「祐一さんっ、聞いてください!」

珍しく興奮したような声で栞が言った。

「どうした、栞。まだ安静にしてないと駄目なんだろ?」

栞は奇跡的に一命をとりとめた。

しかし、まだ病気が完全に治ったわけではない。

「わたしの病気、手術で治るんです!」

「えっ!」

突然の知らせに俺は驚いた。
今生きているだけでも奇跡だったのに…

「それじゃあ、すぐにでも手術なのか?」

「いえ…それが、一つだけ問題があるんです…」

一転して暗い表情でうつむく栞。

「問題? 何が問題なんだ、俺にできることなら何でもするぞ!」

勢い込んで俺が訊いた。今にして思えばあの時、栞が小さく笑ってたような気がした。

「本当ですか?」

驚いたように俺の顔を見る栞。

「ああ、何でも言ってくれ」

「実は…手術費が高額で…」

一瞬にして俺の顔が引きつった。

「か、金か…参考までにいくらかかるんだ?」

「一億円」

あっさりと栞は言った。

「い、い、いちおくえん!!!」

しがない居候高校生の俺にそんな大金とても無理だ。

「祐一さん」

思い詰めた表情で栞が俺に向き直る。

「何でもするって言いましたよね?」

「え…」

「言いましたね?」

「そ、そりゃあ、言ったけど金なんか持ってないぞ」

「わかってます」

ガクッ! 即答するなよ…事実だけど。

「祐一さん、これを…」

立ち直って、栞が差し出した物を見て…

「栞…これ、どこから出したんだ?」

「スカートのポケットですけど?」

相変わらずの四次元だな…

「で、だ。栞。これでどうしろと言うんだ?」

「はい、お金をもらうんです」

「おい…」

「嘘だったんですか? 何でもするって言ったのに…」

「いや…しかしだな…」

「そんなこと言う人、嫌いです」

う…

「…ええい、わかった! どこへでも連れて行け!」

「はい。こっちです」

あっさり言うと、栞は歩き出した。俺はその後ろを付いて行く。

…栞から渡された『サブマシンガン』を持って…


Kanon After Story

暴走の果て… 第1話
作:御巫吉良(KIRA・MIKANAGI)



お昼過ぎのとある銀行。


ズガガガガガガガ!!!


「動くな!」

「動かないでください」

銃声と共に俺と栞が声を挙げた。
ちなみに、撃ったのは天井だ。威嚇の為である。
やっぱり本物なんだな…この銃。栞はどこでこんなもの手に入れたんだ?

「え? え? え?」

「え…嘘!」

「うぐぅ…なんでボクがこんな目に…」

…なにやら非常に聞き覚えのある声が…。
声の方に顔を向けると…名雪、真琴、あゆがいた。
ちなみに俺と栞は野球帽、サングラス、ハンカチで顔を隠している。
これも栞のポケットから出てきた物だった…。
なんでこんな時に銀行にいるんだよ…普段は寄り付きそうもない場所なのに…

「…これで良しと…少しは手伝ってくださいよ」

栞の方へ視線を向けると5人の銀行職員を全員縛り上げていた。いつの間に…
いや、そもそも本当に初犯なのか? ずいぶん手慣れてないか?

「お客さんは…そこの3人だけみたいですね」

栞が名雪たちに視線を向ける。
3人は怯えたように寄り添う。

「え? どうしたの?」

…前言撤回。名雪だけはまだ事態を把握していない。

「なにって、銀行強盗だよ!」

あゆが名雪の右腕にすがりつきながら言った。

「…銀行強盗? 祐一が?」

ぐはぁ、もうバレてる!

「「え、祐一(くん)なの!?」」

真琴とあゆが驚いたように言った。

「うん。そっちは香里の妹さんだよね?」

ぐはぁ、栞までバレてる!…なんで分かったんだ?

「…バレたからには開放する訳にはいかないですね」

栞が淡々とした口調で言った。なんか異様に迫力がないか?

「それはそうです。わたしの命がかかっているんですから」

いや、それにしたって…って、何で俺の考えてることが分かるんだ!

