスイッチングできるようになる。
最後にバックボーン網の出口ルータで、このラベルがはがされる。
こうしてMPLSは、
バックボーンの入り口にあるルータと出口にあるルータの間に
専用のパスを設定し、IPプロトコルを透過させるのである。
MPLSは、OSI参照モデルでは、レイヤ3とレイヤ2の中間に位置付けられる。
レイヤ2プロトコルとしては、
イーサネット、ATM、PPPなど様々なプロトコルに対応しており、
ネットワーク層もIPに限らない。
MPLSはもともと、中継ルータの能力不足を解決する技術である。
MPLSを使えば、バックボーン網内のルータはもはや、
IPヘッダを読み取る必要がないため、転送を高速化できる。
また、経路情報を保持する必要も無くなり、ルーティング負荷も軽減する。
しかし近年では、ルータの処理性能が向上したこともあり、
むしろ、IP-VPNを実現する技術として注目されている。
具体的な例としては、日本テレコムの「SOLTERIA」などがある。
■ MPLSの特長。
MPLSを利用する場合のメリットについてまとめる。
(1) コネクション管理の実現。
IP網でコネクション型のサービスを利用できる。
高価なATMを使わなくても、ATMのようなコネクション管理機能、
トラフィック制御機能を使える。
(2) パス設定の自動化―運用管理の簡素化。
MPLS機能を搭載したルータは、
IP層の経路情報を基にして自動的にパスを決定することができる。
ATMのようにあらかじめパスを設定する必要がない。
(3) 経路制御の高速化。
IPヘッダを読み取る必要がないため、転送を高速化できる。
パケット遅延が片道数十ミリ秒まで短縮できるため、
IP電話などで通信品質を確保しやすい。
(4) ルーティング負荷の軽減。
バックボーンネットワーク内のコアルータは、
ラベル情報だけで転送先を決定できるため、
全世界のインターネット経路情報を持つ必要がなくなる。
(5) VPNなどの新サービス提供。
転送経路を決定するための外側ラベルと、
VPN番号の識別に使う内側ラベルをスタックするなどの方法で、
企業顧客にVPNサービスを提供できる。
■ MPLSのヘッダフォーマット。
MPLSでは、PPP、MACなどのL2ヘッダとIPヘッダの間に、
4バイトのMPLSヘッダ(シムヘッダ)を挿入する。
このMPLSヘッダは、以下の4つのフィールドから構成される。
(1) ラベル コネクションを識別するためのもの。
下位層がATMの場合はVPI/VCIを利用する。
(2) EXPビット 実験用ビット。通常は優先度を表す。
(3) Sビット ラベル多重(スタッキング)の有無を表す。
S=0ならラベルが多重化されている。
(4) TTL
■ MPLSの中継機器。
MPLSを利用するためには、
バックボーンを構成するIPルータが、MPLSに対応していなければならない。
このMPLSに対応したルータのことを、LSR(Label Switch Router)という。
同じLSRでも、
バックボーン網の端(ユーザ網の近傍)に置かれたルータと、
バックボーン網の中心(事業者のネットワーク内)に置かれたルータでは、
次のように担うべき機能が異なる。
(1) エッジルータ。 Edge Router。
L2ヘッダとIPヘッダの間にMPLSヘッダを挿入して、バックボーンに送り出す。
または、バックボーンから送られてきたパケットからMPLSヘッダを取り除き、
宛先ネットワークにパケットを届ける。
(2)コアルータ。 Core Router。
コアルータは受け取ったパケットのMPLSヘッダ(ラベル)を参照して、
次に転送すべきネットワークを判断し、
ラベルを書き換えた上で、次のルータに転送する。
■ MPLSのパス設定。
MPLSでは、2台のエッジルータの間には、
仮想的な伝送路としてラベルパス(LSP:Label Switching Path)が張られる。
ラベルパスの設定は、ふつうは自動的に行なわれるが、
管理者があらかじめ手動で設定することもできる。
(1) 自動的なパス設定。
最初に出口エッジルータが、
ラベル配布プロトコル(LDP:Label Distribution Protocol)を用いて、
自身のIPアドレス(FEC※)に対応するラベル値を、網側へ通知する。
この情報はLSRを順々に遡り、
入口エッジルータに達したとき、網内に1本のパスが完成する。
※ FEC。Forwarding Equivalence Class。
転送等価クラス。フェックと読む。
MPLS網内で同じ処理が行われ、
同じ出口ルータに転送されるパケットの集まりのこと。
または、転送されるべき出口ルータのIPアドレス。
さらに、運用開始後にネットワーク構成が変更された場合にも、
IP層の経路情報を参照して、自動的にパスを張り直す機能をもっている。
この自動パス設定の手順は、次の通りである。
@ 物理的なネットワーク構成が変わる。
A MPLS対応ルータ同士が、
OSPFなどのルーティングプロトコルを使って経路情報をやり取りして、
IPのルーティングテーブルを更新する。
B 各ルータはLDPを使って
宛先ネットワークに対応するラベルを通知し合い、
ラベル値専用のルーティングテーブル(ラベルテーブル)を更新する。
C 新しいラベルパスが張られる。
(2) 固定的なパス設定。
管理者が明示的にパス設定を行なうこともできる。
特定のサービスをいつも同じ経路で転送したい場合等に利用する。
■ その他。
(1) EoMPLS。Ethernet over MPLS。
MPLSパス網上でイーサネットを展開するための技術。
具体的には、ユーザのMACフレームの外側にMPLSヘッダを付加して、
通信事業者のMPLS網を透過させる。
すなわち、EoMPLSサービスを利用すれば、
企業は離れた拠点LAN間でMACフレームを透過的に転送できる。
(2) Generized MPLS。
MPLSの仕組みで光通信路を設定できるようにする技術。
MPLSが持つパスを設定する機能を、
WDM装置や光クロスコネクト装置と連携させて実現する。
以上。
2004/02/26 pm