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始めに、協力を快諾していただいた町田サマナー諸氏に感謝。

この作品を捧げます。






驚羅八連大武会(きょうらぱーれんだいぶかい)……。

決して日の目を見ることのない、闇の武術大会である。

16人で1チームの大会で、優勝すれば思いのままの富と栄誉が得られるため常に100チーム以上の参加があるが、生きて帰れるのは、そのほんの一握りだけだという。

まさに栄光か死か、であった。

その大会も幾多の激戦を経て、ついに決勝戦をむかえようとしていた……。




「ついにここまで来たんだな」

一人の男が、感慨深げにつぶやく。

そこは、古代ギリシャのコロシアムのような場所であった。すり鉢状の観客席には多くの人間が詰めかけ、これから行われる死闘を前に興奮し、歓声をあげていた。

一見、ごく普通のスポーツ観戦のようだが、ここに入れる客たちのすべては、各国の王族や財界の大物だった。

そんな中で平静をたもっているのは、観る側ではなく戦う側の男達……すなわち、決勝に勝ち進んだ『町田塾』の面々であった。



「泣いても笑っても残るはあと一戦。勝って、塾長の悲願を成し遂げなければ」

「ああ、そうだな」





「わしが町田塾塾長、月城恵八であぁぁるっっっ!!!

(特別出演。もちろん不許可)





「むっ、どうやら相手チームが来たようだ」

反対側の入場口、現れたのは、フードのついた足元まですっぽりと覆う、黒マントの一団だった。

「馬鹿な、奴らはまさか……!

「知っているのか、毬壱(まりいち)ーっ!!?」

「うむ、奴らは堕悪様名(だあくさまなあ)……勝つためには手段を選ばない、非道の殺人集団だ」

殺人集団……!!」

「さすがに決勝戦ともなれば、生半可な相手ではないと覚悟していたが……。さて、俺たちは誰から行く?」

「……悪名高き伝説の殺人集団、まずは私がその力、見定め て参ろう」

「お、お前は血威布(ちいぷ)ーっっ!!」

血威布は、たったの一飛びで、遠く離れた闘場へと飛び移る。驚くべき体術であった。

「ふっ、奴こそは町田三面拳随一の使い手。普段は控えめで目立つ事はしないが、敵に回せばあれほど恐ろしい奴はいない」

「ああ、今こそその奥義の数々を見せてくれよう」

「た、たのんだぞーっ、血威布!!

「おおっ、目に物見せてやれーっ!!」

委細承知!!






闘場で血威布と対峙したのは、狡猾そうな男だった。腰には見慣れない、不気味な剣を一本差している。

「俺の名は大巣(だいす)……フッフフフ、この闘場に立ったことを後悔させてやろう」

言いおわらぬうちに、さっと駆け出す。そして一方の腕を前に突き出し、

「食らえ、堕悪征刃(だあくせいばあ)!!

「むっ!!」

雷光をまといながら進む黒色の球体を、血威布は身軽に飛んでかわす。

「無駄だ、大巣とやら。そんな単調な攻撃では、この血威布は倒せん」

ほざけえっ!!

なおも繰り出される堕悪征刃を、血威布は軽々とかわす。

「噂に聞く堕悪様名とは、この程度か? ならば、早々に勝負をきめるとしよう」

言って、血威布は懐から数枚のカードを取り出す。

「行けいっ、我が僕たちよ!!

投げ放ったカードが見る間に変化し、少し丸みを帯びた動物へと、姿を変える。

「こ、これはっ!?」

大巣の回りを取り囲むようにして現れたのは、数体のだった。






「で、出たーっ、血威布お得意の、片来裸上(かたきらうわ)だーっ!!」

「うむ……ついに見せるか、その操豚術の極意の数々を・・」



片来裸上……


その起源は中国唐代までさかのぼると言われ、古来より食用、
戦闘用として飼育されてきた豚である。その肉は食べた者の肉
体はもちろん、精神までも癒すとされ、また豚では珍しい霜降
りで、大変美味であるという。しかし、本来上質とされている
肩ロースの肉が固く、食べづらいので、通人の間では「肩嫌う
わ」というのが定説となり、その名の由来となったとされるが、
その真実は定かではない。

民明書房刊『世界の豚百選』より





「フッフフフ、何かと思えば、ただの豚ではないか……こんなもので、この俺を倒せるというのか?」

「その身体で試してみるがいい……行けいっ!!

血威布の声に、豚たちが一斉に襲いかかる。しかしその四方八方からの攻撃も、大巣は簡単にかわしてしまう。

「この程度の攻撃とはな……だが、このこうるさい豚どもを片づけておかねば貴様と戦う邪魔になる。……食らえ、退魔の水!!

振りまかれた魔力を帯びた水が、片来裸上たちに浴びせられる。

「ワッハハハ、これで豚どもは全滅よ!! ……なにっ!?

退魔の水で倒されたはずの豚たちはしかし、変わらぬ動きで大巣へと襲いかかる。

「ば、馬鹿なっ、これはいったい……?」

「無駄だ。私が手塩にかけて鍛え上げた豚たちは、羅計(らけ い)とすら互角に戦う

「くっ!! だが、この緩慢な動きの豚どもでは、この俺をとらえることはできん!!
かわしながら、一匹ずつ片づけていけば良いだけのことよ」

「果たしてそうかな? 我が操豚術は、そのような底の浅いものではないぞ」

血威布が、刺のついた棍棒のようなものを取り出す。

「なるほど、それで豚と棍の同時攻撃を仕掛けようというのか。だが、その程度では…」

「何を勘違いしている。この棍は攻撃するためのものではない ……食らえ、町田流操豚術奥義・斜道邪躯(しゃどうじゃっく)!!