「表情を見ればわかります」

「顔は隠してるぞ」

「…それはともかく」

ごまかすな!
栞は名雪たちに向き直ると銃を向けた。
ちなみに栞の持っている銃は44マグナムと呼ばれる物らしい。栞がそう言ってた。
しかし、滅茶苦茶デカイ銃だな…栞に撃てるのか? あんな銃を。

「わ、わたしたちをどうするつもりよ!」

真琴が怒ったように言う。

「まあ、人質ですね。逃走まで付き合ってもらいます」

やはり落ち着いた声で栞が言う。

「まずは、あなたと、あなた」

銃身で真琴とあゆを指す。

「カウンターの向こうのお金を職員の人に聞いて袋に詰めてください」

「え…」

「うぐぅ…」

逡巡していたが、栞が銃で脅したため、すぐにカウンターの中に入って、
職員に尋ねながら袋にお金を詰め込む。


ファン、ファン、ファン、ファン…


「あ、パトカーか!」

「…思ったより早いですね…」

栞はすぐに壁にある何かの機械操作盤を操作する。
すると、店のシャッターが下りてくる。どうしてそんな物を操作できるんだ?

「研究してきましたから」

…どうやって研究するんだ、そんな物…
やがて正面入り口を除いて全てのシャッターが閉まった。
ドアからそっと外を見る。

「ぐはぁ…すっかり囲まれてるぞ…」

「仕方がないですね…人質がいることを示しましょう」

「え?」

「警察も詳しい状況を把握してないでしょう。こちらに民間人の人質がいることを示して、交渉を有利に運びます」

「…というと、人質を連れて外に出るのか?」

「ええ、祐一さん。お願いします」

「でええ! 俺が行くのか! 狙撃されたらどうするんだ!」

「単独犯では無いのですからいきなり殺して刺激するような事は警察も避けるでしょう。それと人質と密着していれば狙撃も難しくなります」

「でも、万が一ってことがあるだろう!」

「…何でもするって言ったのに…」

う…

「そういうこと言う人、嫌いです」

うう…その言葉と表情に逆らえないんだよな…

「ああ、わかったよ! 名雪でいいな?」

「ええ…あ、ちょっと待ってください」

「なんだ?」

「あまり人質が平然としているのは不自然です」

そういえば名雪はまったく動揺したそぶりがない。
鈍いのか、知り合いだから安心してるのか…両方か。

「でも、真琴やあゆだと暴れそうだしなあ…あ、そうだ」

俺は閃いた。

「おい、真琴!」

「…何よ」

ふくれっ面で真琴が返事をする。

「お前、猫つれてきてないか?」

「え? ピロシキのこと? ここにいるよ」

上着をあけるとニャアと声を挙げて猫――ピロシキが飛び出てきた。ずっと服の中に入れてたのか…苦しかったろうな。

「よしよし、こっち来い。ピロシキ」

俺が声をかけるとピロシキが寄ってくる。

「あ…ねこー、ねこー」

さっそく名雪が近づいてくる。

「ほれ」

俺はピロシキを名雪の頭に乗せる。

「ねこー、ひっく。ねこー、ひっく」

泣きながら名雪は頭のピロシキを触っている。

「これで良し。それじゃあ、行ってくる」

「頑張ってください。あ、逃走用の車を要求してくださいね。それと空港に小型飛行機を用意させて下さいね」

…だから何でそんなにポンポンと怖い発言をできるかな…


それから俺は恐怖のあまり泣きじゃくる人質を盾に車と飛行機を要求した。
少なくとも、相手にはそう見えただろう…まさか猫アレルギーで泣いてるとは夢にも思うまい。


つづく


あとがき
えーと、とりあえず、すいません! 栞ファンの皆様!!
これは私が初めて書いたギャグSSですが…いかがなものでしょうか?
まだ終わってませんが…実は1時間前に思いついた代物で、速攻で書きました。
よって、次の展開がまとまり切らなかったので、続き物にしました。
よければで感想をよろしく♪

99/7/29作成

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