このページでは、杠葉湖さんより寄稿されたけさみSS『My Diary〜けさみの日記〜』を掲載しています。
この星空を見る度に、なんだか胸が痛く、悲しく、そしてせつない気持ちになる。
綺麗で、澄んでいて、星がいっぱいに広がった、とても哀しい夜空……
彼は今、どうしてるんだろう?彼は今、何を思ってるんだろう?
優しくって、頼もしくって、気さくで、一緒にいて楽しい彼……
どうして彼が傍にいないだけで、こんなに沈んだ気持ちになるんだろう。
すぐ近くにいるっていうのはわかってるのに……明日になれば逢えるってわかってるのに……
……思い切って彼の部屋に行っちゃおっか?
……ダメよねやっぱ。こんな遅くに訪ねて行ったら彼の方だって迷惑するかもしれないし、もう寝ちゃってるかもしれないし……
あーあ……早く明日にならないかなぁ……
明日になれば、彼と逢うことが出来るのに。
食堂に、食事を兼ねて私に逢いに来てくれる彼に……
初めて彼に逢ったのも食堂車だったっけ。
最初はお客とウェイトレス、っていう関係だったけど、何度か顔を見合わせるうちにだんだん話もするようになって……
そんな時に、私、彼の前で一回失敗しちゃったのよね。
運んでたコーヒーを彼にこぼしちゃって……
でも彼は、笑って許してくれた。
今度からは気をつけてね、って。
それからかな?彼のことをとっても意識するようになったのは。
今日も私に逢いに来てくれる、今日も彼と話が出来るって。
だから、彼がデートに誘ってくれた時はとっても嬉しかった。
彼が私に好意を持ってくれてるってわかって、なんだかドキドキした。
寝坊しないように早く寝なくちゃ……って思っても、眠れなかったもんね。
それで、いつもより早く起きちゃって……待ってるのが、とっても長く感じたんだから。
だけど……彼の顔見たら、なんだかホッとして。とっても嬉し恥ずかしくなって……
それからいろんなところ見て回ったり、楽しくお話したり、あっという間に時間が過ぎちゃったよね。
もっともっと彼と一緒にいたかったなぁ。
だから、私も少しだけ勇気を出して……彼に自分の気持ちを伝えたくって……
ファーストキス、とってもロマンチックな光景の中でできたよね。
「……ええっ!?けさみちゃん、彼ともうそんな関係まで進んだんだ!?」
「わぁっ!?」
突然背後から発せられたおどけた声に、けさみは慌てて隠すように日記を閉じた。
そして恐る恐る後ろを振り向くと、にやけた表情のその子が立っていた。
「そ、その子さん!?」
「み〜ちゃった。けさみちゃんの秘密」
「え、えっと……その……あ、あはは……」
けさみは照れ笑いを浮かべるだけで、返答につまってしまう。
「まったく、こんな時間にラウンジで独りボーっと星空を眺めてたからどうしたのかなぁって思ったんだけど……幸せいっぱいの悩みじゃ、相談に乗らなくても大丈夫かな?」
「も、もぅ!勝手に人の日記、覗き見しないでくださいよ!!」
「ゴメンゴメン。ため息ついてたから何書かれてるのかなぁってちょっと気になっちゃって……」
「今度からは、やめてくださいよね」
けさみはむくれながら、車窓から満天の星空を見上げた。
その子も同じように星空を見上げる。
「綺麗だよね」
「ええ……」
二人は無言のまま、しばらくの間星空を眺め続けた。
「いろんなことがあったよね」
その子が感慨深げに、ポツリと言った。
「そうですよね……騒がしい日々の連続でしたけど、私、とっても楽しかったです」
「けさみちゃんの場合は、彼氏もできたもんね」
「だ、だからそれは……」
「いいのよ。恥ずかしがらなくっても」
その子はクスッと笑った。
「ちゃんと、自分で後悔しないようにすればいいんだから。もうすぐ終点なんだし」
「……そう、ですよね……」
けさみは穏やかな笑顔で答えると日記に目を落とした。
終着駅に着いたら、ちゃんと告白しよう。
貴方が好きですって……
「どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないんです」
けさみは照れ笑いを浮かべると、そのまま星空を見上げた。
告白する決意を胸に秘めながら、煌き続ける満天の星空を、いつまでもいつまでも眺め続けるのであった。
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