血威布が棍をかかげると同時、片来裸上たちのスピードが目に見えて上がった!!

「な、なにーっ、これは!!?」

「この斜道邪躯の力によって、我が豚たちは、絶対先攻を得た。もはやその動きは肉眼でとらえることは不可能

くっ!!

血威布の言葉を証明するかのように、いままでかすりもしなかった片来裸上たちの攻撃が、大巣の身体に無数の傷をつくる。

「どうした、もう終わりか? その腰に下げた剣はかざりか?」

「ちいっ!!」

大巣が懐に手を入れ、筒のようなものを取り出して投げた。

一瞬にして、辺りが閃光に包まれる。

「むっ、素単愚令寧度(すたんぐれねいど)か!!

光が収まる頃には、大巣は豚たちの囲みを逃れ、間合いをとっ ていた。

「ふーっ、大した豚たちよ……ついにこの俺に、剣を抜かせるとはな」

ずらり、と音をたてて抜き出された刀身は黒く、そしてを帯びていた。

「見せてくれよう、我が魔剣の力を……行くぞ!!

飛び出した大巣の速さは、格段に上がっていた。彼は豚たちではなく、血威布めがけ、一直線に進む。

むうっ!!

意表をつかれた血威布の対応が遅れる。身をかわすには、もう距離がない。

殺った!!

だがその太刀筋に割ってはいる者がいた。一体の片来裸上だった。

ピィーーッッ!!

なっ!!

もろに剣撃を浴びた豚は、無残にも真っ二つになっていた。

「なんということだ……私をかばって……」

亡骸を前にうずくまる血威布。だがそれを、哄笑する者がいた。

クックククワーッハハハ!!

「き、貴様、なにがおかしい!?

抜き身の刀身を突きつけ、大巣が見下して言う。

「一見、お涙ちょうだいのクサい主従愛だが……その真実はなんてことはない、ただの犬死によ

「なんだと、貴様……ぐはあっ!!

突然、血威布が血を吐いて倒れる。大巣は全く攻撃を仕掛けてはいない。

「ようやく効いてきたようだな……これぞ、魔剣『貫通酢流斗(かんつうすると)』の能力」






「ば、馬鹿な、貫通酢流斗とは……」

「知っているのか、弓月(ゆみつき)ーっ!!」

「ああ……だが、実際にこの目にしようとは……



貫通酢流斗……

古代より、最も恐れられている魔剣の一つである。その能力は
使い魔を媒介として、その使役者にまでダメージを与えるとい
うものである。また、この剣は使い魔たちの力を弱める力もあ
るため、その威力は他に類を見ないほど強力なものであるとい
う。そのため、その攻撃はブロックが無意味とされ、よく通さ
れるので、「あ、それスルーっと」というのが常識となり、こ
の名がついたという。

民明書房刊『二十一世紀最強魔王』より






「フッフフフ、これでわかったか……絶対先攻の速さをもつ俺の太刀筋を見切ることは不可能……
同じスピードを持つ豚たちでは身代わりになるのがせいぜいだが、それすらも意味がないのだ……
我が貫通酢流斗の前に敵はない。覚悟するがいい」

(くっ、奴の言う通りだ……私にあの剣をかわす術はない……。
しかし、私のために死んでいった片来裸上のためにも、絶対に負けるわけにはいかん……いったい、どうすれば)

「死ねいっ、血威布ーっ!!

残炎をゆらめかせながら、魔剣が振り降ろされる。

(いや……まだだっ!!)

斬撃が、血威布を貫いた。






血、血威布がやられたーっ!!」

「そ、そんな、あの血威布が……」

「……いや、待て。様子がおかしい」






「き、貴様、これは……

振り降ろされた魔剣・貫通酢流斗

その刃を、一匹の豚が止めていた。

「馬鹿な、たかが片来裸上が、俺の攻撃を受け止めるなど……」

「詰めが甘かったな、大巣よ。これは……鎌布嗚呼(かまぷああ)だ」

「なっ……そうか、物理無効かっ!!

血威布が、ゆっくりと立ち上がる。

「そう、お前の魔剣、貫通巣流斗は、確かに恐ろしい威力を持っている……
だがその反面、攻撃が単調になりすぎるのが欠点だ」

(作者注:耳に痛い言葉である)

「こうして、たった一つの対抗手段が出されただけで、その絶大な攻撃力も無力となる。
……もはや、貴様に私を倒す手段はない!!

「倒す手段がないだと……?
たった、一回攻撃を防いだだけで、いい気になるなよ!!

俺にはまだ……こういう手が残されている!!」

言って大巣は、片来裸上たちへと駆け出す。

「ワーッハハハ!! あの豚どもを倒せば、貴様の死は確実だ!!
やはり、最後に笑うのはこの俺よ!!」

「そう、当然そうする……それしか残されていないのだからな。
だが、わかっていれば、防ぐのはたやすい

死ねーっ!!

片来裸上に振り降ろされる魔剣。しかしその眼前に、魔力の壁が展開される。

な、なにーっ!?

手砥羅華暗(てとらかあん)……
肉眼で視認できぬほどの速さの魔剣だ、その攻撃を止めることもできまい

「ぎゃ、ぎゃはーーーっっっっ!!

地獄で豚たちに、詫びるのだな



つづく





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